労働問題103 有期労働契約で途中退職は防げますか。
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有期労働契約でも途中退職を一律に防止することはできない 民法628条により「やむを得ない事由」がある場合は即時退職が可能です。「有期契約だから途中退職できない」という理解は法的に不正確です |
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民法628条:「やむを得ない事由」がなければ途中退職は原則不可——ただし事由の認定は広め 長時間労働・賃金不払い・ハラスメント等の重大な事情がある場合は即時退職が認められます。会社側の過失が原因の場合は逆に会社が損害賠償責任を負う可能性もあります |
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労基法137条:1年超の有期契約は1年経過後にいつでも退職可能 3年契約でも1年が経過すれば、やむを得ない事由がなくても退職申出が可能になります(高度専門職・60歳以上を除く)。この点を前提に人員計画を立てる必要があります |
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損害賠償請求は理論上可能だが立証が困難——実務上は限定的 損害額・因果関係の立証が難しく実際に認められるケースは少ないです。有期契約の途中退職リスクには、契約設計の段階からの対策が重要です |
目次
01有期労働契約と無期契約の終了ルールの違い
無期契約の場合、民法627条により、社員は原則としていつでも解約の申入れができ、2週間の経過によって退職の効力が生じます。これに対し、有期労働契約は「一定期間働くこと」を前提として締結されているため、原則として契約期間満了まで拘束されるのが建前です。
しかし、実際の法制度はそこまで単純ではありません。民法や労働基準法により、中途退職が認められる場合が明確に規定されています。有期契約だからといって一律に途中退職を防止できるわけではなく、まずは法的枠組みを正確に理解することが実務対応の出発点となります。
労働問題を専門とする弁護士のもとには、「有期契約なのに社員が途中で辞めてしまった」「有期契約の社員に引継ぎなく退職されて困っている」という相談が多く寄せられます。有期契約の途中退職リスクへの対応は、契約を締結する前の段階から検討しておくことが重要です。
02民法628条の原則——「やむを得ない事由」とは
やむを得ない事由がなければ途中退職は原則できない
有期労働契約の途中退職についての基本原則は民法628条に定められています。同条は、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と規定しています。裏を返せば、やむを得ない事由がなければ、契約期間満了前の一方的退職は原則として認められないという構造です。
なお、やむを得ない事由が当事者の一方の過失によって生じたものである場合は、相手方に対して損害賠償の責任を負います。会社側の過失(賃金不払い・ハラスメント等)が原因で社員が退職した場合は、会社が損害賠償責任を負う可能性もある点に注意が必要です。
「やむを得ない事由」の判断基準
「やむを得ない事由」とは、単に「他に良い就職先が見つかった」「仕事が合わない」といった事情では足りません。契約期間満了まで就労を継続することが社会通念上著しく困難といえる事情が必要とされます。
典型的に認められる事情としては、①長時間労働や賃金不払いなどの重大な契約違反、②職場での深刻なハラスメント、③健康上の重大な支障、などが挙げられます。一方で、単なるキャリアアップ目的や、より条件の良い会社への転職希望は、通常はやむを得ない事由には該当しません。
ただし、実務上は会社側の労働条件・職場環境に何らかの問題があるケースで退職が起きることが多く、「やむを得ない事由」の認定が会社側にとって不利な方向に働くことも少なくありません。有期契約社員の途中退職問題が生じた場合は、早急に会社側専門弁護士に相談し、対応方針を確認することをお勧めします。
よくある経営者の誤解
「有期契約なのだから、期間が終わるまで絶対に辞められない」
誤りです。やむを得ない事由がある場合は即時退職が可能です。また1年超の有期契約は1年経過後にいつでも退職できます。
「有期契約なのに途中退職したから、損害賠償請求できる」
理論上は可能ですが、実務上は困難です。損害額の具体的立証・因果関係の証明が難しく、実際に認められるケースは限られています。弁護士に相談してから判断してください。
03労基法137条——1年超の有期契約は1年後にいつでも退職可能
労基法137条の内容
労働基準法137条は、契約期間が1年を超える有期労働契約を締結した社員(一定の高度専門職・60歳以上を除く)は、民法628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、いつでも退職することができると定めています。
