労働審判の対応

 労働審判手続を申し立てられ、労働審判手続申立書等の書類が裁判所から届いたら、速やかに労働問題の知識経験が豊富な弁護士に相談し、対応を依頼することをお勧めします。
 なぜなら、労働審判手続における調停や労働審判は、当事者の権利義務関係を踏まえて行われます。労働問題の知識経験が豊富な弁護士でないと、労働者側の主張に対し、的確に反論することは困難だからです。
 また、労働審判手続申立書等が会社に届いてから答弁書の提出期限まで通常3週間程度しかありません。訴訟と比較して準備期間が短いため、速やかに対応する必要があります。準備が間に合わないまま第1回労働審判期日に臨み、会社に不利な心証がいったん形成されてしまうと、会社に一方的に不利な条件で調停が進められることになりかねません。
 弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士藤田進太郎が従事している業務のほとんどは、問題社員対応等の労働問題(会社経営者側)に関する業務です。弁護士法人四谷麹町法律事務所は数多くの労働審判事件の対応に当たってきました。会社経営者を悩ます労働審判事件の対応は、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談下さい。現在、ご依頼いただいた労働審判事件の全件について、代表弁護士藤田進太郎が担当しています。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

労働審判手続

労働審判手続の概要 Menu

  労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(労働者側1名、使用者側1名)で組織する労働審判委員会が、原則3回以内の期日で個別労働関係紛争を審理し、権利義務関係を踏まえて調停を試み、調停が成立しない場合には労働審判を行うことで労使紛争を解決しようとする手続です。
 日本全国で年間3000件を超える労働審判事件が申し立てられており、申立てから3か月にも満たない平均審理日数で約80%が解決しています。
 労働審判手続の概要については、裁判所のウェブサイトにも掲載されていますので、そちらもご確認下さい。

労働審判手続の主な特徴 Menu

 労働審判手続の主な特徴としては、次のようなものが挙げられます。
 ① 申立てから3か月にも満たない平均審理日数で約80%の紛争が解決しています。調停が成立せず訴訟に移行した場合は時間がかかりますが、労働審判手続だけであれば、退職した社員が次の就職先を見つけるまでのわずかな期間を利用して労働審判を申し立て、それなりの金額の解決金を獲得してから転職することも十分に可能です。訴訟を提起することまでは躊躇する労働者であっても、労働審判であれば申し立ててくる可能性があります。
 ② 労働審判官(裁判官)1名が、常時、期日に同席しており、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労使の労働審判員2名とともに、権利義務関係を踏まえた調停を行うため、調停内容は合理的なもの(訴訟で争った場合の判決に近いもの、社内で説明がつきやすく納得しやすいもの)となりやすくなります。
 ③ 労働審判手続で調停がまとまらなければ、たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され、労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟に移行することになります。調停をまとめず、労働審判に異議を出せば必ず訴訟対応が必要となるため、さらに時間とお金を費やしてまで訴訟を続ける価値がある事案でなければ、調停案や労働審判の内容に多少不満があっても、労働審判手続内で話をまとめてしまった方が合理的と判断されるケースが多くなります。

労働審判手続の対象となる紛争 Menu

 労働審判手続の対象となる紛争は、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)です。労働者と事業主との間の解雇に関する紛争、未払残業代に関する紛争、セクハラやパワハラに関する紛争等がこれに当たります。
 労働組合と使用者との間の集団的労使紛争は、個別労働関係民事紛争ではありませんので、労働審判手続の対象ではありません。組合員個々人と事業主との間の労使紛争は、労働審判手続の対象になります。
 また、「民事に関する紛争」でなければならないため、行政事件の対象となる紛争は、労働審判手続の対象とはなりません。
 募集・採用等の労働契約成立前の紛争は労働審判手続の対象になりません。採用内定に至っている場合は、始期付解約権留保付労働契約が成立していると主張されるのが通常ですから、労働審判手続の対象になると考えられます。労働契約締結の有無や労働者性に関する紛争も労働審判手続の対象になると考えられます。

労働審判委員会 Menu

 労働審判委員会は、労働審判官(裁判官)1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(労働者側1名、使用者側1名)で構成されます。
 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者の中から最高裁判所が任命し、労働審判委員会の一員として、事件関係書類を閲覧し、労働審判手続の期日に出席し、当事者の話を聴き、争点整理や証拠調べを行い、調停成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、調停成立に至らない場合は労働審判を行うなど、労働審判事件の審理全般に関与します。労働審判員は非常勤の裁判所職員であり、出身母体にかかわらず中立かつ公正な立場において職務を行うこととされています。現場の実情を踏まえた労働審判員の説得力のある意見がより妥当な結論を導くこともあり、労働審判員は労働審判手続の中で欠くことのできない重要な役割を担っていると評価することができます。
 労働審判手続を行う権限は労働審判委員会にあります。民事調停の場合と異なり、裁判官(労働審判官)だけで調停を行うことはできません。
 労働審判委員会の決議は過半数(多数決)で決せられ、労働審判委員会の評議は秘密とされています。

労働審判事件の新受件数・平均審理日数・期日実施回数・終局事由・解決率 Menu

 労働審判事件の年間新受件数は、日本全国で3300件~3900件程度(東京だけで1000件~1200件程度)で推移しています。
 労働審判事件の3分の2程度が申立てから3か月以内に終結しています。労働審判申立てから終結までの平均審理日数は3か月弱です(2020年は新型コロナ流行等の影響で平均審理日数が100日を超えましたが、一時的な現象と考えられます。)。
 第1回期日までに3分の1近い労働審判事件が終結しており、第2回期日までに合計3分の2を超える労働審判事件が終結しています。
 労働審判事件の終局事由は、調停成立が70%強、労働審判が14~16%程度、取下げが7~9%程度、24条終了が4~5%程度、却下・移送等が1%程度です。労働審判に対して異議が申し立てられるのは60~70%程度、異議が申し立てられず労働審判がそのまま確定するのは30~40%程度です。調停が成立した件数に、労働審判で異議が申し立てられなかった件数、手続外で和解が成立するなどして労働審判手続が取り下げられた推定件数を加えると、労働審判事件の解決率は80%程度と推定することができます。

