労働問題999 能力が極端に低い社員に対する教育指導の仕方
解説動画
|
✓
|
「具体的に指導する→目の前でやって見せる→見てフィードバックする」の3ステップ 能力が低い方に抽象的な指示は通じない。「こういった連絡が来た場合はこの手順でこうする」という具体的な指導が必要。言葉だけでも伝わらない場合は目の前でやって見せる。そして実際にやらせてみてフィードバックする |
|
✓
|
別の仕事に配置転換することで一気に活躍する場合がある(タレントマネジメント) ある仕事でダメでも別の仕事では向いている場合がある。人には向き不向きがある。社内に他の仕事があれば配置転換を試みることで、今まで能力不足に見えた方が水を得た魚のように活躍することも |
|
✓
|
体調を崩すほど向いていない仕事を続けさせることは安全配慮義務違反 本人が「やります」と言っても、体調が悪化することが予見できる状況で同じ仕事を続けさせることには問題がある。うつ病・適応障害という診断が出るほどになったら、会社の安全配慮義務として対応が必要 |
|
✓
|
他の会社で活躍してもらうことが本人への本当の配慮になる場合がある 社内に向いている仕事がない場合、向いていない仕事を続けさせて体を壊させてしまうより、別の会社で自分に合った仕事をしてもらう方が本人のキャリアにとって良い結果になる |
目次
01能力が低い方への教育指導は、平均的な方へのやり方とは違う
能力が極端に低い社員が入ってきたとき、周りの先輩・同僚への負担はかなりのものになります。教えても覚えない、ミスをフォローしなければならない、人手不足を解消するために採用したはずなのにかえって手間が増えた——という状況です。
こういった時に最初に整理しておきたいことがあります。能力が低い方への教育指導は、平均的な能力の方へのやり方とは根本的に違うということです。
平均的な能力の方であれば、ある程度抽象的な指示でも理解して動いてくれます。「もう少し積極的に報告・連絡・相談をしてほしい」という言葉でも伝わります。しかし能力が低い方には抽象的な言葉が通じません。もっと具体的に、もっと丁寧に伝える必要があります。「自分が若い頃はそこまで教えてもらわなくてもできるようになったから、やればできるはず」という発想は通用しません。
最初からそう割り切った上で、能力が低い方に合わせた教育指導をすることが必要です。
02ステップ① 具体的に指導する——抽象的な指示は通じない
能力が低い方への教育指導の第一ステップは、とにかく具体的に指導することです。
「報告・連絡・相談をしっかりしてほしい」では足りません。「こういった内容の連絡が来た場合は、誰々さんに対してこんな形で報告する」という手順まで具体的に伝える必要があります。「これをやっておいて」という指示の仕方では、何をどのようにやればよいかが理解できない方もいます。「この手順でこういう形にして、こういう状態になったら完了」というところまで説明しなければなりません。
能力が低いように見える方の多くは、言葉の理解力・抽象的な指示を行動に転換する能力が低い場合が多いです。悪気があるわけでも、わざとやらないわけでもありません。単純に、言葉で言われたことを行動に変換することが苦手なのです。
そういった方に対して「なぜ言ったとおりにできないのか」と責めても解決しません。より具体的に、より細かく伝えることが、教育指導の出発点になります。
03ステップ② 目の前でやって見せる
言葉で具体的に説明しても理解できない場合は、実際にやっているところを見せることが有効です。
言葉を行動に転換する能力は、人によって大きく異なります。言葉だけで理解するのは難しくても、実物を見るとなんとなくイメージができる方もいます。「百聞は一見にしかず」という部分があり、特に仕事の手順・動作・流れについては、実際にやっているところを見ることで理解が深まることがあります。
「そこまでしなければならないのか」と思うかもしれません。しかし能力が低い方を戦力にしようと思うなら、それくらいの手間が必要です。ここをケチると教育の効果が出ません。
もちろんやって見せても理解できない方もいます。しかしやって見せることで一定の理解が得られた場合、その後の習得速度が変わってくることがあります。まずはやって見せることを試してみてください。
04ステップ③ 実際にやらせてみてフィードバックする
具体的な説明と見本を示した後は、実際にやらせてみて、その結果を見てフィードバックすることが第三のステップです。
本人がやった結果を見て、何が良かったか・何を直すべきかを具体的に伝えてください。「よく見てもらえている」という実感が、本人のやる気と改善意欲につながります。逆に、何もフィードバックがなければ何が正しくて何が間違っているかが分からないまま、同じことを繰り返す可能性があります。
フィードバックの際も具体的な事実ベースで行うことが重要です。「もっとちゃんとやってほしい」という抽象的なフィードバックでは何を直せばよいかが分かりません。「〇〇の部分は〇〇という手順でやってほしかった。〇〇の部分は良かった」という形で、具体的に伝えます。
この3ステップ(具体的に指導→やって見せる→フィードバックする)を繰り返すことで、ゆっくりではあっても一定の成長が見られることがあります。また仮に成長が見られなかった場合でも、「具体的に指導して・見せて・フィードバックを繰り返したにもかかわらず改善がなかった」という事実の積み重ねが、後の能力不足の証拠になります。
05指導する側の負担を軽くする工夫——現場の疲弊を防ぐ
