労働問題120 契約期間中のパート社員への退職勧奨——「やむを得ない理由」は不要か、会社側の実務と注意点【会社側弁護士が解説】
有期雇用のパート社員に対して、契約期間の途中で退職を求めたい場面は少なくありません。しかし、「期間内解雇には『やむを得ない事由』が必要」という認識から、退職勧奨そのものをためらう経営者も多くいます。この認識は半分正しく、半分は誤りです。退職勧奨は解雇ではなく、双方の合意による契約終了を目指す行為であるため、法律上の「やむを得ない理由」は必要ありません。
もっとも、有期雇用社員には「契約期間中は雇用が継続される」という強い期待があり、その期待を裏切る形で退職を打診する以上、通常の退職勧奨よりも慎重なプロセスが求められます。本稿では、契約期間中のパート社員への退職勧奨における法的根拠・実務上の注意点・拒否された場合の対応について、会社側弁護士の立場から解説します。
01退職勧奨と期間内解雇の法的な違い
有期雇用社員を期間途中で「解雇」する場合、労働契約法第17条第1項は「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定しています。この「やむを得ない事由」の要件は、正社員の解雇に必要な「客観的合理的理由・社会通念上の相当性」よりも厳格であり、実務上、期間内解雇が有効と認められるケースは極めて限られます。
これに対し、退職勧奨は会社が一方的に契約を終了させる「解雇」ではなく、社員の任意の同意を得て合意退職を成立させることを目的とする行為です。退職勧奨はあくまで提案・交渉であり、その結果として合意が成立して初めて契約が終了します。したがって、退職勧奨それ自体については「やむを得ない事由」は法的要件とされておらず、契約期間中であっても実施することができます。使用者側弁護士として付言すれば、この法的性質の違いを正確に理解し、退職勧奨と解雇を混同しないことが実務対応の出発点となります。
02有期雇用社員への退職勧奨が難しい理由——強い雇用期待
有期雇用社員が契約期間中の退職勧奨に強く反発するのは、「契約期間中は最低限雇用が保障される」という合理的な期待を持っているからです。正社員と異なり、有期雇用社員は契約期間の満了をもって雇用関係が終了することを前提に雇用されていますが、その期間中は雇用が継続されるという点で心理的・法的な保護を受けています。
この強い期待に反して退職を迫る場合、たとえ任意の交渉という体裁であっても、社員が「断れない状況に追い込まれた」と感じれば、退職強要として慰謝料請求の対象となるリスクがあります。特に、短期間に複数回面談を実施したり、「辞めなければ職場に居づらくなる」と示唆したりする行為は、違法な退職強要と判断される可能性が高くなります。会社側弁護士としては、任意性の確保と面談回数・態様の管理が不可欠であることを強調しておきます。
03解決金の提示——円満合意を引き出す実務の鍵
法的要件がないとはいえ、有期雇用社員が自発的に退職を承諾するためには、経済的な動機を提供することが実務上の有効な手段です。最も一般的な手法は、残りの契約期間に相当する賃金の一部を「解決金」として上乗せ支払う条件を提示することです。例えば、残り3か月の契約期間がある場合に、その期間の賃金相当額の一部を一括払いとする条件を示せば、社員が自主的に退職を選択する可能性が高まります。
解決金の額は、会社の資力・社員の勤続年数・残契約期間・退職事由の性質(能力不足・職場不適合等)を総合的に考慮して設定します。過度に低額な提示は社員の不信感を招き、かえって紛争化のリスクを高めます。条件の具体的な設計については、四谷麹町法律事務所のような使用者側専門の弁護士に相談したうえで進めることをお勧めします。
04退職勧奨を拒否された場合——雇止めの検討と法的リスク
退職勧奨に応じる義務は社員にはありません。拒否された場合、会社が取りうる現実的な選択肢は、①契約期間満了まで雇用を継続し、次回契約更新を行わない(雇止め)か、②期間内解雇の要件(労契法17条の「やむを得ない事由」)を充足できるかを検討するかのいずれかです。
雇止めを選択する場合、労働契約法第19条の「雇止め法理」に注意が必要です。同条は、有期雇用契約が①実質的に期間の定めのない契約と同視できる場合、または②更新への合理的な期待が認められる場合に、合理的理由・相当性のない雇止めを無効とします。したがって、繰り返し更新を重ねてきたパート社員を突然雇止めにすることは、雇止め法理によって無効とされるリスクがあります。雇止めを検討する際は、事前に会社側弁護士への相談が不可欠です。
05退職勧奨実施の手順と書面管理
有期雇用社員への退職勧奨を実施する場合の手順として、まず面談は会社側2名で行い、1回の面談時間は1時間程度を上限とします。面談の目的は「退職を依頼する提案である」ことを明示し、「断ることができる」旨も冒頭で伝えることが任意性を担保する観点から重要です。次に、退職を勧奨する経緯・理由(能力・適性の問題、経営上の理由等)を具体的に説明し、社員が状況を理解できるようにします。
退職に合意した場合は、退職合意書を必ず書面で作成し、社員の署名・捺印を取得します。合意書には、退職日・解決金の額・清算条項(以後の民事上の請求を行わない旨)を記載することが標準的です。書面なしの口頭合意のみでは、後日「強要された」「同意していない」と主張されるリスクが残ります。労働問題に強い使用者側弁護士・会社側弁護士が作成した合意書のひな形を利用することで、後日のトラブルを大幅に低減できます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。有期雇用パート社員への退職勧奨・雇止めでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
FAQよくある質問
Q1. 有期雇用のパート社員に退職勧奨するには「やむを得ない理由」が必要ですか?
不要です。退職勧奨は合意退職を目指す提案であり、「やむを得ない事由」が必要とされる期間内解雇(労契法17条)とは法的性質が異なります。ただし、退職勧奨を行う際には社員の任意の意思決定を尊重する必要があり、強要的な態様は退職強要として違法になります。
Q2. 退職勧奨を拒否されたら、すぐに解雇できますか?
できません。有期雇用社員の期間内解雇には「やむを得ない事由」(労契法17条)が必要であり、正社員より厳格な要件です。拒否された場合は、契約期間満了まで雇用を継続するか、雇止め(次回更新拒絶)を検討することになりますが、雇止めにも雇止め法理(労契法19条)が適用される可能性があります。
Q3. 解決金の相場はどのくらいですか?
明確な相場はありませんが、残りの契約期間に対応する賃金の一定割合(例:残3か月分の50〜100%相当)を目安にするケースが多いです。具体的な金額は、勤続年数・退職理由・交渉の経緯によって異なります。設定にあたっては、使用者側弁護士への相談をお勧めします。
Q4. 退職合意後に「強要された」と言われた場合はどう対処すればよいですか?
退職合意書への署名・捺印が存在し、面談の記録が保管されていれば、強要の主張を否定する有力な証拠となります。書面管理・記録化を徹底することが後日の紛争リスクを低減する最善策です。退職勧奨の実施前から会社側弁護士が関与することで、証拠保全の観点でも有効な対応が可能になります。
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最終更新日:2026年5月10日