労働問題313 管理職に残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う必要があるかどうかの判断が難しい理由を教えて下さい。

この記事の要点

労基法・施行規則のいずれも「管理監督者」の具体的内容を明確に定めていない

法令上の定義が曖昧であるため、判断の出発点から不確実性がある

管理監督者性の具体的判断基準を示した最高裁判例が存在しない

最高裁判例がないため、行政解釈と下級審裁判例を分析するほかない

行政解釈は裁判所を拘束せず、下級審裁判例も最高裁判例のような強い拘束力はない

参考にはなるが、それらに従えば必ず勝てるという保証はない

判断基準が複数の要素を総合考慮する方式のため、同じ基準でも判断する裁判官によって結論が異なる可能性がある

「総合考慮」型の判断基準は予見可能性が低くなります

01法令に管理監督者の具体的内容が定められていない

 312番で解説したとおり、管理職が労基法41条2号の「管理監督者」に該当する場合は、時間外・休日割増賃金の支払義務が免除されます。しかし、この「管理監督者」に当たるかどうかの判断は難しいのが現実です。

 その第一の理由は、労基法も労基法施行規則も、労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)の具体的内容について明確に定めていないことです。法令上の定義が曖昧であるため、「管理監督者とはどのような者を指すのか」という問いに対して、法令から直接明確な答えを得ることができません。

02管理監督者性の判断基準を示した最高裁判例が存在しない

 法令上の定義が不明確である場合、通常は最高裁判例が統一的な判断基準を示す役割を果たします。しかし、管理監督者性の具体的判断基準について判断した最高裁判例は存在しません(312番で触れたことぶき事件最高裁H21.12.18は、管理監督者でも深夜割増賃金の支払義務があるという点を示したものであり、管理監督者性の判断基準を示したものではありません)。

 このため、管理監督者性の判断基準を検討するためには、行政解釈(厚生労働省・労働基準監督署等の解釈)の内容を理解するとともに、管理監督者性について判断した多数の下級審裁判例を分析して、裁判所の判断の傾向を把握するほかないことになります。

03行政解釈は裁判所を拘束しない——参考にはなるが絶対ではない

 行政解釈(厚生労働省通達等)は、管理監督者性の判断に際して重要な参考情報となりますが、行政解釈が裁判所を拘束しないことは明らかです。裁判において、行政解釈に沿った判断がなされることもあれば、行政解釈とは異なる判断がなされることもあります。

行政解釈の位置づけ
行政解釈(厚生労働省・労働基準監督署等が示す解釈)は、行政機関が法律をどのように解釈して運用するかを示したものです。裁判官はこれを「参考」にすることはあっても、従う義務はなく、行政解釈とは異なる判断を下すことも法的には可能です。

したがって、「行政解釈上は管理監督者に当たる」という場合でも、裁判において「管理監督者には当たらない」と判断され残業代の支払を命じられる可能性があります。

04下級審裁判例も最高裁判例のような強い拘束力はない

 下級審裁判例(地方裁判所・高等裁判所の判決)は、裁判官が判決を書く際に参考にすることはあっても、最高裁判例のように裁判官の判断を事実上拘束するほどの強い影響力はありません。したがって、過去の下級審裁判例で「管理監督者に当たる(当たらない)」と判断された事案と似た事案であっても、新たな裁判において必ず同じ結論になるとは言い切れません。

判断基準の種類 裁判所への拘束力 実務上の位置づけ
最高裁判例 事実上の強い拘束力あり 管理監督者性の判断基準を示したものは存在しない
行政解釈(厚生労働省通達等) 裁判所を拘束しない 参考にはなるが、従う義務なし
下級審裁判例 最高裁判例ほどの拘束力なし 参考にはなるが、同じ結論になるとは限らない

05総合考慮型の判断基準——裁判官によって結論が異なり得る

 管理監督者に関する行政解釈や下級審裁判例において示されている管理監督者性の判断基準は、様々な要素(主に312番で解説した3要素:経営者との一体性・勤務態様の自由性・処遇の相当性)を総合考慮して結論を導くものです。このため、事案ごとの判断は必ずしも容易ではなく、同じ判断基準を用いたとしても判断する裁判官によって異なる結論となることも十分に考えられます。

 「A要素はあるがBとC要素が弱い」という事案では、総合考慮の結果として「管理監督者に当たる」という判断もあれば「当たらない」という判断も考えられます。特定の要素に強弱があった場合、どの要素にどれだけの重みを置くかによって結論が変わり得るのが総合考慮型の判断の難しさです。

06まとめ——早期に使用者側弁護士に相談することが重要

 管理職に残業代を支払う必要があるかどうかの判断が難しい理由は以下の4点に集約されます。第一に、労基法・施行規則が管理監督者の具体的内容を定めていないこと。第二に、管理監督者性の判断基準を示した最高裁判例が存在しないこと。第三に、参照可能な行政解釈が裁判所を拘束せず、下級審裁判例も強い拘束力を持たないこと。第四に、管理監督者性の判断基準が総合考慮型であるため、判断する裁判官によって結論が異なり得ること。

 「うちの部長は管理監督者に当たるから残業代は不要だろう」という認識は、予想外の残業代請求を招くリスがあります。管理職への残業代の取り扱いについては、使用者側弁護士・会社側弁護士に早期に相談して、リスクを的確に把握した上で対策を講じることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 管理監督者性の判断が難しいのはなぜですか。

A. ①法令が管理監督者の具体的内容を定めていない、②管理監督者性の判断基準を示した最高裁判例が存在しない、③行政解釈は裁判所を拘束せず下級審裁判例も強い拘束力がない、④管理監督者性の判断が複数の要素の総合考慮型であるため裁判官によって結論が異なり得る——という4つの理由から、管理監督者性の判断難易度が高くなっています。

Q2. 管理監督者性について最高裁はどのような判断をしていますか。

A. 管理監督者性の具体的判断基準を示した最高裁判例は存在しません。最高裁平成21年12月18日判決(ことぶき事件)は、管理監督者でも深夜割増賃金の支払義務があるという点を判示したものであり、「どのような者が管理監督者に当たるか」という判断基準を示したものではありません。

Q3. 行政解釈とは何ですか。裁判所での判断に影響しますか。

A. 行政解釈とは、厚生労働省・労働基準監督署等が法律をどのように解釈して運用するかを示したものです(通達等)。裁判所の参考情報にはなりますが、行政解釈が裁判所を拘束しないことは明らかです。「行政解釈上は管理監督者に当たる」という場合でも、裁判において「管理監督者には当たらない」と判断されることがあります。

Q4. 管理監督者性の判断について使用者側弁護士に相談するべきですか。

A. 強くお勧めします。管理監督者性の判断は難易度が高く、「管理監督者に当たるだろう」という認識のまま残業代を支払わずにいると、後に多額の未払残業代請求を受けるリスがあります。行政解釈・下級審裁判例の分析を踏まえた法的リスクの評価は、使用者側弁護士・会社側弁護士の専門的サポートが不可欠です。

最終更新日:2026年5月10日


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