労働問題533 問題社員の対処法|企業防衛のための法的手順と実務のポイント
会社経営を続けていると、勤務態度が悪い社員、上司の指示に従わない社員、職場でトラブルを起こす社員など、いわゆる「問題社員」への対応に悩む場面に直面することがあります。問題社員への対応は、会社経営者にとって避けて通ることのできない重要な経営課題の一つです。
もっとも、問題社員への対応を誤ると、職場環境が悪化するだけでなく、懲戒処分や解雇をめぐって労働審判や訴訟に発展する可能性もあります。解雇が無効と判断された場合には、働いていない期間についても賃金の支払いが必要となるなど、会社にとって大きな負担となるケースも少なくありません。
そのため、問題社員への対応は、感情的に判断するのではなく、労働法のルールを踏まえた適切な手順で進めることが重要になります。実務では、早い段階から会社側の労働問題を扱う弁護士に相談しながら対応方針を整理することで、不要な労働トラブルを防ぐことにつながることもあります。
本記事では、会社経営者に向けて、問題社員を放置するリスク、典型的な問題社員のタイプ、そして実務で取るべき対応の基本的な流れについて、労働法の観点から整理します。
1. なぜ「問題社員」を放置してはいけないのか
会社経営者の中には、問題社員の行動に気付いていても、「様子を見よう」「いずれ改善するのではないか」と考え、対応を先送りにしてしまうケースが少なくありません。しかし、問題社員の行動を長期間放置することは、会社にとって大きなリスクとなる可能性があります。
問題社員の行動は、本人だけの問題にとどまらず、職場全体の雰囲気や業務の進行にも影響を与えることがあります。また、後になって懲戒処分や解雇を検討する場合にも、会社がこれまでどのような対応をしてきたのかが重要な問題になります。
そのため、問題社員の行動が見られた場合には、会社として早い段階から適切な対応を検討することが重要です。問題社員を放置することによって、次のようなリスクが生じる可能性があります。
周囲の士気低下と離職の連鎖
問題社員の不適切な行動が放置されている状況は、真面目に働いている他の社員にとって大きな不満の原因となることがあります。例えば、勤務態度が悪い社員や指示に従わない社員に対して会社が何の対応も取らない場合、他の社員は「会社はこのような行動を問題視していないのか」と感じる可能性があります。
その結果、職場全体の規律が緩み、業務に対する意欲が低下することもあります。さらに、優秀な社員ほど職場環境に敏感であるため、状況によっては転職を検討するきっかけになることもあります。
安全配慮義務違反のリスク
問題社員の言動が他の社員に対するハラスメントや強い精神的負担につながっている場合には、会社の安全配慮義務が問題になる可能性があります。会社には、労働者が安全に働くことができる職場環境を整える義務があるとされています。
例えば、暴言や威圧的な言動を繰り返す社員を会社が放置した結果、他の社員が精神的な不調に陥ったような場合には、会社の対応が不十分であったとして損害賠償責任が問題となる可能性もあります。
「黙認」と評価されるリスク
問題社員の行動を長期間放置していると、後になって懲戒処分や解雇を検討した場合に、「会社がその行動を黙認していたのではないか」と評価される可能性があります。
労働紛争の場面では、会社が問題行動をどの時点で認識し、どのような指導や注意を行ってきたのかが重要な判断材料になります。そのため、問題社員の行動を把握していながら対応を取らない状態が続くと、会社の対応の正当性が疑われることもあります。
このようなリスクを避けるためにも、問題社員の行動が見られた場合には、早い段階から注意指導や面談などの対応を行い、会社としての姿勢を明確にしておくことが重要です。
2. 問題社員の典型的な5つのタイプ
一口に問題社員といっても、その行動の内容や背景はさまざまです。実務では、問題の性質によって対応方法が大きく異なるため、まずはどのようなタイプの問題なのかを整理することが重要になります。
ここでは、会社経営者からの相談で特に多い問題社員の典型的な類型を紹介します。それぞれのケースに応じた具体的な対応方法については、各個別記事で詳しく解説しています。
3. 【実務編】適正な対処のための「3段階プロセス」
問題社員への対応では、いきなり懲戒処分や解雇を検討するのではなく、段階的な対応を行うことが重要です。日本の労働法の実務では、会社が問題社員に対してどのような指導や改善機会を与えてきたのかが重視される傾向があります。
そのため、問題社員への対応では、次のような段階的なプロセスを踏むことが、後の労働紛争を防ぐうえでも重要になります。
STEP 1:注意指導の「証拠化」
まず行うべきなのは、問題行動について具体的に指摘し、改善を求めることです。面談などを通じて、どのような行動が問題であるのか、どのような改善を求めているのかを本人に明確に伝える必要があります。
また、注意指導を行った場合には、その内容を記録として残しておくことが重要です。実務では、指導の日時、指摘した問題点、本人の説明などを記録しておくことで、会社が適切な指導を行っていたことを客観的に示すことができます。
STEP 2:配転・降職などの「解雇回避努力」
注意指導を行っても改善が見られない場合には、配置転換や担当業務の変更などの対応を検討することがあります。問題行動の原因が業務内容や職場環境にある可能性もあるため、別の部署や業務で適性を見極めることが有効な場合もあります。
解雇は労働契約を終了させる重大な措置であるため、実務では、会社がどのような改善措置を検討してきたのかが重要な判断材料となることがあります。そのため、配置転換などの対応を検討した経緯を整理しておくことも重要です。
STEP 3:懲戒処分や退職勧奨の検討
注意指導や配置転換などの対応を行っても問題行動が改善されない場合には、就業規則に基づく懲戒処分を検討することになります。懲戒処分は、注意、戒告、減給など、段階的に行われることが一般的です。
また、状況によっては、退職勧奨による合意退職を検討するケースもあります。問題社員への対応は感情的な対立が生じやすいため、必要に応じて会社側の労働問題を扱う弁護士に相談しながら対応を進めることが望ましい場合もあります。
4. 弁護士による早期介入のメリット
問題社員への対応は、会社として適切に対応しているつもりでも、後になって労働紛争に発展するケースがあります。特に懲戒処分や解雇を検討する場合には、法律上の判断が問題になることも少なくありません。
そのため、問題社員への対応については、早い段階から会社側の労働問題を扱う弁護士に相談しながら対応方針を整理することで、不要なトラブルを防ぐことにつながる場合があります。弁護士に相談する主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。
解雇や懲戒処分の法的リスクを事前に確認できる
問題社員への対応では、懲戒処分や解雇が法的に有効と認められるかどうかが重要な問題となります。弁護士に相談することで、これまでの裁判例や実務の考え方を踏まえながら、会社の対応にどのような法的リスクがあるのかを整理することができます。
その結果、どのような対応を取るべきか、またどのような準備が必要になるのかを事前に検討することが可能になります。
当事者間の感情的対立の拡大を防ぐことができる
問題社員対応では、会社と社員との間で感情的な対立が生じることも少なくありません。上司と部下の関係が悪化している場合には、当事者同士での話し合いが難しくなることもあります。
弁護士が関与することで、第三者の立場から状況を整理しながら対応を進めることができるため、不要な対立が拡大することを防ぐことにつながる場合があります。
合意書の作成により紛争の蒸し返しを防ぐことができる
問題社員との間で退職や和解に至った場合には、その内容を適切な書面として残しておくことが重要です。特に、将来の紛争を防ぐためには、解決内容を明確にした合意書を作成しておくことが望ましいとされています。
弁護士が関与することで、清算条項など必要な条項を含めた適切な書面を作成することができ、後になって同じ問題が蒸し返されるリスクを低減することにつながります。
監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。