労働問題998 能力が極端に低い社員にやめてもらうためのコツ
解説動画
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試用期間中に話をつけることが最も重要——本採用後は「話が違う」と感じる 試用期間中は「試しに雇ってもらっている期間」という認識が本人にもある。本採用後にやめてほしいと言うと「なぜ試用期間中に言ってくれなかったのか」という強い反発が生じる。試用期間中は本採用後よりもハードルが下がる(合格点が100点から80点になるイメージ) |
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試用期間の長さは業務内容によって決める——3か月で足りなければ6か月に 3か月で判断できなかった会社は6か月の試用期間を検討する。どれくらいの期間でその方の能力を判断できるかは業種・職種によって異なる。試用期間の長さは「実際の業務内容に応じた合理的な期間」でないと、長すぎると問題になる場合もある |
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やめてもらう理由を具体的事実(5W1H)で説明する——評価だけでは納得されない 「能力が低いから」「みんながダメだと言っているから」という評価だけでは相手は納得しない。何月何日にどんなことをやった・やらなかったから、なぜやめなければならないのかを具体的事実で説明できると退職合意が得やすく退職条件も低く抑えられる |
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弁護士に日本語の文案まで相談しながら進める 法律知識だけでなく「具体的に何をどの順番でどう伝えるか」という日本語の使い方まで弁護士に相談できる。話し合いでのやめてもらい方から解雇・本採用拒否まで、事実の積み重ねがある会社は裁判でも有利な条件で和解が成立しやすい |
目次
01コツ① 試用期間中に話をつける——本採用後と何が違うのか
能力が極端に低い社員にやめてもらうための最初のコツは、試用期間中に話をつけることです。これが最も重要なポイントです。
なぜ試用期間中が重要かというと、本人の納得感が全く違うからです。試用期間中は本人の中にも「試しに雇ってもらっている期間だから、合わなければやめなければならないこともある」という認識があります。そのため、試用期間中に「残念ながらうちの仕事には合わないと判断した」と伝えた場合は、納得はしてもらいにくいかもしれませんが、「話が違う」とはなりにくいです。
一方、試用期間が終わって本採用になった後にやめてほしいと言うと、本人は「なぜ試用期間中に言ってくれなかったのか」「試用期間が終わったということはこの会社でやっていけると思っていた」という強い反発が生じます。「話が違う」「約束が違う」という感覚になるのは当然です。
能力が低いと分かったのであれば、試用期間中に話をつけることを最優先に考えてください。試用期間を過ぎてしまった場合は、本採用後の対応として難易度が上がります。
02試用期間中のハードルが「やや下がる」という意味を正確に理解する
試用期間中の方が本採用拒否・解雇がしやすいということは聞いたことがあると思います。しかしこれについての誤解が多いため、正確に理解しておく必要があります。
試用期間中であっても、本採用拒否・解雇には「客観的に合理的な理由」が必要です。「試用期間中だから解雇してもよい」という発想は間違いです。法的なハードルが「やや下がる」だけであって、ゼロになるわけではありません。
イメージとしては、100cmのハードルが80cmになるようなものです。100cmでギリギリ飛べる方にとっては、80cmに下がることで確実に飛び越えられるようになります。しかし元々80cmでも飛べない方にとっては、変わりません。
つまり「事実の記録と具体的な指導の蓄積」という準備ができている会社にとっては、試用期間中のハードル低下が大きな意味を持ちます。準備ができていない会社にとっては、試用期間中であっても対応が難しいことに変わりはありません。ハードルが下がるという法律上の優位を生かすためにも、試用期間中からの記録と指導の積み重ねが不可欠です。
03コツ② 試用期間を業務内容に合わせて適切な長さに設定する
「試用期間中に話をつけるべき」と言われても、3か月の試用期間では判断がつかないまま終わってしまったという会社が多くあります。「なんとなく怪しいとは思っていたが、もう少し待てばできるようになるかもしれない」と思っているうちに試用期間が経過してしまったというパターンです。
もし過去に「3か月の試用期間中に判断できなかった」という経験がある会社は、試用期間を6か月に設定することを検討してください。3か月の次に多い試用期間の長さは6か月です。就業規則に明記した上で、今後採用する方に対して6か月の試用期間で採用することができます。
試用期間の長さは業種・職種によって必要な期間が違います。どれくらいで判断できるかは、業務内容の複雑さ・学習に必要な時間などによって変わります。合理的な理由なしに長くするのも問題ですが、実際に判断に必要な期間を考えた上で適切な長さに設定することが大切です。
04コツ③ やめてもらう理由を具体的事実(5W1H)で説明する
試用期間中であれ本採用後であれ、退職の話し合いをする場合に最も重要なのは「なぜやめなければならないのか」の説明の仕方です。
「能力が低いから」「みんながダメだと言っているから」という評価だけを伝えても、相手は納得しません。「単に嫌いだから言っているのでは」「周りに嫌われているだけで、自分は悪くない」という受け止め方をされてしまいます。
