労働問題68 試用期間の趣旨で有期労働契約を締結し、正社員に相応しければ正社員として登用し、正社員に相応しくなければ期間満了で辞めてもらうやり方はどう思いますか?
「本採用拒否」は、法的には「留保された解雇権の行使」です
試用期間中であっても、自由な解雇は認められません。トラブルを未然に防ぎ、企業の規律を守るために以下の3点を再確認してください。
- ■ 解雇権濫用法理の適用を前提とする:
本採用拒否は、通常の解雇と同様に労働契約法16条の制約を受けます。「試用期間だから簡単に入れ替えられる」という認識は、多額の解決金や未払賃金支払(バックペイ)のリスクを招きます。 - ■ 有期契約への「試用期間」認定に注意する:
期間の定めのある契約で採用しても、実態が適性判断目的であれば判例上「試用期間」と同一視される場合があります。契約書における「更新基準」と「契約終了の合意」の明確さが成否を分けます。 - ■ 「改善指導のプロセス」を証拠化する:
能力不足を理由とする場合、会社がどのような具体的指導を行い、本人に改善の機会を与えたかが重視されます。これらを客観的な書面(指導記録)で残しておくことが、法的な防御線となります。
💡 経営上のポイント:
本採用を拒否すべき事案であっても、いきなり解雇を通知するのではなく、まずは「退職勧奨(合意退職)」の可能性を探ることが実務上の鉄則です。法的なリスクを最小限に抑えつつ、組織の秩序を維持するための戦略的判断が求められます。
目次
1. 本採用拒否と解雇の関係|会社経営者が誤解しやすいポイント
会社経営者の中には、試用期間中であれば自由に採用を取り消すことができると考えている方も少なくありません。しかし、法律上は試用期間中の本採用拒否は、実質的には解雇と同じ扱いになる可能性があります。
そのため、本採用拒否を行う場合でも、正社員を解雇する場合と同様に、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められます。これは労働契約法16条のいわゆる解雇権濫用法理によるものです。
このような法的リスクがあることから、企業の中には、最初から正社員として採用するのではなく、まず有期労働契約を締結して様子を見るという方法を採るケースがあります。一定期間働いてもらい、正社員として適性があると判断した場合には正社員として登用し、問題がある場合には契約期間満了で辞めてもらうという考え方です。
一見すると、この方法であれば本採用拒否や解雇の問題を回避できるようにも思えます。しかし、このような有期契約の運用についても、法律上はさまざまな注意点があります。
実際の判例では、労働者の適性を判断するための有期契約であっても、実質的には試用期間と同じものと評価される可能性があります。その結果、有期契約であっても契約期間満了で自由に労働契約を終了できるとは限らないケースがあります。
会社経営者としては、本採用拒否と解雇の関係を正しく理解したうえで、採用方法や試用期間の運用を検討することが重要になります。
2. 試用期間と本採用拒否の基本的な法律構造
正社員を採用する際には、一定期間の試用期間を設ける企業が多く見られます。試用期間は、採用した労働者が会社の業務に適しているかどうかを判断するための期間として設けられるものです。
しかし、試用期間だからといって、会社が自由に採用を取り消すことができるわけではありません。法律上、試用期間中の労働契約は、解約権留保付労働契約と呼ばれる形態と考えられています。
これは、会社が一定の条件のもとで契約を解約する権利(留保解約権)を持っている労働契約であるという意味です。つまり、試用期間中は会社側に一定の裁量が認められているものの、その裁量は無制限ではありません。
そのため、試用期間中に本採用を拒否する場合でも、会社側には相応の理由が求められます。労働者の勤務態度や業務能力、協調性などに重大な問題があり、正社員としての採用を継続することが難しいと客観的に評価できる事情が必要になります。
さらに、本採用拒否は実質的には労働契約を終了させる行為であるため、解雇と同様に解雇権濫用法理の適用を受ける可能性があります。そのため、合理的な理由がない本採用拒否は無効と判断されるリスクがあります。
会社経営者としては、試用期間を設けているからといって安心するのではなく、本採用拒否を行う場合にはどのような事情が必要になるのかを理解しておくことが重要です。採用や試用期間の運用を誤ると、後になって解雇トラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。
