勤務態度が悪い社員への懲戒処分

 
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勤務態度が悪い社員への
懲戒処分──
事実認定と相当性判断を解説します。

勤務態度が著しく悪い社員に対して、懲戒処分を見送ったまま放置すると、問題行動はエスカレートし、まじめに働く周囲の社員が被害を受け続けます。しかし、いざ懲戒処分に踏み切ろうとすると、「勤務態度が悪い」という評価的な理由しか言葉にできず、本人や弁護士・労働組合との議論で空中戦に陥るケースが少なくありません。本ページでは、勤務態度不良に対する懲戒処分の核心となる「事実認定」の方法、職場秩序の硬さに応じた処分相当性の判断、いきなり解雇に踏み切ることの危険性までを、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

VIDEO

本ページの基となる解説動画

 

 本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

本記事の要点

勤務態度不良への懲戒処分を効果的に進めるためには、「勤務態度が悪い」という評価的な言葉から、「何月何日のどの場面で、どのような具体的な言動があったか」という事実認定への切り替えが不可欠です。多くの問題社員は意図的にではなく、本人にとってのデフォルトの行動様式が結果として勤務態度不良と評価されているため、評価レベルの議論では本人の改善は望めません。処分の重さは、行為の悪質性と前歴に加え、職場秩序の硬さによっても変わります。厳格な秩序を持つ会社ほど重い処分が可能となり、結果重視で自由度の高い会社では重い処分は難しくなります。懲戒処分の積み重ねを欠いたままいきなり解雇に踏み切ることは、よほどの一発アウト事案を除き、解雇無効と判断されるリスクが極めて高い選択です。

CHAPTER 01

勤務態度不良を放置することのリスク

 

 勤務態度が著しく悪い社員に対して、必要な懲戒処分を見送ったまま放置することには、複数の深刻なリスクが伴います。第一に、問題行動は時間とともにエスカレートしていく傾向があります。「これくらいなら問題視されないだろう」という認識が本人のなかに形成されると、行動はより大胆になり、周囲への被害は累積的に拡大していきます。

 第二に、まじめに働く周囲の社員が深刻な被害を受けます。問題社員の発言や行動に日々さらされる同僚は、業務効率の低下、メンタル不調、退職検討といった反応を示します。「あの人と一緒に働くくらいなら、自分が辞めます」という声が周囲の優秀な社員から上がる事態は、当事務所への相談事例で珍しくありません。会社にとって最も失いたくない人材が、最初に去っていくという構造です。

 第三に、後日、退職勧奨や解雇といった重い対応を行わざるを得なくなったとき、注意指導や懲戒処分の積み重ねがないことが、対応の有効性を大きく損ないます。「これまで何の処分もしてこなかった会社が、突然解雇に踏み切った」という事実関係は、訴訟の場で会社側に決定的に不利に働きます。早期の段階での適切な懲戒処分は、本人の改善機会の提供であると同時に、最終局面における会社の防御力の確保という二重の意味を持ちます。

CHAPTER 02

「悪気なく態度が悪い」社員という難しさ

 

本人にとっては「普通にやっているだけ」

 経営者が見過ごしがちな実務上の重要な事実は、勤務態度不良と評価される社員の多くが、意図的・計画的に態度を悪くしているわけではないという点です。本人にとっては、それが自分のデフォルトの行動様式であり、自動運転モードで普通にやっている結果として、客観的に勤務態度不良と評価される行動になっている──このパターンが、当事務所の経験上、相当多くを占めます。

 言い換えれば、本人は「自分の勤務態度が悪い」という認識を持っていないことのほうが多いということです。経営者が「本人もみんなが態度を悪く感じていることは分かっているはずだ」と考えていても、本人の自己認識ではまったく分かっていないというケースが、実務上は普通に存在します。悪気なく態度が悪いという状態は、ある意味、意図的に態度を悪くするよりも改善が難しい質を持ちます。

本人を改善させたいなら、本人の自己認識に介入する必要がある

 この構造を理解すると、勤務態度不良への懲戒処分の目的は、単に「処分を与えること」ではなく、「本人の自己認識に外部から介入し、自分の行動が客観的にどう評価されているかを認知させること」にあるということが見えてきます。そして、そのためには「あなたの勤務態度は悪い」という抽象的な評価を伝えるだけでは足りず、「○月○日の○○の場面で、あなたが○○と発言したことが、客観的に問題視されている」という具体的事実をもって伝える必要があります。

