労働問題141 私傷病休職制度は法律上の義務ですか。設けない場合のリスクと就業規則設計のポイントを教えて下さい。

この記事の結論
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私傷病休職制度は法律上の義務ではなく、設けるか否かは使用者の裁量に委ねられている

労働基準法は年次有給休暇等の休暇制度は規定していますが、私傷病を理由とする休職制度を設けることを法律上義務付けてはいません。

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設けなければ解雇権濫用のリスクが高まり、設けるなら発令要件・休職期間・満了時の効果の明確な設計が不可欠

休職制度がない会社は普通解雇・自動退職という選択肢しかなくなり、リスクが格段に高まります。不適切な条文設計も後の紛争の火種になります。

 私傷病休職制度とは、社員が業務外の傷病により就労できなくなった場合に、一定期間の療養機会を与えたうえで復職の可能性を探る制度であり、法律上の設置義務はなく、設けるか否かは使用者の裁量に委ねられています。しかし、精神疾患社員への対応において休職制度の有無は、会社が取り得る手段を根本的に左右します。設けなければ解雇という選択しかなくなり、解雇権濫用のリスクは格段に高まります。逆に不適切な条文で設計すれば、却って会社が不利になることもあります。

 本稿では、私傷病休職制度の法的性質・設けない場合の会社側リスク・設ける場合の就業規則設計のポイントを、会社側専門の弁護士の視点から解説します。精神疾患社員対応で悩む中小企業の経営者・人事担当者に向けた実務的な指針として活用いただきたいと思います。

01私傷病休職制度は法律上の義務ではない

 結論:私傷病休職制度は、法律によって就業規則への規定が義務付けられているものではなく、設けるか否かは使用者の裁量に委ねられています。労働基準法は年次有給休暇(労基法39条)などの休暇制度については規定していますが、私傷病を理由とする休職制度を設けることは法律上の義務として課されていません。

 私傷病休職制度の本質的な意味は、「精神疾患等の私傷病によって就労不能となった社員を直ちに解雇するのではなく、一定期間の療養機会を与えた上で復職の可能性を探る制度」、すなわち「普通解雇を猶予する制度」です。この性質上、休職制度は会社が任意に設ける制度であって、設けること自体は使用者の裁量に委ねられています。

02休職制度を設けない場合のリスクと制度設計

 結論:休職制度を設けない場合、精神疾患を発症して働けなくなった社員への対応は、普通解雇または自動退職という選択肢に限られ、解雇権濫用や安全配慮義務違反のリスクが高まります。就業規則に「私傷病により○日以上欠勤した場合は普通解雇または自動退職とする」旨の規定を設けておけば、法的根拠は確保できます。

 しかし、規定があれば自由に解雇できるわけではない点に注意が必要です。この規定に基づいて解雇・退職の扱いをするためには、①就労不能状態が相当期間続いていること、②解雇回避努力(配置転換・業務軽減等)を尽くしていること、が前提として必要とされます。これらを欠いた解雇は解雇権濫用(労働契約法16条)として無効とされるリスクがあります。また、休職制度がない会社は「療養の機会を与えなかった」として、安全配慮義務違反を問われるリスクも存在します。特に精神疾患が業務起因性を持つ可能性がある場合は、このリスクが顕在化しやすくなります。

03休職事由・発令要件の設計

 結論:休職命令の発令要件は、欠勤日数の基準と会社の裁量的判断基準を組み合わせて、就業規則に明確に規定する必要があります。典型的な条文例は「私傷病により○日以上欠勤が続いた場合、または就労不能と判断した場合は休職を命じることがある」という形です。

 欠勤日数の目安は、会社の規模・継続勤務年数等を考慮して設計します。欠勤日数が短すぎると社員が「少し具合が悪いだけで休職命令を出された」と主張するリスクがあり、長すぎると長期欠勤が続いても休職命令を出せない状況が続きます。一般的には30日から60日程度を目安に設計することが多いです。なお、発令要件に「就労不能と判断した場合」という会社の裁量条件を加えておくことで、欠勤日数が満たなくても主治医の診断書等に基づいて休職命令を発令できるようにしておくと、実務上の柔軟性が高まります。

