新型コロナの経営労働相談

 会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。
 新型コロナ流行の影響で、「社員やアルバイトに辞めてもらわなければならないかもしれない。」「閉店しなければならないかもしれない。」「事業を続けて行くこと自体、難しいかもしれない。」そういった悩みを抱える会社経営者が大勢いらっしゃいます。今後の展開が読めない中、何が「正解」なのか、答えを出すのは難しいことかもしれません。
 しかし、不確実な状況の中であっても、会社経営者はどのように会社を経営していくのかを決断しなければなりません。私は、会社経営者の皆様が決断を下す際のお手伝いをしたいと考え、新型コロナに伴いよくある労働問題に対するアドバイスを掲載しました。
 会社経営者の皆様、新型コロナの対応で心が折れそうになることもあるかもしれません。でも、負けないで下さい。私は、会社経営者の皆様を、応援しています!

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

目 次

感染対策

新型コロナに感染した。 Menu

 社員が新型コロナに感染した場合は,直ちに仕事を休ませて下さい。他の社員やお客様に新型コロナの感染が拡大しないようにすることが最優先です。
 欠勤扱いとして構いません。社員都合の欠勤ですので,休業手当も不要です。
 年休が残っている社員が年休取得を希望する場合は,年休を取得させて下さい。ただし,年休を取得するかどうかは社員本人が決めることですので,会社が勝手に年休取得扱いとしてはいけません。もしかしたら,今回は年休を取得せず,後に取っておこうという社員もいるかもしれません。年休を取得する扱いとする場合は,年休申請書を提出させる等,記録に残る形で所定の申請をさせるようにして下さい。

新型コロナ感染の疑いがあるのに出勤する。 Menu

 新型コロナ感染の疑いのある社員は,出勤してきても仕事をさせずに帰宅させて下さい。社員や取引先等に新型コロナを感染させないことが最優先です。本当に新型コロナに感染しているかどうかがはっきりしなくても,新型コロナ感染の疑いがある社員は仕事を休ませるべきだと思います。
 社員が高熱を出しているなど,まともに仕事ができない体調なのに出勤してきたので,仕事をさせずに帰宅させたような場合は,新型コロナに感染しているかどうかにかかわらず,社員都合の欠勤扱いとして構いません。休業手当の支払も不要です。年休が残っている社員が年休取得を希望する場合は,年休申請をさせた上で年休を取得させて下さい。
 他方,仕事ができる体調ではあるものの,新型コロナ感染の疑いがあるため,仕事をさせずに帰宅させた場合は,休業手当を支払うのが基本的対応と考えて下さい。法的には休業手当を支払う義務がないケースもあるかもしれませんが,休業手当をもらえないのでは,社員は生活に困ってしまいます。少なくとも,雇用調整助成金で休業手当として支出する金額の大部分をカバーできる場合は,休業手当を支払う義務があるかどうかを厳密に検討する必要性は低いと思います。

マスクを着用しない。 Menu

 新型コロナが流行しており,マスクを着用せずに仕事をしたら新型コロナ感染の恐れがある時期に,業務時間中のマスク着用を指示することは正当な業務指示です。マスクを着用するよう指示してもマスクを着用しない社員に対しては,マスクを着用して仕事をするよう繰り返し指導し,いくら指導してもマスクを着用しようとしない場合には,マスク着用を命じるようにして下さい。
 もっとも,マスクを着用しない社員に懲戒処分を行うことは,慎重であるべきです。マスクを購入したくても購入できない時期もありましたし,社員が仕事で使う備品は会社が準備するのが原則です。基本的には,会社が支給したマスクを着用して仕事をするよう命じているにもかかわらず,社員がマスクを着用せずに仕事をしたような場合に,懲戒処分を検討することをお勧めします。

時差出勤に応じない。 Menu

 新型コロナが流行している時期に満員電車を避けるなどの目的で時差出勤させることには合理性があります。もっとも,社員が時差出勤に応じない理由次第では,時差出勤させないという選択肢もあり得ますので,時差出勤に応じない理由を聴いてからどうするのかを決めて下さい。
 社員を説得した結果,社員が時差出勤に任意で応じてくれたのであればあまり問題にはなりませんが,社員が拒絶しているにもかかわらず時差出勤させるためには,労働契約上の根拠規定が必要です。勤務時間の繰り上げ・繰り下げ等,時差出勤させる根拠となる条文を就業規則に定められているかどうか,就業規則が周知されているか(社員が見ようと思えば見ることができる状態になっているか)などについて,確認しておいて下さい。

