労働問題122 退職勧奨を拒否された場合の会社側の対応——3つの選択肢と退職強要リスクの回避【会社側弁護士が解説】

 退職勧奨を実施したにもかかわらず、社員から明確に断られた場合、会社側はいかに対応すべきでしょうか。多くの経営者がこの局面で誤った判断を下し、退職強要・不当解雇として法的紛争に発展させてしまうケースが後を絶ちません。退職勧奨に応じる義務は社員にはなく、拒否は正当な権利行使です。この前提を踏まえたうえで、拒否後の対応策を冷静に検討することが、使用者側として取るべき姿勢となります。

 本稿では、退職勧奨の法的性質・拒否後の会社側の選択肢・退職強要と判断されるリスクの類型・拒否後の引き際について、会社側弁護士の立場から実務的な観点で解説します。

01退職勧奨の法的性質——「任意性」が適法性の前提

 退職勧奨は、法律上「合意による労働契約の終了」を目指す申込みの誘引に位置づけられます。解雇のように会社が一方的に労働契約を終了させる形成権の行使ではなく、あくまでも社員の同意を得て初めて退職が成立するものです。したがって、社員が退職を断る権利は法的に保障されており、拒否そのものを理由とした不利益取扱いは許されません。

 退職勧奨の「任意性」は適法性の絶対条件です。退職を「お願い」する行為の適法性は、社員が自由意思で判断できる環境が保たれているかどうかに依存します。強迫・長時間の拘束・不利益を示唆する発言によって社員の自由な意思決定が奪われれば、それは退職勧奨ではなく退職強要として違法な不法行為となります。使用者側弁護士として、この区別を経営者に徹底して理解させることが紛争防止の起点となります。

02拒否後に退職強要となる行為類型

 社員が明確に拒否した後も退職を迫る行為は、退職強要として不法行為となる可能性が高くなります。具体的な行為類型として、社員が断った後も繰り返し呼び出して面談を重ね、「会社のためを思って考え直してほしい」と執拗に迫ること、1回の面談が長時間に及び社員を精神的に追い詰めること、「退職しなければ不利益な配置転換を行う」「解雇する」と脅迫的な言動をとること、が挙げられます。

 これらの行為は、退職の「お願い」の域を超えた強制であり、民法709条の不法行為として慰謝料請求の対象となります。裁判例においても、面談回数・時間・発言内容・態様を総合的に判断して退職強要と認定されるケースがあります。拒否後の強引な継続は、高額の損害賠償を支払ったうえで結局雇用継続を余儀なくされるという最悪の結果を招きます。

03拒否後の会社側の選択肢(1)——雇用継続

 社員が退職を拒否した場合、最もシンプルかつ安全な対応は、従来の雇用を継続することです。退職勧奨を行ったことを理由に嫌がらせや不当な待遇低下を行うことは、不利益取扱いとして違法となります。雇用継続を選択する場合でも、当該社員の業務上の問題点(能力不足・規律違反等)が存在するなら、引き続き適切な注意指導・警告・懲戒という通常の人事管理プロセスを踏むことが重要です。

 退職勧奨が不調に終わった後も、指導記録・業績評価・懲戒処分の記録を継続して積み上げることが、将来の解雇の客観的合理的理由の形成につながります。会社側弁護士として、「退職勧奨が断られたからといってすぐに諦めるのではなく、長期的な視点で人事管理を継続する」という姿勢をお勧めします。

04拒否後の会社側の選択肢(2)——条件改善での再交渉

 「現在の条件では受け入れられない」という趣旨の拒否であれば、退職金の上乗せ・解決金の提示・再就職支援の提供など、社員が受諾できる経済的条件を改善して再交渉することも選択肢となります。ただし、再交渉はあくまでも社員が任意に交渉のテーブルに着く場合に限られます。社員が再交渉を拒否した場合に、無理にもちかけることは退職強要につながる危険があります。

 条件改善を提示する際は、口頭交渉のみでなく、提示内容を書面で示すことが重要です。書面による提示は、社員が十分に考慮する時間と機会を与える観点から有効であり、後日「条件を伝えていない」という主張を防ぐことにもなります。

05拒否後の会社側の選択肢(3)——解雇の検討と留意点

 退職勧奨が不調に終わり、それでも当該社員の存続が経営上困難な事情がある場合、最終的な選択肢として解雇の検討に至ることがあります。しかし、解雇には客観的合理的理由および社会通念上の相当性が必要であり(労働契約法16条)、退職勧奨の拒否それ自体は解雇の正当事由とはなりません。

 解雇を検討する場合は、退職勧奨の拒否とは独立した根拠(能力不足・規律違反・整理解雇の必要性等)が存在するかを改めて検討し、その根拠を裏付ける客観的証拠(指導記録・業績評価・警告書等)を整備したうえで進めることが不可欠です。証拠の裏付けなく退職勧奨拒否直後に解雇に踏み切ることは、不当解雇として解雇無効・バックペイを認める判決につながる典型的なリスクです。解雇を検討する前に、会社側弁護士への相談を強くお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨を拒否された後の対応・解雇の可否でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

FAQよくある質問

Q1. 退職勧奨を断られたら、それを理由に解雇できますか?

 できません。退職勧奨の拒否それ自体は、解雇の客観的合理的理由にはなりません(労契法16条)。拒否を理由とした解雇は解雇権濫用として無効となります。解雇を検討するには、退職勧奨とは独立した客観的な根拠(能力不足・規律違反・整理解雇事由等)が必要です。

Q2. 拒否された後、条件を変えて再度退職勧奨できますか?

 社員が任意に交渉を受け入れる意思がある場合には可能です。条件改善(退職金上乗せ・再就職支援等)の提示は有効な手段ですが、社員が再交渉自体を拒否している場合に無理にもちかけることは退職強要となるリスクがあります。

Q3. 何回まで退職勧奨を繰り返してよいですか?

 法的に明確な回数制限はありませんが、社員が明確に拒否の意思を示した後も繰り返すことは退職強要とみなされるリスクが高まります。拒否後は一旦引き下がり、状況の変化を待つか他の対応策を検討することが実務上の鉄則です。

Q4. 退職勧奨を断られた後に配置転換することは問題ですか?

 退職勧奨の拒否に対する報復目的での配置転換は、不利益取扱いとして違法となります。ただし、業務上の必要性がある配置転換であれば問題ありません。配置転換に業務上の合理性があることを記録化したうえで実施することが重要です。

関連関連ページ

最終更新日:2026年5月10日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