問題社員55 育児、介護を理由に転勤を拒否する。
1 配転命令権
会社は社員に対して、労働契約に基づく人事権の一内容として配転命令権を有しています。ただし、職場・職種を限定した労働契約を締結している場合には、配転命令権は有していないことになります。
2 人事権の濫用
会社が配転命令をする際、
① 業務上の必要性が無い場合
② 業務上の必要性がある場合であっても、当該配転命令が不当な動機・目的によるものである場合
③ 社員の被る不利益が通常甘受すべき程度を著しく超える場合
等、 特段の事情のある場合には、当該配転命令は、権利の濫用により無効になります。
3 育児・介護を理由に転勤を拒否する社員への対応
(1) 当該社員に「配慮」する必要があること(育児介護休業法26条)
育児介護休業法26条は、「事業主は、…その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と定めています。
「配慮」とは、必ずしも配置の変更をしないことや、労働者の養育等の負担を軽減するための積極的な措置を講ずることを事業者に求めるものではないとされていますが、当該労働者が配置転換を拒む態度を示しているにもかかわらず、真摯に対応せず、配転命令を所与のものとして労働者に押し付ける態度を一貫してとっているような場合には、育児介護休業法26条の趣旨に反し、権利濫用により無効と判断される可能性があります。
(2) 配慮の具体例
配慮する内容の例としては、
① その労働者の子の養育等の状況を把握すること
② 労働者本人の意向を斟酌すること
③ 就業場所の変更を行う場合は、子の養育等の代替手段有無の確認(例えば、配置変更先における近隣の保育所調査を行う等)を行うこと
等(平成16年3月18日厚労告460号参照)が挙げられています。
当該労働者に納得してもらった上で、配転命令をすることが望ましいので、事前に面談を複数回行う等、丁寧に対応することが必要となります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)