問題社員39 飲み会で部下に飲酒を強要する。

1 飲酒強要の問題点

 上司と部下が酒食を共にすることは、普段の仕事とは違った打ち解けた雰囲気での親密なコミュニケーションを促し、円滑な人間関係の形成に資する面がありますが、体質上、お酒を全く飲めない人もいますし、お酒が弱いだけである程度は飲める人であっても、体調や気分次第では飲酒したくないこともあり、一緒にお酒を飲みさえすれば人間関係が良くなるというものではありません。お酒の最低限のマナーを守れない飲み方、飲ませ方をすれば、かえって人間関係が悪化してしまうこともあります。
 勤務時間外の飲み会の席で部下が飲酒しなければならない労働契約上の義務がないことは明らかですから、部下が飲酒を断っているにもかかわらず、上司が執拗にお酒を飲ませようとすることは、部下の意向を無視して部下に義務のないことを行わせようとしているに過ぎず、何らの法的根拠もありません。
 部下が業務として上司の指揮命令の下、接待などに従事しているような場合には、部下も飲酒することが業務遂行上望ましい場合もあり得ますが、飲酒というものの性質上、通常は上司が部下に対して強要できる性質のものではないのではないかと思われます。
 上司が部下に対して飲酒を強要すれば、上司、職場環境、さらには会社そのものに対する部下の評価や就労意欲が低下し、他に良い職場があるのであれば転職しようという気持ちにさせかねません。 また、飲み会の席で上司が部下に飲酒を強要した結果、部下が体調を崩したり精神的にダメージを受けたりすれば、その程度にもよりますが、会社は使用者責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務(民法715条、415条)を負う可能性があります。
 ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京高裁平成25年2月27日判決(労判1072号5頁)は、上司が極めてアルコールに弱い体質の部下に対し執拗に飲酒を強要したことなどについて会社の使用者責任を認め、慰謝料150万円の支払を命じています。同事件東京地裁平成24年3月9日判決(労判1050号68頁)では飲酒強要の点については不法行為とは認めなかったのですが、高裁判決は、部下が少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており、上司は、部下がアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず、「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い、部下の体調の悪化を気に掛けることもなく、再び部下のコップに酒を注ぐなどしており、これは、単なる迷惑行為にとどまらず、違法というべきであるとして不法行為による損害賠償責任を認めています。上司が部下に飲酒を強要することに合理的理由は元々ありませんが、上司としては、最低限、部下がアルコールに弱いことに気付いたら飲酒を勧めるのを止めるといった程度の配慮は必要となってくるものと思われます。
 さらに、飲酒強要により部下が体調を崩したり、精神疾患を発症したりして損害賠償請求訴訟が提起され、判決において会社の責任が認められた場合は、社内で飲酒強要がなされた事実が世間一般に知られるところとなり、新規採用や顧客獲得に支障を来すなどのレピュテーションリスクを負うことにもなります。
 飲み会の席での飲酒強要であっても、上司と部下との間の個人的問題では済まないことは珍しくなく、会社が紛争の当事者とされて、訴訟では被告として防御活動を展開しなければならないリスクを負っていることに留意する必要があります。

2 具体的対処法

 上司が、飲酒強要が部下に嫌がられているわけでないとか、部下は「社会人」「会社員」として自分のしている程度の飲酒強要は我慢するのが当然だと勘違いしているようであれば、当該管理職の考えを改めさせる必要があります。
 その具体的方法としては、まずは定期的にパワハラ・セクハラ研修を受講させ、その中で飲酒強要をしてはいけないことだということを理解させることが考えられます。飲酒強要を禁止する旨、就業規則の服務規律に明記してもいいでしょう。
 もっとも、会社の実態が研修内容等と大きく異なれば、それは「建前」に過ぎず守らなくてもよいのだと受け止められかねません。会社社長や役員が自らの言動を律するのは当然のこととして、上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり、あってはならないものなのだというメッセージを、社内に向けて繰り返し発信するようにすべきでしょう。飲酒を断っている社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には、その都度注意指導して是正させることは最低限必要です。
 実際に飲酒強要がなされた場合に情報を会社が早期かつ的確に把握できるようにするための方法としては、社内の相談窓口や外部の弁護士窓口を設置し、相談しやすい雰囲気を作っておくとよいと思います。
 会社がしっかり対応すれば、飲酒強要問題がそう頻繁に起こるとは思えませんが、従来、飲酒強要が容認されてきた企業風土の会社において、飲酒強要を改めさせようとしたような場合には、上司が反発してなかなか言うことを聞かないことになりがちです。自分が上司にされてきたことを、今度は自分が部下にして何が悪いと言った発想を持つ管理職もいるかもしれません。いくら注意指導しても部下に対する飲酒強要を改めようとしない管理職については、厳重注意書を交付したり、懲戒処分に処したりせざるを得ません。管理職としての適格性が欠如していると判断されるような場合には、人事権を行使して管理職から外す必要があります。単なる部下との相性の問題に過ぎない場合は、他の部署に配置転換することによって対処できるかもしれません。
 懲戒処分を何度積み重ねても飲酒強要が改まらず、上司が会社に対して反抗的・挑戦的態度を取ってくるような場合は、最終的には退職勧奨又は解雇して辞めてもらわざるを得ません。
 上司の部下に対する飲酒強要の有無、程度は、企業風土を色濃く反映しているという印象があります。上司に研修を受けさせたりすることはもちろん重要なことなのですが、会社社長や役員が自らの言動を律した上で、上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり、あってはならないものなのだというメッセージを、社内に向けて繰り返し発信するとともに、部下等の他の社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には、その都度注意指導して是正させることが、何より重要となってくるものと思われます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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