労働問題522 就業規則に定める出勤停止の日数は何日が適切か
目次
1. 出勤停止の日数設定に悩む会社経営者へ
就業規則を見直す際、「懲戒処分としての出勤停止の日数を、どれくらいに定めておくのが適切なのか」と悩む会社経営者は少なくありません。短すぎると抑止力に欠け、長すぎると重すぎる処分になってしまうため、判断が難しい項目です。
実務では、「とりあえず数日程度にしておけばよいのではないか」「長期間の出勤停止は現実的ではないのではないか」といった感覚的な判断で日数を決めているケースも多く見られます。しかし、出勤停止は懲戒処分の中でも重要な位置付けにあるため、安易な設定は後々大きな問題を招くことがあります。
特に問題になるのは、実際に非違行為が発生し、懲戒処分を検討する段階になってから、「この日数では軽すぎる」「これ以上重い処分しか残っていない」と気づくケースです。就業規則は、問題が起きてから都合よく変更できるものではありません。
会社経営者としては、「どの程度の幅を持たせておくべきか」「将来どのようなケースに対応する可能性があるのか」を想定したうえで、出勤停止の日数をあらかじめ設計しておく必要があります。これは、社員を厳しく罰するためではなく、事案に応じて適切な重さの懲戒処分を選択できるようにするためです。
出勤停止の日数設定は、懲戒処分全体のバランスを左右する重要な要素です。まずは、この問題が単なる形式的な規定ではなく、将来の経営判断に直結するテーマであることを、会社経営者自身が正しく認識することが出発点となります。
2. 出勤停止は解雇前の重要な懲戒処分である
出勤停止は、懲戒処分の中でも位置付けが非常に重要な処分です。戒告や注意、減給といった比較的軽い処分よりも重く、かといって、退職の効果を伴う諭旨解雇や懲戒解雇よりは一段軽い処分として、いわば「中間」に位置します。
会社経営者の中には、「出勤停止は単に数日間休ませる処分」と捉えている方もいますが、実務上はそう単純ではありません。出勤停止は、一定期間、労務の提供を禁止し、原則として賃金も支払わない処分であり、社員に与える影響は決して小さくありません。
だからこそ、出勤停止は、解雇に踏み切る前に選択できる、極めて重要な懲戒処分です。非違行為の内容や程度によっては、「減給では軽すぎるが、いきなり解雇は重すぎる」という場面が必ず生じます。その際に、適切な選択肢として機能するのが出勤停止です。
この「中間的な処分」が十分に機能するかどうかは、就業規則に定めた出勤停止の日数の幅に大きく左右されます。日数の上限が極端に短いと、事案の重さに見合った処分を選べず、結果として不合理な判断を迫られることになりかねません。
出勤停止を「解雇前のワンクッション」として適切に機能させるためには、懲戒処分全体の流れの中で、その役割を正しく理解しておくことが重要です。単なる形式的な規定ではなく、将来のトラブル対応を支える重要な制度として位置付ける必要があります。
3. 国家公務員の懲戒規定が一つの参考になる理由
出勤停止の日数をどの程度に設定すべきかを考える際、実務上よく参考にされるのが、国家公務員の懲戒について定めた「人事院規則一二―〇(職員の懲戒)」です。この規則では、停職の期間について「一日以上一年以下」と明確に定められています。
民間企業が国家公務員の規定にそのまま従う必要はありません。しかし、長年の運用を前提として制度設計されている点を踏まえると、「出勤停止という処分は、最大一年程度まで想定し得る」という考え方自体は、十分に参考になります。
特に重要なのは、「停職期間を一律に短期間に限定していない」という点です。非違行為の内容や悪質性、改善の可能性は事案ごとに大きく異なります。そのため、懲戒処分の重さを日数で調整できるよう、一定の幅を持たせている点に制度設計上の合理性があります。
会社経営者の中には、「一年の出勤停止は現実的ではない」「そこまで重い処分は想定していない」と感じる方も多いでしょう。しかし、ここで重要なのは、「実際に一年の出勤停止を科すかどうか」ではなく、「それに近い重さの処分を選択できる余地を残しておくかどうか」です。
国家公務員の懲戒規定は、懲戒処分を段階的・比例的に行うという考え方を前提に作られています。出勤停止の日数を検討する際には、この考え方を踏まえ、将来起こり得るさまざまな事案に対応できる規定になっているかを、会社経営者自身が確認することが重要です。
4. 出勤停止「最長7日」の就業規則が抱える問題点
実務上、出勤停止の日数について「最長7日程度」と定めている就業規則をよく見かけます。一見すると、現実的で使いやすい規定のようにも思えますが、会社経営者の立場から見ると、この設定には注意すべき問題があります。
多くの就業規則では、出勤停止よりも重い懲戒処分として規定されているのは、降格、諭旨解雇(退職)、懲戒解雇程度に限られています。そのため、7日間の出勤停止を科してもなお非違行為が改善されない場合、次に選択できる処分が、いきなり退職の効果を伴う重大な懲戒処分になってしまうことがあります。