プライベートな時間にナイトクラブやカラオケボックスに行くのは自由と主張する。 Menu

 プライベートな時間の行動が原則自由というのは、社員の言うとおりです。しかし、プライベートな時間の行動により,事業の運営に重大な支障が生じたり、会社の名誉信用を害したりすることもあり得ますので,社員のプライベートな時間の行動について、一定の指示をすることも認められます。新型コロナが流行している時期にナイトクラブ等に行った結果、新型コロナに感染して出勤した場合、事業場全体を一時閉鎖しなければならなくなる可能性もありますし、ニュース報道がなされれば会社の名誉信用を害することにもなりかねませんので、新型コロナが流行している時期にナイトクラブ等に行かないよう指示することも認められると思います。
 ただし、ナイトクラブ等に行かないよう指示したにもかかわらず、ナイトクラブ等に行った社員に対し懲戒処分を行うことには慎重であるべきです。懲戒処分を行う場合も,事業の運営に与えた支障の程度、会社の名誉信用に対する悪影響の程度等に見合った懲戒処分としなければなりません。社員が指示に従わなかったとしても、具体的支障が生じていないのであれば、厳重注意にとどめてもいいかもしれません。
 懲戒処分は、就業規則に懲戒の種類と懲戒事由を定め,就業規則を周知させておかないと、それだけで無効となってしまいます。懲戒処分が妥当なものかの判断をしてもらえず、門前払いになってしまうのです。懲戒処分を行う場合は、就業規則が周知されている(社員が見ようと思えば見ることができる)かどうかについて、事前に確認しておいて下さい。

Menu

就労拒否

接客を拒否する。 Menu

 新型コロナに感染する恐れがあることを理由に接客を拒否している場合は,ドアを開けたまま店舗を営業するとか,マスクを付けたまま接客させるなどの配慮をした上で接客させるのが基本的対応です。
 新型コロナ感染のリスクが高くないにもかかわらず社員が接客を拒否して仕事をしない場合は,不就労時間に対し給料を支払う義務はありません。接客拒否を理由とした懲戒処分は,新型コロナ感染の危険性等を考慮して対応を決めて下さい。新型コロナが大流行している時期は,接客するのが怖いという気持ちになることもやむを得ない面もありますので,不安を解消して働いてもらうための説得を丁寧に行うことで対処し,懲戒処分は抑制的に考えた方がいいかもしれません。
 できるだけの配慮をしても新型コロナ感染のリスクが高い場合は,接客を続けさせるわけにはいきませんので,休業させるのが基本的対応になると思います。

出社しない。 Menu

 新型コロナに感染する恐れがあることを理由に出社を拒否している場合は,新型コロナに感染するリスクを下げられるよう職場環境を整えた上で仕事をさせるのが基本的対応です。
 新型コロナ感染のリスクが高くないにもかかわらず社員が出社を拒否する場合は,社員都合の欠勤として処理して構いません。給料や休業手当を支払う義務はありません。在宅勤務させる義務はありませんが,在宅勤務できるような仕事であれば,在宅勤務させても構いません。
 いくら職場環境を整えても新型コロナ感染のリスクが高い場合には,休業させるのが基本的対応です。在宅勤務でもできるような仕事があるのであれば,必要な限度で在宅勤務させ,在宅勤務以外の社員については休業させるとよいでしょう。

残業しない。 Menu

 まずは社員から残業しない理由を聴いて下さい。新型コロナが怖いので早く帰りたいといった程度のもののときは,残業させる必要性が高いのであれば残業させるのが原則ですが,残業させる必要性がそれほど高くないのであれば,残業させずに帰宅させてもいいかもしれません。体調不良のため残業できない場合は,残業させずに定時で帰宅させたり会社を休ませたりするなどの対応をするのが基本的対応です。
 労基法で定められた労働時間を超えて働かせるためには,36協定の締結・届出が必要です。36協定の締結・届出がされていなかったり,労働者代表選出手続に不備があるため36協定が無効となり残業させられないことがあります。残業させる前提として,36協定の締結・届出がされているか,労働者代表が労働者により選出されているか等について,確認しておいて下さい。

