労働問題121 退職勧奨を社員に担当させる際の注意点|適任者の選定と経営者が守るべきルール
本記事の結論
● 退職勧奨の担当者は、高い共感能力とコミュニケーション能力を持つ社員を選定すべきです。
● 紛争防止の観点から、直属の上司や対象者と不仲な社員を起用することは避けるのが無難です。
● 担当者には「なぜ勧奨が必要か」という経営上の理由を深く納得させる必要があります。
● 担当者自身のメンタルケアも経営者の責務です。納得感が欠けると担当者自身の離職を招くおそれがあります。
目次
1. 担当者の資質が紛争リスクを左右する
退職勧奨は、労働契約の終了という社員の人生に大きな影響を与える交渉であり、労使紛争の契機となることが多い極めてデリケートな業務です。同じような条件提示であっても、担当者の対応ひとつで、円満な合意に至ることもあれば、激しい紛争に発展することもあります。
適任とされるのは、相手の感情や立場を理解する能力に長け、冷静かつ粘り強く対話ができるコミュニケーション能力の高い社員です。こうした適性のある担当者が対応することで、無用な感情的対立を避け、建設的な話し合いが可能となります。
2. 避けるべき担当者の条件
実務上、以下の社員を退職勧奨の担当者に据えることは、トラブルを誘発する可能性が高いため推奨されません。
① 直属の上司
直属の上司は、日常的に部下とともに業務を遂行し、指導育成を行う立場にあります。昨日まで共に働いていた上司から退職を促されることは、部下にとっても、また上司にとっても極めて大きな精神的苦痛を伴います。心理的ハードルが高すぎるため、原則として避けるべきです。
② 対象者と人間関係が悪化している社員
もともと仲の悪い上司や同僚が退職勧奨を行うケースでは、対話が感情的な非難合戦に陥りやすく、パワハラの主張などを招く温床となります。客観的かつ冷静な立場を保てる第三者的なポジションの役職者が担当するのが適切です。
3. 適任者が不足している場合の対応
社内に適切な資質を持った人材が十分にいない場合、場当たり的な対応をさせることは危険です。マニュアルを作成し、遵守させることで最低限のクオリティを担保せざるを得ませんが、マニュアルだけでは想定外の感情的反応や法的な反論に十分対処できない可能性があります。
このような場合には、事前に弁護士によるシミュレーションや指導を受けさせるか、状況に応じて外部の専門家の助言をリアルタイムで得られる体制を整えることが不可欠です。
4. 担当社員へのストレス対策と経営上の合理性の共有
経営者が失念しがちなのが、「退職勧奨を行う側のストレス」です。人に辞めるよう促す業務は、誠実な社員ほど良心の呵責や疲弊を感じます。
担当社員に対して、以下の点を徹底してください。
- 必要性の徹底説明:「なぜこの社員に退職を勧奨しなければならないのか」という経営上の理由、組織を守るための必要性を担当者に十分に納得させてください。
- 孤独にさせない:担当者にすべてを丸投げせず、経営陣がバックアップしていることを示し、定期的な進捗報告とフィードバックの機会を設けてください。
担当者がその必要性に確信を持てないまま業務に当たると、精神的な限界を迎え、最悪の場合、優秀な担当社員までもが会社を去ってしまうという事態になりかねません。
5. まとめ
退職勧奨を社員に行わせる際は、単なる「事務作業」として捉えるのではなく、高度な人間関係の調整業務として位置づける必要があります。適性のある人材の選定、適切な役割分担、そして担当者への十分な説明とケアがあって初めて、円満な退職合意への道が開かれます。
会社経営者としては、紛争を未然に防ぎつつ、組織の活力を維持するために、担当者選定の段階から慎重かつ戦略的な判断を行ってください。⚖️
担当者選定に関するよくある質問
Q1. 適任者がいない場合、マニュアルだけで対応可能ですか?
A. マニュアルの遵守は最低条件ですが、それだけでは不十分です。退職勧奨は相手の感情に左右される繊細な交渉であるため、マニュアル外の事態への柔軟な対応力が必要です。適任者が不足している場合は、弁護士等の外部専門家の助言を受けながら進めることを強く推奨します。
Q2. なぜ直属の上司は担当者に不向きなのですか?
A. 直属の上司は、本来部下を育成し業務を遂行させる立場にあります。日常的な信頼関係がある中で退職を切り出すのは精神的な負荷が極めて高く、また人間関係が悪化している場合は感情的な対立から紛争に発展しやすいためです。
Q3. 担当社員が「やりたくない」と拒否した場合はどうすべきですか?
A. 業務命令としての性格はありますが、無理強いは禁物です。担当者自身が退職勧奨の必要性に納得していないと、面談で不適切な発言をしたり、担当者自身がメンタル不調で離職したりするリスクがあります。まずは経営上の必要性を十分に説明し、納得を得ることが先決です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026/3/9