これは、懲戒処分の段階構造として非常に歪な状態です。7日間の出勤停止と、諭旨解雇や懲戒解雇との間には、処分の重さとして大きな隔たりがあり、事案によっては「そこまで重い処分を選ぶのは行き過ぎではないか」と感じる場面も少なくありません。
しかし、就業規則上、より重い出勤停止という選択肢が用意されていなければ、会社経営者は不本意であっても、解雇系の処分に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれることになります。これは、会社にとっても、社員にとっても、望ましい状態とはいえません。
出勤停止の上限を短期間に限定してしまうと、「軽すぎる処分」と「重すぎる処分」しか残らず、事案に応じた柔軟な判断ができなくなります。7日という数字自体に合理性があるわけではなく、単に「昔からそうしている」「何となく決めた」という理由で設定されているケースも多い点には、特に注意が必要です。
就業規則は、実際にトラブルが起きたときに会社経営者を縛るルールになります。出勤停止を最長7日とする規定が、本当に将来の事案に対応できる内容になっているのか、一度立ち止まって見直すことが重要です。
5. 出勤停止と解雇系処分との間に生じる大きなギャップ
出勤停止の日数を短期間に限定している就業規則で実際に問題になるのは、処分の選択肢の幅が極端に狭くなることです。特に、最長7日程度の出勤停止しか定めていない場合、その次に控えている処分が、諭旨解雇(退職)や懲戒解雇といった、退職の効果を伴う処分であることが多く見られます。
7日間の出勤停止と、退職を前提とする懲戒処分との間には、処分の重さとして明らかな段差があります。非違行為が改善されていないとはいえ、「直ちに退職させるほどではない」と感じる事案であっても、就業規則上は他に選択肢がなく、極端な判断を迫られることになりかねません。
このような状況では、会社経営者としても判断に迷いが生じやすくなります。結果として、処分を先送りして問題を長引かせてしまったり、逆に、後になって「重すぎる処分だった」と争われるリスクを抱えながら解雇に踏み切ったりすることになります。
本来、懲戒処分は、非違行為の内容や回数、改善の可能性などを踏まえ、段階的に重くしていくことが望ましいものです。その途中段階として機能すべき出勤停止が十分に用意されていないと、処分体系全体が不自然なものになってしまいます。
出勤停止と解雇系処分との間に大きなギャップが存在する就業規則は、会社経営者にとって「使いにくい規則」となりがちです。事案に応じた適切な処分を選択できるようにするためには、このギャップをどのように埋めるのかという視点で、就業規則を見直す必要があります。
6. 懲戒処分は段階的・比例的であるべき理由
懲戒処分を検討する際、会社経営者が常に意識すべきなのは、「非違行為の内容や程度に応じて、処分の重さが比例しているか」という点です。軽微な非違行為に対して重すぎる処分を行えば、不当な懲戒として争われるリスクが高まります。
そのため、懲戒処分は一足飛びに重くするのではなく、段階的に重くしていくことが原則となります。注意や戒告、減給、出勤停止といった処分を経て、それでも改善が見られない場合に、初めて解雇系の処分を検討するという流れが、実務上も合理的です。
この段階構造がきちんと機能するためには、それぞれの処分が「実質的な意味」を持っていなければなりません。出勤停止が数日程度に限定されている場合、「減給と大差がない」「抑止力として弱い」と評価されることもあり、処分の段階として十分に機能しないおそれがあります。
会社経営者としては、「今回の事案では、どの段階の処分が最も適切か」「次に進む余地を残した処分になっているか」を常に考える必要があります。そのためには、出勤停止という処分自体に、日数の幅によって重さを調整できる余地があることが重要です。
懲戒処分を段階的・比例的に行える体制を整えておくことは、社員を過度に罰するためではありません。むしろ、事案に応じた柔軟で合理的な対応を可能にし、結果として会社を不要な紛争リスクから守ることにつながります。その意味で、出勤停止の日数設定は、懲戒制度全体のバランスを左右する重要な要素だといえるでしょう。
7. 出勤停止の日数で懲戒の重さを調整できるメリット
出勤停止という懲戒処分の大きな特徴は、日数によって処分の重さを柔軟に調整できる点にあります。同じ「出勤停止」であっても、数日間と数か月とでは、社員に与える影響は大きく異なります。
この調整幅が十分に確保されていれば、「減給では軽すぎるが、解雇に踏み切るほどではない」という事案に対して、適切な重さの処分を選択することができます。非違行為の内容や回数、改善の可能性に応じて、処分を細かく調整できることは、会社経営者にとって大きなメリットです。
一方で、出勤停止の日数が短期間に限定されていると、処分の重さを調整する余地がほとんどなくなります。その結果、「今回は7日で足りないが、次は解雇しかない」という極端な判断を迫られやすくなり、対応が硬直化してしまいます。