労働審判手続を利用した理由・労働審判手続の結果についての満足度 Menu

 東京大学社会科学研究所の労働審判制度利用者調査(第1回)によると、労働者が労働審判を利用した理由として「あてはまる」との回答が多かったものは、次のとおりです。
 ① 公正な解決を得たかった(97.1%)
 ② 白黒をはっきりさせたかった(95.4%)
 ③ 事実関係をはっきりさせたかった(93.8%)
 ④ 自分の権利を実現し(あるいは守り)たかった(91.2%)
 ⑤ 強制力のある解決を得たかった(90.9%)
 他方、使用者側で「あてはまる」との回答が多かったものは、以下のとおりです。
 ① 公正な解決を得たかった(91.3%)
 ② 事実関係をはっきりさせたかった(86.9%)
 ③ 白黒をはっきりさせたかった(84.6%)
 ④ 会社・団体の権利を実現し(あるいは守り)たかった(78.6%)
 ⑤ 相手側(労働者側)に申し立てられたので仕方なかった(73.2%)
 使用者側が「あてはまる」と考える項目が労働者側よりも少ないのは、使用者側は労働審判を積極的に申し立てた側ではなく、労働審判を申し立てられた側であることがほとんどであることによるものと考えられます。「⑤ 相手側(労働者側)に申し立てられたので仕方なかった」を「あてはまる」と回答した使用者が73.2%にも上るのも無理はありません。それでもなお、「公正な解決を得たかった」を「あてはまる」と回答した使用者が91.3%、「事実関係をはっきりさせたかった」を「あてはまる」と回答した使用者が86.9%、「白黒をはっきりさせたかった」を「あてはまる」と回答した使用者が84.6%にも上っており、使用者側にも労働審判手続を積極的に評価する回答が多いと評価することができるでしょう。
 東京大学社会科学研究所の労働審判制度利用者調査(第1回)によると、労働審判手続の結果について、労働者側は59.5%が「満足している」と回答しているのに対し、使用者側で「満足している」と回答したのは35.5%のみで、逆に52.5%が「満足していない」と回答しています。労働審判手続の結果について、過半数の使用者が「満足していない」と回答していることは注目に値します。「満足していない」結果とならないようにするためには、申し立てられた労働審判事件の対応を万全に行うとともに、普段から経営者側弁護士に相談するなどして労務管理を行うことが重要といえるでしょう。

労働審判申立書受領後の流れ

労働審判手続の流れ(概要) Menu

 労働審判手続の流れ(概要)は、裁判所が作成したリーフレットの「~労働審判手続の流れ~」によくまとめられています。
 私が会社経営者の皆様に労働審判手続の流れの概要を説明する際にも、「~労働審判手続の流れ~」を用いています。
 まずは、「~労働審判手続の流れ~」に目を通しましょう。

労働審判申立書受領後の具体的な流れ Menu

 労働審判申立書受領後の具体的な流れは、概ね次のとおりです。

1 弁護士への相談・依頼
 労働審判事件の調停や労働審判が当事者の権利義務関係を踏まえて行われることなどもあり、労働審判手続の対応には専門的な知識経験が必要になります。裁判所から労働審判手続申立書等が届いたら速やかに労働事件を主に取り扱っている会社経営者側弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
 労働審判手続申立書が届いてから第1回労働審判期日までは1か月程度しかないのが通常です。弁護士は1か月先でも予定が入っていることが多く、労働審判手続では第1回労働審判期日の変更を認めてもらいにくい傾向にあります。依頼したい特定の弁護士がいるのであれば、スケジュールを速やかに確保してもらう必要があります。
 依頼する弁護士が決まったら、労働審判手続申立書と同封されている『労働審判手続の進行に関する照会書』に弁護士に依頼する予定である旨記入し、FAXするとよいでしょう。以後、裁判所からの連絡は弁護士が窓口になりますので、自社で直接裁判所からの連絡の対応をしなくてもよくなります。

2 答弁書の作成提出
 第1回労働審判期日の1週間~10日前の答弁書提出期限までに答弁書を作成して提出します。労働審判手続申立書が届いてすぐに弁護士に依頼すれば、答弁書提出期限まで3週間程度あるのが通常です。他方、弁護士への依頼が遅れると答弁書提出期限までの日にちが短くなり、十分な準備ができないまま第1回労働審判期日に臨むことになりかねません。
 労働審判手続は、第1回労働審判期日で証拠調べを終えて調停を開始することが多いこともあり、第1回労働審判期日までで勝負が決まってしまうのが通常です。第1回労働審判期日の審理は申立書と答弁書を前提に行われますので、答弁書の準備が不十分だと、不本意な結果に終わりやすくなります。労働審判手続を有利に進めるためには、労働審判手続申立書が届いたら速やかに会社経営者側弁護士に相談・依頼し、充実した答弁書を作成提出する必要があります。 

3 第1回労働審判期日
 第1回労働審判期日では、冒頭で争点及び証拠の整理をした上で証拠調べを行い、調停が試みられます。労働審判事件における証拠調べは、労働審判委員会が主導する審尋を中心に行われており、労働審判官や労働審判員から口頭で質問されますので、これに対して会社側の担当者が口頭で説明する必要があります。問題となっている事実関係について直接体験し、説明できる人物が説明しないと説得力がありませんので、事実関係を直接体験し説明できる人物が期日に出頭する必要があります。
 証拠調べが終わると調停が試みられます。第1回労働審判期日で調停が成立し、第2回労働審判期日が開催されないことも珍しくありません。労働審判事件の3分の1近くが、第1回労働審判期日までに終局しています。
 第2回労働審判期日を開催することになった場合には、当事者間で第2回労働審判期日に行う手続及び準備すべきことを確認し、準備に必要な期間を考慮した上で、第2回労働審判期日の日程調整を行います。第1回労働審判期日にかかる時間は通常は2時間程度です。

4 第2回以降の労働審判期日
 第2回労働審判期日では、第1回労働審判期日で行われた証拠調べや調停を前提として、引き続き調停が試みられます。第1回労働審判期日で証拠調べが不十分な場合は追加で証拠調べがなされますが、第1回労働審判期日までにいったん形成された労働審判委員会の心証を覆すことは、最初から十分な主張立証を行って会社に有利な心証を形成してもらうのと比べて難易度が高くなる傾向にあります。労働審判事件の3分の2を超える事件が、第2回労働審判期日までに終局しています。第2回労働審判期日で調停がまとまらない場合、第3回労働審判期日を開催しても調停がまとまる見込みが低い場合には第2回労働審判期日で労働審判が出されるのが通常です。第2回労働審判期日にかかる時間は30分~2時間程度です。
 第3回労働審判期日を開催すれば調停がまとまる可能性がそれなりにある場合は、第3回労働審判期日が開催され、さらに調停が試みられることになります。第3回労働審判期日で調停が成立しない場合には、労働審判や24条終了がなされます。労働審判手続は第3回労働審判期日までに終えるのを原則とされていることもあり、第4回労働審判期日が開催されることはほとんどありません。

労働審判の対応を弁護士に依頼する必要性 Menu

 労働審判法は、弁護士を代理人に選任することを義務付けていません。弁護士に依頼せずに代表権のある社長などが労働審判期日に出頭して対応することは理論上は可能です。
 しかし、労働審判手続では権利義務関係を踏まえて調停や労働審判が行われますので、労働問題に関する専門知識と労働裁判実務経験の豊富な弁護士でなければ対応することは困難です。労働問題に関し専門的な知識経験を有する弁護士に依頼せずに労働審判の対応をした場合、本来よりも解決金の額が高くなるなどの不利益を受けることになりかねません。また、弁護士でないと代理人になれませんので(労働審判法4条1項)、代表権のある社長等が期日に出頭しないと平取締役や人事労務担当部長等が出頭したとしても調停を成立させることはできません。
 労働審判を申し立てられた相手方の約85~90%が代理人をつけて対応している事実は、労働審判の対応を弁護士に依頼する必要性の高さを裏付けるものといえるでしょう。