まとめて年休を取得する。 Menu

 仕事が忙しい時期に年休を取得されると人員配置が本当に大変ですよね。しかし,労基法の定める年次有給休暇取得は労基法で認められた「権利」ですから,原則として社員が取得したい日に取得させなければならないと考えざるを得ません。別の日に年休を取得してもらいたい場合は,社員との話合いで年休を取得する別の日を決めるのが基本的対応です。退職直前の年休取得であれば,退職した時点で残っている年休の買取りを約束して,出勤してもらえないか,交渉することもあります。
 労基法では,使用者に「時季変更権」が認められていることをご存じの方もいらっしゃると思います。たしかに,社員から請求された日に年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には,他の日に年休を取得させることができます。しかし,「事業の正常な運営を妨げる場合」という要件は,多くの会社経営者が考えているよりも厳しいものです。たまたま,特定の日に年休を取得させることができない理由があって,その翌週に取得して欲しいというくらいであれば時季変更権の行使が認められるかもしれません。しかし,ここ最近ずっと忙しいから当面は年休を取得させるわけにはいかない,2~3か月後に状況が落ち着いたら年休を取得させるからそれまで待って欲しい,といったものは認められません。

一方的に退職する。 Menu

 正社員等の無期社員は、辞職を申し出た日から2週間を経過すれば退職したことになります。雇い主の承諾は不要です。労働条件通知書や就業規則に「退職する場合は1か月前に申し出ること。」などと記載されていたとしても、辞職を申し出た日から2週間を経過すれば退職したことになると考えるのが一般的です。
 有期社員であれば、理論的には期間満了日か契約で定めた日まで雇用契約が続くのが原則です。しかし、有期社員が会社を辞めたと主張して出社してくれなければ、どうにもなりません。出社しないことを理由として有期社員に対して損害賠償請求をしても、認められるケースは限定的です。事前の対応としては、損害賠償請求が認められない前提で労務管理をするのが賢明だと思います。
 社員が本気で退職したいと考えている場合、退職それ自体を止めることは困難です。退職時の年休買上げ等の退職優遇措置を提示するなどしながら、退職日について話し合うのが現実的な対応だと思います。

働き方

時差出勤させろと要求する。 Menu

 社員に時差出勤させることそれ自体は,通常は義務ではありません。時差出勤させろと要求されたからといって,認める必要はないのが原則です。
 しかし,社員が時差出勤させろと要求しているのには,例えば,満員電車に乗ると新型コロナに感染する恐れが高いため,時差出勤して感染のリスクを下げたい,といった理由があるかもしれません。社員の安全を守るために何らかの対応をしなければならないかもしれませんので,まずは社員から,時差出勤したい理由を聴くようにして下さい。
 また,担当業務によっては,時差出勤させても支障がないものもあります。時差出勤させても支障がない業務を担当している社員については,時差出勤を拒んで通常どおり出勤させることにこだわる必要性は高くありません。
 時差出勤が担当業務に与える影響の程度,時差出勤の必要性等を考慮して,時差出勤を認めるかどうかを判断して下さい。時差出勤させなければ新型コロナに感染するリスクが高い状況ではあるものの,時差出勤させたのでは担当業務を遂行するのが困難な場合は,休業させた方がいいかもしれません。

テレワークさせろと要求する。 Menu

 テレワークさせることは,通常は義務ではありません。社員からテレワークさせろと要求されたからといって,テレワークを認める必要はないのが原則です。
 しかし,社員がテレワークさせろと要求しているのには,例えば,満員電車に乗ると新型コロナに感染する恐れが高いため,テレワークでの勤務に切り替えて,通勤に伴う新型コロナ感染のリスクを下げたい,といった理由があるかもしれません。社員の安全を守るために何らかの対応をしなければならないかもしれませんので,まずは社員から,テレワークしたい理由を聴くようにして下さい。
 テレワークではできない仕事は世の中にたくさんあります。テレワークではできない業務を担当している社員を無理にテレワークさせる必要はありません。出勤させるのか,休業させるのかを検討すれば足ります。
 他方で,テレワークで勤務させても支障が少ない仕事もあります。テレワークさせても支障が少ない業務を担当している社員については,新型コロナ感染の危険性が高い時期にテレワークで仕事させることには,一定の合理性があると思います。テレワークでもできる業務を担当している社員については,テレワークでの勤務が業務に与える影響の程度,テレワークさせる必要性等を考慮して,テレワークを認めるかどうかを判断して下さい。

