労働問題44 懲戒解雇は無効リスクが高いが普通解雇なら有効になりそうな場合の解雇方法を会社側弁護士が解説
目次
懲戒解雇の無効リスクが高い場合は、普通解雇の選択または懲戒解雇と予備的普通解雇の併記が正解です。懲戒解雇のみに踏み切ることは危険です。
普通解雇であれば有効となりそうなものの、懲戒解雇は無効となるリスクが高い場合は、①普通解雇を選択するか、②懲戒解雇と併せて普通解雇の意思表示も解雇通知書に明示的に行うか、のいずれかをとるべきです。
■ 選択肢①:最初から普通解雇を選択する
懲戒解雇の無効リスクが高い場合は、最初から普通解雇として解雇することで、懲戒解雇の有効性に関する紛争リスクを回避できます。
■ 選択肢②:懲戒解雇と予備的普通解雇を解雇通知書に明記する
懲戒解雇としての処分の意味も持たせたい場合は、「懲戒解雇とするとともに、予備的に普通解雇とする」旨を解雇通知書に明記することで、懲戒解雇が無効となっても普通解雇として救済される余地を確保できます。
■ 訴訟中に懲戒解雇の有効性に疑義が生じた場合:予備的普通解雇の意思表示
当初懲戒解雇のみを行い、訴訟審理の進行で無効リスクが判明した場合も、予備的に普通解雇の意思表示をしておくべきです。
1. 問題の所在:懲戒解雇の無効リスクと普通解雇有効性の分離
懲戒解雇が無効でも普通解雇として有効になりうる場合
懲戒解雇と普通解雇は有効性の判断基準が異なります。懲戒解雇としては無効となるリスクがある(例:就業規則の懲戒事由への該当性が微妙・懲戒権濫用の可能性がある)一方、普通解雇としては客観的合理的理由と社会通念上の相当性があり有効となりそうなケースは実務上少なくありません。
このような場合に、懲戒解雇のみを行ってしまうことは非常に危険です。前記事(労働問題43)で解説したように、懲戒解雇のみを行ったことが明らかな場合、後から「普通解雇の意思表示も含まれていた」と主張しても認められない可能性が高いからです。懲戒解雇が無効となった後に普通解雇として救済される余地がなくなると、会社は極めて厳しい状況に置かれます。
2. 解雇前の対応:2つの選択肢
選択肢①:最初から普通解雇を選択する
懲戒解雇の無効リスクがそれなりに高い場合の第一の選択肢は、最初から普通解雇を選択することです。普通解雇の客観的合理的理由(能力不足・勤務態度不良・規律違反等の重大性)と社会通念上の相当性が認められる見通しが立つ場合、懲戒解雇として行うリスクを負わずに、普通解雇として解雇することで紛争リスクを低減することができます。
懲戒解雇としての処分の意味(制裁・退職金の不支給・今後の評判への影響等)をどの程度重視するかによって、この選択肢を採用するかどうかが変わってきます。
選択肢②:懲戒解雇と予備的普通解雇を解雇通知書に明記する
懲戒解雇としての処分の意味も持たせたい(制裁として明確に示したい・退職金の不支給規定を適用したい等)場合には、解雇通知書に「懲戒解雇とするとともに、予備的に普通解雇とする」旨を明記することが最も確実な対応です。
この方法によれば、懲戒解雇が有効であれば懲戒解雇として処理され、仮に懲戒解雇が無効とされた場合でも、予備的普通解雇として有効性が認められる可能性を確保できます。なお、予備的普通解雇としての有効性(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)の問題は別途生じるため、懲戒事由に該当する事実が普通解雇の客観的合理的理由にも該当するかどうかを事前に弁護士と確認しておくことが重要です。
✕ よくある経営者の誤解
「懲戒解雇が無効になっても、後から普通解雇として主張すれば大丈夫だ」→ 誤りです。
懲戒解雇のみを行ったことが明らかな場合、後から普通解雇の意思表示も含まれていたという主張は認められない可能性が高いです(労働問題43参照)。最初の段階で解雇通知書に予備的普通解雇を明記しておくことが不可欠です。
「懲戒解雇と普通解雇を同時に行うことはおかしい。どちらか一方でなければならない」→ 誤りです。
「懲戒解雇とするとともに、予備的に普通解雇とする」という形式で解雇通知書を作成することは法的に認められています。懲戒解雇の有効性に疑義がある場合は、この形式が会社側のリスクを最小化する最善策です。
懲戒解雇か普通解雇かの選択・予備的普通解雇の解雇通知書への記載方法・懲戒解雇の有効性の見通しについて、実施前の弁護士への相談が不可欠です。→ 経営労働相談はこちら
3. 訴訟中に懲戒解雇の有効性に疑義が生じた場合:予備的普通解雇の意思表示
訴訟審理中の対応も検討が必要
当初、懲戒解雇のみを行ってしまったが、訴訟の審理が進むにつれ、懲戒解雇としては無効となる可能性が高いことが判明したような場合も、予備的に普通解雇の意思表示をしておくべきです。
訴訟中であっても、新たに普通解雇の意思表示を行い、訴訟においてその有効性を主張するという対応が可能な場合があります。ただし、訴訟の段階・時期・これまでの主張との整合性等の問題があり、対応が複雑になります。また、訴訟中に普通解雇の意思表示を行う際には、解雇予告義務(労基法20条)への対応も必要です。
このような状況は難易度が高く、必ず弁護士に相談しながら対応を進めることが不可欠です。当初から弁護士に相談していれば予備的普通解雇を解雇通知書に明記しておくことができ、このような後手の対応を迫られることを防ぐことができます。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
懲戒解雇と普通解雇の選択をめぐる紛争でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「懲戒解雇のみを行ったが、懲戒事由への該当性が微妙と指摘され、懲戒権濫用として無効の可能性が高まった。普通解雇として有効になりえた事案だったが、予備的普通解雇を解雇通知書に明記していなかったため、対応の余地が大幅に制約された」
・「懲戒解雇の有効性に疑義があることを事前に弁護士から指摘されたにもかかわらず、懲戒解雇のみを行った。その後懲戒解雇無効・地位確認という結果になり、多額のバックペイが発生した」
事前の弁護士への相談と解雇通知書の適切な文言設計が、こうした事態を防ぐ最善策です。
4. まとめ
懲戒解雇したい事案において懲戒解雇の無効リスクがそれなりに高く普通解雇であれば有効となりそうな場合は、①普通解雇を選択するか、②懲戒解雇と併せて解雇通知書に予備的普通解雇の意思表示を明記するか、のいずれかの対応をとるべきです。当初懲戒解雇のみを行い、訴訟の審理が進む中で懲戒解雇の有効性に疑義が生じた場合も、予備的に普通解雇の意思表示をしておくべきですが、この対応は難易度が高く弁護士への相談が不可欠です。最善の予防策は、解雇を行う前の段階で弁護士に相談し、適切な解雇通知書の文言を設計することです。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/03/25