説得力を持たせるためには、具体的な事実を踏まえた説明が必要です。
このように「いつ・何があった・どう指導した・それでもまたどうだった」という事実の連鎖を示すことで、「気分で言っているわけではない」「自分のことをきちんと見ていた上で言っている」という伝わり方になります。相手がたとえ不満を持っていたとしても、正面から反論しにくくなります。
05事実ベースの説明が退職条件を低く抑える
やめてもらう際に退職条件(退職一時金の支払い、退職後の扱いなど)についての交渉になることがあります。このときに、事実に基づいた説明ができているかどうかが、退職条件の大きさを大きく左右します。
事実に基づいた合理的な理由をしっかり説明できた場合、「確かにその理由であれば仕方がない」と相手が受け入れる可能性が高まります。その結果、退職条件についても「これ以上交渉してもしょうがない」という気持ちになることが多く、相場より低い条件でも合意が得られやすくなります。
逆に理由の説明が不十分なまま「とにかくやめてほしい」という姿勢で臨むと、「理由が分からないのにやめるわけにはいかない」という反発が生じ、高額の退職条件を要求されるか、あるいは全くまとまらないかになります。
きちんと事実を積み重ねて、それを丁寧に伝えることが、退職交渉を有利に進める最大のコツです。
06弁護士に日本語の文案まで相談しながら進める
「自力でやめてもらう話をするのが難しい」という場合は、弁護士への相談をお勧めします。弁護士に相談する内容は、法律・判例の知識だけではありません。「具体的に何をどの順番でどのように伝えるか」という日本語の使い方まで相談することができます。
弁護士が「この事案ではこういう日本語でこの順番で話しましょう」という形で文案を作り、社長やご担当の方がその通りに話していただくという対応も可能です。実際にそういった支援も行っています。
話し合いをしてみたらこういった反応が返ってきた、次にどう返せばよいかという都度の相談も、ZoomやTeamsのオンライン打ち合わせを使えば移動なしで行えます。短時間の打ち合わせを頻繁に入れながら進めることで、実際の状況に合わせたアドバイスを随時得ることができます。
事実の積み重ねがある会社は、裁判になっても有利な条件で和解が成立しやすくなります。本採用拒否・解雇が有効になる可能性も高まります。弁護士と事前に準備をしっかりした上で話し合いに臨むことで、より良い結果につながります。
07退職条件の提示という選択肢
やめてもらう理由をしっかり説明した上でも、どうしても合意が得られない場合は、退職条件を提示することも選択肢の一つです。
例えば「会社都合退職として処理する(雇用保険の給付が有利になる)」「退職日まで出社しなくてよい(自宅待機)」「退職日までの給料は全額保証する」といった条件を提示することで、合意を得やすくなる場合があります。
「自分たちは被害を受けた側なのに、なぜお金を払う必要があるのか」という感覚になる社長もいらっしゃいます。その気持ちは理解できます。しかし裁判になった場合のコスト(時間・費用・ストレス)と比較すれば、ある程度の退職条件を提示して早期に合意を得ることの方が、トータルで有利なことも多いです。
退職条件の内容と金額については、事実の積み重ねと説明の質によって大きく変わります。しっかりした根拠がある場合は最小限の条件で合意できることもありますし、根拠が弱い場合は高額になる傾向があります。
退職条件の提示はあくまでも最後の手段として位置づけ、まず事実に基づいた丁寧な説明から始めることが基本です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員への退職勧奨・対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 試用期間3か月が終わってしまいました。今から本採用拒否はできますか。
A. 試用期間が終わって本採用になってしまった場合は、解雇・退職勧奨という形になります。試用期間中より難易度は上がりますが、事実の記録と具体的な指導の積み重ねがある場合は、退職勧奨での合意が得られる可能性があります。今からでも遅くはありませんので、まず弁護士に現状を説明して対応の方針を相談してください。
Q2. 試用期間6か月に変更したいのですが、すでに3か月で採用した社員がいます。どうすればよいですか。
A. すでに3か月の試用期間で採用した社員に対しては、その条件が適用されます。就業規則を6か月に変更しても、既存の社員への遡及適用は難しいです。今後採用する方に対して6か月の試用期間を適用するために就業規則を変更することは可能です。変更の手続きについては弁護士・社会保険労務士にご相談ください。
Q3. 退職の話し合いをしましたが「やめません」と言い張っています。次にどうすればよいですか。
A. 「やめません」という回答は一回の話し合いで終わりではありません。具体的な事実を踏まえた説明を改めて行うこと、場合によっては退職条件を提示することも選択肢です。また試用期間中であれば本採用拒否、本採用後であれば解雇という法的な手段を検討することになります。次のステップについては、これまでの話し合いの経緯とともに弁護士に相談してください。
Q4. 退職一時金を払う必要がある場合の金額の目安はありますか。
A. 一律の目安はありません。事実に基づいた根拠がしっかりある場合は、退職一時金なしで合意が得られることもあります。一方、根拠が弱い場合や相手の反発が強い場合は相当の金額が必要になることもあります。金額は個別の事情によって大きく変わります。具体的な事案については弁護士に相談した上で方針を決めてください。
最終更新日:2026年5月10日