有給の特別休暇を新設しろと要求する。 Menu

 有給の特別休暇を新設することは,もちろん,義務ではありません。労基法で定められている年次有給休暇を取得させることなどは義務ですが,法律で定められていない特別休暇は,なくても全く問題ありません。義務かどうかの話ではなく,社員の労働条件を良くしてあげるかどうかといった政策的な話だと思って下さい。
 特別休暇を新設するかどうかという話と,特別休暇を有給とするかどうかという話は,別の問題です。特別休暇を新設して,会社を休んでもマイナス評価しないが,休暇を取得した日の給料は払わないといった制度設計もあり得ます。

休業中なのに年休を取得させろと要求する。 Menu

 年次有給休暇は,労働義務がある日の労働義務を免除し,賃金を支払うものです。したがって,元々労働義務がない休業日に年次有給休暇を取得させることはできません。
 もっとも,休業だと休業手当しかもらえず手取りが減るので年休を取得して賃金を満額もらいたいといった要望もあります。休業期間中に年休取得を希望する社員がいる場合は,その日の休業を解除した上で年休取得を認めてもいいと思います。

仕事がないのに時給制社員がシフト削減に応じない。 Menu

 契約期間中にシフト削減に応じるかどうかは、時給制社員の自由です。時給制社員の同意を得ずにシフトを削減した場合、実際には働いていない日についても賃金の支払義務が発生したり、損害賠償義務を負ったりするリスクがあります。
 シフトを削減すれば、時給制社員の収入が減ることになりますので、シフト削減に対する同意の有無は慎重に判断する必要があります。単に時給制社員がシフト削減を受け入れてくれたというだけだと、同意はなかったと判断されるかもしれません。裁判所にもシフト削減の同意があったと認めてもらいたいのであれば、シフトを削減する必要性、シフトを削減すれば収入がどれくらい減るのか等について書面を配布して口頭でも説明し、同意書を取得するくらいのことをした方がいいと思います。
 私は、契約期間の途中でシフトを削減することはお勧めしません。シフト制社員の仕事がなくなった場合は、休業(休業手当の支払と雇用調整助成金の受給)、雇止め、契約更新時の所定労働時間数の調整等で対応するのが本筋だと思っています。
 なお、雇入れに当たり始業終業時刻や休日(労働日)等を明示せず、その都度、時給制社員の希望を聴いてシフトを決めていたようなケースでは、それで労働条件明示義務を果たしたことになるかは別にして、所定労働時間や所定労働日の合意がない以上、労働契約上、シフトを入れる義務はないのだから、シフトを入れなかったとしてもシフトを「削減」したことになるわけではない,という理屈もありそうです。しかし、勤務実態等から所定労働時間数、未払賃金(相当)額を推定することができますので、未払賃金支払義務又は損害賠償義務を負うリスクを覚悟しておく必要があると思います。

賃金

休業中なのに賃金を全額払えと要求する。 Menu

 会社都合の休業の場合に休業手当を支払う必要があることをご存じの会社経営者も多いことと思います。労基法26条では,会社都合の休業の場合は,平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないこととされています。
 注意しなければならないのは,平均賃金の60%以上という休業手当の水準は,支払うべき休業手当の最低水準を定めたものであり,労基法26条は,平均賃金の60%を支払えば足りると定めているわけではないということです。会社都合の休業の場合に,平均賃金の60%の休業手当のみを支払えば足りるというためには,それを正当化するための法的根拠が必要です。法的根拠がないと,賃金の100%の支払が必要になる場合があります。
 法律の解釈としては,休業手当の支払義務を負う範囲の方が,賃金の支払義務を負う範囲よりも広いと考えられています。労働契約上の根拠規定がなくても,休業手当のみを支払えば足りる事案も,理論上は存在します。しかし,具体的事案において,賃金の支払義務の有無を予測することが難しいため,労働契約上の根拠規定を置くことにより対処するのが現実的です。
 会社都合の休業の場合,休業手当の支払義務は社員との合意や就業規則の定めによっても排除することができませんが,賃金の支払義務は排除することができます。就業規則に,会社都合の休業の場合は通常の賃金の支払に代えて平均賃金の60%の休業手当を支払うなどと規定し,就業規則を周知させることで,これを労働条件の内容としておくとよいでしょう。

休業した場合の特別手当を新設しろと要求する。 Menu

 休業した場合の特別手当新設は義務ではありません。特別手当を新設しなくても法的には全く問題ありません。社員の生活に配慮して,特別手当を新設してあげるかどうかという政策的判断の問題です。
 特別手当を新設するかどうかは,社員の生活のためにどこまで配慮してあげるのか,支払った金額に対し雇用調整助成金の支給を受けられるのかといったことを考慮して,判断するとよいでしょう。