「第1回労働審判期日までが勝負」 Menu

 労働審判対応のポイントを一言で言うと、「第1回労働審判期日までが勝負」です。労働審判手続では、第2回労働審判期日までに主張及び証拠書類の提出を終えることとされていますが(労働審判規則27条)、これは直ちに第2回労働審判期日までに会社の主張立証を準備すればいいということを意味しません。実際の労働審判手続では、第1回労働審判期日で証拠調べを行って心証を形成し、労働審判委員会が形成した心証に基づき直ちに調停に入ることは珍しくありません。第1回労働審判期日における調停では、第1回労働審判期日までに形成された心証に基づいて試みられることになりますので、後から主張立証しようと思っているものがあったとしても考慮してもらえません。
 第2回労働審判期日が開催された場合であっても、第1回労働審判期日で行われた証拠調べや調停を前提として証拠調べや調停が行われることに変わりありません。第1回労働審判期日終了後になされた主張立証により、第1回労働審判期日までにいったん形成された労働審判委員会の心証を覆すことは、最初から十分な主張立証を行って会社に有利な心証を形成してもらうのと比べて、難易度が高くなる傾向にあります。第1回労働審判期日までに主張立証できなかった重要な事実等があるのであれば、第1回労働審判期日終了後であっても主張立証していくべきですが、第1回労働審判期日までに主張立証を終えている場合と比較して、会社に有利な心証を形成してもらいにくくなることを肝に銘じなければなりません。労働審判事件は第1回労働審判期日までに充実した準備を行うことが勝敗の分かれ目であることが多く、まさに「第1回労働審判期日までが勝負」と言えるでしょう。
 「第1回労働審判期日までが勝負」であるとすれば、答弁書等の作成に十分な時間をかけて万全の態勢で第1回労働審判期日に臨みたいところです。業務が忙しいなどの理由から答弁書等の作成に十分な時間がかけられないような場合は、第1回労働審判期日を延期してもらいたいと考えたくなるかもしれません。しかし、第1回労働審判期日の変更は、認められにくい傾向にあります。期日の変更を認めると労使紛争を迅速に解決できなくなってしまいますし、労働審判手続では労働審判官(裁判官)と当事者双方だけでなく、労働審判員2名の日程調整もしなければならないからです。
 もっとも、会社側が最低限必要な反論準備ができなかったり、会社関係者が期日に出頭できなかったりすれば第1回労働審判期日は事実上空転してしまいます。第1回労働審判期日を当初の予定どおり開催することにこだわる意味がどれだけあるのかという疑問が生じてきます。第1回労働審判期日変更について申立人の了解が得られるのであれば、迅速解決のみを理由として第1回労働審判期日を変更しない理由にはならないでしょう。労働審判手続申立書が届いたばかりで労働審判員が選任される前であれば、労働審判員とのスケジュール調整の問題も生じません。裁判所によっては、申立人の同意などを条件として第1回労働審判期日の変更を認める運用をしていることもありますので、どうしても第1回労働審判期日の変更が必要な場合は、裁判所に事情を説明して、交渉してみるといいと思います。

労働審判の答弁書の作成

答弁書の記載事項 Menu

 答弁書の記載事項は、次のとおりです。
 ① 申立書の趣旨に対する答弁
 ② 労働審判手続の申立書に記載された事実に対する認否
 ③ 答弁を理由づける具体的な事実
 ④ 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
 ⑤ 予想される争点ごとの証拠
 ⑥ 当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要
 通常、裁判所から労働審判手続申立書とともに答弁書の記載例が届きますので、記載例を参考に答弁書を作成して下さい。もっとも、労働問題を主に取り扱っている会社経営側弁護士に依頼するのであれば、何をどのように記載するかは弁護士に任せればいいと思います。

「答弁書で勝負が決まる」 Menu

 「第1回労働審判期日までが勝負」であるとすれば、第1回労働審判期日には万全の準備をして臨みたいところです。第1回労働審判期日の準備における最大のポイントは、充実した答弁書の作成提出です。
 労働者側が提出した申立書と会社側が提出した答弁書により労働審判委員会の一応の心証が形成され、第1回労働審判期日の主張の整理や証拠調べによりその確認作業が行われます。答弁書は労働審判委員会の心証形成や第1回労働審判期日の証拠調べや調停の行方に大きな影響を与えます。
 また、労働審判期日で言いたいことが言えないまま終わってしまったり、事実とは違うことを間違えて話してしまうなどの失敗を減らすためには、労働審判委員会に伝えたいことや予想される質問に対する回答を予め答弁書に記載しておくのが効果的です。労働審判期日に出頭する会社関係者は、労働審判に不慣れなことが多いため、労働審判期日で緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。言いたいことを答弁書に記載しておけば質問されないことも多いですし、よく打ち合わせして作成した答弁書に記載されていることであれば、質問されても容易に回答することができるはずです。
 以上の理由から、私は、「答弁書で勝負が決まる」と言ってもいいくらいだと考えています。弁護士に労働審判の対応を依頼したら、充実した答弁書の作成提出に全力を尽くしましょう。

重要な証拠の引用方法 Menu

 証拠と照らし合わせなくても答弁書の記載から重要な証拠の記載内容が分かるようにしておいた方が会社の主張を理解してもらいやすいことは訴訟でも変わりません。しかし、労働審判事件では労働審判員が審理に関与することから、証拠と照らし合わせなくても答弁書の記載から重要な証拠の記載内容が分かるようにしておくことが特に重要となってきます。
 答弁書を裁判所に提出する際は、証拠の写しも提出するのが通常ですが、東京地方裁判所や大阪地方裁判所の運用では、労働審判員には答弁書のみが事前に送付され、証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。労働審判員に証拠の写しを送付しない運用の裁判所の労働審判員は、自宅等で証拠と照らし合わせながら答弁書を検討することができません。少なくとも労働審判事件の争点の行方を左右するような重要な証拠については、証拠と照らし合わせなくても証拠の記載内容が分かるよう、答弁書に書き込んでおくことが効果的です。

答弁書のページ数 Menu

 労働審判の対応において答弁書の果たす役割は極めて重要であり、答弁書を読んだだけで会社側の主張が分かるようにしておく必要があります。他方で、ページ数が不必要に多くなっていないかについても十分に検討する必要があります。同じ価値の情報を伝えられるのであれば、ページ数の少ない答弁書の方が労働審判官、労働審判員に言いたいことが伝わりやすく、優れています。
 望ましい答弁書本文のページ数は事案の内容により変わってきます。労働審判手続での解決になじむ事件であれば、通常は長くて30頁以内、できたら20頁以内でまとめておきたいところです。複雑な事案については、ページ数が多くなることはやむを得ません。