3. 本採用拒否でも解雇権濫用法理が適用される理由
正社員を採用する際には、一定期間の試用期間を設ける企業が多く見られます。試用期間は、採用した労働者が会社の業務に適しているかどうかを判断するための期間として設けられるものです。
しかし、試用期間だからといって、会社が自由に採用を取り消すことができるわけではありません。法律上、試用期間中の労働契約は、解約権留保付労働契約と呼ばれる形態と考えられています。
これは、会社が一定の条件のもとで契約を解約する権利(留保解約権)を持っている労働契約であるという意味です。つまり、試用期間中は会社側に一定の裁量が認められているものの、その裁量は無制限ではありません。
そのため、試用期間中に本採用を拒否する場合でも、会社側には相応の理由が求められます。労働者の勤務態度や業務能力、協調性などに重大な問題があり、正社員としての採用を継続することが難しいと客観的に評価できる事情が必要になります。
さらに、本採用拒否は実質的には労働契約を終了させる行為であるため、解雇と同様に解雇権濫用法理の適用を受ける可能性があります。そのため、合理的な理由がない本採用拒否は無効と判断されるリスクがあります。
会社経営者としては、試用期間を設けているからといって安心するのではなく、本採用拒否を行う場合にはどのような事情が必要になるのかを理解しておくことが重要です。採用や試用期間の運用を誤ると、後になって解雇トラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。
4. 有期労働契約を使って試用期間の代わりにする企業の考え方
本採用拒否が解雇と同様に厳しく判断される可能性があることから、企業の中には最初から正社員として採用するのではなく、有期労働契約を締結して様子を見るという方法を採るところもあります。
具体的には、まず一定期間の有期労働契約を締結し、その期間中は正社員と同様の業務に従事させます。そして、労働者に問題がないと判断した場合には正社員として登用し、問題がある場合には契約期間満了で労働契約を終了させるという考え方です。
この方法であれば、本採用拒否や解雇の問題を回避できるのではないかと考える会社経営者も少なくありません。つまり、「解雇」ではなく「契約期間満了による終了」であれば、比較的容易に労働契約を終了できるのではないかという発想です。
実際、最初から有期労働契約という形式を採っている場合、労働者側も長期雇用を当然に期待しているわけではないため、正社員の本採用拒否という形を取るよりも、契約期間満了で辞めてもらいやすいケースがあることも事実です。
しかし、このような運用方法についても、法律上は注意が必要です。有期労働契約という形式を採っていたとしても、実際の働き方や会社の取り扱いによっては、単なる有期契約ではなく試用期間と同様のものとして評価される可能性があります。
そのため、有期契約を利用すれば必ず雇止めが有効になるとは限りません。会社経営者としては、有期労働契約を試用期間の代わりとして利用する場合でも、その法的評価について十分に理解したうえで運用することが重要になります。
5. 有期契約でも試用期間と評価されるケース
企業が試用期間の代わりとして有期労働契約を利用した場合でも、必ずしも「単なる有期契約」として扱われるとは限りません。実際の運用状況によっては、実質的には試用期間と同じものと評価される可能性があります。
例えば、有期労働契約の期間中に労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事している場合や、会社の取り扱いも正社員とほとんど変わらない場合などです。さらに、正社員登用の際に改めて労働契約書を作成する手続が取られていないような場合には、有期契約という形式であっても、実質的には**解約権留保付労働契約(試用期間付きの労働契約)**と評価される可能性があります。
この点については、最高裁判所の判例(神戸弘陵学園事件・平成2年6月5日判決)でも示されています。この判例では、労働者の適性を評価・判断するための有期契約であっても、契約期間満了により労働契約が当然に終了するという明確な合意があるなどの特段の事情がない限り、試用期間として扱われる可能性があると判断されています。
その結果、有期契約という形式を採っていたとしても、単に契約期間満了で労働契約を終了させることができるとは限りません。もし試用期間と評価される場合には、本採用拒否と同様に、合理的な理由がない限り労働契約を終了させることができないことになります。
