労働問題323 平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』を参考にする際の留意点を教えて下さい。

この記事の要点

基発第0909001号は「管理監督者性を否定する要素」を整理したものに過ぎず、「否定要素がなければ管理監督者性が肯定される」わけではない

同通達の否定要素チェックをクリアしただけでは管理監督者性を安心して肯定することはできません

管理監督者性の肯定は、314番〜318番で解説した行政解釈全体(経営者との一体性・勤務態様の自由性・処遇の相当性)の総合的な判断によって行われるものである

否定要素がないことは必要条件にすぎず、十分条件ではありません

同通達はあくまで小売業・飲食業等の多店舗展開企業の「店舗の店長等」を対象とするものであり、業種・業態によって判断要素の具体的な内容が異なり得る

他の業種の管理職にそのまま当てはめることには慎重さが必要です

行政解釈が裁判所を拘束しない(313番参照)以上、同通達を参考にしても裁判での勝訴を保証するものではない

管理監督者性の判断は難しく(313番参照)、使用者側弁護士・会社側弁護士への相談が不可欠です

01基発第0909001号の性質——「否定要素」の整理にとどまる

 319番〜322番で解説したとおり、平成20年9月9日基発第0909001号(以下「本ガイドライン」といいます)は、店舗の店長等の管理監督者性を判断するに際して①職務内容・責任と権限(320番)、②勤務態様(321番)、③賃金等の待遇(322番)の3グループに分類された判断要素を具体的に示しています。

 しかし、本ガイドラインを参考にする際の重要な留意点があります。本ガイドラインは、店舗の店長等の管理監督者性を否定する要素について整理しているものに過ぎず、同通達の否定要素がなければ店舗の店長等の管理監督者性が肯定されるというわけではないことに留意する必要があります。

02「否定要素がない」と「管理監督者性が肯定される」は別の問題

 本ガイドラインが示す否定要素のチェックリストをすべてクリアした(採用権限がある、遅刻・早退で不利益取扱いがない、時間単価がアルバイト以上、等)としても、それは「管理監督者性を否定する要素がない」というに過ぎず、「管理監督者性が肯定された」というものではありません。

「否定要素なし」≠「管理監督者性が肯定される」

本ガイドラインの否定要素チェックはあくまで「名ばかり管理職かどうか」の判断のための最低限の確認項目です。これをすべてクリアしても、314番〜318番で解説した行政解釈全体の要件(経営者との一体性・勤務態様の自由性・処遇の相当性)を積極的に満たしていなければ、管理監督者とは認められません。

本ガイドラインの否定要素チェックは「必要条件の一部」であって「十分条件」ではないのです。

03管理監督者性の肯定は別途、行政解釈全体の枠組みで判断される

 管理監督者性が積極的に肯定されるためには、本ガイドラインの否定要素チェックをクリアするだけでなく、314番〜318番で解説した行政解釈全体の枠組み、すなわち以下の要件を満たすことが必要です。

要素 内容 参照記事
経営者との一体性(労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場) 314番・315番
重要な職務と責任(労働時間等の規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任) 316番・317番・320番
現実の勤務態様(現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場) 316番・317番・321番
賃金等の待遇(地位にふさわしい処遇・一般労働者比較での優遇) 318番・322番

04同通達の対象業種・業態に関する留意点

 本ガイドラインは「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗」の「店長等」を対象として、その特有の実態(本部の指示系統・アルバイト・パート主体の人員構成・シフト管理等)を前提に判断要素を具体化したものです。したがって、他の業種・業態の管理職にそのまま当てはめることには慎重さが必要です。

 例えば、製造業の工場長・金融機関の支店長・医療機関の看護師長等については、その業種・業態の特性に応じた別の判断要素や事情が加味される可能性があります。他業種の管理職の管理監督者性を本ガイドラインのみで評価することは適切ではありません。

05行政解釈の限界——裁判所を拘束しない

 313番で解説したとおり、行政解釈が裁判所を拘束しないことは明らかです。本ガイドライン(行政解釈)に照らして「管理監督者性を否定する要素がない」と評価できたとしても、裁判において同じ結論になるとは限りません。

 裁判官は本ガイドラインを参照することはあっても、独自の判断で管理監督者性を評価します。したがって、本ガイドラインをもって「管理監督者であることは問題ない」と断言することはできません。

06312番〜323番シリーズのまとめ——管理監督者性判断の全体像

 312番〜323番を通じた管理監督者性判断の全体像を整理すると以下のとおりです。

記事番号 内容
312番〜313番 管理職と残業代の関係・管理監督者性の判断が難しい理由
314番〜318番 行政解釈の基本的立場——管理監督者の定義・役付者全員ではない・限定的な範囲・資格職位名称ではなく実態で判断・賃金等の待遇の位置づけ(③は①②の後)
319番〜323番 基発第0909001号の内容——店舗の店長等に対する具体的判断要素(職務内容・責任と権限4点・勤務態様3点・賃金等の待遇3点)・参考にする際の留意点

07まとめ

 本ガイドライン(基発第0909001号)は管理監督者性を否定する要素について整理したものに過ぎず、否定要素がなければ管理監督者性が肯定されるというわけではありません。管理監督者性の積極的な肯定には、314番〜318番で解説した行政解釈全体の枠組み(経営者との一体性・重要な職務と責任・現実の勤務態様・賃金等の待遇)を満たすことが必要です。また、本ガイドラインの対象は多店舗展開の小売業・飲食業等の店舗に限られ、行政解釈が裁判所を拘束しない点にも留意が必要です。自社の管理職の管理監督者性については、312番〜323番の内容を踏まえた上で、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 基発第0909001号を参考にする際の最大の留意点は何ですか。

A. 同通達は管理監督者性を否定する要素を整理したものに過ぎず、否定要素がなければ管理監督者性が肯定されるというわけではないことです。同通達の否定要素チェックをすべてクリアしても、行政解釈全体の枠組み(経営者との一体性・重要な職務と責任・現実の勤務態様・賃金等の待遇)を積極的に満たしていなければ管理監督者とは認められません。

Q2. 「否定要素がない」ことは管理監督者性の判断においてどのような意味を持ちますか。

A. 「否定要素がない」ことは、管理監督者性を肯定するための「必要条件の一部」ではありますが、「十分条件」ではありません。否定要素がないことは管理監督者性の判断において一つの積極的な要素にはなりますが、それだけでは管理監督者性が肯定されたとはいえず、行政解釈全体の枠組みによる積極的な評価が別途必要です。

Q3. 基発第0909001号は小売業・飲食業以外の業種にも使えますか。

A. 同通達の対象は多店舗展開の小売業・飲食業等の店舗に限られており、他の業種・業態の管理職にそのまま当てはめることには慎重さが必要です。製造業の工場長・金融機関の支店長等については、その業種・業態の特性に応じた別の事情が加味される可能性があります。参考情報として利用することはできますが、他業種の管理職の管理監督者性をこれのみで評価することは適切ではありません。

Q4. 基発第0909001号を参考にして「管理監督者に当たる」と評価できれば裁判でも認められますか。

A. 必ずしも認められるとは限りません。行政解釈(通達を含む)が裁判所を拘束しないことは明らかです。裁判官は同通達を参照することはあっても、独自の判断で管理監督者性を評価します。したがって、同通達に照らして「問題ない」と評価できたとしても、裁判において同じ結論になるとは保証できません。管理監督者性の判断は難しく(313番参照)、使用者側弁護士・会社側弁護士への相談が不可欠です。

最終更新日:2026年5月10日



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