答弁書の提出期限 Menu

 答弁書の提出期限は裁判所によって異なりますが、概ね第1回労働審判期日の1週間前から10日前に設定されています。提出期限までに答弁書を提出することができず、第1回労働審判期日間際になって答弁書を提出した場合、第1回労働審判期日までに労働審判官(裁判官)・労働審判員が答弁書の主張内容を検討する時間が十分に取れず、会社側の主張を理解してもらいにくくなってしまいます。特に2名の労働審判員については、裁判所への答弁書提出から答弁書が労働審判員の手元に届くまでにタイムラグがあることについても考慮する必要があります。
 ほとんどの労働審判事件では、第1回労働審判期日で証拠調べを終え、調停が試みられますので、第1回労働審判期日までに会社側の主張を理解してもらえないと、会社側に不利な事実認定と法的評価を前提とした調停が試みられ、会社側に不利な結果に終わるリスクが高くなります。したがって、答弁書の提出期限までに答弁書を完成させて提出できるよう、全力を尽くすべきこととなります。
 では、弁護士に依頼したのが答弁書提出期限間近な時期、あるいは答弁書提出期限経過後で、答弁書を提出期限までに提出することができない場合は、どのように対応すればいいのでしょうか。 答弁書を提出期限までに提出しないと、会社の主張が十分に理解してもらえず、不利な結果に終わりやすくなりますから、答弁書の提出期限が遵守できない場合も、1日も早く提出できるよう全力を尽くすべきことは言うまでもありません。もっとも、労働審判の対応を弁護士に依頼したのが答弁書提出期限の直前または提出期限経過後のような場合は、急いで答弁書を作成して提出しようにも、提出できない場合もあるかもしれません。答弁書が提出できなければ、そのまま第1回労働審判期日を開催しても期日が空転してしまいます。そのような例外的事案では、第1回労働審判期日の変更と合わせて答弁書提出期限を延期してもらうことも考えられると思いますので、裁判所に相談してみるとよいでしょう。

労働審判期日

第1回労働審判期日 Menu

 第1回労働審判期日は、労働審判の申立てがあった日から40日以内に指定されるのが原則です(労働審判規則13条)。労働審判の申立てから労働審判手続申立書等が会社に届くまではタイムラグがありますから、第1回労働審判期日は裁判所から労働審判手続申立書等が会社に届いてから1か月くらい先になるのが一般的です。
 第1回労働審判期日では、労働審判官、労使双方の労働審判員の自己紹介がなされた後、争点が確認され、証拠調べがなされます。労働審判手続における証拠調べは、訴訟における証人尋問のように代理人弁護士が相手方当事者に質問するのではなく、労働審判官や労働審判員から労働者本人や事情をよく知る会社関係者に直接質問する審尋の形式により行われます。したがって、労働審判期日に出頭する会社経営者・会社担当者は、労働審判官や労働審判員からの質問に回答できるよう事前に準備しておく必要があります。
 労働審判委員会が生の事実を把握するためには、代理人弁護士ではなく、労働者本人や事情をよく知る会社経営者・会社担当者に直接質問することが適切ですので、労働者本人や事情をよく知る会社経営者・会社担当者に直接質問がなされ、代理人弁護士には原則として質問がなされません。代理人弁護士に期待されている役割は、基本的には当事者のサポートであり、複雑な事実関係や法的主張の説明をすることがある程度です。
 労働審判期日での質問にうまく答えられなくて困ったというような事態を回避するための一番の対処法は、予想される質問に対する回答を予め答弁書に記載して提出することです。答弁書に記載してあれば質問されないことが多いですし、よく打ち合わせして作成した答弁書に記載されていることであれば、回答の負担を軽減することができます。
 証拠調べに要する時間は、私が代理人を務める労働審判事件では、ほとんどが30分~1時間程度です。事案が単純で充実した申立書、答弁書が双方から提出されている場合には5分、10分程度で証拠調べが終わることもありますし、事案が複雑な場合等は、証拠調べの時間が1時間を超えることもあります。同じような事案でも、充実した申立書、答弁書が提出されている場合は、証拠調べに要する時間は短くなる傾向にあります。他方、申立書、答弁書で主張すべきことが記載されていない場合は、労働審判委員会が質問しなければならない事項が多くなりますので、証拠調べに要する時間は長くなる傾向にあります。
 一通り証拠調べが終わると当事者双方は席を外し、労働審判委員会は合議に入り、調停が試みられます。10分くらいすると当事者の一方が呼び出され、労働審判委員会の心証を伝えられた上で、どれくらい譲歩するつもりがあるのか、当事者の意向が聴取されます。会社側であれば、何円までであれば解決金を支払う意思があるのかといった調停条件について打診されますので、労働審判委員会が合議している時間に、支払う用意がある解決金の額を中心とした調停条件を検討しておくべきでしょう。
 再び席を外して労働者側と交代した後、労働審判委員会から伝えられた心証を踏まえて解決金の額等を検討します。妥当な解決金の額等の調停条件は、一次的には権利義務関係を踏まえて検討されなければなりませんが、他の労働者に対する波及効果や、調停をまとめずに労働審判が出され労働審判に対して異議を申し立てて訴訟に移行した場合にかかる時間、金銭、労力といったコスト等も考慮に入れた上で決定し、再び労働審判廷に呼び出された際、労働審判委員会に伝えます。
 条件が折り合えば、双方が同時に労働審判廷に呼ばれて、調停条項の確認がなされ調停が成立します。直ちには条件が折り合わないものの、調停が成立する見込みがある場合は、労働審判委員会が解決金の額等について調停案を提示するなどして、引き続き調停が試みられます。調停成立で終了した労働審判事件のうち3件に1件程度は、第1回労働審判期日で調停が成立しています。ある程度の駆け引きをすることはあるかもしれませんが、労働者側が合理的条件を受け入れている場合は、特別な事情がない限り、第1回労働審判期日で調停をまとめてしまうべきでしょう。
 第1回労働審判期日が終わるまでに調停がまとまらなかった場合でも、第2回労働審判期日を開催すれば調停がまとまる可能性がある場合には、第2回労働審判期日まで双方、解決金の額等の条件を検討することとするなどして、第1回労働審判期日は終了します。第2回労働審判期日までにすることは解決金額を中心とした調停条件の検討ですから、それほど時間は必要ありません。第2回労働審判期日は、2週間後くらいに入れれば十分なことが多いと思います。
 双方の考えに隔たりが大きく、第2回労働審判期日を開催しても調停がまとまる可能性が低い場合は、第1回労働審判期日で直ちに調停が打ち切られ、労働審判が告知されたり24条終了となることもあります。
 第1回労働審判期日は通常、調停を含め2時間程度で終わります。ただし、私は、調停が長引いて3時間30分かかったこともありますので、念のため、4時間程度の時間を取られても不都合が生じないようスケジュールを調整しておくことをお勧めします。

