労働問題1000 職種限定の合意が認められるケースの注意点【会社側弁護士が解説】
解説動画
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「微妙かも」と気づいた直感は当たる——痩せ我慢して不採用にする 人手不足で焦って採用すると、後で「やっぱりダメだった」となるケースが多い。「微妙かも」という直感は大体当たる。不採用にするのは会社のためだけでなく、合わない仕事に就かせてしまう本人のためにもなる |
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採用された本人にとっても合わない仕事は不幸 ストレスで体調を崩す、せっかく就職したのにやめさせられることになる。本人のキャリアにとっても良くない。「採用してあげた」という感覚ではなく、会社の仕事に本当に合っている人かどうかを見極めて採用することが、お互いのためになる |
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社会貢献で採用する場合——周りの社員への負担と給料への影響を考える 「どうせ他社に行っても取ってもらえないから採用してあげる」という社会貢献の発想はある意味立派だが、周りの社員の負担増・給料引き上げへの影響が生じる。他の社員の心情への配慮も経営者の責任 |
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根本的な解決策は「仕事のやり方を変える」こと——雇用の質も社会貢献 人が集まらないなら採用基準を下げるのではなく、AI・技術活用や業務設計の見直しで「それほど高い能力がなくてもできる仕事のやり方」に変えていく。たくさん雇うことだけでなく給料を上げて雇用の質を高めることも社会貢献 |
目次
01「微妙かも」と気づきながら採用してしまうパターン
能力不足の社員を採用してしまうケースには、大きく分けて二つのパターンがあります。一つは採用面接の段階では見抜けずに採用した場合。もう一つは、面接段階で「この人、ちょっと微妙かも」「うちの仕事に向いていないかもしれない」と気づいていながら、それでも採用してしまった場合です。
後者のパターンについて本記事では詳しく取り上げます。なぜ気づいていながら採用してしまうのでしょうか。最も多い理由は人手不足です。現場から「早く人を補充してほしい、このままでは回らない」というプレッシャーがある中で、面接でなんとなく気になるサインがあっても、「もしかしたら大丈夫かもしれない」「やらせてみたらできるようになるかもしれない」と自分に言い聞かせて採用してしまうのです。
しかしこうした「微妙かも」という直感は、残念ながら多くの場合当たります。入社後に「やっぱりダメだった」となり、周りの先輩方から苦情が上がり、対応に時間と手間がかかる——という事態になるのです。
しかも問題が解決するまでの間、現場の人手不足は全く解消されていません。むしろ能力の低い方を教えるための手間が増えて、現場の負担がかえって増えてしまうことも多いです。
02採用した本人にとっても合わない仕事は不幸
「微妙かも」と気づきながら採用することの問題は、会社側だけの問題ではありません。採用された本人にとっても、合わない仕事に就かされることは不幸です。
向いていない仕事はストレスになります。早く仕事が終わらないかと思いながら毎日過ごすことになります。ひどい場合は体調を崩してしまいます。うつ状態や適応障害という診断が出ることもあります。そして最終的には「能力が低いのでやめてほしい」と言われることになります。やっと就職できたと思ったのに、合わない仕事を続けた末にやめさせられる——これは本人のキャリアにとっても大きな傷になります。
会社の都合だけを考えて「とにかく人手が足りないから採用した」という発想では、本人にとって本当に不幸な結果になることがあります。
大切なのは、「この仕事にこの人は本当に合っているか」という視点から採用を判断することです。合っていない方を採用することは、その方にとって良くないことだという認識を持ってください。他の会社から声がかかっていたのに断ってうちに来てくれたのだとすれば、なおさらその責任は大きいです。
03痩せ我慢して不採用にする——どうしても採用するなら覚悟が必要
「微妙かも」と気づいた場合の基本的な対応は、不採用にすることです。人手不足でプレッシャーがあっても、ここは痩せ我慢してください。
採用してから後悔するよりも、採用しないで引き続き別の応募者を探す方が、長い目で見れば会社にとっても本人にとっても良い結果につながります。
ただしどうしても採用しなければならない状況もあります。その場合は覚悟を決めて採用してください。「微妙だとは思ったけれども採用した。ということは、育てていくことも含めて引き受けた」という覚悟です。その覚悟なしに「やっぱりダメだからやめてほしい」という対応をしても、うまくいきません。
どうしても採用する場合は、適正な賃金水準(能力に見合った給与)で採用することと、教育して育てる覚悟を持つことが前提になります。「採用したけれどやめてもらいたい、でもやめてもらうのは大変」というところからは、最初の採用判断から見直すことが最も根本的な解決策です。
04「社会貢献」として採用する場合の問題点
能力不足だと気づきながら採用する理由として、「社会貢献」というものがあります。「他の会社に行っても取ってもらえないだろうから、うちで採用してあげる」という発想です。ある意味立派な考え方です。
しかしこの発想で採用を続けると、いくつかの問題が生じます。
周りの社員の負担が増える
能力の低い方を採用すると、周りの先輩・同僚が教えることにも、ミスをフォローすることにも、余分な手間がかかります。本来ならその時間と労力を自分の仕事に使えたのに、それができなくなります。一緒に働いている方々の不満が積み重なっていきます。
他の社員の給料に影響する