また、日数の幅を持たせておくことで、「今回は〇日間の出勤停止とするが、次に同様の行為があれば、より長期間の出勤停止を検討する」という形で、明確な警告を与えることも可能になります。これは、社員にとっても、自身の立場を自覚するきっかけとなり、改善を促す効果が期待できます。
出勤停止の日数を柔軟に設定できる就業規則は、会社経営者にとって「使いやすい懲戒制度」を支える基盤になります。懲戒処分を適切に機能させるためにも、日数による調整が可能な設計になっているかどうかを、あらためて確認することが重要です。
8. 最長1年が長すぎると感じる場合の現実的な落としどころ
出勤停止の日数について、「最長1年」と就業規則に定めることに対し、「さすがに長すぎるのではないか」「そこまでの処分は想定していない」と感じる会社経営者も多いでしょう。その感覚自体は、決して不自然なものではありません。
もっとも、ここで重要なのは、「実際に1年の出勤停止を科すかどうか」と、「その程度の重さまで対応できる規定を置いておくか」は別問題であるという点です。就業規則に定めるのは、あくまで選択肢の上限であり、必ず使わなければならないわけではありません。
最長1年が長すぎると感じる場合の現実的な落としどころとして、実務上お勧めできるのが、最長6か月程度の無給出勤停止を可能とする規定です。6か月であれば、数日の出勤停止とは明確に重さが異なり、かつ、直ちに解雇に踏み切るほどではない事案に対応できる余地が生まれます。
この程度の期間が設定されていれば、「今回は1か月」「次は3か月」「それでも改善が見られなければ6か月」といった形で、段階的に処分を重くしていく運用も可能になります。解雇系処分に進む前の、実質的な最終警告として機能させることもできるでしょう。
就業規則における出勤停止の日数設定は、「厳しく罰するため」ではなく、「解雇しか選択肢が残らない事態を避けるため」に行うものです。最長1年に抵抗がある場合であっても、少なくとも6か月程度まで対応できる規定を設けておくことが、会社経営者にとって現実的で安全な選択だといえます。
9. 6か月程度の無給出勤停止を定めておく実務上の意味
出勤停止の最長期間として「6か月程度」を就業規則に定めておくことには、実務上、明確な意味があります。それは、解雇に直結しない範囲で、十分に重い懲戒処分を選択できるという点です。
数日から1週間程度の出勤停止では、非違行為の内容によっては「これだけで改善するとは考えにくい」と感じる場面も少なくありません。一方で、直ちに諭旨解雇や懲戒解雇に踏み切るほどではない事案も、現実には多く存在します。その中間に位置する処分として、数か月単位の無給出勤停止が用意されているかどうかは、判断の幅を大きく左右します。
6か月程度の無給出勤停止は、社員にとっても非常に重い処分です。経済的な影響は大きく、「次に同様の行為があれば、退職を含めた判断になる」というメッセージを明確に伝えることができます。いわば、解雇に進む前の最終段階の処分として機能させることが可能です。
また、この程度の期間が規定されていれば、「今回は1か月」「改善が見られなければ3か月」「それでも改善しなければ6か月」といったように、非違行為の経過に応じて段階的に処分を重くする運用もできます。これは、懲戒処分の比例原則を実務上担保するうえでも有効です。
就業規則に6か月程度の無給出勤停止を定めておくことは、社員を厳しく罰するためのものではありません。むしろ、不必要に解雇という極端な判断を迫られないための安全装置としての意味合いが大きいといえます。会社経営者として、将来の判断余地を確保するためにも、この点は重要な検討ポイントになります。
10. 将来のトラブルに備えた就業規則整備の重要性
出勤停止の日数設定は、日常的にはあまり意識されない項目かもしれません。しかし、実際に非違行為が発生し、懲戒処分を検討する場面になって初めて、「この規定では対応しきれない」「選択肢が極端すぎる」と気づくことが少なくありません。
就業規則は、トラブルが起きてから都合よく変更できるものではなく、事前にどれだけ想定して設計されているかがすべてです。出勤停止の日数を短期間に限定してしまうと、結果として「軽すぎる処分」か「退職を伴う重すぎる処分」しか選べなくなり、会社経営者の判断を不必要に難しくします。
懲戒処分は、社員を罰するための制度ではなく、秩序を維持し、改善を促し、それでも改善が見られない場合に段階的に対応していくための仕組みです。そのためには、出勤停止という中間的な処分が、十分に機能する設計になっていることが欠かせません。
最長1年に抵抗がある場合であっても、少なくとも6か月程度まで無給出勤停止を可能とする規定を設けておくことで、解雇に直結しない形で現実的な対応が可能になります。これは、社員にとっても、会社にとっても、不要な紛争を避けるための重要な備えです。
会社経営者としては、「今は使わないかもしれない規定」こそが、将来のリスクを左右することを意識する必要があります。出勤停止の日数設定を含め、懲戒処分全体のバランスをあらためて見直し、事案に応じた柔軟な判断ができる就業規則になっているかを確認しておくことが、安定した経営につながるといえるでしょう。
最終更新日2026/2/1
