労働問題521 年次有給休暇の買い上げは違法?原則と例外を解説

この記事の結論
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年次有給休暇の買い上げは原則として労働基準法違反

年次有給休暇は労働者に実際に休暇を取得させることを目的とした制度であり、使用者が休暇を与えず金銭で処理することは、原則として労働基準法(39条)の趣旨に反し違法とされます。

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本人が希望しても、法定の年休の買い上げは原則認められない

労働者本人が「買い上げてほしい」と希望していても、法定の年次有給休暇は実際に休ませることが制度上求められているため、合意があっても買い上げは違法と評価される可能性があります。

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例外的に買い上げが認められる3つのケースがある

①時効により消滅した年休、②法定日数を超える法定外年休、③退職時に未消化となっている年休については、例外的に買い上げが認められます。これらと法定年休を正確に区別することが重要です。

01年次有給休暇の買い上げは原則違法

 年次有給休暇が未消化のまま残っている場合、「休ませる代わりに金銭で買い上げてもよいのではないか」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、年次有給休暇の買い上げは、原則として労働基準法違反となります。

 年次有給休暇は、単なる賃金の一部ではなく、労働者に実際に休暇を取得させることを目的とした制度です(労基法39条)。そのため、使用者が休暇を与えず金銭で処理することは、制度の趣旨に反するとされています。買い上げを約束して休暇を取得させないこと(事前の買い上げ予約)は、年次有給休暇の付与義務に反する違法な取扱いとなります。

 もっとも、すべての場合に買い上げが禁止されているわけではなく、例外的に労基法違反とならないケースも存在します(04節参照)。

02年次有給休暇制度の目的

 年次有給休暇制度は、労働者に賃金を保障しながら休暇を取得させることで、心身の疲労回復を図り、継続的に働ける状態を維持することを目的としています。あわせて、私生活の充実や自己啓発の機会を確保するという役割も担っています。

 このように、年次有給休暇は「休むこと」自体に意味がある制度であり、賃金の支払いによって代替することは想定されていません。実際に休暇を取得させることによって労働者の健康を守り、長時間労働や過重労働を防止するという政策的な目的もあります。

 そのため、使用者が年次有給休暇を与えず金銭で処理してしまうと、労働者は十分な休養を取る機会を失い、制度の趣旨が損なわれることになります。この点が、年次有給休暇の買い上げが原則として認められていない理由です。

03本人が希望しても買い上げは認められない

 たとえ労働者本人が「休みは不要なので買い上げてほしい」と希望していたとしても、原則は変わりません。年次有給休暇は、実際に休ませることが制度上求められている権利だからです。

 そのため、使用者と労働者の合意があったとしても、法定の年次有給休暇を買い上げる行為は、労基法違反と評価される可能性があります。実務上、慣習的に買い上げが行われていたとしても、後から労働基準監督署の是正指導やトラブルにつながるおそれがあるため注意が必要です。

 なお、2019年4月からは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の取得を使用者に義務付ける制度(年5日取得義務)も導入されています。買い上げによって取得を回避することはできず、実際に休暇を取得させることが求められています。

04例外的に買い上げが認められる3つのケース

 年次有給休暇の買い上げは原則として認められていませんが、次の3つの場合には、例外的に労働基準法違反とはなりません。実務では、これらを正確に区別することが重要です。

例外的に買い上げが認められる3つのケース

① 時効により消滅した年次有給休暇
年次有給休暇の請求権は、付与日から2年で時効により消滅します(労基法115条)。すでに時効が完成した年休は、労働者が休暇として取得することはできません。そのため、時効消滅後の年休を金銭で支払うことは、制度の趣旨に反せず、労基法違反になりません。

② 法定日数を超える法定外年休
会社が独自に付与している、法定日数を超える年次有給休暇(法定外年休)は、労基法で付与が義務付けられている休暇ではないため、会社の裁量で金銭支給の対象とすることができます。

③ 退職時に未消化となっている年次有給休暇
労働者が退職する際に残っている未消化の年休は、退職後は取得すること自体が不可能となるため、金銭で清算することが認められます。

 ただし、これらはいずれも「買い上げが許される」というだけで、買い上げが会社の義務になるわけではありません。特に③の退職時の未消化年休については、就業規則等に買い上げの定めがなければ、会社に買い上げの義務はありません(退職前に取得させる、または取得させずに権利を消滅させることも可能です)。

05会社側が注意すべき実務上のポイント

 年次有給休暇の買い上げをめぐる実務では、対象となる休暇が「法定年休」なのか、「例外的に買い上げが認められる年休」なのかを正確に区別することが重要です。時効消滅分や法定外年休と法定年休を混同したまま運用すると、意図せず労基法違反となるおそれがあります。

 また、買い上げが認められるケースであっても、恒常的に金銭清算を前提とした運用を行うと、年次有給休暇の取得自体が形骸化しやすくなります。実務上は、原則として休暇を取得させる体制を整えたうえで、例外的な場面に限って買い上げを行うという整理が望ましいです。

 さらに、退職時の年次有給休暇の清算については、就業規則や社内ルールで取扱いを明確にしておくことで、後日のトラブルを防ぎやすくなります。運用に迷う場合には、事前に使用者側弁護士・社会保険労務士へ相談することを検討してください。

経営上のポイント 年次有給休暇の買い上げは原則として労基法違反です。本人が希望しても、法定の年休を休ませずに金銭で処理することはできません。例外的に買い上げが認められるのは、①時効消滅した年休、②法定外年休、③退職時の未消化年休の3ケースに限られます。これらと法定年休を正確に区別し、原則として休暇を取得させる体制を整えてください。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職する社員が未消化の年休を全部使うと引き継ぎができません。買い上げて出社してもらうことはできますか。

A. 退職時の未消化年休の買い上げは違法ではありませんので、社員の同意があれば、年休を買い上げて引き継ぎのために出社してもらうことは可能です。ただし、これは社員の同意が前提であり、会社が一方的に「年休を取らせず買い上げる」と強制することはできません。退職時の年休消化と引き継ぎの調整は、退職日の設定(退職日を後ろにずらして引き継ぎ期間と年休消化期間を確保する等)も含めて、円満に話し合うことをお勧めします。

Q2. 時効消滅しそうな年休がたくさん残っている社員がいます。消滅前に買い上げてもよいですか。

A. 時効消滅「前」の年休(まだ取得できる年休)を買い上げることは、原則として違法です。買い上げが認められるのは、すでに時効消滅した年休に限られます。消滅前の年休については、取得を促進すること(計画的付与・取得勧奨等)が本来の対応です。なお、年5日の取得義務がある場合は、確実に取得させる必要があります。安易に「消える前に買い上げ」とすることは避けてください。

Q3. 法定外年休(会社独自の上乗せ年休)の買い上げ金額はどのように決めればよいですか。

A. 法定外年休は法律の規制を受けないため、買い上げの有無・金額は会社が自由に定めることができます。1日あたりの買い上げ額を「平均賃金の1日分」「所定労働時間労働した場合の通常賃金」など、就業規則や社内ルールで明確に定めておくとよいでしょう。法定年休と法定外年休が混在している場合は、どちらを優先的に取得・消滅させるかのルールも定めておくと、運用が明確になります。

最終更新日:2026年2月25日

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