労働問題107 退職勧奨とは何か?解雇との違いや法的性質を会社側弁護士がわかりやすく解説
本記事のポイント
● 退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「退職を促す行為」を指します。
● 「解雇」が一方的な意思表示であるのに対し、退職勧奨は「合意」を目指すプロセスです。
● 労働者が勧奨に応じるかどうかは完全に自由であり、強制力はありません。
● 適切なプロセスで行えば、「円満な退職」を実現する有効な手段となります。
目次
1. 退職勧奨の定義
退職勧奨とは、会社が労働者に対して退職を検討するよう働きかけ、労働者自身の意思によって退職を選択してもらうことを目的とする行為をいいます。具体的には、会社側が「退職を検討してほしい」という意向を伝え、労働者が自ら退職届を提出したり、退職合意書に署名したりすることによって、労働契約を終了させることを目指すものです。
法律上は、退職勧奨は労働契約の合意解約に向けた提案として位置づけられます。会社が一方的に雇用関係を終了させる「解雇」とは異なり、あくまで当事者双方の合意によって契約を終了させることを前提としています。そのため、退職勧奨自体は違法な行為ではなく、企業の人事運営の中で一定程度認められている手法といえます。
もっとも、退職勧奨が成立するためには、労働者の自由な意思に基づく判断が確保されていることが不可欠です。会社が退職を促すことは許されますが、退職を事実上強制するような状況を作ることは認められていません。退職するかどうかを最終的に決めるのはあくまで労働者本人であり、その意思決定が尊重されていることが重要になります。
会社経営者としては、退職勧奨が「退職を命じる手続き」ではなく、合意による退職を目指すための話し合いのプロセスであることを正しく理解しておく必要があります。この基本的な性質を踏まえて進めることが、後の紛争を防ぐうえでも重要になります。
2. 「解雇」との決定的な違い
退職勧奨と混同されやすい概念に「解雇」がありますが、両者は法的な性質がまったく異なります。会社経営者としてこの違いを正確に理解しておくことは、労務トラブルを防ぐうえで極めて重要です。
まず、解雇は会社による一方的な意思表示によって労働契約を終了させる行為です。そのため日本の労働法では強い制限が設けられており、客観的合理性と社会通念上の相当性が認められなければ「解雇権濫用」として無効になる可能性があります。もし解雇が無効と判断されれば、会社は長期間にわたる未払い賃金(いわゆるバックペイ)を支払わなければならないなど、経営上大きなリスクを負うことになります。
一方で、退職勧奨はあくまで合意による退職を目指す話し合いのプロセスです。会社が退職という選択肢を提示し、労働者が自らの意思で退職を選択した場合に初めて労働契約が終了します。そのため、労働者が退職勧奨に応じる義務はなく、拒否することも自由です。
このように、退職勧奨と解雇の最大の違いは、労働契約を終了させる主体が誰であるかという点にあります。解雇は会社の一方的な判断によるものであるのに対し、退職勧奨は会社と労働者の合意によって成立するものです。
実務上、会社が退職勧奨を選択する背景には、解雇に伴う法的リスクを避けながら、合意による円満な解決を目指すという目的があります。会社経営者としては、この両者の違いを正しく理解し、状況に応じて適切な手段を選択することが重要です。
3. 退職勧奨が行われる主な理由
経営者が退職勧奨を選択する背景には、主に以下の理由が挙げられます。
① 解雇リスクの回避
会社経営の実務において、退職勧奨が選択される大きな理由の一つが、解雇に伴う法的リスクを回避するためです。日本の労働法では、解雇は厳しく制限されており、「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が認められなければ無効と判断される可能性があります。
仮に解雇が無効と判断された場合、会社は解雇した日以降の賃金相当額を支払わなければならない可能性があります。いわゆるバックペイ(未払い賃金)の問題であり、紛争が長期化した場合には数百万円から数千万円規模の負担になることも珍しくありません。さらに、労働者が職場への復帰を求める場合には、人事運営にも大きな影響が生じることになります。