休業手当として平均賃金の60%ではなく100%を払えと要求する。 Menu

 休業手当の支払に関し労基法が要求しているのは,平均賃金の60%以上の休業手当です。休業手当を平均賃金の100%とする法律上の義務はありません。
 休業手当を平均賃金の100%とすることは,社員の生活にどこまで配慮してあげるのかという政策的判断の問題です。社員の生活のためにどこまで配慮してあげるのか,支払った金額に対し雇用調整助成金の支給を受けられるのかといったことを考慮して判断するとよいでしょう。

テレワークなのに残業代の支払を要求する。 Menu

 テレワークであっても,残業をさせれば残業代を支払わなければならないことに変わりありません。テレワークさせている社員から日報を提出させるなどして労働時間を把握し,残業時間については残業代を支払って下さい。残業させたくない場合は,残業を一律に禁止したり事前許可制にしたりして,残業させないようにして下さい。
 テレワークさせている社員に事業場外みなし労働時間制を適用し,所定労働時間みなしとすることができるような場合であれば,所定労働時間働いたものとみなされるわけですから,残業代を支払う義務はありません。ただし,「労働時間を算定しがたいとき」でなければ事業場外みなし労働時間制の適用はありませんし,事業場外みなし労働時間制の適用がある場合であっても,所定労働時間みなしにできるのは,通常は所定労働時間内で終わる業務の場合だけです。通常は所定労働時間を超えて働かないと終わらない業務の場合は,当該業務の遂行に通常必要とされる時間働いたものとみなされることになります。例えば,通常は9時間必要な仕事をさせていれば,実労働時間にかかわらず,9時間働いたものとみなされてしまいます。事業場外みなし労働時間制が適用できさえすれば所定労働時間みなしにできると誤解されていることが多いので,自社はそのような誤解に基づいた労務管理を行っていないか,一度確認してみることをお勧めします。
 なお,テレワークを実施する際は,「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(厚生労働省)を参考にするといいと思います。厚生労働省のサイトからパンフレットを無料でダウンロードすることができます。

売上が激減しているのに賃金減額に応じない。 Menu

 賃金減額に応じるかどうかは、社員の自由です。新型コロナ流行に伴い売上が激減して賃金を支払うことが困難になった場合であっても、社員が賃金減額に同意する義務はありません。
 売上が激減して賃金を支払うことが困難になった場合、まずは休業して休業手当を支払い、雇用調整助成金の支給を受けるとよいでしょう。派遣社員については労働者派遣契約の期間満了時に契約を打ち切り、有期社員については期間満了時に雇止めにするのが本筋です。正社員の賃金については、賞与不支給又は少額の支給、昇給の停止を行います。毎月の給料の減額は,社員の士気に対する悪影響の程度が大きいので、できるだけ避けて下さい。賃金の負担に耐えられない場合は、希望退職募集や退職勧奨を行わざるを得ません。整理解雇はできるだけ避けたいですが、最終的には実施せざるを得ないこともあります。
 賃金減額に対する同意の有無は慎重に判断する必要があります。単に社員が賃金減額を受け入れたというだけでは足りず、社員の自由な意思に基づいて賃金減額を受け入れたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要です。裁判所にも賃金減額の同意があったと認めてもらえるようにするためには、賃金減額の必要性や賃金減額の結果どれだけ減収になるのかを説明する書面を交付して口頭でも説明し、同意書を取得するなどの対応が必要になります。
 就業規則に金額等の支給水準が具体的に定められている賃金を減額する場合は、社員の同意だけでなく、就業規則の変更も必要です。社員との合意内容よりも就業規則の方が社員に有利なまま放置していると、就業規則で定められた金額の賃金の支払を余儀なくされることがあります。
 賃金減額について社員の同意を得られない場合であっても、就業規則を変更することにより賃金を減額できることがあります。ただし、就業規則変更が有効となるためには、その変更が合理的なものでなければなりませんし、賃金減額を内容とする場合は就業規則を変更する高度の必要性が要求されます。社員の同意のない就業規則変更による賃金減額は、大部分の社員が賃金を減額する就業規則の変更に同意している場合に、どうしても賃金減額に同意してくれないごく一部の社員のみを対象として行いたいところです。

