労働問題140 精神疾患で長期就労不能の社員への対応——休職命令・解雇の判断基準と実務手順【会社側弁護士が解説】

 精神疾患を発症した社員への対応は、症状の重篤度によって段階的に変わります。業務量の軽減・時間外労働の免除などの配慮措置を取っても、長期間にわたって所定労働時間内の勤務さえ困難な状態が続く場合には、就労継続の枠組みから外れた対応——すなわち休職命令または普通解雇——を検討する必要があります。

 この段階での対応を誤ると、解雇無効・安全配慮義務違反・損害賠償という重大なリスクが現実化します。特に精神疾患が業務起因性を持つ可能性がある場合(長時間労働・ハラスメント等が背景にある場合)は、慎重な法的判断が不可欠です。四谷麹町法律事務所では、使用者側・会社側専門弁護士として、休職命令から復職判断・解雇に至る一連の対応をサポートしています。

01基本方針——私傷病休職制度の有無で対応が分岐する

 長期間にわたる就労不能への対応は、就業規則に私傷病休職制度があるかどうかで大きく分岐します。休職制度がある場合は休職命令が先行し、休職期間満了後の復職不能を経て退職・解雇の段階に至ります。休職制度がない場合は、いきなり普通解雇の検討に進むことになりますが、リスクは格段に高くなります。

 また、精神疾患の発症が業務起因性を持つ可能性がある場合(長時間労働・上司のハラスメント等が背景にある場合)は、労災の問題と交差するため、対応の複雑さが増します。この段階に至った時点で、使用者側弁護士への早期相談が強く推奨されます。

02休職制度がある場合——休職命令の発令手順

 就業規則に私傷病休職制度がある場合は、休職命令を発令します。休職制度は「精神疾患等の私傷病を理由として直ちに解雇するのではなく、一定期間の療養の機会を与えた上で復職を可能にする」趣旨の制度であり、その存在が会社の安全配慮義務の一部を構成します。

 休職命令発令に際して、実務上確認・実施すべき事項は以下のとおりです。

  • 医師の診断書の取得:社員に主治医の診断書(傷病名・就労可否・休養が必要な期間等)を提出させます
  • 休職期間・休職中の給与・社会保険・復職条件を書面で通知:口頭のみの通知は避け、内容証明郵便または確認書面を交付します
  • 休職期間中の定期的な状況確認の仕組みを設けます:月1回程度、本人や主治医から状況報告を受けるルートを確保します
  • 産業医が選任されている場合は産業医面談を実施します:産業医による意見書を取得しておきます

 就業規則の休職条項に「欠勤が○日を超えたとき」などの発令条件が定められている場合は、その条件を満たした時点で休職命令を発令します。条件が曖昧な場合は会社側弁護士に確認のうえ対応してください。

03休職期間満了時の対応——自動退職または解雇

 就業規則所定の休職期間が満了しても復職できない場合は、就業規則の規定に基づいて自動退職または解雇の扱いとなります。

 就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は自動退職とする」旨の規定がある場合は、自動退職の扱いができます。この場合は解雇予告手当・解雇予告が不要となることが多いですが、社員への通知と退職手続きは適切に行う必要があります。

 規定がなければ普通解雇の手続きを取ることになります。この際の重要な確認事項として、①復職可能性を十分に検討したか(軽易業務への配置転換の可能性を含む)、②主治医・産業医の意見を取得したか、③休職期間を十分に与えたか、という点があります。これらの対応が不十分だと解雇権濫用として無効とされるリスクがあります。

04休職制度がない場合——普通解雇の要件と高いリスク

 就業規則に私傷病休職制度がない場合は、普通解雇を検討することになります。ただし、精神疾患を理由とした解雇は解雇権濫用(労働契約法16条)として無効と判断されるリスクが非常に高く、慎重かつ適切な対応が不可欠です。

 普通解雇が有効と認められるためには、おおむね以下の事情が必要とされます。

  • 当該精神疾患が業務に起因しないこと(私傷病であること)
  • 相当期間の療養機会を与えても就労不能の状態が続いていること
  • 解雇に先立って配置転換・職務変更等の可能性を検討・試行していること
  • 解雇に先立って回復の見込みについて主治医・産業医の意見を取得していること

