労働問題343 時間外・休日・深夜に労働させた場合でも残業代を支払わない旨の合意は有効ですか。

この記事の要点

残業代(割増賃金)を支払わない旨の合意は、たとえ労使双方が納得・合意していても無効——労基法13条の強行的効力による

「お互い合意しているから問題ない」という考えは法律上通用しません

根拠は労基法13条——「労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効となり、無効となった部分は労基法の基準による」

残業代支払義務(労基法37条)を下回る合意はその部分が自動的に無効となります

時間外・休日・深夜の割増賃金の支払は労基法37条で義務付けられており、これを免除する合意は労基法13条により無効となる

「支払わない」「支払わなくてよい」という合意・規定はいずれも無効です

無効となった部分には、労基法の基準(労基法37条に基づく割増賃金の支払義務)が適用される——合意が無効になっても残業代支払義務は消えない

無効になった「支払わない」という条項は、「労基法どおりに支払う」に自動的に置き換わります

01残業代を支払わない旨の合意はなぜ無効になるのか——労基法13条の強行的効力

 「社員本人が残業代を受け取らないと同意しているのだから問題ないのでは?」という疑問を持つ使用者の方は少なくありません。しかし、残業代(割増賃金)を支払わない旨の合意は、たとえ労使双方が納得・同意していても無効となります。

 その根拠が労基法13条(強行的効力)です。労基法13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」と定めています。

 この規定は、労基法を「当事者の合意によっても下回ることのできない最低基準」として設定したものです。使用者と労働者の間の力関係の差(使用者が交渉上優位に立ちやすいという構造的問題)に対応するため、労働者の権利を保護する観点から、労使の合意があっても労基法を下回る労働条件は認められないとしています。

02労基法37条——残業代支払義務の法的根拠

 時間外・休日・深夜に労働させた場合の残業代(割増賃金)の支払は労基法37条で義務付けられています。

労働の種類 根拠 割増率(最低)
時間外労働(週40時間・1日8時間超) 労基法37条1項 25%以上(月60時間超は50%以上)
法定休日労働(1週1休) 労基法37条1項 35%以上
深夜労働(22時〜5時) 労基法37条4項 25%以上

 時間外・休日・深夜に労働させた場合であっても労基法37条に定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の合意は、労基法13条により無効となります。

03合意が無効になった後の法的効果——残業代支払義務は消えない

 「支払わない旨の合意が無効になった」としても、残業代支払義務が消えるわけではありません。労基法13条後段は「無効となった部分は、この法律で定める基準による。」と定めており、無効になった「支払わない」という条項は自動的に「労基法37条の定める割増率で支払う」という内容に置き換わります。

労基法13条の「二段階の効果」
第1段階:労基法の基準に達しない部分は無効となる
(例:「残業代を支払わない」という条項→無効)

第2段階:無効となった部分は労基法の基準による
(例:「残業代を支払わない」→「労基法37条の定める割増率で支払う」に置き換わる)

つまり、合意が無効になっても「残業代なし」とはならず、「労基法37条どおりの残業代の支払義務が生じる」という結果になります。

04「合意したから支払わなくてよい」という思い込みが招くリスク

 「社員から残業代不要の同意を取っているから大丈夫」という思い込みで残業代を支払わずにいると、以下のようなリスが生じます。

「合意したから大丈夫」という思い込みが招く典型的なリスク

リスク①「退職後の残業代請求」:在職中は「合意しているから」と請求しなかった社員が、退職後に弁護士や労働組合の後押しを受けて時効(3年)の範囲で遡及した未払残業代を請求してくるケース。合意が無効であるため、支払を拒否することはできません。

リスク②「付加金(労基法114条)の支払命令」:残業代支払義務(労基法37条)に違反した場合、裁判所は未払残業代と同額の付加金の支払を命じることができます。実際には未払残業代の2倍相当の金額を支払うことになる可能性があります。

リスク③「労働基準監督署による是正指導」:残業代不払いの事実が発覚した場合、労働基準監督署の是正勧告・是正指導の対象となります。

05まとめ

 時間外・休日・深夜に労働させた場合でも残業代(割増賃金)を支払わない旨の合意は、たとえ労使双方が納得・同意していても労基法13条により無効となります。残業代の支払は労基法37条で義務付けられており、これを下回る合意は労基法の強行的効力(労基法13条)により当然に無効となり、無効となった部分には労基法37条の基準(割増賃金の支払義務)が適用されます。「合意したから支払わなくてよい」という思い込みは退職後の残業代請求・付加金・労基署の是正指導等の重大なリスクにつながります。残業代の問題については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 社員が「残業代は不要」と自ら申し出てきました。この場合でも残業代を支払う必要がありますか。

A. 支払う必要があります。労働者本人が申し出た場合であっても、残業代(割増賃金)を支払わない旨の合意は労基法13条により無効です。労基法37条の残業代支払義務は使用者と労働者の双方の合意でも排除できません。「本人が不要と言ったのだから」という理由で支払わないでいると、後日請求を受けるリスがあります。

Q2. 付加金(労基法114条)とはどのようなものですか。

A. 残業代(割増賃金)の支払義務(労基法37条)に違反した場合、裁判所は使用者に対して未払残業代と同額の付加金の支払を命じることができます(労基法114条)。つまり、未払残業代100万円の場合、付加金として別途最大100万円の支払が命じられる可能性があり、合計200万円を支払うことになる場合があります。付加金は労働者の悪意(故意・重大な過失)等の事情を考慮して裁量的に決定されますが、長期間にわたる残業代不払いは付加金の対象となりやすいです。

Q3. 残業代の時効はどのくらいですか。

A. 2020年4月1日以降に発生した残業代の時効は3年です(改正前は2年)。在職中は請求しなかった社員が退職後に弁護士等を通じて請求してくる場合、退職時点から遡って最大3年分の未払残業代が請求対象となります。時効については関連記事(277番)で詳しく解説しています。

最終更新日:2026年5月10日

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