労働問題101 社員が口頭で「辞める」と言って出社しなくなった場合の対応策|会社経営者が取るべき法的リスク管理
目次
口頭での「辞める」は証拠がなければ法的に確定しません。退職届を取得し経緯を記録することが、解雇認定・在職中認定リスクを防ぐ最大の予防策です。
退職届などの客観的証拠がないと、合意退職が否定され解雇と認定されるリスク、または労働契約が存続しているとしてバックペイを請求されるリスクがあります。感情的な場面での「辞める」発言は確定的意思表示と認められないこともあります。
■ 口頭の「辞める」だけでは証拠が残らない——退職届の取得が必須
退職の成立は「言ったかどうか」ではなく、客観的証拠で立証できるかどうかで判断されます。
■ 退職届を出さない場合はメール・書面で退職届提出または出社を求める
「解雇していない」事実を書面で明確にしておくことが、解雇認定リスク防止の鍵です。
■ 出勤停止・システム遮断・給与打ち切りは「解雇」と評価されるリスクがある
一方的に就労の機会を奪う行為は解雇と認定されかねません。慎重な対応が必要です。
1. 口頭での「辞める」は法的に有効か
社員が突然「もう辞めます」と口頭で述べ、そのまま出社しなくなった場合、会社経営者としては「退職は成立した」と考えたくなるのが自然です。しかし、口頭のやり取りだけで退職が法的に確定するとは限りません。
退職には、大きく分けて「労働者からの一方的な辞職」と「会社との合意退職」があります。いずれの場合も口頭でも理論上は成立し得ますが、後に紛争となった場合、問題となるのはその意思表示が本当に存在したのか、真意に基づくものだったのかという点です。感情的なやり取りの中で発せられた「辞める」という言葉が、直ちに確定的な退職意思と認定されるとは限りません。
会社経営者として重要なのは、退職の成立は「言ったかどうか」ではなく、後日、客観的証拠によって立証できるかどうかで判断されるという点です。口頭のみで処理を進めることは、将来的な解雇紛争の火種となり得ます。
2. 退職届がない場合に生じる3つのリスク
①合意退職が否定されるリスク
社員が「退職の意思はなかった」「強い口調で退職を迫られた」と主張すれば、会社は退職の成立を立証しなければなりません。口頭のみのやり取りでは証明が困難になることが多いのが実情です。
②解雇と認定されるリスク
合意退職の成立も立証できない場合、会社側が一方的に労働契約を終了させたとして解雇と認定されるリスクがあります。社員が「辞める」と言った後、会社が出勤を認めず・システムへのアクセスを停止し・給与支払いを打ち切った場合、外形的には会社が就労の機会を奪ったように見えます。特に社員が「退職意思を撤回する」と申し出たにもかかわらず会社が受け入れなかった場合には解雇と判断される可能性が高まります。
③労働契約が存続しているとされるリスク
解雇とも認定されず退職も成立していないと判断された場合には「労働契約は存続している」と評価され、未払い賃金請求やバックペイ請求に発展することもあります。証拠を残さないこと自体が最大のリスクであることを強く認識すべきです。
✕ よくある経営者の誤解・危険な対応
「本人が辞めると言ったのだから、退職は確定している」→ 危険です。
口頭の発言は後で争われます。退職届などの客観的証拠がなければ、合意退職の立証は困難です。
「出社しないので、社内システムのアクセスを止めて給与も打ち切った」→ 解雇と評価されるリスクがあります。
会社が一方的に就労の機会を奪う行為は、解雇の意思表示と認定されかねません。まず退職届の取得・書面対応を先行させることが必要です。
3. 退職の意思表示があった場合の正しい初動対応
STEP 1:退職届を提出させる
退職の申出があった場合は口頭で退職を承諾するだけでなく、退職届を提出させて退職の申出があったことの証拠を残してください。印鑑を持ち合わせていない場合は、退職届に署名したものを提出させれば足ります。後から印鑑を持参させて面前で押印させることができればベターです。
STEP 2:退職届を出さない場合は書面・メールで対応を明確化
出社しなくなった社員が退職届を提出しない場合は、電子メールか書面で①退職届の提出を促すとともに、②退職する意思がないのであれば出社するよう促し、③解雇していない事実を明確にしてください。この対応を書面・メールで行うことで「会社は解雇していない」という事実を客観的な証拠として残すことができます。
STEP 3:退職経緯を詳細に記録しておく
いつ・どこで・どのような経緯で「辞める」という発言があったか、その後の経緯をすべて記録しておくことが重要です。後日紛争になった場合、この記録が会社側の主張を支える証拠になります。
退職届の取得方法・書面対応の文例・解雇認定リスクの回避策について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「社員が『辞める』と言い残して出て行った。退職届を求めなかった結果、数日後に弁護士から『解雇予告手当を払え』という内容証明が届いた。退職届という証拠がなく対応に苦労した」
・「社員が『辞める』と言い残して出て行ったため、すぐに弁護士に相談した。翌日にメールで退職届の提出または出社を求める文書を送付。社員は結局退職届を提出し、解雇認定リスクを回避できた」
「辞める」と言い残して出て行った社員への対応は時間が勝負です。すぐに書面・メールで記録を残すことが最重要です。
4. まとめ
社員が口頭で「辞める」と言って出社しなくなった場合、口頭のみでは退職が法的に確定しません。退職届などの客観的証拠がないと、①合意退職が否定されるリスク、②解雇と認定されるリスク、③労働契約が存続しているとしてバックペイを請求されるリスクが生じます。正しい対応は、①すぐに本人と連絡を取り退職届の提出を促す、②提出しない場合はメール・書面で退職届提出または出社を求め「解雇していない」事実を明確にする、③退職経緯を詳細に記録しておく、の3ステップです。出勤停止・システム遮断・給与打ち切りは解雇と評価されるリスクがあります。対応に迷ったら早急に弁護士に相談することをお勧めします。
さらに詳しく知りたい方はこちら
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05