こうした丁寧な教育指導には、指導する側の先輩・上司にも大きな負担がかかります。自分の仕事を後回しにして、能力の低い方の指導に多くの時間を使うことになります。
現場からは「もうこれ以上は無理」「どうにかしてほしい」という声が上がることもあるでしょう。社長としてはその声を無視することはできません。経営者として、指導する側の負担が過剰にならないよう配慮することも必要です。
具体的な対策としては、指導役を一人に集中させないこと、指導にかける時間に上限を設けること、指導の成果を定期的に確認して方針を見直すこと、などが考えられます。現場の先輩・上司が疲弊してしまうと、もともと優秀な社員まで辞めてしまうリスクがあります。
06それでも伸びない場合——別の仕事への配置転換を試みる(タレントマネジメント)
3つのステップを丁寧に繰り返しても一向に改善が見られない場合、別の仕事への配置転換を試みることを検討してください。
人には向き不向きがあります。ある仕事では能力が低く見えても、別の仕事では全く違うパフォーマンスを発揮することがあります。これはタレントマネジメントや適材適所の考え方ですが、実際に経験する中で気づくことも多いです。
「この仕事のために採用した方なのに、別の仕事に回すのか」という抵抗感はあるかもしれません。しかし試してみる価値はあります。特にどちらの仕事にも同じような負荷がかかるような会社であれば、別の仕事を試させてみることは合理的な選択肢です。
特定の仕事が全くできなかった方が、別の仕事に就かせた途端に水を得た魚のように活躍する——こういうケースは実際にあります。そうなれば会社にとっても本人にとっても最善の結果です。社内に試せる仕事がある場合は、ぜひ試してみてください。
07体調を崩すほど向いていない場合——別の会社で活躍してもらうことが「配慮」
社内に別の仕事がない場合、あるいは別の仕事を試しても改善が見られない場合に、さらにその状態が続いて本人が体調を崩してしまうほどになっているとしたら、もはや続けさせることが正しいのかを考えなければなりません。
向いていない仕事は苦痛です。早く仕事が終わらないかと時計を見ながら過ごす毎日、頭痛・腹痛・肩こりが続く、薬が手放せない——そこまでなってしまったら、会社の安全配慮義務の問題として対応が必要です。本人が「続けます」と言っても、体調悪化が予見できる状態で働かせることは問題になります。
そういった場合に「やめてもらう」という選択を取ることは、悪いことではありません。向いていない仕事を続けさせて体を壊させてしまうより、やめていただいて別の会社で自分に合った仕事をしてもらう方が、本人のキャリアと健康にとって本当に良い結果につながります。
「雇用を維持することが正義で、やめさせることは悪いこと」という固定観念を持つ方もいますが、本人が活躍できる場がなく体調を崩すほどになっているなら、それは本人にとっても会社にとっても良くありません。向いていない仕事から解放してあげることが、本当の意味での配慮になることがあります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員の教育指導・対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 何度教えても覚えません。どこまで教えれば「能力不足」として扱えますか。
A. 「何回教えたから能力不足」という決まった回数はありません。重要なのは「具体的な指導を繰り返したにもかかわらず改善しなかった」という事実の積み重ねと記録です。何月何日にどのような指導をして、本人がどのように反応したかを記録してください。試用期間中に丁寧な指導と記録を続けることで、能力不足の客観的な証拠が蓄積されます。弁護士に相談しながら方針を決めることをお勧めします。
Q2. 現場の先輩が「もう教えるのは限界だ」と言っています。どうすればよいですか。
A. 現場の先輩の負担への配慮は経営者の責任です。指導役を一人に集中させない、指導にかける時間に上限を設ける、一定期間後に方針を見直すなどの工夫を行ってください。それでも改善が見られない場合は、試用期間中であれば本採用拒否、本採用後であれば退職勧奨を検討します。指導の記録が十分であれば、話し合いでの退職合意も得やすくなります。弁護士にご相談ください。
Q3. 担当している仕事の能力は低いですが、別の仕事でも能力が低い方に配置転換の意味はありますか。
A. 試してみる価値はあります。人には向き不向きがあり、ある仕事でダメでも別の仕事では全く違うパフォーマンスを発揮することがあります。配置転換を試みた結果、改善が見られれば会社・本人ともに良い結果になります。改善が見られなかった場合でも、「別の仕事も試みたが改善しなかった」という事実が能力不足の主張を強化します。社内に試せる仕事がある場合は一度試してみることをお勧めします。
Q4. 本人が「続けます」と言っていますが、体調が悪そうです。どうすればよいですか。
A. 本人が「続けたい」と言っていても、体調悪化が予見できる状態で働かせることは安全配慮義務の問題になりかねません。まず産業医や主治医に状況を相談してください。「この仕事をさせ続けることで体調が悪化するリスクがある」という医師の意見があれば、本人の意向にかかわらず休んでもらう対応も必要になります。また社内に向いている別の仕事があるかどうかも検討してください。判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。
最終更新日:2026年5月10日
