労働問題325 従来の一般的な判断基準とは異なる判断基準を用いて管理監督者該当性を判断する見解にはどのようなものがありますか。
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菅野和夫『労働法 第十版』は「経営者と一体の立場」を企業全体への関与ではなく、担当する組織部分における経営者の「分身」として管理する立場と位置づける見解を示している 従来の行政解釈の「誤解」を指摘し、判断基準の明確化を促した重要な学説です |
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ゲートウェイ21事件等の近年の裁判例は、管理監督者性の要件を①部門全体の統括的立場 ②部下への労務管理上の決定権・人事考課・機密事項へのアクセス ③特別手当が時間外手当の代償として十分 ④自己の出退勤について自ら決定できる権限——の4要件で整理している いずれの判決も結論として管理監督者該当性を否定していますが、判断基準の明確化として参考になります |
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4要件のうち③特別手当が「時間外手当が支給されないことを十分に補っているか」という視点は、322番で解説した「時間単価がアルバイト以下かどうか」の判断と本質的に共通する 「残業代が払われない代わりに十分な手当があるか」という実質的な補填の有無が重要です |
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下級審裁判例は最高裁判例ほどの強い拘束力はない(313番参照)ため、これらの判断基準は参考情報であり、具体的な事案でどう判断されるかは裁判官による 判断基準の参照に止まらず、使用者側弁護士・会社側弁護士への相談が不可欠です |
目次
01菅野和夫『労働法 第十版』の見解——「経営者と一体の立場」の再定義
管理監督者の定義として従来使用されてきた「経営者と一体の立場にある者」「事業主の経営に関する決定に参画し」という表現については、学説においても重要な指摘があります。
菅野和夫『労働法 第十版』340頁は次のように述べています。「近年の裁判例をみると、管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち、『経営者と一体の立場にある者』、『事業主の経営に関する決定に参画し』については、これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。最近の裁判例では、このような見地から判断基準をより明確化する試みも行われている。」
従来の解釈:「経営者と一体の立場」=企業全体の経営に関与する立場(→過度に狭い解釈になりがち)
菅野見解:「経営者と一体の立場」=担当する組織部分(部門・店舗等)において経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場
→担当する「重要な組織単位」の管理を通じた経営への参画で足りる
02近年の裁判例が示す4要件——ゲートウェイ21事件等
ゲートウェイ21事件(東京地裁平成20年9月30日判決)、プレゼンス事件(東京地裁平成21年2月9日判決)、東和システム事件(東京地裁平成21年3月9日判決)は、結論としてはいずれも管理監督者該当性を否定していますが、「管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で、具体的には以下の①〜④の要件を満たすことが必要であるとしています。
034要件の各内容と従来の判断基準との対比
①「ある部門全体の統括的な立場」——菅野見解の「担当組織部分での経営者の分身」と対応
要件①「少なくともある部門全体の統括的な立場」は、菅野見解における「担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場」を具体化したものとして理解できます。「企業全体の経営への関与」は不要であり、「ある部門全体」を統括する立場があれば足りるとしています。
②「部下への労務管理上の決定権・人事考課・機密事項」——320番の「採用・解雇・人事考課・労働時間管理」と対応
要件②は、部下に対する一定の裁量権・人事考課権・機密事項へのアクセスを求めています。これは320番で解説した基発第0909001号の「職務内容、責任と権限」の判断要素(採用・解雇・人事考課・労働時間の管理)と実質的に対応しています。
③「特別手当が時間外手当を支給されないことを十分に補っているか」——322番の時間単価判断と共通
要件③は「時間外手当が支給されないことを十分に補っている」という視点を明示しています。これは322番で解説した「時間単価がアルバイト以下でないか」という判断と本質的に共通しており、残業代が支払われない代わりに実質的に十分な報酬が補填されているかどうかを確認するものです。
④「自己の出退勤を自ら決定し得る権限」——321番の遅刻・早退の不利益取扱い判断と対応
要件④「自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること」は、321番で解説した遅刻・早退等の不利益取扱いがないこととほぼ対応しています。自ら出退勤を決定できる権限があれば、遅刻・早退による不利益取扱いはされないはずだからです。
04これらの見解の実務上の意義と限界
菅野見解および近年の裁判例が示す4要件は、従来の行政解釈における抽象的な「経営者と一体の立場」という概念を、より具体的・実用的なチェックポイントとして整理した点で実務上有用です。特に①「ある部門全体の統括的な立場」という具体的な基準は、管理監督者性の判断の出発点として分かりやすい指針となっています。
ただし、313番で解説したとおり、下級審裁判例は最高裁判例ほどの強い拘束力はありません。これらの4要件の判断基準を示した裁判例はあくまで参考情報であり、具体的な事案においてどのような判断がなされるかは裁判官によって異なり得ます。
05まとめ
従来の判断基準とは異なる見解として、菅野和夫『労働法 第十版』は「経営者と一体の立場」を企業全体への関与ではなく担当組織部分での「経営者の分身」として管理する立場と位置づけています。近年の裁判例(ゲートウェイ21事件等)は管理監督者性の要件を①部門全体の統括的立場、②部下への労務管理上の決定権・人事考課・機密事項へのアクセス、③特別手当が時間外手当の代償として十分、④自己の出退勤を自ら決定できる権限——の4要件で整理しています。これらの見解は判断基準の明確化として有用ですが、下級審裁判例として最高裁判例ほどの拘束力はなく、具体的な管理職の管理監督者性の判断については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. ゲートウェイ21事件等が示す管理監督者性の4要件は何ですか。
A. ①職務内容がある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し部下への人事考課・機密事項に接していること、③管理職手当等の特別手当が支給され時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について自ら決定し得る権限があること——の4要件です。
Q2. 菅野見解が指摘する「誤解」とはどのようなものですか。
A. 「経営者と一体の立場」「事業主の経営に関する決定に参画し」という表現が「企業全体の運営への関与を要する」と解釈されてきた(かもしれない)誤解です。菅野見解はこれを指摘し、担当する組織部分(部門・事業所等)について経営者の分身として管理を行う立場であれば足りると解すべきとしています。
Q3. 4要件の③「特別手当が時間外手当を十分に補っているか」はどのように判断されますか。
A. 実際に管理監督者として時間外割増賃金を受け取らない結果として、役職手当等の特別手当がその代償として実質的に機能しているかどうかで判断されます。322番で解説した「時間単価がアルバイト以下かどうか」という判断と本質的に共通しており、残業代相当額が特別手当で補填されているかを確認することが重要です。
Q4. ゲートウェイ21事件等はいずれも管理監督者該当性を「否定」していますが、この判断基準を使えば管理監督者性が認められやすくなりますか。
A. 必ずしもそうではありません。これらの判決は4要件を「必要要件」として示した上で、実態として4要件を満たさないとして管理監督者性を否定しています。4要件という具体的な基準が示されたことで判断の透明性は増しましたが、実態として4要件を満たすためには相当のハードルがあります。また下級審裁判例として最高裁判例ほどの拘束力はなく、具体的な事案でどう判断されるかは裁判官による判断次第です。
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最終更新日:2026年5月10日