問題社員9 就業時間外に社外で飲酒運転、痴漢、傷害事件等の刑事事件を起こして逮捕された。

1 事実調査

 まずはできるだけ情報を集めて下さい。逮捕勾留されておらず出社できるのであれば、本人からも事情を聴取し、記録に残しておいて下さい。
 逮捕勾留されたことにより社員本人と連絡が取れなくなり、無断欠勤が続くことがありますが、まずは家族等を通じて連絡を取る努力をして下さい。家族等から欠勤の連絡等が入ることがありますが、懲戒解雇等の処分を恐れて犯罪行為により逮捕勾留されていることまでは報告を受けられない場合もあります。
 年休取得の申請があった場合は、年休扱いにするのが原則です。年休取得を認めずに欠勤扱いとした場合、欠勤を理由とした解雇等の処分が無効となるリスクが生じます。年休を使い切らせてから対応を検討した方がリスクは小さくなります。

2 起訴休職制度

 刑事事件を起こした社員が起訴された場合、起訴休職制度のある会社では起訴休職を検討します。社員が起訴された事実のみで形式的に起訴休職の規定の適用が認められるとは限らず、休職命令が無効と判断されることもあります。休職命令を出す際は、その必要性、相当性について検討するようにして下さい。
 起訴休職制度を設けると有罪判決が確定するまで解雇することができないと解釈されるおそれがありますので、起訴休職制度は設けずに個別に対応するという選択肢もあり得るところです。

3 懲戒処分

 会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、私生活上の行為を理由として懲戒処分に処することができます。日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は、「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならないと判示しています。
 もっとも、就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒処分に処することができるわけではなく、
 ① 社員の言動が懲戒事由に該当すること
 ② 当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること(労契法15条)
等が必要となります。
 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく、その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは、懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分の理由としては不十分であり、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができるような事実を証拠により認定できる必要があります。
 日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は、「就業時間外に社外で行われた刑事事件が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたこと」を理由とする懲戒解雇・諭旨解雇の可否の判断にあたり、「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。
 タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合や、電鉄会社社員等、痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合は、懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分であっても有効とされやすい傾向にあります。
 就業規則等で弁明の機会付与が義務付けられていない場合は、被懲戒者に弁明の機会を与えずに懲戒処分に処することができないわけではありませんが、できるだけ弁明の機会を与えることが望ましいところです。弁明の機会を与えているかどうかは、懲戒処分が社会通念上相当であると認められるか、懲戒権を濫用したものとして無効とならないかを判断する際に考慮されることになります。弁明の機会を与えることにより処分の基礎となる事実認定に影響を及ぼし処分の内容に影響を及ぼす可能性がある場合には、弁明の機会を与える必要性が高いものと思われます。
  就業規則等で弁明の機会付与が義務付けられている場合は、懲戒処分に先立ち被懲戒者に弁明の機会を付与する必要があります。弁明の機会を与えずに懲戒処分に処した場合は、弁明の機会を与えても事実認定や処分内容に影響がないといった事情がない限り、懲戒処分が無効とされる可能性が高いものと思われます。
 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については、より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。結果として、社員が自主退職することもあります。
 最初に刑事事件を起こした際に、懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は、書面で、次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか、次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが、同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。

4 退職金の不支給・減額・返還請求

 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば、懲戒解雇事由がある場合で、当該個別事案において、退職金不支給・減額の合理性がある場合には、退職金を不支給または減額したり、支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は、労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。懲戒解雇が有効な場合であっても、労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がない場合は、本来の退職金の支給額の一部の支払が命じられることがあります。例えば、小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は、鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内の痴漢行為を理由とする懲戒解雇は有効と判断されましたが、それまでの勤続の労を抹消するほどの強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして、本来の退職金の支給額の30%の支払を命じています。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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