労働問題322 平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は、「賃金等の待遇」についての判断要素に関し、どのように述べていますか。
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基発第0909001号は「賃金等の待遇」の判断要素として①基本給・役職手当等の優遇措置 ②支払われた賃金の総額 ③時間単価——の3点を示している 321番の「勤務態様」に続く、管理監督者性判断の第3グループの要素です |
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①基本給・役職手当等の優遇が、実際の労働時間を勘案すると割増賃金適用除外を考慮しても十分でない場合→「補強要素」 割増賃金を払わないことの代償として十分な報酬があるかを確認します |
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②賃金の総額が特別の事情なく一般労働者と同程度以下の場合→「補強要素」 管理職として上乗せがない場合は否定方向の補強として働きます |
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③時間単価がアルバイト・パート以下→「重要な要素」、最低賃金以下→「極めて重要な要素」——3要素の中で最も強い否定力を持つ 「管理監督者として残業代が払われないのに、時給換算ではアルバイト以下」という状態は名ばかり管理職の典型例です |
目次
01「賃金等の待遇」の判断要素——概要と3点の位置づけ
319番〜321番で解説したとおり、平成20年9月9日基発第0909001号(以下「本ガイドライン」といいます)は、店舗の店長等の管理監督者該当性を、職務内容・責任と権限・勤務態様・賃金等の待遇を踏まえて総合的に判断するとしています。本記事では、そのうち「賃金等の待遇」の判断要素について解説します。
本ガイドラインは、管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるとした上で、「賃金等の待遇」については以下の3点から判断されるとしています。
02判断要素(1)——基本給・役職手当等の優遇措置(補強要素)
本ガイドラインは、「基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。」としています。
この判断要素のポイントは「実際の労働時間数を勘案した場合に……十分でなく」という部分です。管理監督者として時間外・休日割増賃金の支払を受けない分の「代償」として、相応の優遇措置が基本給・役職手当等に反映されているかどうかを確認するものです。
①管理監督者として時間外・休日割増賃金を支払わない結果、一般従業員と比べてどれだけの賃金差があるか
②その差(役職手当等)が、実際の残業・休日出勤の実態に照らして「割増賃金の代償」として十分といえるか
③「役職手当5,000円」のような名目的な上乗せのみで、残業代(割増賃金)の代わりとして全く機能していない場合→保護に欠けるおそれがあると認められる可能性
03判断要素(2)——支払われた賃金の総額(補強要素)
本ガイドラインは、「一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。」としています。
「他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額」という比較対象の設定が重要です。自店舗のアルバイト・パートのみならず、企業全体の一般労働者の賃金総額と比較して、「特別の事情がないにもかかわらず同程度以下」である場合に補強要素となります。
「勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情」がある場合は補強要素とならない点にも注意が必要です。例えば、新卒で店長になって間もない場合などはこの「特別の事情」に該当し得ます。
04判断要素(3)——時間単価(重要な要素・極めて重要な要素)
本ガイドラインは、「実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。」としています。
名ばかり管理職の典型例——時間単価がアルバイト以下・最低賃金以下
時間単価がアルバイト・パート以下:「重要な要素」
「管理監督者」として残業代が支払われないのに、実際の労働時間で割り算すると時給がアルバイト・パートよりも低い、という状態は名ばかり管理職の典型例です。この場合は管理監督者性を否定する「重要な要素」となります。
時間単価が最低賃金以下:「極めて重要な要素」
時間単価が最低賃金(地域別最低賃金)を下回る場合はさらに強く管理監督者性を否定する「極めて重要な要素」となります。「最低賃金以下」という状態は、最低賃金法違反にも当たり得るため、法的にも極めて問題のある状態です。
053要素の否定力の比較と実務上の意味
本ガイドラインが「賃金等の待遇」について示した3つの判断要素の否定力を整理すると以下のとおりです。
実務上、時間単価(時給換算の賃金)がアルバイト・パートと同程度か下回っている店長等に管理監督者として残業代を支払わない運用は、本ガイドラインに照らして管理監督者性を否定する「重要な要素」または「極めて重要な要素」が存在する状態であり、未払残業代請求を受けるリスが高い状態といえます。
06まとめ
本ガイドラインは「賃金等の待遇」の判断要素として、①基本給・役職手当等の優遇が実際の労働時間を勘案すると不十分な場合(補強要素)、②賃金総額が特別の事情なく一般労働者と同程度以下の場合(補強要素)、③時間単価がアルバイト・パート以下(重要な要素)・最低賃金以下(極めて重要な要素)——の3点を示しています。特に③時間単価は最も否定力が強く、「管理監督者として残業代が払われないのに時給換算がアルバイト以下」という状態は名ばかり管理職の典型例として重く評価されます。自社の管理職の管理監督者性については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 基発第0909001号が示す「賃金等の待遇」の3つの判断要素は何ですか。
A. ①基本給・役職手当等の優遇が実際の労働時間を勘案すると不十分な場合(補強要素)、②賃金総額が特別の事情なく一般労働者と同程度以下の場合(補強要素)、③時間単価がアルバイト・パート以下(重要な要素)・最低賃金以下(極めて重要な要素)——の3点です。
Q2. 「時間単価がアルバイト・パート以下」はどのように計算しますか。
A. 年間に支払われた賃金の総額(月給×12+ボーナス等)を実際に働いた総時間数(年間の実労働時間数)で割り算することで時間単価を算出します。この金額が、同じ店舗のアルバイト・パートの時給(最低賃金や当該店舗の時給水準)と比較して下回る場合に、管理監督者性を否定する「重要な要素」となります。
Q3. 時間単価が最低賃金以下の場合、管理監督者性はほぼ認められませんか。
A. 本ガイドラインは「管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる」としており、非常に強い否定力があります。管理監督者性の総合判断においてこれが大きく影響することは間違いありませんが、「極めて重要な要素」であっても直ちに管理監督者性が否定されることが100%確定するわけではなく、他の要素も含めた総合判断となります。ただし実務上は管理監督者性が否定される可能性が高い状態といえます。
Q4. 賃金総額が一般労働者と同程度以下でも「特別の事情」があれば否定要素とならないのですか。
A. 本ガイドラインは「勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず」同程度以下の場合に補強要素となるとしており、これらの「特別の事情」がある場合は否定要素の評価が変わります。例えば、まだ勤続年数が短く経験が浅いために賃金が低い場合などが「特別の事情」に当たり得ます。
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最終更新日:2026年5月10日