労働問題79 誰の目から見ても勤務態度が悪く、改善するとは到底思えない社員であっても、解雇に先立ち注意指導する必要がありますか?

この記事の要点

どれだけ明らかな問題社員でも、解雇前の注意指導・懲戒処分の積み重ねが原則として必要です。「改善の見込みなし」は会社の思い込みでなく客観的に示す必要があります。

解雇権濫用の判断(労契法16条)において注意指導・懲戒処分歴の有無は重要な考慮要素です。注意指導・懲戒処分なしでは、よほど悪質な事案以外、「改善の見込みが乏しい」ことを立証することに困難を伴います。

解雇権濫用の判断では注意指導・懲戒処分歴が考慮される

労契法16条の解雇権濫用判断において、注意指導や懲戒処分歴の有無等は重要な考慮要素となります。これらがないと解雇の相当性が認められにくくなります。


注意指導なしでは「改善の見込みが乏しい」を立証困難

よほど悪質な事案以外、注意指導・懲戒処分をしていないでは、勤務態度の悪さが客観的に改善の見込みが乏しいことを立証することに困難を伴います。


十分な注意指導・懲戒処分の積み重ね後に解雇すべき

会社が勝手に改善の余地がないと思い込んでいるだけではないかと疑われないためにも、十分な注意指導をし、懲戒処分を積み重ねてから解雇すべきです。

1. 解雇権濫用の判断と注意指導・懲戒処分歴

解雇権濫用の判断における注意指導・懲戒処分歴の位置づけ

 解雇権の濫用に当たるかどうか(労働契約法16条)を判断するにあたっては、注意指導や懲戒処分歴の有無等が考慮されます。これは、解雇に客観的合理的理由と社会通念上の相当性があるかどうかを判断する際の重要な考慮要素の一つです。

 特に勤務態度不良・能力不足を理由とする解雇の場合、①問題行動の具体的事実が存在すること、②その問題行動に対して使用者が注意指導を行ったこと、③改善の機会を与えたにもかかわらず改善されなかったこと、という三つの要素を示すことが、解雇の有効性を支える上で重要です。注意指導・懲戒処分歴はこれらを客観的に証明する手段となります。

注意指導なしでは「改善の見込みが乏しい」の立証が困難

 勤務態度の悪さが客観的に改善の見込みが乏しいことを立証できるのであれば別ですが、注意指導や懲戒処分をしていないのでは、よほど悪質な事案でない限り、勤務態度の悪さが客観的に改善の見込みが乏しいことを立証することに困難を伴うのが通常です。

 注意指導を一切せずに解雇した場合、「注意指導すれば改善した可能性があったのではないか」「改善の機会を与えずに解雇したのは相当ではない」という評価を受けやすくなります。

✕ よくある経営者の誤解

「誰が見ても明らかに問題があるのだから、注意指導などせずにすぐ解雇できる」→ 原則として誤りです。
よほど悪質な事案(横領・暴力等)でない限り、注意指導・懲戒処分を積み重ねずに解雇すると、「改善の機会を与えなかった」として解雇の相当性が否定されるリスクがあります。

「どうせ改善しないのだから、注意指導は無駄だ」→ 法的には必要なプロセスです。
会社が「改善しない」と確信していても、それは会社の主観的判断にすぎません。注意指導・懲戒処分を積み重ねることで、「改善の機会を与えたが改善されなかった」という客観的事実を作ることが必要です。

2. 注意指導・懲戒処分積み重ねの実務上の効果

「会社の勝手な思い込み」と見られないために

 勤務態度の悪さが改善の余地がないと会社が勝手に思い込んでいるだけではないかと思われないようにするためにも、十分な注意指導をし、懲戒処分を積み重ねてから、解雇すべきと考えます。

 注意指導・懲戒処分を積み重ねることは、①「会社は問題行動を認識して適切に対応した」という事実の証明、②「改善の機会を与えたにもかかわらず改善されなかった」という事実の証明、③「改善の見込みが乏しい」という判断が主観的思い込みではなく客観的事実に基づくものであるという証明、という三つの重要な機能を果たします。

「よほど悪質な事案」とは

 「よほど悪質な事案でない限り」という留保は重要です。横領・重大な背任・職場での暴力・重大なハラスメント等、一発で解雇が正当化されるような極めて深刻な非違行為がある場合は、注意指導・懲戒処分の積み重ねなしに解雇が有効とされる可能性があります。しかしこのような事案は例外であり、通常の「仕事ができない」「勤務態度が悪い」「協調性がない」という問題では、注意指導・懲戒処分の積み重ねが必要です。

 問題社員への注意指導・懲戒処分の進め方・解雇のタイミングについて、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

3. 注意指導・懲戒処分の実務上の進め方

段階的な対応が基本

 問題社員への対応は、①口頭での注意指導→②書面による注意指導(改善指示書等)→③始末書の提出・軽い懲戒処分(戒告・譴責等)→④より重い懲戒処分(減給・出勤停止等)→⑤退職勧奨→⑥解雇という段階的な対応が基本です。この段階を踏むことで、「十分な注意指導・懲戒処分を行ったが改善されなかった」という事実が客観的に積み重なっていきます。

 ただし、問題の程度・性質によって適切な段階は異なります。どのような対応を取るべきかについては、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「明らかに問題のある社員を注意指導なしに即解雇した。裁判所に『改善の機会を与えなかった』として解雇の相当性が否定され、解雇無効・高額バックペイの支払を余儀なくされた」

・「問題社員に対して書面による注意指導・始末書提出・懲戒処分を段階的に積み重ねた。半年後に解雇したところ、注意指導を繰り返したが改善されなかった事実が客観的に示せ、解雇有効とされた」

 「どうせ改善しない」という確信があっても、注意指導・懲戒処分のプロセスを踏まないことは法的リスクを招きます。段階的対応こそが解雇の有効性を支えます。

4. まとめ

 誰の目から見ても勤務態度が悪く改善するとは到底思えない社員であっても、解雇に先立ち注意指導する必要があります。解雇権の濫用に当たるかどうか(労契法16条)の判断において、注意指導や懲戒処分歴の有無等は重要な考慮要素です。注意指導・懲戒処分をしていないでは、よほど悪質な事案でない限り、改善の見込みが乏しいことを客観的に立証することに困難を伴います。会社が勝手に「改善の余地がない」と思い込んでいるだけではないかと疑われないためにも、十分な注意指導をし、懲戒処分を積み重ねてから解雇すべきです。問題社員への対応は早めに弁護士に相談することが最善策です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

 

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最終更新日 2026/04/05

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