CHAPTER 03

「勤務態度が悪い」は評価──事実認定に切り替える

 

 懲戒処分の核心が「事実認定」にあることは、当事務所の問題社員の懲戒処分に関する解説ページで詳述しているとおりですが、勤務態度不良の事案では、この事実認定の重要性がとりわけ際立ちます。なぜなら「勤務態度が悪い」という言葉自体が、典型的な「評価」だからです。

評価レベルの議論は必ず空中戦になる

 「あなたの勤務態度は悪い」「いいえ、私の勤務態度は悪くありません」「みんなが悪いと言っている」「自分はそう思いません」──このような評価レベルの議論は、最終的に決着がつきません。本人としては「社長は自分が嫌いだから、こういう難癖をつけているのではないか」「同僚が陰でいい加減なことを言っているのではないか」といった疑念を抱きやすく、対立は深まる一方です。

 これに対して、「○月○日の午前11時頃、営業部のフロアにおいて、あなたは部長から○○の業務指示を受けた際、『そんなのやる意味ない、自分でやればいい』と発言した」という具体的事実をもとに議論すれば、議論の対象は「言ったか・言っていないか」「言ったが意図は違うのか」という事実関係に移ります。事実関係の議論であれば、証拠と本人の弁解を踏まえて客観的に判断することが可能となり、空中戦になりません。

事実が確定すれば「勤務態度が悪い」という評価は自動的に成立する

 多数の具体的事実が積み上げられれば、それらの事実から「勤務態度が悪い」という評価は、改めて議論するまでもなく自動的に成立します。逆に、具体的事実を積み上げられない状況で「勤務態度が悪い」という評価だけを掲げても、評価の根拠が不明確で、本人の納得も裁判官の理解も得られません。事実認定が、評価よりも先に来るべきものであるという順序を、徹底して意識してください。

CHAPTER 04

観察と記録──5W1Hで具体的事実を残す

 

 事実認定に必要な情報を確保するためには、日常の業務のなかで対象社員を意識的に観察し、問題行動が発生したその場で記録に残す習慣が不可欠です。「いつ、どこで、誰が、誰に対し、何を、どのようにしたのか」という5W1Hの枠組みで、事実をその都度メモに落としていく作業を、上司や人事担当者が継続的に行うことが基礎となります。

記録がない事案は「証拠以前の段階」で頓挫する

 当事務所への相談で、相談者が「勤務態度が本当にひどく、暴言もある」とおっしゃるので、「具体的にいつ、どんな暴言があったのですか」とお尋ねすると、明確に答えられないケースが少なからずあります。「最近もあったはず」「みんなが言っている」というレベルでは、懲戒処分の根拠として整理することはできません。

 懲戒処分が頓挫する事案の多くは、証拠の有無の段階で頓挫するのではなく、その前の「事実そのものが具体的に確定できない」という段階で頓挫します。録音や同僚の証言といった証拠の確保以前に、まず「何があったのかを5W1Hで言葉にできる状態」を整えることが、懲戒処分の出発点となります。

記録をとる習慣がもたらす副次的効果

 日常的に対象社員の言動を5W1Hで記録する習慣は、懲戒処分の準備という直接の目的だけでなく、副次的な効果ももたらします。第一に、上司や人事担当者の観察力が向上します。第二に、問題行動の頻度・態様の客観的な把握ができ、処分の重さを判断する基礎資料となります。第三に、記録をとっているという事実自体が、後日の訴訟で会社側の真摯な対応姿勢を裏付ける資料となります。

CHAPTER 05

本人の改善を促すには「具体的事実」が必要

 

 具体的事実をもとに本人と対話することは、懲戒処分の有効性確保という法的観点からだけでなく、本人の行動改善を促すという実際的観点からも重要です。「あなたの勤務態度は悪い」と抽象的な評価で伝えても、本人にとっては何を改善すべきかが具体的に見えません。「すいません」と表面的に返事をして引き下がっても、その後何も変わらないという結果に終わりがちです。

