労働問題103 有期労働契約で途中退職は防げるか?会社経営者が知るべき民法628条・労基法137条の実務

1. 有期労働契約と無期契約の根本的違い

 有期労働契約と期間の定めのない労働契約(無期契約)では、契約終了のルールが根本的に異なります。

 無期契約の場合、民法627条により、労働者は原則としていつでも解約の申入れができ、2週間の経過によって退職の効力が生じます。これに対し、有期労働契約は「一定期間働くこと」を前提として締結されているため、原則として契約期間満了まで拘束されるのが建前です。

 会社経営者としては、「有期契約であれば途中で辞められない」と理解したくなるところです。しかし、実際の法制度はそこまで単純ではありません。民法や労働基準法により、中途退職が認められる場合も明確に規定されています。

 したがって、有期契約だからといって一律に途中退職を防止できるわけではありません。まずは、有期契約と無期契約の終了ルールの違いを正確に理解することが、実務対応の出発点となります。

2. 民法628条の原則と「やむを得ない事由」

 有期労働契約の途中退職についての基本原則は、民法628条に定められています。

 同条は、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と規定しています。裏を返せば、やむを得ない事由がなければ、契約期間満了前の一方的退職は原則として認められないという構造です。

 有期契約は、一定期間の労務提供を前提に締結されるものですから、会社経営者としては、期間満了までの就労を期待するのは当然です。その意味で、無期契約よりも法的拘束力は強いといえます。

 もっとも、「やむを得ない事由」があれば、労働者は即時に契約を解除できます。そして、その事由が会社側の過失によって生じたものであれば、会社は損害賠償責任を負う可能性もあります。

 会社経営者として重要なのは、有期契約であっても絶対に途中退職を防げるわけではなく、やむを得ない事由の有無が分水嶺になるという点を理解することです。

3. 「やむを得ない事由」の判断基準

 民法628条にいう「やむを得ない事由」とは、単に「他に良い就職先が見つかった」「仕事が合わない」といった事情では足りません。契約期間満了まで就労を継続することが社会通念上著しく困難といえる事情が必要とされます。

 例えば、長時間労働や賃金不払いなどの重大な契約違反、職場での深刻なハラスメント、健康上の重大な支障などは、「やむを得ない事由」と評価され得る典型例です。このような場合、労働者は直ちに契約を解除することが可能になります。

 一方で、単なるキャリアアップ目的や、より条件の良い会社への転職希望は、通常はやむを得ない事由には該当しません。有期契約である以上、一定期間の拘束を前提としているからです。

 もっとも、実務上は「やむを得ない事由」があったか否かを巡って争いになることが多く、会社経営者としては、労働者の主張内容を具体的事実に即して精査する必要があります。

 有期契約だから当然に途中退職を阻止できるという発想ではなく、やむを得ない事由に該当するかを法的に検討する姿勢が重要です。

4. 労基法137条による1年経過後の退職自由

 有期労働契約であっても、常に民法628条の枠内でのみ判断されるわけではありません。労働基準法137条は、一定の場合に労働者に中途退職の自由を認めています。

 同条は、契約期間が1年を超える有期労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除きます)について、契約開始から1年を経過した日以後は、労働者はいつでも退職を申し出ることができると定めています。

 つまり、たとえ3年契約であっても、1年が経過すれば、民法628条の「やむを得ない事由」がなくても退職が可能になる場合があります。会社の承認は不要です。

 この規定は、長期有期契約による過度な拘束を防ぐ趣旨で設けられています。会社経営者としては、「長期契約だから途中では辞められない」という理解は誤りであることを認識する必要があります。

 有期契約で途中退職を防止できるかどうかは、契約期間の長さと経過期間によっても左右されるという点が重要です。

5. 労基法137条の適用対象と除外例

 もっとも、労働基準法137条がすべての有期労働契約に適用されるわけではありません。適用対象と除外例を正確に理解しておくことが、会社経営者にとって重要です。

 まず、同条の対象となるのは、契約期間が1年を超える有期労働契約です。ただし、「一定の事業の完了に必要な期間を定める契約」は除外されます。例えば、特定プロジェクトの完了までとする契約などは、この例外に該当する可能性があります。

 また、労基法14条1項各号に規定される高度専門職や満60歳以上の労働者などについては、例外的に長期契約が認められており、137条の適用関係も個別に検討が必要です。

 会社経営者としては、単に「有期契約だから途中退職を制限できる」と考えるのではなく、契約内容・契約期間・労働者の属性を踏まえて法的枠組みを整理することが不可欠です。適用関係を誤れば、退職を阻止できると誤信したまま法的に無効な対応をしてしまうおそれがあります。

6. 就業規則で中途退職を認めている場合の扱い

 有期労働契約であっても、就業規則に「14日前に申し出れば退職できる」「30日前に申出をすれば中途退職を認める」といった規定を設けている企業もあります。このような場合、契約期間途中でも退職は可能となります。