第2回労働審判期日 Menu

 労働審判規則27条は、「当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、労働審判手続の第2回の期日が終了するまでに、主張及び証拠書類の提出を終えなければならない。」と定めていますが、これは、第2回労働審判期日までに主張及び証拠書類の提出を終えればいいということを意味しません。労働審判事件の運用では、第1回労働審判期日までに主張及び証拠の提出を終え、第1回労働審判期日で証拠調べを行って心証を形成し、労働審判委員会が形成した心証に基づいて調停が行われており、第2回労働審判期日は調停をまとめるのにあてられるのが一般的です。追加の証拠調べがなされることはありますが、あくまでも補充的なものに過ぎません。
 私は、少なくとも主要な主張及び証拠書類の提出は第1回労働審判期日までに終えておき、第2回労働審判期日は調停のための期日と考えて労働審判事件の準備をする必要があると考えています。第2回労働審判期日で新たな主張をしたり、新たな証拠書類を提出したりするのは、第1回労働審判期日までに準備が間に合わなかった場合か、第1回労働審判期日で労働審判委員会から指示されたような場合くらいではないでしょうか。
 調停成立で終了した労働審判事件のうち4件に3件程度は、第2回労働審判期日までに調停が成立しています。労働者側が合理的な条件を受け入れている場合は、特別な事情がない限り、第2回労働審判期日で調停をまとめてしまうべきでしょう。
 第2回労働審判期日が終了するまでに条件が折り合わなかった場合でも、第3回労働審判期日を開催すれば調停がまとまる可能性がある場合には、第3回労働審判期日まで双方、解決金の額等を検討することするなどして、第2回労働審判期日は終了します。双方の考えに隔たりが大きく、第3回労働審判期日を開催しても調停がまとまる可能性が低い場合は、第2回労働審判期日で調停が打ち切られ、労働審判が告知されたり24条終了となるのが通常です。
 第2回労働審判期日は、第1回労働審判期日で少なくとも主要な争点についての証拠調べを終えているため、短時間で終わるのが通常です。第1回労働審判期日に労働審判委員会から調停案が示されていて、第2回労働審判期日では当事者双方が調停案を受諾する旨直ちに回答したような場合は、30分もかからずに第2回労働審判期日が終了することもあります。他方で、第1回労働審判期日終了後に当事者から新たな主張がなされてその証拠調べに時間がかかった場合や、当事者が調停案を受け入れなかったものの双方の意見の齟齬が大きくなく時間をかけて調停を試みれば調停が成立しそうなため調停に時間がかかったような場合は時間がかかります。私の経験では、第2回労働審判期日に2時間30分かかったことがありました。したがって、第2回労働審判期日前の交渉で話がついている場合は30分程度で第2回労働審判期日が終了するものと考えて差し支えありませんが、事前に話がついていない場合は、少なくとも2時間程度、できたら3時間程度、第2回労働審判期日に時間がかかっても問題が生じないよう、スケジュールを確保しておくことをお勧めします。

第3回労働審判期日 Menu

 第3回労働審判期日では専ら、調停が試みられます。労働審判法15条2項で「労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において、審理を終結しなければならない。」と定められていることもあり、第3回労働審判期日で調停がまとまらない場合、審理は終結し労働審判や24条終了がなされます。
 第4回労働審判期日を開催すればほぼ確実に調停が成立する見込みがあるような例外的場合であれば、第4回労働審判期日を開催することとされることもあります。しかし、第4回労働審判期日が開催されるのは労働審判事件全体のわずか1~2%程度に過ぎません。ほとんどの労働審判事件は第3回労働審判期日までに終了するものと考えて差し支えありません。

会社関係者の労働審判期日への出頭 Menu

 労働審判期日における証拠調べ(審尋)では、双方の主張を基礎づける事実関係について質問されます。問題となる事実関係について直接体験した人物でなければ、説明に説得力がありませんから、労働審判期日には、
  争点となっている事実関係について直接体験した人物
が出頭する必要があります。直接体験した人物ではなく、報告を受けただけの人物しか出頭しなかったり、会社関係者は一人も出頭せず代理人弁護士だけが出頭するとなると、会社側の説明は「との報告を受けています。」「と聞いています。」といったものにならざるを得ず、証言の価値が低いと評価されやすくなります。具体的事実関係について即答できないことも増えるため、会社の言いたいことが十分に伝わらないリスクも高くなります。
 また、
  代表取締役社長や人事労務担当役員等、調停をまとめるかどうか、どのような内容で調停をまとめるのかの決裁権限のある人物
も労働審判期日に出頭することが望ましいです。調停をまとめる決裁権限のある人物が出頭しないと、調停案を一旦会社に持ち帰り検討してからでないと、調停をまとめられるかどうか判断することができないことになりかねず、解決までの日数が長くなってしまいがちです。労働審判官や労働審判員と直接話をしておらず、調停の場の雰囲気を直接感じ取っていない人物が調停に応じるかどうかを判断した場合、決裁権限がある人物が労働審判期日に出頭した場合と比較して、的確な判断ができないリスクが高くなります。調停をまとめるかどうか、どのような内容で調停をまとめるのかの決裁権限のある人物が労働審判期日に出頭することができない場合は、解決金の額等について出頭する担当者に裁量を与えておくとか、労働審判期日が開催されている時間は代理人弁護士からの電話に出られるようにしておき、電話で労働審判期日の報告を受けた上で、調停をまとめるかどうか、どのような内容で調停をまとめるのか等を代理人弁護士と電話で協議できるようにしておくなどの工夫をしておきたいところです。

複数の労働審判事件の同一期日における審理 Menu

 労働審判事件は一当事者一申立てが原則であり、1つの期日では1人の労働者についての労働審判事件が審理されるのが原則です。
 もっとも、事実関係が共通している労働審判事件については、同じ期日で当事者が異なる複数の労働審判事件が審理されることがあります。複数の労働審判事件を同一期日で審理した結果、審理に時間がかかり3回の期日で結論が出せずに24条終了するようでは本末転倒ですが、同一期日で複数の労働審判事件を審理しても審理に必要な時間がほとんど変わらず一挙解決の利益があるのであれば、便宜上、同一期日で複数の労働審判事件を審理することを認めても差し支えないと思います。

労働審判事件の終結

労働審判事件の終結事由 Menu

 労働審判手続の終結事由を多いものから順に並べると、次のとおりとなります。
 ① 調停成立
   70%強の労働審判事件が調停成立により終結しています。
 ② 労働審判
   14~16%程度の労働審判事件が労働審判により終結しています。
   労働審判に対して異議が申し立てられるのは60~70%程度、異議が申し立てられず労働審判がそのまま確定するのは30~40%程度です。
 ③ 労働審判の取下げ
   7~9%程度の労働審判事件が取下げにより終結しています。
 ④ 24条終了
   4~5%程度の労働審判事件が24条終了により終結しています。
 ⑤ 却下・移送等
   1%程度の労働審判事件が却下・移送等で終了しています。

① 調停成立 Menu

 労働審判手続では、調停の成立による解決の見込みがある場合はこれを試みることとされており(労働審判法1条)、70%強の労働審判事件が調停成立により終了しています。
 調停が成立するためには、申立人・相手方双方が調停内容について合意する必要があります。申立人・相手方の一方でも調停内容に同意しないと調停は成立しません。
 調停条項の内容としては、会社に解決金の支払義務があること、解決金を一定期限までに振り込んで支払うこと、労働者が調停条項に定めるもの以外の請求を放棄すること、調停条項に定めるもののほか債権債務関係がないこと(清算条項)、手続費用は各自の負担とすることなどが盛り込まれるのが通常です。調停内容や交渉の経緯等を公にしたくない場合は、調停内容等を正当な理由なく口外しないことを相互に約束する旨の口外禁止条項(守秘義務条項)を入れてもらうといいでしょう。解雇、雇止め、合意退職等が有効になされているかが争点となっている労働審判事件の場合は、解雇日等の一定の日に退職していることを確認しておくといいと思います。退職日が解雇等がなされた日であれば問題は起きにくいのですが、調停成立日を退職日とする場合は、解雇等の日から調停成立日までの間の社会保険料の負担関係についても考慮した上で調停条項を決める必要があります。会社都合か自己都合かが争いとなる可能性がある事案では、そのいずれかを調停条項に明記することもあります。
 調停が成立すると労働審判事件は終了し、「労働審判手続期日調書(調停成立)」が作成されます。調書の受取方法は、裁判所の管轄内に依頼した弁護士の法律事務所がある場合は裁判所書記官から調書ができた旨の電話連絡があった時点で裁判所に受け取りに行くのが一般的であり、そうでない場合は期日に裁判所書記官に口頭で申請して郵送してもらうのが一般的です。
 調書における調停の合意の記載は、裁判上の和解と同一の効力を有します。したがって、調書に記載された金銭支払の約束を期限までに行わなかったような場合は、会社の預金口座等に差押えがなされる可能性があります。

