労働問題271 労基法32条・35条違反で時間外・休日労働をさせた場合の刑事罰とは

この記事の要点

労基法32条・35条に違反して時間外・休日に労働させると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条1号)

会社の社長・管理職個人も刑事罰の対象になり得ます

法人も両罰規定(労基法121条)により罰金刑の対象となる

使用者個人(社長・管理職)のみならず、法人(会社)も罰金(30万円以下)を科せられる可能性があります

労基法違反は民事事件(残業代請求)にとどまらず、刑事事件にもなり得ることを理解する必要がある

「残業代を後から払えばよい」という発想では済まない可能性があります

36協定の締結・届出と時間外・休日労働の管理を適切に行うことが刑事リスク回避の鍵

労基署の調査に適切に対応できるよう、日頃からの記録・管理が重要です

01時間外・休日労働の規制——労基法32条・35条

 労働基準法32条は、使用者が労働者を1日8時間・週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)を超えて労働させることを原則として禁止しています。また、労基法35条は、使用者が毎週少なくとも1回の休日を与えることを義務付けています。

 これらの規定を超えて労働させる(時間外労働・休日労働をさせる)には、原則として36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。36協定の締結・届出なしに時間外・休日労働をさせることは、労基法32条・35条に違反することになります。

02違反した場合の刑事罰——労基法119条1号・121条

 労基法32条や労基法35条に違反して時間外や休日に労働させると、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労基法119条1号)。

法定刑——労基法119条1号

刑事罰の内容: 6か月以下の懲役 または 30万円以下の罰金
対象となる違反: 労基法32条(時間外労働の上限規制)違反・労基法35条(休日付与義務)違反等
刑事罰の対象者: 違反行為を行った使用者(社長・管理職等、行為者個人)
法人への罰則(両罰規定): 労基法121条により、法人(会社)も30万円以下の罰金刑の対象となる

 「使用者」とは、事業主だけでなく、使用者のために行為する者(管理職・人事担当者等)も含まれます。社長だけでなく、時間外・休日労働を命じた管理職も刑事罰の対象になり得ることに注意が必要です。また、労基法121条の両罰規定により、違反行為を行った個人だけでなく、法人(会社)も罰金刑の対象となります。

03刑事事件化のプロセス——労基署の調査から送検まで

 労基法違反は民事事件にとどまらず、刑事事件にもなり得ることを理解する必要があります。実際に刑事事件化するプロセスは、概ね以下のような流れを辿ります。

刑事事件化の一般的な流れ
①労働者からの申告または定期監督(労基署による立入調査)
→ ②労基署による事実調査・書類確認(勤怠記録・賃金台帳等)
→ ③是正勧告・改善報告の要求
→ ④改善が見られない場合、司法警察員として送検(検察への事件送致)
→ ⑤検察による起訴・不起訴の判断
→ ⑥起訴の場合、刑事裁判へ

 実務上、多くのケースでは③の是正勧告・改善報告の段階で終結します。しかし、長時間・組織的な違反、過労死・過労自殺が発生したケース、改善命令に従わないケースなどでは、送検・起訴に至る場合があります。労基法違反を「民事的な賃金問題」にすぎないと軽視することは危険です。

04民事責任(残業代請求)との関係

 労基法32条・35条違反は、刑事責任(刑事罰)と民事責任(残業代請求)の両方を引き起こす可能性があります。これらは別個の責任であり、一方を履行したからといって他方が免除されるわけではありません。

責任の種類 内容 根拠法令
刑事責任 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(個人・法人) 労基法119条1号・121条
民事責任(時間外) 未払い時間外割増賃金(25%以上)の支払。時効3年 労基法37条1項
民事責任(休日) 未払い休日割増賃金(35%以上)の支払。時効3年 労基法37条1項
付加金制裁 裁判所から未払額と同額以下の付加金支払を命じられる可能性(2倍の支払リスク) 労基法114条

 残業代を後から支払ったとしても、それにより刑事罰の対象から外れるわけではありません。ただし、実務上、迅速な是正(残業代の支払・労働時間管理の改善)は、刑事事件化を防ぐ上で重要な意味を持ちます。

05刑事リスクを回避するための対応

36協定の適正な締結・届出

 時間外・休日労働をさせる場合は、事前に36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。また、36協定で定めた上限時間を遵守することも重要です(2019年の働き方改革関連法施行以降、上限規制に違反した場合も刑事罰の対象となります)。

勤怠記録・賃金台帳の適正管理

 労基署の調査(是正勧告・司法調査)では、勤怠記録(タイムカード等)・賃金台帳・就業規則が重点的に確認されます。これらを適正に管理・保存しておくことが、調査への対応力を高め、刑事リスクを軽減します。

是正勧告への迅速な対応

 労基署から是正勧告を受けた場合は、迅速かつ誠実に対応することが重要です。是正勧告を放置・無視した場合は送検リスクが高まります。是正勧告を受けた場合の対応については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

06まとめ

 労基法32条や労基法35条に違反して時間外や休日に労働させると、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労基法119条1号)。法人も両罰規定(労基法121条)により罰金刑の対象となります。

 労基法違反は民事事件(残業代請求)にとどまらず、刑事事件にもなり得ることを理解する必要があります。36協定の適正な締結・届出、勤怠記録・賃金台帳の適正管理、是正勧告への迅速な対応が刑事リスク回避の鍵です。労基署の調査対応・是正勧告への対処については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。36協定の整備・労基署対応・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 時間外・休日労働に関する労基法違反はどのような刑事罰がありますか。

A. 労基法32条(時間外労働)・35条(休日付与義務)に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(労基法119条1号)。また、両罰規定(労基法121条)により、法人(会社)も30万円以下の罰金の対象となります。

Q2. 残業代を支払っていれば刑事罰を受けることはありませんか。

A. 残業代を支払っているだけでは刑事罰を回避することはできません。刑事罰の根拠は労基法32条・35条違反(時間外・休日に労働させたこと自体)であり、残業代の支払いは民事上の義務の履行にすぎません。36協定なしに時間外・休日労働をさせていれば、残業代を支払っていても刑事責任は残ります。

Q3. 36協定を締結していれば労基法違反にはなりませんか。

A. 適正な36協定を締結・届出し、かつ36協定で定めた上限時間の範囲内であれば、労基法32条・35条違反にはなりません。ただし、36協定の上限時間を超えて時間外・休日労働をさせた場合は、2019年の働き方改革関連法施行以降、新たな刑事罰の対象となっています(特別条項でも月100時間未満・年720時間以内等の絶対的上限あり)。

Q4. 労基法違反として刑事事件化するのはどのような場合ですか。

A. 実務上、多くの場合は是正勧告・改善報告の段階で終結します。刑事事件化しやすいのは、長時間・組織的な違反が継続している場合、過労死・過労自殺等の重大な結果が生じた場合、是正勧告に従わず改善しない場合、などです。いずれの場合も、早期に使用者側弁護士・会社側弁護士に相談し、適切に対応することが重要です。

最終更新日:2026年5月10日


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