同じ仕事を普通の能力の方なら1人でできるところを、5人でこなすことになれば、会社の支出は増えます。その余分なコストが、頑張っている他の社員への給料引き上げを難しくする要因の一つになります。
社会貢献のつもりで能力不足の方を採用し続けた結果、頑張っている社員たちの給料がなかなか上がらないという状況になる——これは、その頑張っている社員たちにとって納得のいく話でしょうか。
社会貢献には最後まで貫く覚悟が必要
社会貢献の観点から採用する場合は、本人が勤めたいと言っている限りずっと雇い続けるぐらいの覚悟があるならば、それはそれで一つの経営判断です。しかし最初はそういうつもりで採用したのに、周りとの折り合いがつかなくなったりしてやめてもらわざるを得なくなる——そういったケースも実際には多くあります。途中でやめてもらうことになると、本人にとっても最悪の結果です。社会貢献という名目で採用するなら、最後まで貫く覚悟が必要です。
05根本的な解決策——仕事のやり方を変えること
「人手不足でどうしても誰かを採用しなければならないが、いい人が来ない」という状況への根本的な解決策は、採用基準を下げることではありません。「仕事のやり方自体を変えること」です。
これは大きな話です。しかし考え方は明確です。今の仕事のやり方のまま採用基準を下げても、入ってきた方がすぐに参ってしまうか、仕事にならないかのどちらかです。それよりも、メンタルがそれほど強くなくても・能力がそれほど高くなくても担当できるような仕事のやり方に変えていくことが、本質的な解決につながります。
AI・技術の活用
生成AIをはじめとした様々なツールを業務に投入することで、これまで人の判断・作業が必要だったものの一部を自動化・効率化できる可能性があります。過去のやり方をどんどん見直して、最新のツールと入れ替えていくことで、必要な人員数や求められる能力水準が変わってくることがあります。
業務設計・設備投資の見直し
例えば注文を取る人手が集めにくいのであれば、性能のよい券売機を導入するという選択肢があります。初期投資はかかりますが、一人の給与を何か月か支払う金額と比較すると、意外に見合うケースもあります。
業種によって具体的な方法は様々ですが、「今の仕事のやり方」を前提とせずに「どうすれば少ない人員で・より低い能力の方でも担当できるようになるか」という発想から業務の設計を見直すことが、人手不足への根本的な対応になります。
06雇用の質も社会貢献——たくさん雇うことだけが社会貢献ではない
かつての日本社会では「雇用すること自体が社会貢献」というニュアンスで語られることが多くありました。しかし今は雇用の質——つまり給料の高さ——もまた、重要な社会貢献の一形態として考えるべきではないでしょうか。
「雇えばいい」という発想で採用を続けると、安い給料のままたくさんの人を雇っている状態になりかねません。しかし1時間あたりの賃金がいくらかという問いに正面から向き合ったとき、それが本当に社員の方々の生活を支えるものになっているかどうかを考えなければなりません。
能力不足の方を無理に採用し続けた結果、周りの社員の給料が上げられない——という状況は、一人ひとりの社員の雇用の質を下げていることになります。
たくさん雇うことだけでなく、適正な人数で・しっかり稼げるようにして・良い暮らしができるようにする——これも会社経営者の責任です。「雇用を増やすのが社会貢献」という視点と同時に「雇用の質を高めるのも社会貢献」という視点を持つことが、これからの時代には大切です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。採用・能力不足問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 面接で「微妙かも」と感じましたが人手不足で採用しました。今後どう対応すればよいですか。
A. 採用した以上、育てる覚悟を持って臨んでください。能力に見合った賃金水準で採用できているかも確認してください。試用期間中から毎日の業務遂行状況を記録し(日報形式+上司コメント)、具体的な教育指導を重ねることで、能力不足の証拠にも教育効果にもつながります。どうしてもやめてもらわなければならない状況になった場合は、試用期間中に話をつけることを優先し、弁護士に相談しながら進めてください。
Q2. 社会貢献として能力の低い方を採用することは間違っていますか。
A. 間違いとは言いませんが、周りの社員への影響と、本人にとって本当に良いことかどうかを考える必要があります。周りの負担が増えることや給料引き上げへの影響、そして合わない仕事を続けさせることで本人が体調を崩す可能性なども含めて考えてください。社会貢献として採用するなら、最後まで貫く覚悟が必要です。途中でやめてもらうことになれば、本人にとって最悪の結果になります。
Q3. 人手不足でどうしても採用が難しいです。根本的な解決策はありますか。
A. 「仕事のやり方自体を変えること」が根本的な解決策です。採用基準を下げるのではなく、AI・各種ツールの活用や業務設計の見直しによって、それほど高い能力がなくてもこなせる仕事のやり方に変えていくことを検討してください。設備投資(券売機の導入等)も含めて、今のやり方を前提としない発想で業務を再設計することが必要になる場合があります。
Q4. 採用した方に「周りから苦情が出ているからやめてほしい」と伝えたいのですが、うまく伝える方法はありますか。
A. 「周りから苦情が出ている」という伝え方だけでは説得力が弱く、「嫌いだから言っているのでは」と受け止められる可能性があります。大切なのは具体的な事実(何月何日にどんな状況で何ができなかったか)と、どのように指導したかの記録を踏まえて伝えることです。具体的な日本語の伝え方まで含めて弁護士に相談することをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日