② 労働審判 Menu

 調停がまとまる見込みが低い場合、当事者双方が出頭している期日において口頭で労働審判の主文、理由の要旨を当事者双方に告知する方法により労働審判が行われるのが一般的です(欠席した当事者がいる場合は審判書が作成されて各当事者に送達されます。)。
 労働審判の主文は、当事者間の権利関係と手続の経過を踏まえたものである必要がありますが、労働審判委員会が柔軟に定めることができます。例えば、労働審判委員会が解雇無効の心証を抱いた場合であっても、労働者が金銭解決を望んでいる場合は、退職の確認と金銭の支払いを内容とする労働審判が言い渡されることがあります。実際の労働審判事件の労働審判の主文は、労働審判委員会が提示した調停案と似た内容になることが多いです。理由の要旨は、「審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえ、主文のとおり審判することが相当であると認める。」という定型文がほとんどです。
 労働審判に不服のある当事者は、労働審判期日において労働審判の告知を受けた日から2週間以内(欠席した当事者がいる場合などで労働審判期日における告知がなされなかった場合は、審判書の送達を受けてから2週間以内)に、裁判所に異議の申立てをすることができます。口頭で労働審判の告知を受けた場合は、「労働審判手続期日調書(労働審判)」を受領していなくても、口頭で労働審判の告知を受けた日から異議申立て期間が進行することに注意して下さい。例えば、9月5日の労働審判期日において労働審判を口頭で告知され、9月7日に「労働審判手続期日調書(労働審判)」を受領した場合、2週間の異議申立て期間満了日は9月19日であって、9月21日ではありません。
 適法な異議の申立てがあると、その時点で異議を申し立てた当事者に有利な部分を含め労働審判はその効力を失い、労働審判手続の申立ての時に事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。いったん申し立てた異議を取り下げることはできません。
 2週間以内に異議の申立てがなかった場合は、労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を有します。したがって、労働審判で命じられた金銭の支払を期限までに行わなかったような場合は、会社の預金口座等に差押えがなされる可能性があります。
 労働審判に対し異議を申し立てるかどうかの判断は、労働審判の内容の妥当性、訴訟移行後の時間・金銭・労力等の負担、他の労働者への波及効果等を考慮して冷静に判断する必要があります。判断が難しい場合は、労働問題の予防解決を中心業務としている会社経営者側弁護士に相談することをお勧めします。

③ 労働審判事件の申立ての取下げ Menu

 労働審判事件の申立ては、調停が成立するなどするまでの間、取り下げられる可能性があります。労働審判事件の申立ての取下げがなされると、期日で取り下げられた場合や労働審判手続申立書の写しが相手方に送付される前に取り下げられた場合等を除き、相手方(会社側)に通知されます。労働審判事件の申立ての取下げは、期日外の話し合いで和解が成立して労働審判手続で審理してもらう必要がなくなったことからなされるのが通常です。
 労働審判事件の申立ての取下げの大きな特徴として、相手方(会社側)が申立人の主張に対し答弁した後であっても、相手方(会社側)の同意が不要な点が挙げられます。このため、労働審判手続における審理の結果、自己に不利な判断がなされる可能性が高いと考えた労働者が、自己に不利な労働審判を回避する目的で労働審判事件の申立てを取り下げることがあります。

④ 24条終了 Menu

 労働審判手続は、個別労働関係民事紛争を迅速かつ適正に解決するため、原則として3回以内の期日において審理を終結し、調停・労働審判で解決する手続です。しかし、事案の性質上3回以内の期日で審理を終えることが困難な事件や労働審判や調停による解決に適さない事件の労働審判が申し立てられることがあるため、労働審判法24条1項は「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」と定め、労働審判を出さずに労働審判手続を終了させることができるものとしました(24条終了)。24条終了により労働審判事件が終了した場合は、労働審判事件が終了した際に係属していた地方裁判所に訴え提起があったものとみなされます。
 「事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるとき」とは、事案の性質上3回以内の期日で審理を終えることが困難な事件、労働審判や調停による解決に適さない事件等のことをいうと考えられます。もっとも、事案の性質上3回以内の期日で審理を終えることが困難な事件等であっても、当事者双方が調停で解決する意思がある場合等は、調停で解決する可能性がありますので、直ちに24条終了させるのではなく、できるだけの審理を行った上で調停を試みるべきでしょう。

⑤ 却下・移送等 Menu

 労働審判手続の申立てが不適法な場合、その申立ては却下されます。具体例としては、紛争が個別労働関係民事紛争に当たらない場合などが考えられます。労働審判手続の申立てが不適法な場合であっても、補正が可能なときは、裁判所は直ちにその申立てを却下せず、申立人に対して相当期間を定め補正を命じた上で、それでも申立人が補正に応じない場合に申立てを却下します。申立書に不備がある場合や申立手数料の納付がない場合、相当期間を定めて補正や納付を命じても申立人が応じない場合には、申立てが却下されます。労働審判手続の申立書を却下する命令に対しては、即時抗告(不服の申立て)をすることができます。即時抗告期間は1週間です。
 労働審判事件の移送には、
 ① 管轄違いを理由とする移送
 ② 裁量移送
の2種類があります。①管轄ではない裁判所に労働審判手続の申立てがされたとしても、裁判所は、その申立てを却下することができません。任意の取下げを促すか、その申立てを管轄裁判所に移送することになります(管轄違いを理由とする移送)。また、②裁判所は、管轄の裁判所に労働審判手続が申し立てられ受理された場合でも、当事者に便宜であるなど事件を処理するために適当なときは、他の裁判所に事件を裁量で移送することができます(裁量移送)。「事件を処理するために適当と認められるとき」とは、事件の関係人の住所等の関係から、事件処理のために多くの時間と費用を要する場合などが考えられます。
 労働審判事件の管轄は、以下のとおりです。
 ① 相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所
 ② 紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて、当該労働者が現に就業し、もしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
 ③ 当事者が合意で定める地方裁判所
 義務履行地を管轄する裁判所というだけでは、労働審判事件の管轄があることにはなりません。原則的な管轄がない地方裁判所が申立人(代理人)、相手方(代理人)双方にとって便宜な場合は、労働審判手続申立前に③書面で管轄を合意することにより対応するとよいでしょう。
 労働審判手続は、「地方裁判所」の「本庁」でのみ認められるのが原則です。地裁支部で労働審判手続が行われているのは、現在、東京地方裁判所立川支部、福岡地方裁判所小倉支部、長野地方裁判所松本支部、静岡地方裁判所浜松支部、広島地方裁判所福山支部の5支部のみです。
 なお、労働審判事件の申立てをした裁判所が遠方にあるような場合であっても、テレビ会議を利用して近くの裁判所に出頭して期日における手続を行える場合もあります。2020年からは労働審判手続にウェブ会議が導入されました。地方裁判所本庁への出頭が困難な事情がある場合等の活用が期待されます。

