Q46 試用期間中の社員の能力が低い。
1 本採用拒否
(1)新規採用の段階と本採用拒否の段階での違い
新規採用の場面では,契約自由の原則から,採用申込者を雇用するかを自由に決めることができます。雇用契約を締結しなかったとしても,その理由や証拠は不要です。ただし,男女雇用機会均等法などに違反した場合には不法行為責任が生じる可能性があります。
試用期間中の社員との間の契約関係は,特段の事情が認められない限り,解約権留保付き雇用契約が成立しています。本採用拒否をするためには,本採用後の解雇と同様に,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であることが必要です。
(2)本採用拒否事由
試用期間は,労働者自身の性格や業務遂行の態様を見て,当該社員が長期間雇用を継続するに値する人物かどうかを評価するために設けられていますので,本採用拒否は,本採用後の解雇よりは比較的広くできると考えられています。
採用選考や内定段階で通常知りうる事実は,本採用拒否事由にあたりません。例えば,採用時に試験等をして能力が低いことを承知した上で採用したけれど,やはり能力が低いので辞めてもらいたいというケースで本採用拒否をすることは難しいです。
また,当初知ることができなかった事実を理由として本採用拒否する場合であっても,客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要です。
2 退職勧奨
本採用拒否までは踏み切れないけれど,諸般の事情から当該社員に退職してもらいたい場合には,退職勧奨による合意退職を目指します。
当該社員と退職合意できるかどうかは,使用者が当該社員を本採用拒否しうる資料をどれだけ持っているかに左右されます。すなわち,客観的証拠が揃っていて,本採用拒否した場合に有効となる可能性が高い場合は,比較的低額の解決金で退職合意に至る可能性があります。これに対して,客観的証拠が乏しく,本採用拒否をしたとしても無効になる可能性が高い場合は,退職合意に至るとしても当該社員から高額の解決金を要求される可能性があります。
社会的相当性を逸脱した態様で退職勧奨をした場合には,不法行為責任や債務不履行責任を負う可能性があります。退職勧奨をする際には,①退職勧奨の回数・期間,②退職勧奨を行う時間,③退職勧奨を行う者の人数,④退職勧奨の場所,⑤退職勧奨を行う際の具体的な言動,⑥提示する退職条件を考慮する必要があります。
3 試用期間の延長
試用期間中では本採用するか判断がつかない場合,就業規則に試用期間を延長する場合がある旨の規定がある場合には,試用期間を延長するか検討します。
試用期間を延長する場合には,社員に対して試用期間を延長する理由を明記した通知書を交付することが望ましいです。例えば,社員の能力・適性が疑われる場合には期間延長中の課題や目標を明記し,現状の改善がない場合には本採用できないことを明記します。通知書は,延長後の試用期間終了時に通知書記載の課題を達成できたかを社員と確認する資料になるとともに,本採用拒否または合意退職をする際の資料となりえます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)