退職・解雇

有期社員が雇止めに抗議する。 Menu

 余剰人員が生じた場合に雇用調整を行うことも,有期契約とした目的に含まれているのが一般的です。新型コロナ流行のため余剰人員が生じた場合,正社員の整理解雇よりも先に,労働者派遣契約の打切りや有期社員の雇止めを検討して下さい。
 契約期間が満了時の退職である以上,有期社員の雇止めをすることには,何らの法的問題もないのが原則です。
 例外的に,有期社員との契約が①実質無期契約であるとか,②更新に合理的期待があるとか評価された場合は,雇止めに客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性がないと,有期契約が更新されたことになってしまいます。①②の場合は,雇止めに客観的に合理的な理由等があるかについて,慎重に判断して下さい。①②いずれにも当たらない場合は,雇止めに客観的に合理的な理由等は不要です。
 ①②の場合は,正社員の整理解雇が解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際に考慮される整理解雇の4要素(人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の相当性)を参考に,雇止めの可否を判断します。有期社員との契約では,余剰人員が生じた場合は期間満了時に雇用調整することが予定されているのが通常です。通常は,有期社員の雇止めで求められる雇止め回避努力の程度は,正社員の解雇回避努力と比較して軽減されたものと考えて差し支えありません。正社員の人員削減よりも先に有期社員を雇止めすることには人選の合理性があります。もっとも,新型コロナの影響で会社の経営が苦しい場合であっても,有期社員を雇止めする必要性について説明することはできるはずです。雇止めの必要性について丁寧に説明した上で雇止めすることをお勧めします。有期社員を雇止めする必要性について論理的に説明できるかどうかは,雇止めに客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が認められるかどうかのメルクマールにもなります。

退職勧奨に応じない。 Menu

 退職勧奨に応じるかどうかは,社員の自由です。退職勧奨を断られても退職してもらいたい場合は,退職優遇措置(特別(上乗せ)退職金の支払,退職時に残っている年休の買上げ等)を提示するなどして交渉するのか,整理解雇するのか,そのまま働いてもらうのか等を検討して下さい。
 退職に応じてもらえた場合は,退職届や退職合意書といった書面を取得するようにして下さい。退職届等の客観的証拠がないと,退職したことを立証できないことがあります。退職届の提出はないものの出社しなくなったため,退職してもらえたと思って安心していたところ,「解雇された。不当解雇だから賃金を払え!」といった内容証明郵便が届くことはよくある話です。解雇通知書が存在しない以上,解雇していないことは裁判所に認めてもらえるかもしれません。しかし,退職届等を取得していないと,退職の事実を立証することができず,在職中ということになりかねません。
 退職勧奨を断られた場合に,新たな退職優遇措置を提示することもせずに,従来と同じ要求を繰り返して圧力をかけるといった対応はやめて下さい。ひどい場合は不法行為が成立することがあります。不法行為とまではいえない程度のものであっても,スマートフォンなどで録音された音声がインターネット上で公開されるなどして,会社の評判を落とすことになりかねません。「適法」な退職勧奨であればそれでいいという時代ではありません。退職勧奨時の音声がインターネット上に公開されても支障がないような退職勧奨を心掛けて下さい。

整理解雇したところ不当解雇と抗議する。 Menu

 新型コロナの流行により,お客様が来店しなくなるなどして,余剰人員が生じた場合,それが一時的な問題に過ぎないのであれば,雇用を維持して雇用調整助成金の支給を受けることなどで対応するのが基本的対応です。
 しかし,店舗を閉鎖したり,特定の部門を廃止したりしたような場合は,人員削減をしなければ過剰な人員を抱え続けることになってしまうこともあります。過剰人員を抱え続ける恐れが高い場合は,人員削減を躊躇すべきではありません。労働者派遣契約を打ち切り,有期社員を雇止めするなどの努力をしても過剰な人員を抱えている場合は,正社員についても人員削減を検討して下さい。
 人員削減の必要性について正社員に丁寧に説明し,退職優遇措置を提示して希望退職者を募集したり,退職勧奨したりして合意退職により辞めてもらう努力をして下さい。本当に会社の経営状態が悪い場合は,削減する必要がある人数の社員に辞めてもらえることも珍しくありません。
 希望退職者や退職勧奨に応じて退職した社員が予定人数(削減する必要がある人数)に達しなかった場合は,客観的な基準に基づいて整理解雇の対象者を選んで整理解雇するのが基本的対応です。しかし,自然減や個別の退職勧奨で対応できる程度にまで希望退職者の応募があった場合や,整理解雇の4要素(人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の相当性)に照らし,整理解雇が有効となる見込みが低い場合は,整理解雇には踏み切らず,自然減や個別の退職勧奨で対応することもあります。

