労働問題1001 能力が極端に低いことを立証する方法

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この記事の要点

「能力が低い」は評価であり事実ではない——事実(5W1H)が必要

「出来が悪い」「能力不足」という言葉は評価。評価だけでは相手を説得できないし裁判でも通じない。「何月何日・どこで・誰が・どのように・何をしたか・しなかったか」という具体的な事実を踏まえて評価につなげる必要がある

試用期間中から毎日の業務遂行状況を記録する

本人の当日の業務と感想を書いた日報を提出させ、上司がコメント(具体的な事実ベース)を入れる形を試用期間中は続ける。これが能力不足の証拠にもなり、教育指導の記録にもなる

具体的な教育指導をすると証拠と教育効果が両立する

「こういうことがあった時はこの手順でこうする」という具体的な指導をすると、その指導の内容と結果が自然に事実として蓄積される。目の前でやって見せる指導は特に効果的

褒める時も改善を促す時も具体的事実ベースで

できたことを褒める時も、改善すべきことを伝える時も、具体的な事実を踏まえて行う。「よく見てもらえている」という実感が本人のやる気につながり、改善を促す言葉の説得力も上がる

01なぜ「みんなそう思っている」では足りないのか

 能力が低い社員の問題を弁護士に相談する際、「一体どんなことがあって能力が低いと言えるのか」と聞かれると、ある程度は話してもらえますが、具体的にいつのことなのかまで準備できている方は多くありません。

 「みんなが能力低いと思っている」「周りの社員全員が証言してくれる」という話を聞くことがあります。しかし「みんなそう思っている」という評価だけでは、能力不足を立証することはできません。そのような評価だけでは裁判でも勝てません。

 なぜかというと、能力が低いという「評価」と、実際に何があったかという「事実」は別物だからです。評価だけを本人に伝えても、「単に嫌いだから言っているのではないか」「気分で言っているのではないか」という反発が生じます。事実を踏まえてはじめて、評価に説得力が生まれます。

02「能力が低い」は評価——事実(5W1H)が必要な理由

 「出来が悪い」「能力が不足している」という言葉は評価です。事実ではありません。評価は見方によって変わります。本人が「自分は能力不足ではない」「単に嫌われているだけだ」と感じれば、それに対して反論することは難しくなります。

 事実とは「何月何日の何時頃・どこで・誰が・どのように・何をしたか(しなかったか)」というものです。この5W1Hで語れる具体的な出来事が事実であり、その事実を積み重ねることで初めて「能力不足」という評価に客観的な根拠が生まれます。

 裁判官が興味を持つのも事実です。「みんなが能力不足だと言っている」という評価より、「何月何日に何をやって、どのような問題が生じたか」という事実の積み重ねが、判断の材料になります。

03試用期間中から毎日の業務遂行状況を記録する

 では具体的にどのように事実を積み重ねればよいのでしょうか。最も効果的なのは、試用期間中から毎日の業務遂行状況を記録することです。

 具体的な方法としてお勧めするのは、日報形式での記録です。本人にその日の業務内容と感想を書かせて提出させ、直属の上司または先輩がコメントを入れます。この記録を試用期間中は毎日続けます。

 この方法の利点は、証拠の蓄積と教育指導の記録が同時に行えることです。日報には「何をやったか」という本人の業務内容が記録されます。上司のコメントには「何が問題で、どのように指導したか」が記録されます。後から「どんな事実があって・どんな指導をして・それでもできなかったか」という一連の流れを示すことができます。

04上司コメントも具体的な事実ベースで——抽象的な評価を書かない

 日報に上司がコメントを入れる際、気をつけなければならないことがあります。抽象的な評価を書いても意味がないということです。

 「頑張りましょう」「まだ足りません」「もっと積極的に」という抽象的なコメントは証拠として弱いです。それどころか、「改善すべき点を伝えたとしても、それが抽象的すぎて本人が何を直せばよいかわからなかった」という反論の余地を与えてしまうことがあります。

 上司のコメントも具体的な事実ベースで書いてください。「本日〇時頃、〇〇という作業を担当してもらったが、手順の〇〇の部分で〇〇というミスがあった。こうした場合は〇〇という手順でやってほしい」という形です。

