労働問題139 軽度の精神疾患社員への業務軽減対応——時間外免除・業務量調整・記録保存の実務手順【会社側弁護士が解説】

 精神疾患を発症した社員への対応は、症状の重篤度によって異なります。所定労働時間内の通常業務はこなせる程度の軽度の症状であれば、直ちに休職・解雇を検討するのではなく、就労を継続させながら負担を段階的に軽減することが安全配慮義務(労契法5条)の観点から求められます。

 適切な措置を講じずに症状を悪化させた場合、会社は安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うリスクがあります。本稿では、軽度段階での具体的な対応手順と証拠化の実務を解説します。

01軽度段階での基本方針——就労継続と負担軽減の両立

 精神疾患は症状の程度に応じた段階的対応が基本です。所定労働時間内の通常業務であれば支障なく遂行できる段階では、即座に休職命令を発する必要はなく、「就労を継続させながら症状の悪化を防ぐ」という方向で対応します。

 この段階で重要なのは、症状をそれ以上悪化させないことです。精神疾患は適切な治療と休養があれば改善しうる疾患ですが、過重な業務負荷が継続すれば確実に悪化します。会社としては、医療機関での治療を妨げない環境を整えつつ、できる範囲での就労を支えることが安全配慮義務の観点から不可欠です。

 なお、軽度であっても症状が確認された時点から「会社が認識していた」という事実が生じます。後の紛争で「気づかなかった」とは主張できなくなるため、認識した時点からの対応記録が必須となります。

02第一措置:時間外労働の免除

 精神疾患を発症した社員への第一の配慮措置は、時間外労働(残業)の免除です。過重な残業は精神疾患の悪化要因の筆頭であり、時間外労働の免除は安全配慮義務の観点から不可欠な措置といえます。

 医師または産業医から時間外労働の制限を求める意見書・診断書が提出されている場合は、特段の事情がない限りこれに従わなければなりません。意見書を無視して残業をさせ続けた場合、その後の症状悪化について会社が損害賠償責任を負う可能性が高くなります。

 実務上の注意点として、時間外労働を免除した結果として残業代が減少することについては、社員に事前に説明しておくことが紛争予防の観点から重要です。「業務軽減措置の通知書」を書面で交付し、措置の内容と期間(当面の見直し時期)を明示してください。

03第二措置:負荷の高い業務の一時免除

 出張・深夜勤務・宿泊を伴う業務・顧客対応が多い業務など、精神的・身体的負荷の高い業務を一時的に免除します。これらの業務は精神疾患の発症・悪化のトリガーになりやすく、安全配慮義務の観点から配慮が求められます。

 業務内容の変更にあたっては、就業規則の配置転換条項や職務変更条項に基づいて対応します。就業規則に「業務上の必要性があると認めるときは、配置転換・職務変更を命じることがある」旨の規定があれば、これを根拠として対応できます。

 業務の一時免除が「不当な降格・差別的取扱い」と主張される場合があるため、「症状が回復した後は元の業務に戻ること」「一時的な配慮措置であること」を書面で明示しておくことが重要です。

04第三措置:業務量・業務難易度の軽減

 担当業務の量を減らし、締切のプレッシャーが強い業務・高度な判断を要する難易度の高い業務を一時的に他の社員に移管します。この措置は、症状の悪化を防ぐうえで最も実効性の高い対応のひとつです。

 「なぜ自分だけ仕事を減らされるのか」という社員の抵抗感が生じることがあります。その場合は、「体調が回復するまでの一時的な措置であること」「会社として安全配慮義務の観点から必要な対応であること」を丁寧かつ毅然と説明します。感情的な反発に引きずられて措置を撤回すると、後に症状が悪化した場合に「会社が配慮を怠った」と評価されるリスクがあります。

05対応の記録化——安全配慮義務違反を防ぐ証拠保存

 どのような配慮措置を取ったかを文書で記録しておくことが、後の紛争対応において決定的に重要です。後に「会社は何の対応もしなかった」として安全配慮義務違反を問われた際、「このような措置を取っていた」という証拠となります。

 具体的に保存すべき書類は以下のとおりです。①面談記録(日時・出席者・話し合った内容・決定事項)、②業務軽減措置の通知書面(措置の内容・開始日・見直し時期を明記)、③医師・産業医の意見書または診断書(提出があった場合)、④産業医面談の記録(産業医が選任されている場合)。これらは少なくとも3年、可能であれば退職後5年程度保存することが望ましいです。

 記録の作成にあたっては、「社員本人にも内容を確認させて署名を得る」か、「社員に写しを渡したことを記録に残す」ことで、後に「そんな話は聞いていない」という主張を封じることができます。使用者側弁護士・会社側弁護士(藤田進太郎・四谷麹町法律事務所)に相談のうえ、記録フォーマットを整備することをお勧めします。

06症状が悪化した場合の次のステップ

 業務軽減等の措置を取っても症状が悪化し、所定労働時間内の勤務さえ困難になった場合は、次のステップとして休職の検討に進みます。就業規則に私傷病休職制度がある場合は休職命令を、ない場合は普通解雇を検討することになります。

 休職命令を発する前に確認すべき点として、①就業規則の休職条項の内容(休職期間・休職中の取扱い・復職要件・期間満了時の扱い)、②主治医の診断書の取得、③産業医意見書の取得(産業医が選任されている場合)があります。これらの確認を怠ると、後に「休職命令が違法」として争われるリスクがあります。

 精神疾患社員への対応は、段階ごとに法的リスクが変化する複雑な問題です。「労働問題 弁護士 強い」でお探しの経営者・人事担当者の方は、四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患社員の業務軽減対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 社員が「精神疾患を発症した」と自己申告してきた場合、診断書の提出を求めることはできますか。

A. はい、求めることができます。「体調不良がある」との申告だけでは業務軽減措置の必要性を客観的に判断できないため、主治医の診断書の提出を求めることは合理的な対応です。就業規則に「健康上の問題がある場合は医師の診断書を提出しなければならない」旨の規定を設けておくと、診断書提出の要求に根拠が生まれます。

Q2. 業務軽減措置として残業を免除した場合、残業代の支払いはどうなりますか。

A. 残業を免除した結果として実際に残業をしなくなった時間分については、残業代の支払い義務は生じません。残業代は「実際に所定労働時間を超えて労働した時間」に対して発生するものです。ただし、固定残業代制(みなし残業代制)を採用している場合は、残業をしなくてもその固定分は支払いが必要なことが通常です。

Q3. 業務軽減措置を取っても症状が改善しない場合、すぐに解雇できますか。

A. 軽度の精神疾患であっても、業務軽減措置を取っても改善しない場合は、まず休職制度の活用を検討します。就業規則に私傷病休職制度がある場合は、解雇よりも先に休職命令を検討するのが原則です。休職期間が満了しても復職できない場合に初めて自然退職・解雇の検討に至ります。精神疾患を理由とした解雇は法的リスクが高く、会社側弁護士への相談なしには進めるべきではありません。

Q4. 精神疾患の社員に対して産業医面談を受けさせることはできますか。

A. 50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられており(労安法13条)、産業医面談の受診を命じることができます。50人未満の事業場でも、就業規則に「健康上の問題がある場合は会社が指定する医師の受診を命じることができる」旨の規定があれば、会社指定医師による受診を命じることが可能です。社員が受診を拒否した場合の取扱いについては、藤田進太郎・四谷麹町法律事務所へご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

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