問題社員4 注意するとパワハラだなどと言って、上司の指導を聞こうとしない。

1 パワハラとは

 職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる
  ① 優越的な関係を背景とした言動であって
  ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  ③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません(厚生労働省リーフレット参照)。

2 パワハラの行為類型

 パワハラの行為類型には、次のようなものがあります。
 ① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
 ② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
 ③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
 ④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
 ⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

3 パワハラを巡る紛争の実態

 パワハラを不満に思い、公的機関などに相談している労働者の数は多いが、パワハラを理由とした損害賠償請求がメインの訴訟、労働審判はあまり多くなく、解雇無効を理由とした地位確認請求、残業代請求等に付随して、損害賠償請求がなされることが多いです。解雇無効を理由とした地位確認請求、残業代請求等に付随して、パワハラを理由とする損害賠償請求がなされた場合は、業務指導に必要のない不合理な言動をしているような場合でない限り請求棄却になりやすく、仮に不法行為責任等が認められたとしても慰謝料の金額は低額になりやすい傾向にあります。

4 適法性と適切性

 パワハラが問題とされる言動には、
 ① 違法な言動
 ② 適法だが不適切な言動
 ③ 適切な言動
の3段階があります。
 ②適法だが不適切な言動は数多く見られますが、①違法な言動とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。「パワハラかどうか?」という問題設定がなされることが多いですが、程度の問題として考えた方が実態を正確にイメージすることができます。不適切な言動であっても違法と評価されるとは限りませんが、違法と評価されなかったからといって直ちに適切な言動というわけではありません。

5 違法性の判断基準

 違法なパワハラに該当するかは、行為のなされた状況、行為者の意図・目的、行為の態様、侵害された権利・利益の内容、程度、行為者の職務上の地位、権限、両者のそれまでの関係、反復・継続性の有無、程度等の要素を総合考慮し、社会通念上、許容される範囲を超えているかどうかにより、不法行為法上違法と評価されるかどうかを検討するのが通常です。
 単純化して説明すると、
 ① 業務遂行上必要な言動か(目的)
 ② 社会通念上、許容される範囲を超える言動か(程度)
を検討することになります。
 ①指導教育目的等の業務遂行上必要な言動であれば、やり過ぎない限り、②社会通念上、許容される範囲を超えていないと評価されることになります。他方、①業務上必要のない言動の場合は、②社会通念上、許容される範囲を超えると評価されやすくなります。
 セクハラの対象となる性的言動は業務を遂行する上で不要なものであるのに対し、パワハラの対象となる指導教育、業務命令等は業務を遂行する上で必要なものであるため、業務を遂行する上で必要のない性的言動と比較して、違法とまでは評価されにくい傾向にありますが、業務遂行上必要のない言動については、違法と評価されやすくなります。

6 業務指導の重要性

 近年では、上司の言動が気にくわないと、何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えています。そのような社員は、勤務態度等に問題があることが多く、むしろ、注意、指導、教育の必要性が高いことが多い印象です。部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。上司の部下に対する注意、指導、教育は必要不可欠なものであり、上司に部下の人材育成を放棄されても困ります。パワハラにならないよう神経質になるあまり、上司が部下に対して何も指導できないようなことがあっては本末転倒です。
 「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」(厚生労働省リーフレット参照)。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』でも、
 「個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントには当たらないものとなる。」
 「なお、取組を始めるにあたって留意すべきことは、職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、上司としての役割を遂行することが求められる。」
とされています。

7 コミュニケーションの重要性

 パワハラ紛争の原因には様々なものがありますが、コミュニケーション不足又はコミュニケーションの取り方が下手なことが主な原因となっているものが多い印象です。コミュニケーションが不足していたり、コミュニケーションの取り方が下手だったりすると、パワハラだと受け取られやすくなります。コミュニケーション能力を向上させるとともに、十分なコミュニケーションを取ることができるよう努力して下さい。
 コミュニケーション能力が不足しているためにパワハラだと言われてしまう場合は、懲戒処分を行うよりも、研修、降職、配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。

8 無断録音

 パワハラの状況は、部下により無断録音されて、証拠として提出されることが多いです。訴訟では、無断録音したものが証拠として認められてしまうのが通常です。
 部下が上司をわざと挑発して、不相当な発言を引き出そうとすることもあります。無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつけて下さい。

9 違法なパワハラと評価されないための心構え

 自分の言動が録音されていて、社長、上司、裁判官等に聞かれても問題ないような言動を心がければ、通常は違法なパワハラと判断されるようなことはしないのが通常です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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