 こうすることで、「何について・どのように指導したか」という教育指導の記録にもなります。後から「丁寧に具体的な指導を繰り返したにもかかわらず改善しなかった」という事実の連鎖を示すことができます。

05具体的な教育指導が証拠と教育効果を両立させる

 具体的に教育指導することには、証拠の蓄積と教育効果の向上という二つの効果があります。

 抽象的な指導では能力の低い方に通じません。「こういった連絡が来た場合は、誰々さんに対してこんな風に何をすればよいか」という具体的な手順まで教えなければなりません。場合によっては目の前でやって見せることも必要です。言葉で聞いてもなかなか理解できない方でも、実際にやっているところを見ると理解できることがあります。

 こうした具体的な教育指導を続けていると、「何月何日に・どのような状況で・どのように指導した・本人はこのように反応した」という事実が自然に蓄積されていきます。特別に証拠集めをしようとしなくても、丁寧な教育指導をしていれば事実は積み重なっていくのです。

 そして丁寧に具体的な教育指導をしたにもかかわらず改善がなかったという事実こそが、能力不足を立証する最も強い証拠になります。

06褒める時も改善を促す時も事実ベースで——「よく見てもらえている」という実感が大事

 日報へのコメントや日々の指導において、注意すべき点があります。できていない点は具体的に伝えなければなりませんが、できている点も同様に具体的に伝えることが大切です。

 人はポジティブなことを伝えやすく、ネガティブなことは伝えにくいものです。しかし職場では改善すべきことも率直に伝えなければなりません。耳の痛いことを逃げずに伝えることが上司の仕事です。

 ただしその際に重要なのは、「よく見てもらえている」という実感を本人に与えることです。具体的な事実を踏まえて褒めると、「本当に自分のことをちゃんと見ていてくれている」という実感につながります。同様に、改善を促す場合も具体的な事実を踏まえて伝えると、「なんとなくダメだと言っているわけではない」「自分のことを見た上で言っている」という受け止め方をしてもらいやすくなります。

 抽象的な評価だけを伝えると「嫌いだから言っているのだろう」と感じさせてしまいます。具体的な事実ベースで褒めたり改善を促したりすることで、相手の受け止め方も変わり、指導の効果が上がります。

 この手間暇のかかる作業が、能力不足の立証にもつながり、教育指導の効果も高めます。試用期間中は少なくとも、この記録作業を丁寧に行うことをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員の対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 周りの社員みんなが「あの人は能力が低い」と言っています。これは証拠になりますか。

A. 「みんなそう言っている」という評価だけでは、能力不足の立証として不十分です。裁判で問われるのは評価ではなく事実です。「何月何日にどんなことがあって、どのような問題が生じたか」という具体的な事実を積み重ねてください。みんなの証言は、具体的な事実の裏付けがあって初めて意味を持ちます。

Q2. 日報を書かせることに意味はありますか。面倒くさいだけではないですか。

A. 意味があります。試用期間中の日報(本人の業務内容と感想+上司の具体的なコメント)は、能力不足の証拠にもなり、教育指導の記録にもなります。特に能力が低い方を育てようとする場合、具体的な指導の記録が残っていることで「丁寧に指導したにもかかわらず改善しなかった」という事実の連鎖が証明できます。手間はかかりますが、試用期間中だけでも丁寧に行う価値があります。

Q3. 日報を書かせていますが、上司のコメントはどのように書けばよいですか。

A. 抽象的な評価(「頑張りましょう」「まだ足りない」など)ではなく、具体的な事実ベースで書いてください。「本日〇時頃、〇〇という作業をしてもらったが、〇〇の部分で〇〇というミスがあった。こうした場合は〇〇という手順でやってほしい」という形です。できている点を褒める場合も、何が良かったかを具体的に書くことで「よく見てもらえている」という実感につながります。

Q4. すでに本採用しています。今から記録をつけても意味がありますか。

A. 今から始めても意味があります。本採用後は試用期間中より高い水準の証拠が必要になりますが、「今後の具体的な教育指導の記録と、それでもなお改善がなかった事実の積み重ね」は引き続き重要です。今日から具体的な事実ベースの指導と記録を始めてください。また退職勧奨を目指す場合でも、「これだけ指導したが改善しなかった」という事実を示すことで話し合いの説得力が増します。

最終更新日:2026年5月10日

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