会社経営者としては、有期労働契約を締結しているからといって安心するのではなく、その契約がどのように評価される可能性があるのかを理解しておく必要があります。採用方法や契約形態の設計を誤ると、雇止めが無効と判断されるリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
6. 判例(神戸弘陵学園事件)から見る本採用拒否の判断基準
試用期間を目的とした有期労働契約の法的評価については、**神戸弘陵学園事件(最高裁平成2年6月5日判決)**が重要な判断を示しています。
この判例では、労働者の適性を評価・判断するために有期労働契約が締結されていた場合でも、契約期間満了により労働契約が当然に終了するという明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められない限り、試用期間として取り扱われると判断されています。
つまり、形式上は有期労働契約であっても、その実態が労働者の適性を判断するための試用期間と同じであれば、解約権留保付労働契約として評価される可能性があるということです。
また、有期契約期間中の労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事しており、会社の取り扱いにも特段の違いがなく、さらに正社員登用の際に改めて労働契約書を作成する手続も採られていない場合には、その契約は単なる有期契約ではなく、試用期間付きの労働契約と評価される可能性が高くなります。
その場合、契約期間満了を理由として労働契約を終了させることはできず、本採用拒否(留保解約権の行使)が許される場合でない限り、労働契約を終了させることはできないという結論になります。
会社経営者としては、有期契約という形式を採れば自由に雇止めができると考えるのではなく、実態によっては試用期間と評価される可能性があることを理解しておく必要があります。採用制度の設計を誤ると、想定していたよりも解雇のハードルが高くなることもあるため、制度設計の段階から慎重に検討することが重要です。
7. 有期契約で雇止めを有効にするための重要ポイント
労働者の適性を評価・判断する目的で有期労働契約を締結する場合、契約期間満了時に労働契約を終了させることができるようにするためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず重要なのは、契約期間満了により労働契約が当然に終了することについて、当事者間で明確な合意をしておくことです。単に口頭で説明するだけではなく、その内容を労働契約書などの書面に明確に記載しておくことが望ましいでしょう。
さらに、正社員として登用する場合には、その時点で改めて正社員としての労働契約書を作成する手続を確実に行うことも重要になります。もし正社員登用の際に契約書の作成などの手続が行われていない場合には、最初の有期契約が試用期間として評価されてしまう可能性が高くなります。
つまり、有期契約を採用制度として利用するのであれば、契約の形式だけでなく、実際の運用方法も含めて整備しておく必要があります。契約内容や手続が曖昧なまま運用していると、後になって労働契約の性質が争われることになり、会社側にとって不利な判断がなされる可能性もあります。
会社経営者としては、有期契約を利用した採用制度を導入する場合には、契約書の内容や採用手続を十分に整理しておくことが重要です。制度の設計や契約書の作成について不安がある場合には、労働問題に詳しい弁護士へ相談しながら整備していくことが望ましいでしょう。
8. 有期契約を使った採用のメリットと実務上の注意点
最初から正社員として採用するのではなく、有期労働契約からスタートする採用方法には、一定のメリットがあります。
実務上の傾向として、当初の労働契約が有期労働契約の形式を採っている場合、労働者側の長期雇用への期待が比較的低いことが多いといわれています。そのため、正社員の本採用拒否という形式を取る場合と比べると、契約期間満了によって辞めてもらいやすく、紛争になりにくいケースが見られることもあります。
しかし、この採用方法にはデメリットもあります。例えば、会社としては正社員として長く働いてほしいと考えていても、労働者が契約期間中に退職してしまう可能性が高くなるという傾向があります。有期契約という形態である以上、労働者側も長期的に働く前提で入社していないことが多いためです。
また、有期労働契約からスタートする採用制度を採用している場合、正社員として長期間勤務することを希望している応募者にとっては魅力が低く見えることがあります。特に、安定した雇用を重視する応募者は、最初から正社員として採用してもらえる企業を優先して就職活動を行う傾向があります。
