労働問題64 有期契約労働者の期間途中解雇に必要な「やむを得ない事由」とはどの程度のものですか?会社側弁護士が解説
目次
「やむを得ない事由」は「期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」です。正社員より厳格であり、軽微な問題では認められません。
有期契約労働者の期間途中解雇に必要な「やむを得ない事由」は、正社員の解雇における客観的合理性・社会通念上の相当性より厳格な基準です。「特別の重大な事由」があって初めて認められ、軽微な問題では到底認められません。
■ 定義:「期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ない特別の重大な事由」
学説(菅野「労働法」第10版)が示す定義であり、「直ちに」「特別の重大な」という二つのキーワードが示す通り、非常に高いハードルです。
■ 正社員の解雇より厳格:労契法16条の基準を超える要件
期間の定めのない労働契約における解雇の客観的合理性・社会通念上の相当性(労働契約法16条)よりも厳格な要件とされています。
■ 実務上の判断基準:横領・暴力等の重大問題が典型例
重大な横領・職場での暴力・重大なハラスメント等が典型例。単純な能力不足・軽微な勤怠不良は通常該当せず、契約期間満了まで待っての雇い止めや合意退職で対応することをお勧めします。
1. 「やむを得ない事由」の定義と正社員との比較
学説が示す「やむを得ない事由」の定義
「やむを得ない事由」は、「当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」(菅野「労働法」第10版234頁)をいいます。
この定義の二つのキーワードに注目してください。第一は「期間満了を待つことなく直ちに」という点です。契約期間満了まで待てない、今すぐに雇用を終了させなければならないほどの緊急性・重大性が必要という意味です。第二は「特別の重大な事由」という点です。通常の問題行動や能力不足では足りず、特別に重大な事由であることが必要という意味です。
正社員の解雇基準より厳格な理由
「やむを得ない事由」は、期間の定めのない労働契約における解雇の有効性を判断する際の客観的合理性・社会通念上の相当性(労働契約法16条)よりも厳格な要件と考えられています。
その理由は、有期労働契約は「少なくとも契約期間中は雇用を継続する」という約束を内包しているからです。この約束(契約上の拘束力)があるにもかかわらず、期間途中で解雇するためには、その約束を破ることが正当化されるほどの重大な事由が必要とされます。正社員には「少なくとも○か月は雇用継続する」という期間的な約束がないため、有期契約の場合より解雇の要件が相対的に緩やかになっています。
2. 「やむを得ない事由」に該当する場合・しない場合
「やむを得ない事由」に該当しやすい典型例
「期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ない特別の重大な事由」として「やむを得ない事由」に該当しやすい典型例は次のようなものです。
①重大な横領・背任:会社の金銭や財産を着服・横領するなどの重大な背信行為。
②職場での暴力:上司・同僚・顧客等への暴力行為など職場秩序の根幹を揺るがす行為。
③重大なハラスメント:被害者が就業継続困難となるほどの深刻なセクシャルハラスメント・パワーハラスメント等。
④刑事犯罪:業務に関連する詐欺・窃盗等の刑事犯罪行為。
⑤重大な経歴詐称:採用の前提となる重要な資格・経歴の詐称が判明した場合。
「やむを得ない事由」に該当しない典型例
一方、以下のような事情は通常「やむを得ない事由」には該当しないと考えられます。
①単純な能力不足・業務成績不良:業務成績が期待を下回るが、契約期間満了まで雇用継続が到底不可能というほどではない場合。
②軽微な勤怠不良:遅刻・欠勤が多いが、業務に重大な支障をきたすほどではない場合。
③軽度の服務規律違反:就業規則違反はあるが、軽微な違反にとどまる場合。
これらの場合は、「やむを得ない事由」による期間途中の解雇ではなく、契約期間満了日での雇い止め(更新拒絶)や合意退職で対応することをお勧めします(労働問題63参照)。
✕ よくある経営者の誤解
「能力が低いパートは、有期契約だからすぐに辞めさせられる」→ 誤りです。
単純な能力不足は「やむを得ない事由」に該当しないのが通常です。期間途中での解雇は難しく、契約期間満了まで待っての雇い止めか合意退職で対応することが必要です。
「契約社員が遅刻を繰り返しているから、今すぐ解雇できる」→ 慎重な判断が必要です。
遅刻の程度・頻度・業務への影響によりますが、軽微な勤怠不良は通常「やむを得ない事由」には該当しません。まず注意指導を行い、改善されない場合は合意退職や契約期間満了日での雇い止めで対応することをお勧めします。
3. 実務上の判断ポイントと対応方針
「やむを得ない事由」に該当するかの判断基準
実務上、「やむを得ない事由」に該当するかどうかは「このまま契約期間満了日まで雇用関係を継続することが到底許容できないほどの重大な事由があるか」という観点で判断します。
判断に当たっては、①問題行動・事由の内容・態様・深刻さ、②会社・他の社員・顧客等への影響の大きさ、③契約期間満了まで待つことが現実的に可能かどうか、④本人からの事情聴取・弁明の機会の付与の有無、などを総合考慮します。
「やむを得ない事由」がない場合の対応方針
「やむを得ない事由」が認められるほどではない問題がある場合、①合意退職の追求(退職届を提出してもらう話し合い)を優先し、②合意退職が難しければ契約期間満了日まで待っての雇い止め(更新拒絶)を選択することをお勧めします。期間途中での解雇は無効とされた場合のリスクが大きいため、慎重な判断が必要です。
有期契約労働者への期間途中での対応が「やむを得ない事由」に該当するかどうかの判断・合意退職・雇い止めの進め方について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「パートタイマーが業務中に顧客に対して暴言・暴力を働いた。直ちに雇用を継続することが到底できないと判断し、『やむを得ない事由』による期間途中の解雇が有効とされた」
・「契約社員の能力不足を理由に期間途中で解雇した。『やむを得ない事由』に該当しないとして解雇無効・残期間分の賃金の支払いを求められた」
「やむを得ない事由」の判断は個別の状況に大きく左右されます。「これは該当するはず」という主観的判断だけで進めることは危険です。必ず弁護士に相談してください。
4. まとめ
有期契約労働者の期間途中解雇に必要な「やむを得ない事由」とは、「当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」です。これは正社員の解雇における客観的合理性・社会通念上の相当性(労働契約法16条)よりも厳格な要件です。重大な横領・職場での暴力・重大なハラスメント等が典型例であり、単純な能力不足・軽微な勤怠不良・軽度の服務規律違反は通常該当しません。「やむを得ない事由」が認められないケースでは、合意退職の追求か契約期間満了日での雇い止めで対応することをお勧めします。判断に迷う場合は必ず事前に弁護士に相談してください。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