採用内定取消しに抗議する。 Menu

 採用内定取消しの法的性格は事案ごとに判断されますが,「不採用」ではなく,労働契約が既に成立していることを前提とした「解雇」と評価される事案が多いです。採用内定取消しが「解雇」と評価された場合,採用内定取消しの有効性は,整理解雇の4要素(人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の相当性)を考慮して判断されることになります。内定者に辞めてもらう手順は,基本的には社員の整理解雇と同じようなものと考えて下さい。
 労働者派遣契約の打ち切りや有期社員の雇止めを先行させ,人員削減の必要性について内定者にも丁寧に説明し,上乗せの退職条件を提示して希望退職者を募集して合意退職により辞めてもらう努力をします。希望退職者が予定人数(削減する必要がある人数)に達しなかった場合は,個別に退職勧奨するか,一応の目的が達成されたものとして当面の人員削減を終えるか,客観的な基準に基づいて整理解雇の対象者を選んで整理解雇することになります。
 採用内定取消しを,既に働いている先輩社員の整理解雇よりも優先して行う内容の人選基準を設けることもできると思います。ただし,新卒者については,「採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること」(指針)とされています。採用内定を取り消す場合は,ハローワーク,学校長に対する事前通知が必要です。一定の場合は,企業名が公表されることもあります。できるだけ,話合いで内定解消を合意したいところです。

試用期間中の社員が本採用拒否に抗議する。 Menu

 試用期間中の社員との間では労働契約が成立していますから、本採用拒否の法的性格は「解雇」です。試用期間中の本採用拒否は、本採用後の解雇と比べるとやや緩やかに有効性が判断されるのが通常ですが、客観的に合理的な理由等が必要なことには変わりありません。本採用拒否が、新型コロナ流行に伴う事業縮小を理由に行われる場合は、整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性)を考慮して、本採用拒否に客観的に合理的な理由等があるかどうかが判断されます。
 ただ、試用期間は、試用期間中の社員が自社の社員として長く働いてもらうのにふさわしいかどうかを判断するために設けられたものです。新型コロナ流行に伴う事業縮小を理由に本採用拒否を行う場合は、社員としての適格性とは関係なしに解雇するわけですから、緩やかな基準で本採用拒否できないという考えもあり得るかもしれません。試用期間中の社員に辞めてもらうための手段として、本採用拒否にこだわる必要性は低いように思います。
 私は、試用期間中の社員についても本採用後の社員と一緒に通常の整理解雇の問題として処理すれば足りると考えています。本採用後の社員よりも試用期間中の社員を優先して整理解雇することとする人選基準を設定することもできると思います。整理解雇の前に希望退職募集や退職勧奨を行い、できるだけ合意退職を目指すべきことは、試用期間中の社員についてもいえることです。

労働者派遣

派遣社員が出勤しない。 Menu

 派遣社員が出勤しない場合は,出勤しない理由を確認した上で対応を検討して下さい。派遣社員が出勤しない理由が新型コロナ感染の恐れである場合には,出勤して仕事をさせることができないほど新型コロナ感染の危険があるのかを検討することになります。
 客観的に出勤できる状況であるにもかかわらず派遣社員が出勤しない場合は,派遣会社の債務不履行です。派遣会社に対し,労働者派遣契約で予定された派遣社員を派遣するよう要求して下さい。派遣社員の派遣を受けられなかった日の派遣料金を支払う必要があるかは,労働者派遣契約の定め次第ですが,派遣会社側の都合で派遣を受けられなかったわけですから,通常は派遣料金を支払う義務がないものと考えられます。いつまでたっても派遣を受けられない場合は,催告した上で,債務不履行解除することも考えられます。
 他方,出勤して仕事をさせることができないほど新型コロナ感染の危険があるなど,客観的に派遣社員が出勤できない状況にある場合は,派遣社員の派遣を受けられなくてもやむを得ません。労働者派遣契約の定めを確認し,契約に従った対応をして下さい。派遣社員が出勤しない期間の派遣料金の負担,労働者派遣契約の解消等について,派遣会社と協議することになると思います。
 実際の事案では,出勤できるのに派遣社員が出勤しないのか,それとも,派遣社員が出勤できるような状況ではないので出勤できないのかといった,前提事実について見解の相違が生じることが予想されます。新型コロナ流行が始まったときに既に開始していた労働者派遣契約については,派遣会社と話し合って落としどころを探ることが重要だと思います。これから締結する労働者派遣契約では,新型コロナが流行した場合についての権利義務について契約書に盛り込むことで対応することに比重が移ると思います。派遣先としては,派遣会社が提示する労働者派遣契約の内容をよく検討してから労働者派遣契約を締結するようにして下さい。