つまり、たとえ3年契約であっても、1年が経過すれば、民法628条の「やむを得ない事由」がなくても退職が可能になります。会社の承認は不要です。この点は会社経営者が特に意識しておくべき重要なルールです。1年超の有期契約を締結する場合には、1年経過後の途中退職を前提とした人員計画を立てることが重要です。
除外される社員(労基法14条1項各号)
労基法137条が適用されない社員として、①専門的な知識・技術・経験であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する社員(年収が1,075万円以上等)、②60歳以上の社員——が挙げられます。これらに該当する社員については労基法137条の適用がなく、民法628条の「やむを得ない事由」の枠組みで判断されます。
契約期間が1年以内:民法628条のみ(やむを得ない事由が必要)
契約期間が1年超・通常の社員:1年経過後はいつでも退職可(労基法137条)
契約期間が1年超・高度専門職(年収1,075万円以上等):民法628条のみ
契約期間が1年超・60歳以上:民法628条のみ
04途中退職への実務対応と契約設計
損害賠償請求の現実
有期契約社員が途中退職し会社に損害が生じた場合、理論上は損害賠償請求が可能です(民法628条但書)。しかし、損害額の立証・因果関係の証明が困難なことが多く、実際に認められるケースは限られています。また、やむを得ない事由が会社側の過失によって生じた場合は、逆に会社が損害賠償責任を負う可能性があります。損害賠償請求を検討する場合は、まず使用者側弁護士に相談し、見通しを確認してから進めてください。
会社経営者が取るべき5つの実務対応
有期契約社員の途中退職リスクに対応するために、以下の5点を実施してください。
①有期契約を締結する際は、契約期間・業務内容・終了条件を労働契約書に明確に定める。業務内容が具体的に特定されていれば、途中退職による損害の立証がしやすくなります。②1年を超える有期契約では労基法137条の適用を前提に人員計画を立てる。1年後の途中退職リスクを念頭に置いた補充計画が必要です。③途中退職された場合の引継ぎ手順をあらかじめ決めておく。労働契約書に引継ぎ義務を明記し、退職時の手続きを規定しておくことが有効です。④損害賠償請求を検討する場合は、損害の具体的内容と因果関係を記録しておく。感情的な対応ではなく、客観的な記録を積み重ねることが損害立証の基礎になります。⑤有期契約の設計段階・途中退職発生時の双方において、会社側専門弁護士に相談する。労働問題に詳しい弁護士に早期に相談することで、適切な対応方針を確認できます。
05まとめ
有期労働契約であっても途中退職を一律に防止することはできません。民法628条により「やむを得ない事由」がある場合は即時退職が可能であり、労基法137条により1年を超える有期契約では1年経過後はいつでも退職できます。
損害賠償請求は理論上可能ですが、損害額・因果関係の立証が困難で実際に認められるケースは少ないです。また会社側に過失がある場合は逆に会社が損害賠償責任を負うリスクもあります。
有期契約社員の途中退職リスクへの対応は、契約設計の段階からの準備が最も効果的です。有期労働契約の適切な設計・途中退職への対応について、会社側専門弁護士にご相談ください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。有期契約社員の途中退職・損害賠償・契約設計でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 有期契約社員が「やむを得ない事由がある」として途中退職してきた場合、会社はどう対応すればよいですか。
A. まず「やむを得ない事由」が実際に存在するか事実確認を行います。会社側の過失が原因であれば会社が損害賠償責任を負う可能性があります。事由が認められない場合は損害賠償請求の検討も可能ですが、損害の立証が困難なため早期に使用者側弁護士に相談することをお勧めします。
Q2. 1年を超える有期契約でも、1年経過後に必ず退職されてしまうのですか。
A. 労基法137条により、1年超の有期契約社員(高度専門職・60歳以上を除く)は、契約開始から1年経過後はいつでも退職申出が可能です。会社の承認なく退職できます。1年超の有期契約締結時は人員計画と引継ぎ手順を事前に整備しておくことが重要です。
Q3. 有期契約社員が途中退職した場合、損害賠償請求はできますか。
A. 理論上は民法628条但書により損害賠償請求が可能です。ただし損害額の具体的立証・退職との因果関係の証明が困難なことが多く、実際に認められるケースは限られています。請求を検討する場合は、損害の内容と発生経緯を記録した上で、早急に使用者側弁護士に相談してください。
Q4. 有期労働契約の途中退職リスクを下げるために、契約時にできることはありますか。
A. 契約書に業務内容・期間・終了条件を明確に定め、引継ぎ義務を明記することが重要です。また1年超の有期契約では労基法137条の適用を前提に人員補充計画を立てておくことをお勧めします。有期契約の適切な設計については、締結前に会社側専門弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日:2026年5月10日