訴訟への移行 Menu

 労働審判事件が訴訟に移行するのは次の①②③の場合ですが、基本的には①②の場合に訴訟に移行することを理解しておけば十分です。
 ① 労働審判に対して異議が申し立てられた場合
 ② 24条終了の場合
 ③ 労働審判が取り消された場合
 ①労働審判に対して当事者のいずれかから適法な異議の申立てがなされると労働審判は失効し、当該労働審判事件を行っていた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。②24条終了した場合も、訴えの提起があったものとみなされます。③労働審判の審判書を送達する場合に、民事訴訟では公示送達によることとなるようなときには、裁判所は、決定により労働審判を取り消さなければならず、労働審判を取り消す決定が確定した場合、訴えの提起があったものとみなされます。
 労働審判事件が訴訟に移行すると、地方裁判所に労働審判事件記録が引き継がれます。裁判長は訴状とみなされた労働審判手続の申立書、申立ての趣旨又は理由の変更申立書等について訴状審査を行い、不備があれば補正を命じ、原告が補正に応じない場合には、これらの書面を却下します。また、原告は、訴え提起の手数料を裁判所に納付する必要があります。この場合の手数料は、訴え提起の手数料の額から労働審判事件の申立て時に納付した手数料を控除した額になります。原告が訴え提起の手数料を支払わなかった場合には、訴状とみなされた労働審判事件の申立書等は却下されます。訴状とみなされた労働審判手続の申立書等以外の答弁書等の主張書面、証拠の写し等は訴訟に引き継がれず、これらを訴訟における資料とするためには、改めてこれらの資料を陳述、提出する必要があります。
 東京地方裁判所などでは、原告が労働審判手続の経過を踏まえた「訴状に代わる準備書面」を提出し、被告がこれに対する答弁書を提出することから訴訟の審理が開始します。申立書そのものを訴状とみなして被告がこれに対する答弁書を提出するよりも、原告が労働審判手続の経過を踏まえた「訴状に代わる準備書面」を提出して被告がこれに対する答弁書を提出する扱いにした方が、労働審判手続の経過を訴訟に反映させることができ、合理的だからだと考えられます。
 労働審判事件が訴訟に移行し、原告が労働審判手続の経過を踏まえた「訴状に代わる準備書面」を提出した場合、労働審判手続の中で行われた争点整理や主張立証活動が訴訟に反映されるため、移行後の訴訟で判決まで至る期間は初めから訴訟提起した場合と比べて短くなることが多く、労働審判を経て訴訟に移行し判決に至った場合と、最初から訴訟が提起されて判決に至った場合とで、判決までの期間に大きな違いはありません。ただし、労働審判手続において調停が成立せず、労働審判に対しても異議が申し立てられるような事案の性質上、和解成立率は低めのようです。

調停条項

典型的な調停条項例 Menu

 労働審判手続において解雇の効力が争われ、地位確認請求、解雇後の毎月の賃金の請求、残業代請求等がなされた事案における典型的な調停条項例は、次のようなものです。

1 相手方は、申立人に対し、相手方が令和○年○月○○日付けで申立人に対してした解雇の意思表示を撤回し、申立人と相手方は、申立人が相手方を同日付けで(○○都合により)合意退職したことを相互に確認する。
2 相手方は、申立人に対し、本件解決金として○○○万円の支払義務があることを認める。
3 相手方は、申立人に対し、前項の金員を令和○年○月○○日限り、○○銀行○○支店の「弁護士○○○○」名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は相手方の負担とする。
4 申立人と相手方は、本件紛争の経緯及び本調停条項の内容を、正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に約束する。
5 申立人は、本件申立てに係るその余の請求を放棄する。
6 申立人及び相手方は、申立人と相手方との間には、本調停条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
7 手続費用は、各自の負担とする。

解決金額 Menu

 調停条項には、「相手方は、申立人に対し、本件解決金として○○○万円の支払義務があることを認め、これを、令和○年○○月○○日限り、○○銀行○○支店の『弁護士○○○○』名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○〇)に振り込んで支払う。」といった解決金の支払に関する条項が入れられるのが通常です。
 解決金額は、当事者の権利義務関係を踏まえて決定されるべきものであり、自己の主張を譲らなければ自己に有利な金額になるというものではありませんが、事案の解決のため必要な調整がなされた上で決定されます。
 会社側に資力がないことから、分割払いでの支払を要求した場合、一括で解決金を支払う場合と比較して、解決金の額が高くなる傾向にあります。もっとも、会社が近日中にも倒産しそうな場合であれば、解決金を早期に確実に回収したいと考えた労働者側が低めの金額の解決金とすることに同意することもあります。
 残業代等とともに付加金の請求を受けている場合であっても、解決金額の決定にあたっては、付加金額を考慮する必要はありません。なぜなら、付加金は、未払残業代等があるというだけで支払義務が発生することはなく、付加金の支払を命じる判決が確定して初めて支払義務が発生するものだからです。労働審判で調停が試みられている時点で、付加金の支払を命じる確定判決が存在することはまずありません。付加金の支払を命じる確定判決が未だ存在しないのであれば、付加金の支払義務はないわけですから、解決金の金額を決めるに当たって付加金を持ち出すのは、権利義務関係を踏まえない議論と言わざるを得ず、労働審判手続に相応しくありません。解決金額を決定するに当たって、あたかも移行後の訴訟で判決に至った場合に付加金の支払を命じられる可能性があることが解決金の額に影響するかのようなことを話す労働審判官、労働審判員、弁護士もいますが、法的根拠はありませんので、惑わされないようにして下さい。なお、調停が不成立に終わった場合の労働審判で付加金の支払を命じることはできません。訴訟に移行した時点で未払残業代等が存在したとしても、事実審の口頭弁論終結時までに未払残業代等を全額支払ってその旨主張立証すれば、判決で付加金の支払を命じられることもありません。
 労働者側の主張が認められず、全面的に請求棄却となる見込みの場合であっても、一定額の解決金を支払う内容の調停を成立させて労働審判事件を解決することがあります。調停が成立せず、請求を全面的に棄却する内容の労働審判がなされた場合、労働審判に対し労働者から異議が出される可能性が高く、労働審判に対し異議が出されて訴訟に移行すれば、さらに時間的、金銭的、労力的コストがかかります。低めの解決金額で調停をまとめた方が、労働者の請求を全面的に棄却する労働審判を勝ち取るよりもコストが低くなることが多いというのが私の実感です。

