労働問題330 残業代(割増賃金)請求対策の基本的発想として、何が重要と考えていますか。

この記事の要点

残業代(割増賃金)の支払は「すべての労働者に共通する基本原則」(315番参照)——残業代請求対策はこの大前提の認識から出発する必要がある

「管理職だから」「みなし制だから」という思い込みが後の自滅につながります

発生した残業代は「支払済み」にしなければ残業代請求を受けるリスはなくならない——残業代の発生を直視して支払うことが根本的な対策

「どうせ請求されないだろう」という判断は非常に危険です

変形労働時間制・管理監督者等の規制緩和・適用除外制度は、残業代免除を主な目的として立法されたものではない——残業代請求対策を主な目的として採用すべきではない

これらの制度を残業代対策目的で濫用すると、かえって法的リスクが高まります

適法な残業代請求対策としては、①基礎賃金の抑制による単価の引き下げ、②残業時間の抑制、③残業代を支払済みにする——の3方向からのアプローチが重要(331番参照)

いずれも法律の枠内での正当な取り組みです

01残業代支払は「すべての労働者に共通する基本原則」——出発点の認識

 残業代(割増賃金)請求対策を正しく考えるためには、まず大前提となる認識を確認することが重要です。

 残業代請求対策の基本的発想の第一は、時間外・休日・深夜に労働させた場合に残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払うことは、すべての労働者に共通する基本原則であるということです(315番参照)。この認識なしに残業代請求対策を考えると、「自分の会社は残業代を支払わなくてよい理由があるはずだ」という誤った発想から出発してしまい、かえって法的リスクを高める対策を取ることになりかねません。

「残業代を支払わなくてよい理由を探す」発想の危険性
・「管理職だから残業代は不要」→管理監督者性が否定されれば多額の未払残業代請求(312番〜327番参照)
・「みなし制を採用しているから残業代は不要」→適法なみなし制でも残業代免除制度ではない(294番〜303番参照)
・「就業規則に残業代不支給と書いた」→労契法13条により管理監督者の実態なければ無効(327番参照)
いずれも「残業代を払わなくてよい理由を探す」発想から起きる典型的な自滅パターンです。

02発生した残業代は「支払済み」にしなければリスクはなくならない

 残業代請求対策の基本的発想の第二は、発生した残業代(割増賃金)は「支払済み」にしなければ、残業代請求を受けるリスはなくならないということです。

 「今まで請求されたことがないから大丈夫」「うちの社員は残業代を請求するような人間ではない」という判断は非常に危険です。残業代の請求権の時効は3年(2020年4月以降の分)であり、退職後・在職中を問わず、社員が一念発起して請求する(または弁護士や労働組合等の後押しを受けて請求する)可能性は常にあります。

 「支払済み」にするためには、①発生する残業代の金額を正確に把握し、②その金額を適正に計算・支払うことが必要です。

03規制緩和・適用除外制度を残業代対策目的で採用すべきではない

 残業代請求対策の基本的発想の第三は、変形労働時間制のような労働時間に関する規制を緩和する制度や管理監督者のような労働時間規制等を適用除外する制度は、使用者の残業代(割増賃金)の支払義務を免除することを主な目的として立法された制度ではないため、残業代(割増賃金)請求対策を主な目的として採用すべきではないということです。

残業代対策を目的とした制度の濫用は危険

変形労働時間制(287番〜292番参照):業務の繁閑に合わせた柔軟な労働時間設定を目的とする制度であり、残業代を減らすことを主な目的とすべきではありません。適法な運用がなされていない場合、変形労働時間制の効力が否定されて多額の未払残業代請求を受けるリスがあります。

管理監督者(312番〜327番参照):経営者と一体的な立場にある上級管理職が労働時間の枠に縛られないことを認める制度であり、残業代を払わないことを目的として設計された制度ではありません。管理監督者性の実態を備えずに「管理監督者扱い」を行うと、多額の未払残業代請求を受けるリスがあります。

04適法な残業代請求対策の3方向

 以上の基本的発想を踏まえると、適法な残業代請求対策としては以下の3方向からのアプローチが考えられます(331番で詳解)。

方向 内容 具体的な手法
基礎賃金を抑制して残業代(割増賃金)単価を抑制する 賞与の比率を高める・除外賃金の割合を高める・定額残業代制度の採用(332番で詳解)
残業時間を抑制する 残業の事前許可制・業務の効率化・人員体制の見直し等
残業代(割増賃金)を支払済みにしておく 発生する残業代を適正に計算・支払う・定額残業代制度で確実に支払済みにする

05まとめ

 残業代(割増賃金)請求対策の基本的発想としては、①残業代支払はすべての労働者に共通する基本原則であること、②発生した残業代は「支払済み」にしなければリスはなくならないこと、③変形労働時間制・管理監督者等の規制緩和・適用除外制度は残業代免除を目的とした制度ではないため残業代対策を主な目的として採用すべきではないこと——の3点が重要です。この基本的発想を正しく理解した上で、331番・332番で解説する具体的な対策(基礎賃金の抑制・残業時間の抑制・支払済みにする)を組み合わせることが重要です。具体的な対策については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代トラブルの予防・賃金制度の整備・就業規則の見直しでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業代請求対策の基本的発想として重要な3点を教えてください。

A. ①残業代支払はすべての労働者に共通する基本原則であること、②発生した残業代は「支払済み」にしなければリスはなくならないこと、③変形労働時間制・管理監督者等の規制緩和・適用除外制度は残業代免除を目的とした制度ではないため残業代対策を主な目的として採用すべきではないこと——の3点です。

Q2. 変形労働時間制を採用すれば残業代を削減できますか。

A. 変形労働時間制は業務の繁閑に合わせた柔軟な労働時間設定を目的とする制度であり、残業代削減を主な目的として採用すべき制度ではありません。適法な変形労働時間制が適正に運用されている場合は、結果として残業時間が減り残業代が少なくなることはありますが、残業代対策を主な目的として採用・運用することは本末転倒であり、法的リスクを高めます。

Q3. 「今まで請求されたことがない」ので残業代を支払わなくても大丈夫ですか。

A. 大丈夫ではありません。残業代の請求権の時効は3年(2020年4月以降の分)であり、退職後・在職中を問わず請求される可能性が常にあります。「今まで請求されたことがない」のは、請求できないことを意味するのではなく、たまたままだ請求されていないだけかもしれません。発生した残業代を「支払済み」にしない限り、残業代請求を受けるリスは消えません。

Q4. 適法な残業代請求対策にはどのようなものがありますか。

A. ①基礎賃金を抑制して残業代単価を引き下げる(賞与の比率を高める・除外賃金の活用・定額残業代制度の採用等)、②残業時間を抑制する(残業の事前許可制・業務効率化等)、③残業代を適正に計算・支払い「支払済み」にする——の3方向のアプローチがあります(331番・332番参照)。いずれも法律の枠内での適法な取り組みです。

最終更新日:2026年5月10日



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