04休職期間・満了時の効果・給与の設計

 結論:休職期間の長さ・満了時の効果(自動退職か解雇か)・休職中の給与の取扱いは、会社の規模や実態に応じてあらかじめ明確に設計しておくことが重要です。休職期間の上限は会社規模・就労年数等に応じて設計します。目安として、勤続年数1年未満は1〜3か月、1〜3年は3〜6か月、3年以上は6〜12か月程度とする会社が多いですが、中小企業では3〜6か月程度で設計するケースも多く見られます。期間を長く設定しすぎると、回復見込みのない社員を長期間抱えることになるため、会社の実態に見合った設計が重要です。

 休職期間満了時の効果は、「自動退職」と「普通解雇」のいずれかを規定します。「自動退職」とする場合は解雇手続を経ずに雇用契約が終了するため、手続き上のシンプルさから多くの会社で採用されています。ただし自動退職の場合でも退職を争われるケースはあり、条文の設計・運用の両面で弁護士への相談が不可欠です。休職期間中の給与は無給とするのが一般的です。社員は健康保険の傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最長1年6か月)を利用できます。社会保険料は会社・本人双方が負担する必要がある点を休職命令発令時に書面で明示しておくことが、紛争予防の観点から重要です。

休職制度の設計比較|適切な設計/NGな設計

○ 適切な設計 ✕ NGな設計・運用
発令要件・休職期間・満了時の効果を明確に規定する 条文を曖昧なまま放置する
欠勤日数基準に加え「就労不能と判断した場合」の裁量条件も設ける 欠勤日数のみで硬直的に運用する
休職中の給与・社会保険料負担を書面で明示する 説明せず、後から社員とのトラブルに発展する
満了時の自動退職条項を明確化し、証拠を整備する 運用のみに頼り、記録を残さない

05休職制度設計は弁護士への相談が不可欠な理由

 結論:私傷病休職制度の設計は、条文だけでなく運用マニュアルと一体で整備する必要があるため、弁護士への相談が不可欠です。一見単純に見えて法的な落とし穴が多いものです。「休職期間満了=自動退職」という条文でも、発令要件・通知方法・復職判断基準が不明確だと後に争われるリスクがあります。

 また、精神疾患社員への適用に特有の問題、主治医と産業医の意見が分かれた場合の処理・復職判断の主導権・試し出勤制度の位置づけなどは、条文だけでは対処できず、運用マニュアルと一体で整備する必要があります。弁護士法人四谷麹町法律事務所では、会社側専門弁護士として、私傷病休職制度の設計から就業規則整備・精神疾患社員対応の運用マニュアル作成まで、一貫したサポートを行っています。

06よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に休職制度がない会社でも、社員から「休職させてほしい」と要求があった場合、応じる義務はありますか。

就業規則に休職制度の規定がない場合、会社に休職を認める法的義務はありません。「休職させなければならない」という強行法規は存在しないため、休職を認めるかどうかは会社の裁量となります。ただし、休職を認めずにいきなり解雇・退職の扱いをする場合には、解雇権濫用として無効とされるリスクがあるため、社員の症状・就労不能の程度・業務への影響等を慎重に判断したうえで対応する必要があります。

Q. 休職期間中に社員が「復職できる」と言ってきた場合、すぐに復職させなければなりませんか。

社員が「復職できる」と申し出てきた場合でも、会社は主治医の診断書・産業医の意見等を踏まえて復職の可否を判断する権限を持ちます。就業規則に「復職は会社が認めた場合に限る」「産業医の意見を聴取したうえで復職の可否を決定する」旨を明記しておくことで、会社側が復職判断の主導権を持つことができます。

Q. 休職期間満了で自動退職とした社員から「不当解雇だ」と主張された場合、どう対応すればよいですか。

休職期間満了による自動退職は「解雇」ではなく「退職」の扱いであることが多いため、「不当解雇」の主張は法的には「自動退職条項の無効」という形で争われることになります。争われた場合、①就業規則の自動退職条項が有効であること、②休職期間満了時に復職できない状態にあったこと、③復職可能性を十分に検討・試行したこと、を会社側が証明する必要があります。会社側専門の弁護士に相談のうえ、証拠書類の整備・対応方針の確定を行ってください。

経営上のポイント 私傷病休職制度は法律上の義務ではありませんが、設けなければ精神疾患社員への対応は普通解雇という選択肢に限られ、解雇権濫用のリスクが格段に高まります。設ける場合は、発令要件・休職期間・満了時の効果・休職中の給与の取扱いを条文と運用マニュアルの両面で明確に設計しておくことが重要です。精神疾患で長期就労不能の社員への対応とあわせて、就業規則の設計・整備について会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。就業規則整備・休職制度設計でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月8日

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