派遣社員なのにテレワークさせろと要求する。 Menu

 労働者派遣契約でテレワークが予定されている場合は,派遣会社とテレワーク実施時期を協議して,テレワークを実施して下さい。
 他方,労働者派遣契約でテレワークが予定されていない場合には,テレワークに応じる義務はありません。もっとも,テレワークでもできるような仕事を派遣社員にしてもらってるような場合は,派遣会社との間で就業場所に派遣労働者の自宅を加えるなどの契約変更を行った上で,テレワークを実施することもできます。テレワークさせた方がいいのかどうか,よく考えて判断して下さい。

派遣会社が休業期間中の派遣料金を支払えと要求する。 Menu

 休業期間中の派遣料金の支払義務があるかどうかは,労働者派遣契約の定め次第です。労働者派遣契約の定めからは派遣料金の支払義務があるかどうか不明な場合は,派遣元に休業の責任があるか次第ですが,見通しを立てるのが難しいため,実際上の話としては,派遣会社と話し合って落としどころを探るのが基本的対応になると思います。
 派遣先としては,一定額の派遣料金を負担せざるを得ない場合であっても,派遣会社が派遣社員に支払う休業手当の額だけでなく,派遣会社が支給を受ける雇用調整助成金の額を考慮に入れた金額の負担にしたいところです。交渉した結果どうなるかは予測しにくいですが,休業手当相当額の雇用調整助成金を受給する予定の派遣会社が派遣料金全額を派遣先に支払わせるのは休業手当相当額の二重取りになりますから,派遣会社が支給を受ける雇用調整助成金の額を考慮するよう要求してみるといいと思います。

派遣会社が労働者派遣契約の中途解除に伴う費用を負担しろと要求する。 Menu

 派遣先が労働者派遣契約の中途解除に伴う費用を負担する義務があるかどうかは,派遣先都合の中途解除かどうか次第です。派遣先の都合で労働者派遣契約を中途解除した場合は,新たな就業機会の確保や休業手当等の費用負担等の雇用安定措置を講じなければなりません。他方,派遣会社が派遣労働者を派遣できないなど,派遣会社の債務不履行のため労働者派遣契約が解除された場合には,派遣先が労働者派遣契約の中途解除に伴う費用を負担する必要はありません。
 派遣先の立場としては,派遣先が労働者派遣契約の中途解除に伴う費用を負担する義務がある場合であっても,派遣会社が派遣社員を休業させた場合に支給を受ける雇用調整助成金の額を考慮した額にしてもらいたいところです。交渉した結果どうなるかは予測しにくいですが,休業手当相当額の雇用調整助成金を受給する予定の派遣会社が休業手当相当額を派遣先に支払わせるのは休業手当相当額の二重取りになりますから,派遣会社が支給を受ける雇用調整助成金の額を考慮するよう要求してみるといいと思います。

派遣社員が労働者派遣契約を更新するか直接雇用しろと要求する。 Menu

 派遣社員が労働者派遣契約を更新するよう要求してきたとしても,派遣先には労働者派遣契約を更新する義務はありません。新型コロナ流行に伴い人員が過剰となっている場合は、直接雇用している社員の人員削減よりも優先的に労働者派遣契約の更新を停止して下さい。
 派遣社員から直接雇用しろと要求されたとしても、直接雇用する義務はないのが原則です。新型コロナ流行に伴い人員が過剰となっているような場合は、派遣社員を直接雇用するメリットはありませんので、直接雇用を断って構いません。逆に、人員が不足している場合は、労働者派遣契約終了後の直接雇用を検討してもいいと思います。
 一定の場合には、特定有期雇用派遣労働者の優先雇用の努力義務が課せられていたり、労働者募集情報の提供が必要な場合がありますが、必ずしも派遣社員を直接雇用しなければならないというものではありません。派遣期間制限違反等の一定の違法派遣がなされた場合には、派遣労働者に対し直接雇用を申し込んだものとみなされてしまう労働契約申込みみなし制度が適用されてしまうこともありますが、派遣法を遵守している派遣先であれば心配する必要はありません。


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