 就業規則は労働契約の内容となりますので、会社が中途退職を認める旨のルールを定めていれば、その範囲で退職が許容されることになります。結果として、民法628条の原則よりも労働者に有利な取扱いを自ら認めていることになります。

 会社経営者としては、有期契約だから途中退職はできないと考えていても、就業規則の内容次第では既に退職を許容している可能性がある点に注意が必要です。規程と実際の運用が整合していないと、紛争の原因になります。

 有期契約の拘束力を維持したいのであれば、就業規則の定めを含め、契約設計全体を見直す必要があります。契約書と就業規則の整合性が、実務上の帰趨を左右することを認識すべきです。

7. 途中退職を阻止できるのかという現実

 法理論上は、有期労働契約では原則として契約期間満了まで拘束される建前です。しかし、実務の現場で「強制的に働かせる」ことは不可能です。

 たとえ「やむを得ない事由」がないと会社が判断しても、労働者が出社しなければ、物理的に就労を強制することはできません。強制労働は当然に許されませんし、退職の自由は憲法上の職業選択の自由とも関係します。

 現実には、欠勤が続けば賃金控除を行い、場合によっては懲戒処分を検討することになりますが、それでも労務提供そのものを強制することはできません。

 会社経営者としては、「法的には拘束できる」という発想と、「実際に働かせ続けられるか」という現実を分けて考える必要があります。有期契約だからといって、実効的に途中退職を完全に防止できるわけではありません。

 重要なのは、途中退職を前提としたリスク管理と人員計画を行うことです。法的理屈だけでなく、実務的な限界を踏まえた経営判断が求められます。

8. 欠勤控除・懲戒処分の可否

 有期契約の労働者が退職の意思を示したまま出社しない場合、会社経営者としてまず検討できるのは、欠勤控除です。実際に労務提供がない以上、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、その期間の賃金を支払わないこと自体は可能です。

 また、無断欠勤が就業規則上の懲戒事由に該当する場合には、懲戒処分を検討する余地もあります。ただし、退職の意思表示があり、契約終了が近接している状況で重い懲戒処分を行うことが実益を伴うかは慎重に判断すべきです。

 一方で、注意すべきなのは、違約金や制裁金の予定を設けることは原則として許されないという点です。退職を理由に一律の違約金を課すことは、労働基準法16条との関係で問題となります。

 会社経営者としては、欠勤控除や懲戒という手段はあくまで限定的な対応策にすぎず、強制的に労務提供を実現する手段ではないことを理解する必要があります。法的に可能な対応と、経営上合理的な対応は必ずしも一致しないという視点が重要です。

9. 損害賠償請求は現実的か

 有期労働契約の途中退職によって会社に損害が生じた場合、理論上は損害賠償請求を検討する余地があります。民法628条も、「やむを得ない事由」が相手方の過失によって生じた場合には損害賠償責任を負うと規定しています。

 もっとも、実務上はハードルが高いのが現実です。単に人員不足が生じた、代替要員の採用費用がかかったといった事情だけで、直ちに全額の賠償が認められるとは限りません。損害の発生と金額、そして途中退職との因果関係を具体的に立証する必要があります。

 さらに、労働者個人に十分な支払能力がない場合も多く、訴訟費用や時間的コストを考慮すると、費用対効果が見合わないケースが少なくありません。

 会社経営者としては、「法的に可能か」と「経営的に合理的か」を分けて考えることが重要です。感情的な制裁として損害賠償を検討するのではなく、実際の回収可能性や企業イメージへの影響を踏まえた総合判断が求められます。

10. 会社経営者が取るべき実務対応と契約設計

 有期労働契約であっても、民法628条や労基法137条の規定により、契約期間途中の退職を完全に防止することは困難です。法理論上は拘束力があっても、現実には強制労働は許されず、実効的な強制手段は存在しません。

 したがって、会社経営者として重要なのは、「途中退職をゼロにする」発想ではなく、途中退職を前提とした契約設計とリスク管理です。例えば、契約期間の設定を過度に長期化しないこと、引継ぎ義務や秘密保持義務を明確にしておくこと、複数名体制で業務を回す仕組みを整えることなどが現実的対応となります。

 また、就業規則や雇用契約書の内容が、有期契約の趣旨と整合しているかを定期的に点検することも不可欠です。規程の不備があると、会社の想定とは異なる形で中途退職が認められることになります。

 途中退職事案は、法的問題と経営問題が密接に絡み合います。当事務所では、有期契約の設計段階から、退職トラブル発生時の対応方針まで、会社経営者の立場に立って戦略的に助言しております。

 契約締結時点での設計こそが、将来の紛争リスクを左右します。問題が生じてから対応するのではなく、予防的観点から早期に専門家へご相談いただくことを強くお勧めいたします。

 

更新日2026/2/21

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