労働問題58 試用期間中の社員であれば、自由に本採用拒否(解雇)できますよね?

この記事の要点

試用期間中でも自由に本採用拒否はできません。本採用拒否は「解雇」であり、客観的合理的理由が必要です。「試用期間中は自由に断れる」という誤解が最も多い経営者の誤解の一つです。

本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)であり、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」とされています(三菱樹脂事件最高裁大法廷判決)。新たに採用する場面とは根本的に異なります。

本採用拒否=解雇:客観的合理的理由が必要

試用期間中の本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)であり、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要です。自由に解雇できるわけではありません。


「新規採用の場面」とは根本的に異なる

採用選考の段階(内定取消等)とは異なり、試用期間中は既に雇用関係が成立しています。「採用前と同じく自由に断れる」という考えは誤りです。


通常の解雇と比べてハードルは相対的に低い

「解約権留保の趣旨・目的に照らして」判断されるため、採用時に予測できなかった問題が判明した場合には、通常の解雇より相対的に認められやすくなります(詳細は労働問題59参照)。

1. 本採用拒否は「解雇」であり自由にはできない

三菱樹脂事件最高裁判決の判断

 使用者と試用期間中の社員との間では、既に留保解約権の付いた労働契約が成立していると考えられる事案が多く、本採用拒否の法的性質は留保された解約権の行使(解雇)と評価されるのが通常です(労働問題57参照)。

 本採用拒否は、既に採用した社員の解雇であり、新たに採用する場面とは異なります。したがって、試用期間中だからといって自由に本採用拒否(解雇)できるわけではなく、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」(三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)ことになります。

「新たに採用する場面」との根本的な違い

 採用選考段階での採否決定(採用内定の取消含む)とは、法的に根本的に異なります。採用選考段階では、使用者には採否を自由に決定する自由があり(採用の自由)、よほど特殊な事情がない限り合理的理由がなくても採用を断ることができます。

 しかし試用期間が開始されると、既に雇用関係が成立しており、本採用拒否は「留保解約権の行使(解雇)」であって、「通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない」(三菱樹脂事件最高裁判決)とされています。「試用期間中だから採用前と同じように自由に断れる」という考えは誤りです。

✕ よくある経営者の誤解——最も多い誤解の一つです

「試用期間中だから、いつでも自由に辞めさせられる」→ 誤りです。
試用期間中の本採用拒否は解雇に当たり、客観的合理的理由が必要です。「試用期間中は自由に解雇できる」という認識は最もよくある経営者の誤解の一つです。

「試用期間中なら、気に入らないだけで辞めさせてよい」→ 絶対に誤りです。
「気に入らない」という主観的理由では客観的合理的理由にはなりません。本採用拒否が無効とされた場合、バックペイの支払いが命じられるリスクがあります。

2. 本採用拒否の要件:「解約権留保の趣旨・目的に照らして」判断される

「解約権留保の趣旨・目的」とは

 本採用拒否は「解約権留保の趣旨・目的に照らして」客観的合理的理由が存するかどうかを判断されます。解約権留保の趣旨・目的とは、試用期間中に労働者の能力・適性・人柄・勤務態度等を実際に確認・評価した上で、本採用するかどうかを決定することです。

 したがって、この趣旨・目的から導かれる本採用拒否の合理的理由とは、「採用選考時には知ることができなかった、または知ることが困難であった事実が試用期間中に判明した」という場合です。試用期間を通じて評価・確認を行った結果として、本採用に値しないという判断が合理的であることが必要です。

通常の解雇と比べて相対的に認められやすい理由

 本採用拒否は通常の解雇と同様に客観的合理的理由が必要ですが、「解約権留保の趣旨・目的に照らして」という枠組みで判断されるため、通常の解雇よりも相対的にハードルが低くなります。これは、試用期間という制度の趣旨が、採用段階では十分に確認できなかった適性・能力を実際の業務を通じて評価することにあるからです(詳細な基準については労働問題59参照)。

3. 本採用拒否を検討する場合の実務上のポイント

本採用拒否を検討する前に確認すべきこと

 本採用拒否を検討する場合、次の点を確認することが重要です。①就業規則・試用期間規程に本採用拒否の事由が定められているか、②本採用拒否の理由となる事実(能力不足・勤怠不良・問題行動等)が具体的に記録されているか、③その事実が「採用選考時には知ることができなかった、または困難であった事実」に該当するか、④本人に問題点を指摘し改善の機会を与えたか(その記録があるか)、⑤解雇予告義務の履行の要否(14日超の継続勤務の場合は解雇予告または解雇予告手当が必要)。

合意退職の追求が第一選択

 本採用拒否(解雇)を行う前に、まず合意退職(本人の同意を得て退職してもらう)を追求することをお勧めします。合意退職であれば解雇の有効性を争われるリスクがなく、円満な解決が可能です。試用期間中は本採用後と比べて本人も「試用期間なのでしょうがない」という受け入れやすさがあるため、合意退職が成立しやすい時期でもあります。

 試用期間中の問題社員への対応・本採用拒否の可否判断・合意退職の進め方について、早めの弁護士へのご相談をお勧めします。試用期間を経過させてしまう前に方針を固めることが重要です。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「試用期間中だから自由に解雇できると思い、「なんとなく気に入らない」という理由で本採用拒否した。解雇無効・不当解雇として争われ、バックペイの支払いが命じられた」

・「試用期間中に問題行動があったが記録を残していなかった。本採用拒否時に具体的な理由を証明できず、解雇が無効とされた」

 「試用期間中は自由に解雇できる」という誤解が最も多い経営者の誤解の一つです。早期の弁護士への相談が最善の予防策です。

4. まとめ

 試用期間中の社員であっても、自由に本採用拒否(解雇)できるわけではありません。本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)であり、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」とされています(三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。新たに採用する場面(採用内定取消等)とは根本的に異なります。通常の解雇と比べてハードルは相対的に低いですが、客観的合理的理由と記録の整備が不可欠です。本採用拒否を検討している場合は、まず合意退職を追求した上で、早めに弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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