労働問題275 36協定を届け出ていない場合でも残業代(割増賃金)の支払義務はありますか

この記事の要点

36協定を届け出ていない場合でも、使用者は残業代(割増賃金)の支払義務がある

36協定の届出は「刑事罰を避けるための要件」であり、残業代の支払義務とは別問題です

36協定を届け出ていない状態で時間外・休日労働をさせると、刑事罰(犯罪)と民事責任(残業代請求)の両方が生じる

36協定未届出の状態は、「刑事リスク」と「未払い残業代請求リスク」という二重の法的リスクを抱えます

36協定を適正に届け出た場合も、実際に時間外・休日労働をさせた分の割増賃金は別途支払う必要がある

36協定は「刑事罰の免責」を得るためのものであり、割増賃金の支払義務を免除するものではありません

未払い残業代は時効(3年)の範囲で請求可能であり、放置すると金額が膨らむ

36協定の未届出状態が継続すると、刑事リスクと大量の未払い残業代という深刻なリスクが蓄積されます

0136協定の届出と割増賃金の支払義務は別の問題

 36協定を締結して労基署に届け出ていない場合にも、使用者は残業代(割増賃金)を支払う義務があります。

 「36協定を届け出ていないから残業代は払わなくてよい」という考えは誤りです。36協定の届出は「刑事罰を避けるための要件」であり(271番・272番参照)、割増賃金(残業代)の支払義務は、36協定の届出の有無とは別の問題です。両者は法的に独立した義務です。

0236協定未届出でも割増賃金の支払義務がある理由

 労働基準法37条は、使用者が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合、または法定休日に労働させた場合に、割増賃金を支払わなければならないと定めています。この規定は、36協定の届出の有無にかかわらず適用されます。

 言い換えれば、36協定の「届出」は「時間外・休日労働をさせたことの違法性(刑事責任)を阻却する」ための要件ですが、「割増賃金の支払義務を免除する」ためのものではありません。時間外・休日労働という事実が存在する以上、36協定の届出がなくても労基法37条に基づく割増賃金の支払義務は生じます。

36協定の届出の効果と割増賃金の関係の整理
36協定を届け出た場合:時間外・休日労働の刑事責任が阻却される。ただし割増賃金の支払義務は残る。
36協定を届け出なかった場合:時間外・休日労働の刑事責任が阻却されない(労基法32条・35条違反)。かつ割増賃金の支払義務も残る。

0336協定未届出の場合の二重リスク——刑事罰と民事責任

 36協定を届け出ていない状態で時間外・休日労働をさせると、刑事罰(犯罪)と民事責任(残業代請求)という二重の法的リスクを同時に抱えることになります。

36協定未届出で時間外・休日労働をさせた場合の二重リスク

①刑事責任——労基法32条・35条違反
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条1号)。法人も両罰規定(労基法121条)により罰金刑の対象となります(271番参照)。

②民事責任——未払い割増賃金の支払義務
時間外割増賃金(25%以上)・休日割増賃金(35%以上)・深夜割増賃金(25%以上)の未払い分の支払義務が生じます。未払い残業代は3年間の時効が適用され、放置すると金額が膨らみます。また、裁判所から付加金(労基法114条)の支払いを命じられると、未払額と同額以下の付加金も加算され、実質的に2倍の支払が命じられる可能性があります。

 36協定を届け出ていない状態を放置することで、上記の二重のリスクが継続・蓄積されます。現在36協定を届け出ていない場合は、速やかに36協定を締結・届出し、あわせて未払い残業代の精算を検討することをお勧めします。

0436協定を届け出た場合でも割増賃金の支払義務は残る

 なお、36協定を適正に締結・届出した場合でも、実際に時間外・休日労働をさせた分の割増賃金は別途支払う必要があります。

 「36協定を届け出れば残業代を払わなくてよい」という誤解も見られますが、これも正しくありません。36協定の届出により得られる効果は「刑事罰の免責」のみです。時間外・休日労働に対する割増賃金の支払義務(労基法37条)は、36協定の届出後も引き続き存在します。

状況 刑事責任 割増賃金支払義務
36協定届出あり・残業あり・割増賃金支払済み なし なし(支払済みのため)
36協定届出あり・残業あり・割増賃金未払い なし あり(要支払い)
36協定届出なし・残業あり あり(労基法違反) あり(要支払い)

05まとめ

 36協定を締結して労基署に届け出ていない場合でも、使用者は残業代(割増賃金)の支払義務があります。36協定の届出は「刑事罰を避けるための要件」であり、割増賃金の支払義務を免除するものではありません。

 36協定を届け出ていない状態で時間外・休日労働をさせると、刑事罰(労基法32条・35条違反)と民事責任(未払い残業代請求)という二重のリスクを同時に抱えます。36協定を適正に届け出た場合でも、実際に時間外・休日労働をさせた分の割増賃金は別途支払う義務があります。36協定の締結・届出・残業代の適正な支払については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。36協定の整備・未払い残業代の精算・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 36協定を届け出ていない場合でも残業代を支払う必要がありますか。

A. 必要です。36協定の届出の有無にかかわらず、時間外・休日労働をさせた場合は労基法37条に基づく割増賃金の支払義務が生じます。36協定を届け出ていない場合は、割増賃金の未払い(民事責任)に加えて、労基法32条・35条違反の刑事責任も負うことになります。

Q2. 36協定を届け出れば残業代を支払わなくてよいですか。

A. 支払わなくてよいわけではありません。36協定の届出は「刑事罰を避けるための要件」であり、割増賃金の支払義務を免除するものではありません。36協定を届け出ても、実際に時間外・休日労働をさせた分の割増賃金(時間外25%以上・休日35%以上・深夜25%以上)は別途支払う義務があります。

Q3. 36協定がない状態で残業をさせた場合のリスクは何ですか。

A. ①刑事責任(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金・労基法119条1号、法人も両罰規定により罰金)、②未払い割増賃金の支払義務(時効3年)、③裁判所からの付加金支払命令(未払額と同額以下・実質的に2倍の支払リスク)——という三重のリスクが生じます。

Q4. 36協定を後から届け出れば、それ以前の未払い残業代は解消されますか。

A. 解消されません。36協定の効力は届出時点から将来に向かってのみ生じます。届出以前の期間に時間外・休日労働をさせて割増賃金を支払っていない場合、その未払い分の支払義務は36協定を後から届け出ても消滅しません。また、届出以前の刑事責任についても同様です。現在36協定未届出の場合は、速やかに締結・届出を行い、未払い残業代の精算についても弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日


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