解決金と源泉所得税 Menu

 「解決金」名目で金銭を支払ったからといって、直ちに源泉所得税の納付義務が免除されるわけではありません。毎月の給料から源泉所得税を控除して納付しなければならないのと同様、解決金が賃金としての性質を有している場合は、源泉所得税を納付する義務を負います。
 労働審判手続で慰謝料請求のみなされているような場合であれば、解決金全額が慰謝料としての性質を有すると考えられます。残業代の請求のみがなされている場合は、解決金全額が賃金としての性質を有していると考えられます。解雇無効を理由とした地位確認、通常の賃金の請求、残業代請求、ハラスメントを理由とした慰謝料請求が合わせてなされている労働審判事件の解決金の性質は一様ではなく、様々な趣旨が混在していると考えられます。
 課税リスクを考えると、会社としては、解決金から源泉所得税相当額を控除して支払いたいところですが、労働者側に現実に支払われる金額(入金額)であることを前提として解決金の額が定められることは珍しくありませんので、調停条項に源泉徴収に関する定めがないのに労働者側の同意を得ずに源泉徴収することはお勧めできません。労働者側の同意を得ずに一定額を控除して解決金を支払った場合、不足額について差押えを受ける等のリスクが発生します。
 「解決金○○万円から源泉所得税相当額を控除して支払う。」と調停条項に定めた場合、会社側が支払うべき金額が調停条項上明らかでありませんので執行力がないものと考えられます。労働者側がこのような調停条項で調停に応じてくれればいいのですが、難しいケースが多いように思います。
 「解決金○○万円から源泉所得税〇万○○○○円を控除した金額○○万○○○○円を支払う。」と調停条項に定めれば支払うべき金額は明確ですので執行力は失われないと考えられます。しかし、源泉所得税の計算を間違えることになるかもしれず、労働審判委員会がこのような条項を入れることに難色を示すかもしれません。少なくとも、解決金全額をそのまま振り込むことにした場合と比較して、調停がまとまりにくくなることは間違いありません。こういった問題をクリアできるのであれば、「解決金○○万円から源泉所得税〇万○○○○円を控除した金額○○万○○○○円を支払う。」という条項を入れた方がいいと思いますが、源泉所得税に関する記載が原因で調停がまとまらないようでは本末転倒です。
 私がお勧めする対応は、源泉所得税の課税リスクを会社が負うことを前提として解決金の額を決め、解決金から源泉所得税を控除せずに満額振り込んで支払うやり方です。振り込むべき金額を明示することで調停がまとまりやすくなりますし、源泉所得税の課税リスクについては解決金額の調整で対応することができます。
 まずは、「解決金」名目の支払だからといって、賃金としての性質を有するものであれば、源泉所得税の支払義務を免れられるものではないことを理解することが重要です。それを理解した上で選択した対応であれば、会社の利害得失を考慮した上での決断になりますから、どのような結果になっても予想外の負担ではなくなります。

解雇の効力が争われた場合の退職日 Menu

 労働審判手続で解雇の効力が争われた場合、退職日をいつにするかが問題となることがあります。
 解雇が有効であるとの判断がなされたことなどから、解雇日を退職日とした場合は、処理が簡単です。なぜなら、社会保険からの脱退手続も解雇日の退職を前提としてなされているのが通常ですので、新たな手続は必要ありませんし、退職後の期間に対応する賃金が発生していないことは明らかですので、解雇期間中の源泉所得税が未払となっていないかを考える必要がないからです。
 他方、解雇が無効であるとの判断がなされ、労働者が社会保険加入期間をできるだけ長くしたいと考えたことなどから、退職日が解雇日の後日である調停成立日等となったような場合は、処理が複雑になりがちです。まず、解雇日に遡って社会保険資格を回復させる手続をしなければなりません。また、解雇日から調停成立日(退職日)までの社会保険料を誰がどのように負担するのかを決める必要も出てきます。原則的には、会社負担分を会社が負担し、労働者負担分を労働者が負担する旨、調停条項に記載することになりますが、概算の労働者負担分の社会保険料相当額を差し引いた金額を解決金額とすることと引き換えに、会社が責任を持って社会保険料を納付する旨定めることもあります。解決金のうち、解雇日から調停成立日(退職日)までの賃金額に相当する金額に対する源泉所得税の納付義務が問題となるかもしれません。労働者としても、受給済みの失業手当がある場合は、解雇日から調停成立日(退職日)までの金額を返金しなければなりません。
 退職日を解雇日よりも後日の調停成立日等とすると、以上のような複雑な処理が必要となります。解雇の効力が争われた場合の退職日は、可能な限り解雇日とすることが望ましいところです。

退職理由 Menu

 解雇や雇止めに関する労働審判事件では、退職理由が問題となることがあります。退職理由は退職金額算定のため問題となることもありますが、労働審判事件で問題となるのはたいていは失業手当受給条件との関係においてです。
 退職理由が調停条項を決める上で争点にならなかった場合は、一定の日に退職したことを確認すれば足り、退職理由を調停条項に記載しないのが通常です。他方、有利な条件で失業手当を受給したい労働者から「会社都合」である旨、調停条項に明記するよう要求された場合は、これに応じるかどうかを判断しなければなりません。
 「会社都合」と調停条項に明記するよう要求された場合に最初に会社側が検討すべきことは、いわゆる「会社都合」退職では受給要件を満たさない助成金を受給していたり、受給する予定があったりしないかです。このような助成金を受給している場合は判断が難しくなりますが、そうでない場合は「会社都合」での退職である旨、調停条項に明記しても差し支えないケースが多いところです。
 解決金等について合意できているものの、退職理由についてのみ合意できる見込みがない場合は、調停条項に退職理由を明記せず、ハローワークの判断に委ねるという対応をすることもあります。

利害関係人の参加と解決金の連帯支払 Menu

 会社代表者等の関係者が利害関係人として労働審判手続に参加し、調停の当事者になることがあります。例えば、労働者側の要求に応じて、ハラスメントの加害者とされた人物が利害関係人として労働審判手続に参加し、調停条項において会社と連帯して解決金を支払う旨定める場合などがこれにあたります。
 労働審判手続段階で一挙解決する利益がある場合は、労働者側の要求に応じて利害関係人として参加し、調停をまとめることも検討すべきでしょう。

口外禁止条項(守秘義務条項) Menu

 紛争の経緯や調停の内容等を労働者側に公表して欲しくない場合は、調停条項に口外禁止条項(守秘義務条項)を入れるのが一般的です。口外禁止条項(守秘義務条項)には、例えば、次のようなものがあります。
 「申立人と相手方は、本件紛争の経緯及び本調停の内容について、正当な理由のない限り、第三者に口外しないことを約束する。」
 「申立人と相手方は、本紛争の経緯及び本調停の内容について、みだりに第三者に口外しないことを相互に約束する。」
 「申立人及び相手方は、本調停条項の内容について、第三者に口外しないことを約束する。」
 「申立人及び相手方は、本件紛争の内容、本件調停の成立及びその内容について、第三者に口外しないことを約束する。」
 「申立人と相手方は、正当な理由のない限り、本調停が成立したことを除き、本調停条項の内容を第三者に対して口外しないことを相互に確認する。」
 口外禁止条項(守秘義務条項)を入れた場合であっても、労働者がこっそり知人に調停条項等の内容を話すことを完全に防止することはできないかもしれませんが、ある程度の抑止力にはなりますし、少なくともインターネット等で堂々と調停内容等を公表することを防止することはできます。調停条項には口外禁止条項(守秘義務条項)を入れることをお勧めします。


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