労働問題1003 能力が極端に低い問題社員の対処法

解説動画

この記事の要点

能力不足とは「契約で予定された能力と実際の能力のギャップ」

絶対的に能力が高いか低いかの話ではない。時給1,100円のアルバイトにはその給与に見合った仕事ができれば能力不足ではない。月給100万円で部長として採用した方がそれに見合う仕事をできなければ能力不足。契約で予定された水準との乖離が判断基準

適正な賃金水準で採用する——後から下げるのは極めて難しい

能力が微妙だと気づいた場合、最初から能力に見合った水準で採用するか、低めで契約して実力が分かったら上げるという方法が安全。最初に高い給与で採用してから下げようとするとトラブルになりやすい

教育指導は具体的に——目の前でやって見せる

能力が低い方に抽象的な指示は通じない。具体的に手順を示し、場合によっては目の前でやって見せることが必要。手間暇はかかるが、それが能力不足の方を育てる際の前提

やめてもらうなら試用期間満了までが勝負

試用期間中の方が納得感を得やすく本採用拒否がしやすい。ただし試用期間中であっても「客観的に合理的な理由」と事実に基づく証拠が必要。試用期間の長さは業務内容によって決める(3か月では足りない場合は6か月に)

01ポイント① 能力不足の意味を正しく理解する

 能力不足の問題に向き合う前に、まず「能力不足」という言葉の正確な意味を理解することが重要です。

 雇用における能力不足とは、絶対的に能力が高いか低いかという話ではありません。「その雇用契約で予定されていた能力と、実際の能力とのギャップ」が大きいことを指します。

 例えば月給100万円で特定の部門を任せることを前提に採用した部長が、その職責に見合う仕事ができなければ能力不足です。一方、大学を卒業したばかりの若い方を適正な給与で採用した場合、すぐに社会で通用するような高い能力を要求するのは難しく、むしろ教育しながら育てていくことが最初から予定されているとみなされます。時給1,100円のアルバイトであれば、その給与に見合った仕事ができていれば能力不足とは言えません。

 つまり能力不足かどうかは、その方の絶対的なスキルレベルではなく、雇用契約において予定されていた水準との比較で決まります。この理解が、以降の判断と対応の土台になります。

02ポイント② 能力不足に気づいて採用してしまうことの問題

 能力が低い社員を取ってしまうケースには2つのパターンがあります。一つは採用面接時には見抜けずに採用した場合。もう一つは面接段階で「この人、ちょっと微妙かな」と気づいていながら採用してしまった場合です。

 後者のパターンが意外と多くあります。人手不足でとにかく早く補充しなければならない、あるいは応募者が少なくて選べない状況から、気になるサインを見ながらも採用に踏み切ってしまうのです。

 しかし採用面接の段階で「ちょっとおかしいかも」「うちの仕事に向いてないかも」と感じた直感は、多くの場合当たります。入社後に「やっぱりダメだった」となってからやめていただくには手間も時間もコストもかかります。

 もし採用段階で能力的に微妙だと気づいた場合は、不採用にする勇気が必要です。どうしても採用しなければならない場合は、その方の能力水準に見合った扱いで採用し、育てる覚悟を最初から持つことが大切です。

03ポイント③ 適正な賃金水準での採用——後から下げるのは困難

 能力が微妙だと感じながら採用する場合、賃金水準の設定が非常に重要です。一旦決めた給与を後から下げることは、労働条件の不利益変更になるため、本人が同意しない限り原則としてできません。

 「まず採用して、後から能力に見合った水準に下げよう」という発想は危険です。本人の立場からすれば、その給与水準を信じて入社したわけです。「当初30万円と言われたから来たのに、後から20万円に下げると言われても納得できない」というのは当然の反応です。

 能力が微妙だと判断した場合の安全な対応は二つです。一つは、その能力水準に見合った低めの給与で採用すること。もう一つは、実力が分かった段階で上げていくことを最初から約束した上で、低めの水準から始めることです。

 こうすることで、後から「思ったより能力がある」と分かれば引き上げることができます。逆に期待を下回った場合も、最初から能力相応の水準で採用していれば、過度なトラブルになりにくいです。