 これに対し、「○月○日の○○の場面で、あなたが○○と発言したことが、業務命令への従順性を欠いた不適切な対応として問題視されている」という具体的事実を伝えれば、本人は自分のどの行動が問題と評価されたかを認知できます。本人としても、納得するか反論するかは別として、「次は同じ対応をしないようにしよう」という改善行動を取る選択が初めて可能となります。

 悪気なく勤務態度が悪い社員のなかには、具体的事実をもとに丁寧に指摘されることで、自分の行動を初めて客観視し、改善に向かう方も一定数存在します。改善の可能性を最大化するという観点からも、抽象的評価ではなく具体的事実をもって対話する姿勢が、決定的に重要となります。

CHAPTER 06

処分の重さの判断──「職場秩序の硬さ」も決定要素

 

処分の重さを決める基本要素

 懲戒処分の重さは、行為そのものの悪質性の程度、本人の前歴(過去の懲戒処分歴・注意指導歴)、本人の反省の程度、結果の重大性、業務への影響度、他の社員に与えた影響、これまでの会社の対応との均衡など、多数の要素を総合的に考慮して決定されます。マニュアル的・機械的な判断は、いずれの方向にも誤りを生むため避ける必要があります。

職場秩序の硬さが「同じ行為に対する処分の重さ」を変える

 経営者にあまり意識されていない要素として、「職場秩序の硬さ」が処分の重さに影響を与えるという論点があります。同じ行為であっても、職場の秩序がカチッとしている会社では重い処分が相当と判断され、結果重視で自由度の高い会社では同じ重さの処分は重きに失すると判断される、という構造があります。

 厳格なルールが定められ、運用も徹底されている会社では、ルール違反に対する処分の合理性が認められやすくなります。守るべき秩序の輪郭が明確だからです。これに対して、「結果さえ出せば、勤務時間や服装は自由」という運用がなされている会社では、勤務態度に関する厳格な処分を行おうとしても、「日頃から自由を許容してきた会社が、突如として厳格な処分を行うのは均衡を欠く」という評価がなされやすくなります。

 この論点は、勤務態度不良への懲戒処分の重さを設計する際に必ず検討すべき要素です。会社として、平素からどのような職場秩序を維持してきたのか、その秩序がどの程度に明示・徹底されてきたのか、これまで他の社員の同種行為に対してどのような対応をしてきたのか、を冷静に振り返ったうえで、本件における処分の重さを判断する必要があります。

CHAPTER 07

国家公務員の懲戒処分基準を参考にする

 

 処分の重さの判断にあたって、ひとつの参照軸となるのが、人事院が公表している国家公務員の懲戒処分基準です。これは民間企業に直接適用されるものではありませんが、一般的な相場感覚を把握するうえで参考になります。

参考──国家公務員の処分基準(一例)

暴行:原則として停職または減給。状況の悪質性に応じて加重・軽減。
暴言:原則として減給または戒告。状況の悪質性に応じて加重・軽減。
(出典:人事院「懲戒処分の指針」をもとに当事務所が要約。実際の運用は事案ごとの個別判断となる。)

「相手」次第で評価は大きく変わる

 もっとも、上記基準は「暴行」「暴言」という抽象的な分類における原則的な処分例にすぎません。同じ「暴行」であっても、上司への暴行で職務命令にも従わないという内容であれば、職場秩序を根本的に揺るがすものとして、退職勧奨ないし解雇相当と評価される事案も十分にあります。マニュアル的に「暴行=停職」と当てはめることは誤りであり、相手・状況・前歴・職場秩序を総合した個別判断が必要です。当事務所のような問題社員対応を多く扱う弁護士に相談し、本件事案に即した相当性判断を行うことが、処分後の有効性確保にも資します。

CHAPTER 08

懲戒処分なしの「いきなり解雇」が無効になる理由

 

 勤務態度不良の社員に対して、これまで何の懲戒処分も行ってこなかった会社が、突如として解雇に踏み切るというパターンは、当事務所が最も心配する対応類型のひとつです。よほどの一発アウト事案でない限り、こうした解雇は無効と判断される可能性が極めて高いものです。

