労働問題326 個別労働契約において管理職は管理監督者として扱い残業代(割増賃金)を支給しない旨規定し労働者に署名押印させるなどしてその同意を得ていた場合であっても、管理職に残業代(割増賃金)を支払う必要がありますか。
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労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効(労基法13条)——個別労働契約による「残業代不支給への同意」も、管理監督者に当たらない場合は無効となる 「同意があるから支払わなくてよい」という考えは法律上認められません |
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管理監督者に当たらない場合は、個別労働契約の内容にかかわらず、労基法37条1項に基づき時間外・休日割増賃金の支払義務が生じる 署名押印・同意書があっても、管理監督者性の実態がなければ残業代請求を防げません |
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深夜割増賃金(22時〜5時)については、管理監督者かどうかにかかわらず、労基法37条4項に基づき支払義務がある(312番参照) 深夜割増賃金の不支給への同意も、同様に無効となります |
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労基法の強行的効力(労基法13条)は、使用者・労働者双方が合意した労働契約にも及ぶ——労使間の合意によって労基法の規制を排除することはできない 労基法は民法の特別法として優先的に適用されます |
目次
01労基法13条の強行的効力——「同意があれば残業代不要」は誤り
労基法13条は次のとおり定めています。「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」
この規定は労基法の「強行的効力」を定めたものです。労基法は使用者・労働者双方が合意した労働契約の内容についても及ぶため、労使間の合意(個別労働契約)によって労基法の規制を排除することはできません。
個別労働契約に「管理職は管理監督者として扱い残業代(時間外・休日割増賃金)を支給しない」という条項を設け、労働者に署名押印させて同意を得ていたとしても、その条項が労基法37条(割増賃金の支払義務)に達しない(= 下回る)ものであれば、その部分は無効となります。
無効となった部分は、労基法で定める基準(労基法37条に基づく割増賃金の支払義務)が適用されることになります。
02個別労働契約で管理監督者扱いに同意していても残業代の支払義務は消えない
個別労働契約において管理職は管理監督者として扱い残業代(割増賃金)を支給しない旨規定し労働者に署名押印させるなどしてその同意を得ていた場合であっても、管理監督者に当たらない場合は、管理職に対し、労基法37条1項に基づき残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う必要があります。
管理監督者への該当性は、312番〜325番で解説したとおり、肩書や個別労働契約の内容ではなく、実態に即して判断されます(314番参照)。個別労働契約で「管理監督者として扱う」と合意しても、実態として管理監督者の要件を満たさない場合は「名ばかり管理職」として扱われ、残業代の支払義務が生じます。
「同意書・署名押印で残業代を免れる」という考えは誤り
よくある誤った対策として「昇進時に管理職(管理監督者)として残業代不支給に同意する書類に署名押印させる」という対応が見られますが、管理監督者性の実態がなければ労基法13条により当該合意は無効となり、残業代請求を防ぐ効果はありません。同意書の存在は「労働者が管理監督者扱いに同意していた」という事実にはなりますが、管理監督者性の判断そのものには影響しません。
03深夜割増賃金の支払義務は管理監督者かどうかにかかわらず残る
深夜(22時〜5時)に労働させた場合には、管理監督者であるかどうかにかかわらず、労基法37条4項に基づき深夜割増賃金を支払う必要があります(312番参照・ことぶき事件最高裁H21.12.18)。
したがって、仮に個別労働契約において「深夜割増賃金も支払わない」旨の合意があったとしても、これは労基法37条4項(深夜割増賃金の支払義務)に達しない(= 下回る)ものとして、労基法13条により無効となります。管理監督者であっても、管理監督者でなくても、深夜割増賃金の不支給への合意は認められません。
04実務上の注意点——「同意書」に頼るリスク
「管理監督者扱いに同意する書類への署名押印」という対応は、労基法13条の強行的効力の前に実質的な効力を持たないだけでなく、以下のようなリスクをはらんでいます。
「同意書」に頼ることの実務上のリスク
・同意書があっても管理監督者性の実態がなければ残業代の支払義務は消えない(本記事02節参照)
・「管理監督者扱いに同意する書類に署名させた」という事実は、訴訟において「使用者が自社の管理職が管理監督者に当たらない可能性を認識していながら同意書という形で逃れようとした」と評価されるリスがある
・付加金(労基法114条)や悪意の受益者として延滞損害金(年14.6%)の支払を命じられる可能性が残る
・根本的な解決策は同意書ではなく、管理監督者性の実態を伴った制度設計を行うことである
05まとめ
個別労働契約において管理職は管理監督者として扱い残業代を支給しない旨規定し署名押印させて同意を得ていた場合であっても、管理監督者に当たらない場合は、労基法13条(強行的効力)により当該条項は無効となり、労基法37条1項に基づく時間外・休日割増賃金の支払義務が生じます。また、深夜割増賃金については管理監督者かどうかにかかわらず労基法37条4項に基づき支払義務があり、不支給への同意も無効です。「同意書」は残業代請求に対する根本的な対策とはならず、管理監督者性の実態を伴った制度設計が不可欠です。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 「管理監督者として残業代は不支給」という内容の労働契約に署名押印させれば残業代を支払わなくてよいですか。
A. 支払わなくてよいわけではありません。労基法13条の強行的効力により、労基法で定める基準(残業代の支払義務)に達しない労働契約の条項は無効となります。管理監督者に当たらない場合は、個別労働契約の内容や署名押印による同意にかかわらず、労基法37条1項に基づく時間外・休日割増賃金の支払義務が生じます。
Q2. 労基法13条とはどのような規定ですか。
A. 「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」という規定です(労基法13条)。これは労基法の「強行的効力」を定めたものであり、労使間の合意(個別労働契約)によっても労基法の規制を排除することはできないことを意味します。
Q3. 深夜割増賃金についても「不支給への同意」は無効ですか。
A. 無効です。深夜割増賃金については管理監督者かどうかにかかわらず支払義務があります(労基法37条4項・最高裁H21.12.18ことぶき事件)。個別労働契約で「深夜割増賃金も支払わない」旨を合意しても、これは労基法37条4項(深夜割増賃金の支払義務)に達しないものとして、労基法13条により無効となります。
Q4. 管理監督者として扱うための根本的な対策は何ですか。
A. 「同意書」ではなく、管理監督者性の実態を伴った制度設計を行うことが根本的な対策です。具体的には、312番〜325番で解説した管理監督者性の要件(職務内容・責任と権限、勤務態様の自由性、処遇の相当性)を実態として満たすように組織・人事制度を設計することが必要です。この点については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日