そのため、有期契約からスタートする採用制度を採る場合には、人材確保の面で不利になる可能性があることも考慮する必要があります。会社経営者としては、労務リスクだけでなく、採用市場での競争力という観点からも採用制度を検討することが重要です。
9. 正社員採用と有期契約採用の人材確保への影響
採用制度を検討する際には、労務リスクだけでなく、人材確保への影響についても考える必要があります。
一般的に、正社員として長期間勤務することを希望している応募者は、最初から正社員として採用してもらえる企業を選ぶ傾向が強いといわれています。そのため、採用時点で有期労働契約からスタートする制度を採っている場合、長期雇用を前提とした人材の確保という点で不利になる可能性があります。
特に、安定した雇用を重視する人材ほど、最初から正社員として採用される企業を志望する傾向があります。その結果、有期契約からスタートする採用制度では、応募者の層が限定されてしまう可能性もあります。
もちろん、職場環境や業務内容に高い魅力がある場合や、有期契約とすることに特別な意味がある場合には、このような採用制度でも十分に人材を確保できることがあります。しかし、一般的な中小企業においては、必ずしもそのような条件が整っているとは限りません。
そのため、正社員として長く働き続けてほしい人材を募集するのであれば、最初から正社員として採用する方法を基本とした方がよい場合も多いといえます。そして、そのうえで応募者をよく見極め、慎重に選考を行うことが、結果として安定した人材確保につながることがあります。
会社経営者としては、労務リスクの回避だけを目的に採用制度を設計するのではなく、採用市場の状況や自社の人材戦略も踏まえながら、バランスの取れた制度設計を行うことが重要になります。
10. 本採用拒否や解雇トラブルを防ぐため弁護士に相談すべき理由
本採用拒否や解雇に関する問題は、会社経営者にとって判断が難しい労務問題の一つです。試用期間中であれば比較的自由に契約を終了できると考えていると、思わぬ形で労働トラブルに発展する可能性があります。
特に、試用期間を設けている場合でも、本採用拒否は実質的には解雇と同様に扱われる可能性があります。そのため、合理的な理由がないまま本採用拒否を行うと、後になって労働審判や訴訟などで解雇権濫用と判断されるリスクがあります。
また、有期労働契約を利用して採用制度を設計している場合でも、その運用方法によっては試用期間と評価されてしまう可能性があります。契約書の内容や採用手続が適切に整備されていない場合、会社が想定していたよりも厳しい法的判断がなされることもあります。
このようなトラブルを防ぐためには、採用制度の設計や労働契約書の作成の段階から、法的な観点を踏まえて検討しておくことが重要です。特に、試用期間の設定方法や有期契約の運用方法については、実務上の注意点が多いため慎重な対応が求められます。
本採用拒否や解雇をめぐる問題で判断に迷う場合には、労働問題や問題社員対応に詳しい弁護士へ相談することが有効です。弁護士の助言を受けながら採用制度や労務対応を整備しておくことで、将来的な労働トラブルを未然に防ぎ、会社経営者として安心して人材採用を進めることができるようになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 試用期間中なら、14日以内であれば即日解雇できると聞きましたが本当ですか?
A1. 労働基準法上の「解雇予告」の手続(30日前予告または手当の支払)が不要になるだけであり、解雇そのものの正当性が不要になるわけではありません。14日以内であっても、客観的に合理的な理由がない本採用拒否は不当解雇と判断されるリスクがあります。
Q2. 有期契約で採用し、適性がなければ期間満了で終了させることは「本採用拒否」より安全ですか?
A2. 形式上は雇止めとなりますが、実態が正社員登用を前提とした試用期間目的である場合、判例により、通常の雇止めよりも厳しい「解雇権濫用法理」が類推適用される可能性があります。契約書で「適性判断のための期間であること」や「更新の有無」をどう明記するかが鍵となります。
Q3. 本採用拒否を検討する際、どのような証拠を残しておくべきでしょうか?
A3. 具体的な業務上のミス、遅勤欠勤の記録、上司による改善指導の内容とそれに対する本人の反応を、日付入りの書面やメールで残しておくことが不可欠です。「期待外れだった」という主観的な評価だけでは、裁判で解雇の正当性を立証することは困難です。
最終更新日:2026/03/11
