労働問題69 有期契約労働者についても試用期間を設けることができますか?
目次
有期契約労働者にも試用期間を設けることは可能ですが、試用期間中であっても「やむを得ない事由」なしの解雇はできません。試用期間中解雇可能の規定も無効です。
労契法17条1項は強行法規であり、有期契約の試用期間中であっても「やむを得ない事由」がなければ解雇できません。試用期間中に解雇できる旨の就業規則規定・合意も無効です。問題がある場合は合意退職か契約期間満了時の雇い止めで対応することが実務上の最善策です。
■ 試用期間中でも「やむを得ない事由」なしの解雇は不可
労契法17条1項は強行法規のため、試用期間中に解雇できる旨の就業規則規定・合意も無効です。「試用期間中だから解雇できる」は誤りです。
■ 試用期間中の解雇には正社員より厳格な「やむを得ない事由」が必要
有期契約の場合、試用期間中の解雇は正社員の解雇よりも厳格な「やむを得ない事由」(特別の重大な事由)が必要とされます。
■ 実務上の対応:合意退職の追求か契約期間満了時の雇い止め
問題がある場合は合意退職を優先して追求し、難しければ契約期間満了まで待っての雇い止めで対応することが最善策です。
1. 有期契約労働者への試用期間の設定と労契法17条1項の壁
有期契約労働者にも試用期間を設けることは可能
有期契約労働者についても試用期間を設けること自体は可能です。例えば「契約期間1年、うち最初の3か月は試用期間」という形で就業規則や労働契約書に定めることはできます。
しかし、民法628条は「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めており、労契法17条1項は「有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない」と規定しています。この労契法17条1項は強行法規です。
試用期間中解雇可能の規定・合意は無効
したがって、有期労働契約の当事者が「試用期間中は解雇できる」旨合意したり、就業規則に規定して周知させたとしても、同条項に違反するため無効となります。使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中(試用期間中も含む)に解雇することができません。
例えば、契約期間1年の有期労働契約者について3か月の試用期間を設け、試用期間中は自由に解雇できると就業規則に定めても、その規定は労契法17条1項に反し無効です。試用期間中であっても、「やむを得ない事由」がなければ解雇することはできません。
✕ よくある経営者の誤解
「契約社員の就業規則に『試用期間中は解雇できる』と書いているから問題ない」→ 無効です。
労契法17条1項は強行法規であり、就業規則・合意で排除することはできません。試用期間中であっても「やむを得ない事由」なしの解雇は無効です。
「有期契約のパートに試用期間を設ければ、その間はいつでも辞めさせられる」→ 誤りです。
有期契約の試用期間中の解雇には「やむを得ない事由」が必要です。正社員の本採用拒否とは異なり、より厳格な基準が求められます。
2. 有期契約の試用期間中の解雇に必要な要件
正社員の本採用拒否より厳格な「やむを得ない事由」が必要
有期契約労働者の試用期間中に解雇するためには、民法628条・労契法17条1項の「やむを得ない事由」が必要です。この「やむを得ない事由」は「当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」(菅野「労働法」第10版234頁)をいいます。
これは正社員の解雇における客観的合理的理由(労契法16条)よりも厳格な基準であり、さらに正社員の試用期間中の本採用拒否(三菱樹脂事件の緩やかな基準)も適用されません。有期契約の試用期間中であっても、解雇するためには「特別の重大な事由」が必要とされます。
有期契約試用期間中の解雇が認められやすい事由
「やむを得ない事由」として認められやすい事由は、重大な横領・背任・職場での暴力・重大なハラスメント・刑事犯罪行為等の深刻な問題行為です。単純な能力不足・軽微な勤怠不良・軽度の服務規律違反等は、「やむを得ない事由」に該当しないのが通常です。これらの場合は契約期間満了時の雇い止めや合意退職で対応することをお勧めします。
3. 実務上の対応:合意退職の追求か契約期間満了時の雇い止め
「やむを得ない事由」がない問題への対応方針
「やむを得ない事由」が認められるほどではない問題がある場合、①まず合意退職(退職届の提出を求める話し合い)を優先して追求すること、②合意退職が難しければ契約期間満了まで待っての雇い止め(更新拒絶)で対応することをお勧めします。
有期契約の場合、「やむを得ない事由」なしの試用期間中解雇は無効とされた場合のリスク(残期間分の賃金支払い等)が非常に大きいため、慎重な判断が必要です。
雇い止め法理(労契法19条)への注意
有期契約を反復更新する場合は、雇い止め法理(労契法19条)の適用にも注意が必要です。有期契約が何度も更新されてきた場合や、更新されることが当然と期待される事情がある場合は、雇い止め(更新拒絶)が解雇権の濫用と同様の基準で判断されることがあります。
したがって、有期契約の活用においては、契約期間・更新の有無・更新の基準等を契約書に明確に定め、更新時ごとに更新の可否を適切に判断・記録しておくことが重要です。
有期契約労働者への試用期間の設定・問題発生時の対応方針・雇い止め法理への対策について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「1年契約の契約社員に3か月の試用期間を設け、就業規則に『試用期間中は自由に解雇できる』と定めた。試用期間中に問題があり解雇したところ、労契法17条1項違反として無効とされ、残期間分の賃金支払いを命じられた」
・「3か月の有期契約のパートに試用期間中解雇の規定を設けても無効と知り、問題のあるパートについては合意退職を追求した。本人が納得して退職届を提出し、リスクなく解決できた」
有期契約の試用期間中解雇の規定は無効です。制度設計の段階から弁護士に相談することが最大の予防策です。
4. まとめ
有期契約労働者に試用期間を設けること自体は可能ですが、労契法17条1項は強行法規であり、試用期間中であっても「やむを得ない事由」(特別の重大な事由)がなければ解雇することはできません。試用期間中に解雇できる旨の就業規則規定・合意も無効です。この基準は正社員の解雇(労契法16条)より厳格であり、正社員の試用期間中の本採用拒否の緩やかな基準も適用されません。「やむを得ない事由」に該当しない問題については、合意退職の追求か契約期間満了時の雇い止めで対応することをお勧めします。有期契約を活用する場合は、制度設計の段階から弁護士に相談することが最大の予防策です。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05