こうしたリスクを踏まえると、会社としては一方的な解雇を行うよりも、労働者の同意によって労働契約を終了させる方法を検討することが現実的な選択となる場合があります。退職勧奨は、あくまで労働者の自由な意思による退職を前提とした手続きであるため、適切に行われれば解雇よりも紛争リスクを抑えることができると考えられています。
このような理由から、会社経営者にとって退職勧奨は、解雇に伴う法的リスクを考慮したうえで、より穏当な形で雇用関係の終了を検討するための実務的な手段として活用されることがあります。
② 円満な解決
③ 企業のブランディング
退職勧奨が選択される理由として、企業の社会的評価やブランドへの配慮も挙げられます。解雇は会社による一方的な雇用契約の終了であり、場合によっては労働者との紛争に発展する可能性があります。その過程でトラブルが表面化すれば、企業の評判や採用活動にも影響を及ぼすことがあります。
これに対して退職勧奨は、あくまで労働者の自由な意思による退職を前提とした話し合いの手続きです。会社側が退職条件について一定の配慮を行い、双方が納得した形で雇用関係を終了できれば、対立を最小限に抑えながら問題を整理することが可能になります。
また、実務では、退職理由の表記に配慮したり、退職時期について柔軟に調整したりすることで、労働者の再就職に不利益が生じないよう対応するケースもあります。このような対応は、退職する労働者だけでなく、社内の他の従業員や社外の関係者に対しても、会社が誠実な労務管理を行っているという印象を与えることにつながります。
会社経営者としては、退職勧奨を単なる人員整理の手段として捉えるのではなく、企業の社会的信用や組織の健全性を維持するための対応として位置づけることも重要です。適切な形で行われた退職勧奨は、企業のブランドや信頼性を守るという観点からも意味を持つといえるでしょう。
4. 経営者が守るべき「一線」
5. まとめ
退職勧奨とは、会社が労働者に対して退職という選択肢を提示し、双方の合意によって労働契約を終了させることを目指す手続きです。一方的に雇用関係を終了させる解雇とは法的性質が大きく異なり、労働者の自由な意思を前提とする点に特徴があります。
日本の労働法では解雇に厳しい制限が設けられているため、会社経営の実務においては、退職勧奨が労務問題を解決する一つの手段として用いられることがあります。適切な条件提示や丁寧な話し合いによって合意が成立すれば、解雇による紛争を避けながら、比較的穏当な形で雇用関係を整理できる可能性があります。
もっとも、退職勧奨は進め方を誤ると退職強要と評価されるおそれがあります。執拗な説得や威圧的な言動は、労働者の自由な意思決定を妨げる行為として問題視される可能性があるため、慎重な対応が必要です。
会社経営者としては、退職勧奨を実施する際にはその法的性質を正しく理解し、労働者の自由な意思を尊重した適切なプロセスを維持することが重要になります。事前に進め方を整理し、必要に応じて専門家の助言を得ながら対応することが、不要な労働紛争を防ぐための有効な方法といえるでしょう。
退職勧奨に関するよくある質問
Q1. 退職勧奨は違法ではないのですか?
A. 原則として違法ではありません。退職勧奨はあくまで「提案」であり、労働者の自由な意思を尊重して行われる限り、適法な企業活動として認められています。
Q2. 退職勧奨に応じない場合、強制的に辞めさせることはできますか?
A. できません。退職勧奨はあくまで合意を求める行為ですので、労働者が拒否した場合は、それ以上の強制はできません。その場合は解雇の手続きや業務改善指導など、別の法的アプローチを検討する必要があります。
Q3. 口頭でも退職勧奨になりますか?
A. はい、口頭でも成立します。ただし、後のトラブルを避けるために、どのような条件で提案し、労働者がどう応じたかを書面や議事録で残しておくことが実務上極めて重要です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026/3/9
