労働問題57 試用期間の法的性格を教えて下さい。

この記事の要点

試用期間の法的性格は個別判断です。多くの場合「解約権留保付き雇用契約」として、本採用拒否は「解雇」に当たります。「試用期間中は雇用関係にない」は誤りです。

三菱樹脂事件最高裁大法廷判決により、試用期間の法的性格は就業規則の規定の文言だけでなく処遇の実情・本採用との関係における慣行等を重視して個別に判断されます。多くの企業では解約権留保付き雇用契約が成立しており、本採用拒否は解雇に当たります。

判断基準:就業規則の規定+処遇の実情・慣行を総合して個別判断

試用期間の法的性格は一様ではなく、就業規則の文言と実際の処遇の慣行を総合して個別に判断されます(三菱樹脂事件最高裁判決)。


多くの場合:解約権留保付き雇用契約=本採用拒否は解雇に当たる

多くの企業では試用期間開始時から雇用関係が成立しており、本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)に当たります。通常の雇入れ拒否とは異なります。


実務上の影響:本採用拒否にも客観的合理的理由が必要

解約権留保付き雇用契約の場合、本採用拒否(試用期間中の解雇)は自由に行えず、客観的合理的理由が必要です。ただし本採用後の解雇よりハードルは相対的に低くなります。

1. 三菱樹脂事件最高裁判決が示した判断基準

就業規則の文言だけでなく処遇の実情・慣行を重視する

 試用期間には様々なものがあり、その法的性格は一様ではありません。三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決(労判189号16頁)は、「試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものである」と判示しています。

 したがって、試用期間の法的性格については、就業規則の規定の文言だけでなく、「試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかん」等を重視して個別に判断していくことになります。

三菱樹脂事件の事案における判断内容

 三菱樹脂事件では、①見習試用取扱規則の規定、②大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかった事例はかつてなかったこと、③雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ本採用にあたり辞令を交付するにとどめていたこと等の慣行的実態に基づいて、「右雇用契約を解約権留保付の雇用契約と認め、右の本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたる」と判断したことを最高裁は「是認し得ないものではない」としました。

 そして「被上告人に対する本採用の拒否は留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない」と明確に判断しています。

2. 解約権留保付き雇用契約の意味と実務上の影響

解約権留保付き雇用契約とは

 解約権留保付き雇用契約とは、使用者が試用期間中に労働者の能力・適性を評価した上で本採用しないことを決定できる権限(解約権)を留保した形の雇用契約です。この類型では、試用期間の開始時点から雇用関係が成立しており、本採用拒否は「雇入れの拒否」(採用内定の取消等)ではなく、「留保解約権の行使(解雇)」に当たります。

 一概には言えませんが、多くの企業における試用期間は解約権留保付きの雇用契約が既に成立しており、本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)に当たると考えられます。

本採用拒否が「解雇」に当たる実務上の影響

 本採用拒否が「解雇」に当たる場合、次のような実務上の影響があります。

 ①客観的合理的理由が必要:本採用拒否(試用期間中の解雇)は自由に行えず、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(詳細は労働問題58参照)。ただし、本採用後の解雇と比べてハードルは相対的に低く、採用時に予測できなかった問題が判明した場合には認められやすくなります。

 ②解雇予告義務が適用される:試用期間中の解雇(本採用拒否)であっても、14日を超えて継続勤務した場合は、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です(労基法21条但書)。14日以内であれば解雇予告不要です。

 ③解雇理由証明書の交付義務:労働者から請求があった場合、解雇理由証明書を交付する義務があります(労基法22条)。

✕ よくある経営者の誤解

「試用期間中は雇用関係にないから、解雇予告なしに自由に辞めさせられる」→ 誤りです。
多くの企業では試用期間の開始時から雇用関係が成立しています。14日を超えて継続勤務した場合は解雇予告(または解雇予告手当)が必要です。

「本採用拒否は採用を取り消すだけだから、解雇にはならない」→ 誤りです。
解約権留保付き雇用契約の場合、本採用拒否は「留保解約権の行使(解雇)」であり、通常の採用内定取消等とは異なります。客観的合理的理由が必要です。

3. 試用期間の法的性格を判断する際の実務上のポイント

自社の試用期間の法的性格を確認するためのチェックポイント

 自社の試用期間の法的性格を確認するためのチェックポイントとして、①就業規則の試用期間規定の内容・文言、②過去に試用期間終了後に本採用しなかった事例があるかどうか、③試用期間中の社員の処遇(給与・社会保険等)が本採用社員と同様かどうか、④採用時に労働契約書・雇用条件通知書を作成しているかどうか・その内容、⑤本採用時の辞令・手続の内容、などを確認することが重要です。

 これらの実情から、自社の試用期間が解約権留保付き雇用契約に当たるかどうか・本採用拒否が解雇に当たるかどうかを判断することになります。

 自社の試用期間の法的性格の確認・本採用拒否の可否判断・解雇予告義務の有無について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「試用期間中は自由に解雇できると思い、解雇予告なしに即日本採用拒否した。実際には解約権留保付き雇用契約に当たり、14日超の継続勤務があったため解雇予告手当の支払いを求められた」

・「本採用拒否は採用を取り消すだけで解雇ではないと思い、合理的な理由なく本採用拒否した。留保解約権の行使(解雇)として無効とされ、バックペイの支払いが命じられた」

 試用期間の法的性格を正確に理解した上で対応することが不可欠です。

4. まとめ

 試用期間の法的性格は、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情・本採用との関係における事実上の慣行のいかんを重視して個別に判断されます(三菱樹脂事件最高裁大法廷判決)。多くの企業における試用期間は解約権留保付きの雇用契約が既に成立しており、本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)に当たります。したがって、本採用拒否には客観的合理的理由が必要であり、解雇予告義務も適用されます(14日超の継続勤務の場合)。「試用期間中は自由に解雇できる」という誤解を持ったまま対応すると重大なリスクを招きます。

さらに詳しく知りたい方はこちら

■ 試用期間に関連する記事

■ 問題社員対応の実務

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

経営労働相談はこちら

最終更新日 2026/04/05

労働問題FAQカテゴリ