 これらの要件を満たすかどうかは個別の事案によって異なります。特に「業務起因性がないこと」の判断は容易ではなく、長時間労働・ハラスメント等の事実が存在する場合は業務起因性が認められ、解雇どころか損害賠償責任を負う事態になりかねません。

05業務起因性がある場合の重大リスク——解雇無効+損害賠償

 特に注意が必要なのは、業務に起因して精神疾患が発症した可能性がある場合(長時間労働・パワーハラスメント等が背景にある場合)です。このような状況で解雇を強行すると、①解雇権濫用として解雇無効、②安全配慮義務違反(労契法5条)として損害賠償責任、③労災認定がなされた場合の附加金・慰謝料責任、という三重のリスクが発生しうります。

 業務起因性の有無は、発症前の労働時間・業務内容・職場環境・上司との関係など多角的な事実関係を踏まえて判断されます。経営者・人事担当者が「業務起因性はない」と思っていても、裁判所が異なる判断をするケースは少なくありません。「労働問題 弁護士 強い」でお探しの経営者の方は、解雇を検討する前に必ず弁護士に相談することをお勧めします。

06今後のリスク管理——休職制度の整備が会社を守る

 私傷病休職制度を就業規則に設けていない会社は、精神疾患社員への対応において常に高いリスクを抱えることになります。休職制度を設けることで、①社員に療養の機会を与えつつ、②一定期間経過後の退職・解雇の根拠を明確にする、③安全配慮義務の履行を担保する、という三つのメリットが生まれます。

 休職制度の設計にあたっては、休職期間の長さ・休職中の給与・社会保険の取扱い・復職要件・期間満了時の扱い(自動退職か解雇か)を明確に規定する必要があります。不適切な規定は逆に会社のリスクを高めることがあるため、弁護士法人四谷麹町法律事務所のような使用者側専門事務所での就業規則整備をお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患社員の休職・解雇対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 休職命令は会社側が一方的に発令できますか。社員の同意は必要ですか。

A. 就業規則に私傷病休職制度があり、発令条件(欠勤日数・就労不能の認定等)を満たしている場合は、社員の同意なしに休職命令を発令することが可能です。就業規則の規定に基づく休職命令は適法な業務命令として扱われます。ただし、社員が強く抵抗する場合は、主治医・産業医の意見書を根拠として休職の必要性を明確にしたうえで命令する必要があります。

Q2. 休職中に社員から連絡が取れなくなった場合、どうすればよいですか。

A. 休職中の社員との連絡が途絶えた場合は、まず書面(内容証明郵便)で状況報告を求めます。書面送付後も連絡が取れない場合は、緊急連絡先(家族等)への連絡を試みます。それでも連絡不能が続く場合は、就業規則の規定(「連絡なく○日以上欠勤した場合は自動退職」等)に基づいて対応しますが、この段階では弁護士への相談が必須です。

Q3. 精神疾患で休職した社員が復職を希望している場合、どのように判断すればよいですか。

A. 復職判断の基本は「主治医の診断書」と「産業医の意見」を両方取得したうえで、会社として最終判断を行うことです。主治医が「復職可能」と言っても、実際の職場環境・業務内容に戻れるかどうかは産業医と会社が判断します。復職後に症状が再発・悪化するケースを防ぐためにも、産業医意見・試し出勤制度・段階的な業務復帰計画の活用が重要です。

Q4. 休職制度のない会社が精神疾患社員を解雇する場合、解雇予告は何日前が必要ですか。

A. 普通解雇を行う場合、30日以上前の解雇予告(労基法20条)または30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要です。ただし、精神疾患を理由とした解雇が有効と認められるためには、単に予告期間を守るだけでなく、解雇権濫用に当たらない実質的な理由と手続きが必要です。必ず事前に会社側弁護士(藤田進太郎・四谷麹町法律事務所)にご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

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