04ポイント④ 教育指導は具体的に——目の前でやって見せる

 採用が決まり実際に働かせてみたところ能力が足りないと分かった場合、育てていくためには教育指導が必要です。ここで多くの会社が間違えることがあります。

 能力が高い方であれば、ある程度抽象的な指示でも理解して行動してくれます。しかし能力が低い方に対して抽象的な指導では通じません。「報告・連絡・相談をしっかり行うこと」と言っても、具体的にどのタイミングで・誰に・どんな形で行うのかまで教えなければ意味がわからない方もいます。

 能力が低い方への教育指導の基本は「具体的に」です。こういった連絡が来た場合は、この手順でこう対応するという形で、具体的な状況と具体的な行動をセットで伝えます。

 さらに効果的なのは「目の前でやって見せる」ことです。言葉だけでは理解が難しい方でも、実際にやっているところを見るとイメージがつかめることがあります。手間はかかりますが、それが能力の低い方を育てようとするなら必要な作業です。

 経営者として、こういった丁寧な教育ができる職場環境を整えることも重要です。現場の先輩が疲弊しないよう配慮することも必要です。

05ポイント⑤ やめてもらうなら試用期間満了までが勝負

 どうしてもやめていただかなければならないと判断した場合、試用期間中に話をつけることが最も重要です。

 なぜかというと、試用期間中は本採用拒否に対して本人が納得しやすいからです。「試しに雇ってもらっている期間なのだから、合わなければしょうがない」という感覚が本人にもあります。一方、試用期間が経過して本採用になると、「もうこの会社でやっていける、よほどのことがない限りやめさせられることはない」という認識が生まれます。その状態で「能力が低いからやめてほしい」と言われると「話が違う」と感じるのは当然です。

 試用期間の長さは会社や業種によって適切な期間が違います。3か月で十分に判断できる会社もあれば、3か月では判断がつかず4か月・5か月経ってから「やはりダメだ」と確信できる会社もあります。後者の場合は、試用期間を最初から6か月に設定することをお勧めします。3か月で判断できなかった経験がある会社は、6か月の試用期間を設けることで対応の幅が広がります。

06試用期間中も客観的な証拠が必要

 試用期間中は本採用後と比べてハードルが下がることは確かですが、それは「客観的に合理的な理由が不要になる」という意味ではありません。合格点が100点から80点に下がるようなイメージで、判断基準が緩やかになるだけです。

 「みんなダメだと言っている」「長年の経験から直感的にダメだとわかる」というだけでは足りません。何月何日の何時頃にどんなことがあって、どのような問題が生じたのかという具体的な事実と証拠が必要です。

 こうした記録がある会社は、本採用拒否が有効になる可能性が高まるだけでなく、話し合いでやめていただく際にも説得力のある根拠を示せます。事実の積み重ねと記録が、試用期間中の判断と対応の基盤になります。具体的な記録の取り方については次の記事で解説します。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員の対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 能力不足の社員をやめさせることはできますか。

A. できますが、条件があります。「能力が低い」という評価だけでは不十分で、何月何日にどんなことがあって仕事ができなかったかという具体的な事実と証拠が必要です。また試用期間中の方が本採用後よりやめていただきやすいため、判断と対応は試用期間中に行うことが重要です。弁護士に相談しながら対応することをお勧めします。

Q2. 試用期間3か月では判断できずに本採用してしまいました。今からでも対応できますか。

A. 対応できますが難易度は上がります。本採用後は試用期間中と比べてより高い水準の根拠(客観的な事実の積み重ね、注意指導の記録など)が必要です。また話し合いによる合意退職を目指す場合は、なぜやめていただかなければならないかを具体的な事実で説明できるようにすることが重要です。弁護士に相談しながら対応の方針を検討してください。

Q3. 採用面接で能力不足かもしれないと思いましたが人手不足で採用しました。どう対応しますか。

A. 採用した以上、育てる覚悟を持って臨んでください。教育指導は具体的に行い、場合によっては目の前でやって見せることが必要です。同時に試用期間中から業務遂行状況を記録しておくことをお勧めします。やめていただく必要が生じた場合に備えた記録でもあり、教育指導の効果を高める取り組みでもあります。

Q4. 試用期間を6か月にしたいのですが、就業規則が3か月になっています。変更できますか。

A. 就業規則の変更は可能ですが、既存の従業員への不利益変更にならないよう注意が必要です。また今後採用する方に対して6か月の試用期間を設ける場合は、求人情報などに明示することが必要です。変更の手続きや法的な注意点については弁護士・社会保険労務士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

労働問題FAQカテゴリ