 解雇有効性の判断にあたっては、会社が事前にどの程度の改善機会を本人に提供してきたかが重要な要素となります。注意指導や懲戒処分の積み重ねがない事案では、「会社は本人に改善の機会を実質的に提供していなかった」という評価がなされ、いきなりの解雇は社会通念上の相当性を欠くと判断されます。仮に解雇無効となれば、職場復帰と未払賃金の支払を命じられ、解決のための金銭水準は懲戒処分段階よりもはるかに大きくなります。

 逆に、注意指導と懲戒処分を計画的に積み重ねた事案であれば、最終的に解雇に至った場合の有効性が認められやすくなり、また退職勧奨を行う場合も合意成立率が高まり、解決金水準も抑制されます。勤務態度不良に対する懲戒処分は、単なる「処分」ではなく、最終局面の選択肢を確保するための戦略的な準備でもあります。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.「勤務態度が悪い」を懲戒事由として懲戒処分通知書に書いてもよいですか。

A.「勤務態度が悪い」という抽象的評価のみを記載した懲戒処分通知書は、有効性を争われた場合に会社側に不利となります。記載すべきは、「○月○日の○○の場面で、あなたが○○と発言した」という具体的事実です。具体的事実を多数積み上げたうえで、これらを「勤務態度不良」として懲戒事由(就業規則上の該当条項)にあてはめる構成が望ましい記述方法です。

Q.同僚の証言だけで具体的事実を立証することは可能ですか。

A.同僚の証言は重要な証拠となりますが、複数名の証言が一致していること、各証言が具体的かつ詳細であること、証言者間の利害関係が問題化しないことなどが、信用性を支える要素となります。可能であれば、各同僚から書面の陳述書を取得し、証言の内容を文書化しておくことが望ましい運用です。録音や同時メモなど他の証拠と組み合わせることで、立証はより強固になります。

Q.勤務態度不良の社員に対して、注意指導と懲戒処分はどのように使い分けるべきですか。

A.原則として、初回・軽微な事案は注意指導から始め、改善が見られない場合や事案が重い場合に懲戒処分(譴責、減給、出勤停止等)に進むという段階的運用が基本です。注意指導も書面化し、改善状況を継続的に記録することで、後の懲戒処分の正当性を支える資料になります。具体的な使い分けは事案ごとに判断が必要ですので、会社側を専門に扱う弁護士に相談されることをお勧めします。

Q.当社の職場は自由度が高く、明文ルールも少ないですが、勤務態度不良への懲戒処分は可能ですか。

A.可能ですが、職場秩序の輪郭が緩い分、重い処分の相当性が認められにくい構造があります。基本的な業務命令への不服従、暴言、業務放棄など、自由度の高い職場でも明らかに許容できない行為に絞って処分対象とする、就業規則の懲戒事由の明確化を進める、といった対応が現実的です。事案に応じた相当性判断は、会社側専門弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

Q.本人が「自分の勤務態度は悪くない」と認めません。事実認定はどう進めればよいですか。

A.「勤務態度が悪い」という評価について本人の同意を得る必要はありません。必要なのは、その評価の根拠となる「○月○日の○○の発言・行動」という具体的事実が存在したことの認定です。本人がこれらの事実自体を否認する場合は、同僚証言・書面記録・録音等の証拠と本人の弁解を踏まえた事実認定を行います。本人が事実は認めるが評価は争うというケースでは、事実が確定すれば「勤務態度不良」という評価は概ね自動的に成立します。

Q.勤務態度不良の社員に対して、いきなり解雇することはできますか。

A.よほどの一発アウト事案でない限り、注意指導や懲戒処分の積み重ねがないままの解雇は、無効と判断される可能性が極めて高いものです。解雇有効性の判断では、会社が本人に改善の機会を実質的に提供してきたかが重要な要素となります。注意指導と懲戒処分を計画的に積み重ねたうえで、それでも改善が見られない場合に最終手段として解雇を検討するという段階を踏んでください。

Q.勤務態度不良への懲戒処分を、継続的に弁護士と相談しながら進められる体制はありますか。

A.当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。事実認定の整理、注意指導書・懲戒処分通知書の文案作成・レビュー、面談前の伝達内容の設計、面談後の振り返りと次の一手の助言を、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者が孤立せず、自信を持って懲戒処分を進められる体制を整えております。

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SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/19