労働問題142 精神疾患の発症が強く疑われるにもかかわらず精神疾患の発症を否定する社員に対しても、何らかの配慮が必要ですか。



この記事の要点

精神疾患の発症を社員本人が否定していても、漫然と就労を認めることは許されません。症状が悪化した場合、安全配慮義務違反(労契法5条)として会社が損害賠償責任を負うリスクがあります。就業規則の整備と適切な対応が不可欠です。

1. 「否定している」でも配慮義務が免除されない理由

 精神疾患の発症が強く疑われるにもかかわらず社員本人が「自分は大丈夫」「精神的な病気ではない」と否定して就労を希望した場合、会社がこれを漫然と受け入れて就労を継続させることは安全配慮義務(労働契約法5条)の観点から許されません

 精神疾患は本人が病識を持てないことが特性の一つです(うつ病の急性期は特に自己評価能力が低下します)。「本人が大丈夫と言っているから就労させた。その後に症状が悪化した」という状況では、会社が安全配慮義務違反を問われるリスクが現実的に生じます。症状が悪化して損害賠償請求に発展した際、「本人が否定していた」という事情は抗弁の一事情にはなりますが、それだけで責任が免除されるわけではありません

2. 本人が否定している場合の具体的対応

① 就業規則に基づく指定医受診命令

 就業規則に「会社が必要と認める場合は、会社の指定する医師の診断を受けさせることがある」旨の規定がある場合、会社の指定する医師(精神科・心療内科)の受診を命じることができます。本人が自己申告する主治医の診断書のみに依存せず、会社が指定した専門医の意見を取得することで、客観的な就業能力の評価が可能になります。

② 就労拒絶・一時帰宅

 精神疾患の発症が強く疑われ、就労させることで症状が悪化する明白なリスクがある場合は、就労を拒絶して帰宅させることも選択肢となります(欠勤扱い・無給)。ただし、この判断は慎重に行う必要があり、後に「不当な就労拒否だった」と争われるリスクを踏まえて、記録を残した上で対応します。

③ 休職命令の検討

 就業規則に休職事由として「精神疾患その他の傷病により就業が困難と会社が認める場合」等の規定があれば、本人の同意がなくても休職を命じることができます(詳細は労働問題147番参照)。ただし休職事由の存在を客観的に立証できることが前提です。

⚠ 就業規則の整備が先決

指定医受診命令・休職命令を有効に発令するためには、就業規則にその根拠規定が必要です。規定がなければ社員がこれを拒否した際に会社側が法的に強制する手段がありません。精神疾患社員への対応を想定した就業規則の整備を、問題が起きる前に弁護士と行っておくことが重要です。

 精神疾患の発症を否定する社員への対応・就業規則の整備・指定医受診命令の根拠規定について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/10

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