労働問題1004 給料の高い社員が病気で全く働けないのに出社し続ける場合の対処法
解説動画
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周りの社員のやる気を削ぎ、会社秩序が崩れる 仕事ができないのに出社して高い給料をもらっているという状況が周りに伝わると、真面目に頑張っている社員が馬鹿馬鹿しくなる。会社の秩序を守るためにもこの状況をストップさせなければならない |
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まず「本当に働けないのか」を確認・記録する 単に机に座らせて何の指示もしないのは問題。「言ってくれればやった」と言われる可能性がある。主治医への問い合わせ・産業医面談・実際に仕事をさせてみた記録が、後の出社拒否の法的根拠になる |
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踏み込んだ対応は「出社拒否」——オフィスに入れない 「労働契約で予定されている程度の労務提供ができない」という確認・記録を根拠として、出社を認めずオフィスに入れないという対応を取る。賃金を払いながらの自宅待機なら不当自宅待機と争われにくい |
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既得権益化した期間が長いほど反発が強い——早期着手が重要 座っているだけで高い給料がもらえるという既得権益が長期化するほど、本人の反発は強くなり説得が難しくなる。場合によっては裁判になることも。できるだけ早い時期に医師・弁護士とチームで対応する |
目次
01なぜこの問題を放置してはいけないのか——会社秩序と安全配慮義務
体調が悪くて全く仕事にならないのに毎日出社して、1日中机に座っているだけ。休むよう勧めても聞き耳を持たない。しかも給料は高い——このような状況が続いている会社があります。
この状況を放置してはいけない理由は二つあります。
一つは会社秩序への影響です。仕事ができないのに出社して高い給料をもらっているという状況が周りの社員に伝わった場合、真面目に頑張っている社員が「自分たちが頑張って仕事するのが馬鹿馬鹿しい」と感じてしまいます。会社の秩序を守るためにも、この状況をストップさせなければなりません。
もう一つは安全配慮義務の観点です。体調が悪い状態で出社し続けることで、さらに体調が悪化する可能性があります。そうなった場合、「なぜそのまま出社させていたのか」と会社の安全配慮義務違反が問われることがあります。本人のためにも、療養して回復することが本来あるべき姿です。
02まず「本当に働けないのか」を確認する
対応の出発点は「本当に働けない状態なのか」の確認です。1日中机に座っているだけで何もしていないとしても、一体何の指示もされていなかったのかという問題があります。
「会社から何も仕事を指示されなかったからやっていなかっただけ。指示してくれればやりました」と言われてしまうと、出社拒否の根拠が弱くなります。本当に働けないのかどうかの確認と記録が、後の対応の法的根拠となります。
主治医への問い合わせ
主治医に対して「会社ではこういった仕事をしているが、今の体調でこの仕事ができますか」という問い合わせをすることができます。会社が直接問い合わせて答えてもらえない場合は、産業医から手紙を書いてもらうと答えてもらいやすくなることがあります。また本人の同意を得た上で、主治医に直接会いに行くという方法もあります。本人や主治医が拒絶した場合は、それ自体が考慮材料になります。
産業医面談
産業医がいる会社であれば、産業医面談を行い「このまま出社させて仕事をさせても体調への悪影響がないか」「労働契約で予定されている程度の仕事ができる状態か」について意見を求めてください。
03単に座らせるだけでなく仕事をさせてみた記録を残す
お医者さんへのアプローチと並行して、実際に仕事を指示してみて、それができたかどうかを記録に残すことも重要です。
「○○の仕事をやってほしいと指示したところ、体調が悪くてできなかった」あるいは「やらせてみたが全くできなかった」という具体的な事実の記録が、「この方は労働契約で予定されている程度の労務提供ができない状態である」という判断の根拠になります。
記録には日時・仕事の内容・指示した方法・本人の反応・できなかった状況などを具体的に残してください。この記録の積み重ねが、後の出社拒否の正当性を支えます。
04踏み込んだ対応——出社拒否(オフィスに入れない)
確認・記録の作業を経て「労働契約で予定されている程度の労務提供ができない」という結論が出た段階で、踏み込んだ対応として出社拒否を検討します。
出社拒否とは、文字通り出社を認めずオフィスに入れないという対応です。机に座ってしまったら、帰るまでしっかり説得する。この作業を繰り返していきます。
相手の意向と真正面からぶつかる対応ですから、非常に気まずい場面もあります。それでもこれが必要な局面があります。
出社拒否の法的な根拠は「労働契約で予定されている程度の労務提供ができないから、出社を認めない(労務の受領を拒絶する)」というものです。だからこそ、前の工程でこの方が働けないことの確認・記録をしっかり行っておくことが重要なのです。根拠なく「来るな」と言うことは、会社都合の不当な出社禁止になりかねません。
05賃金をどうするか——払いながらの自宅待機が争われにくい
出社を認めない場合、賃金をどうするかという問題があります。
賃金を払いながら自宅待機を命じる場合は、不当な自宅待機として争われるリスクは比較的低くなります。なぜなら「会社の都合で休ませて収入を断たれた」という主張がしにくくなるからです。
一方、賃金を払わない(ノーワーク・ノーペイ)とする場合は、リスクが生じます。「労務提供ができないのは会社の都合ではなく本人の体調の問題だ」という根拠が必要になります。働けない状態であることの確認・記録がしっかりできていれば、賃金不払いの根拠も立てやすくなります。
賃金の扱いについては個別の状況によって判断が異なりますので、弁護士に相談しながら決定してください。
06既得権益化した期間が長いほど反発が強い——早期着手が重要
出社して机に座っているだけで高い給料がもらえるという状況が長く続くほど、本人にとってそれが「既得権益」となり、反発が強くなります。
長年その状態が続いてきた場合、「今更来るなと言われても」という気持ちになるのは自然なことです。言ってみれば既得権益を侵害されると感じるわけです。その権益が長ければ長いほど、説得は難しくなり、場合によっては裁判に発展することもあります。
だからこそ、この種の問題が生じた場合はできるだけ早い時期に着手することが重要です。長期化すればするほど解決のコストが高くなります。
医師・弁護士と協力してチームで対応する
この問題の解決には、医師(主治医・産業医)による「働けない状態」の確認と、弁護士による法的な対応の設計の両方が必要です。自力だけで進めることは危険です。特に既得権益が長期化しているケースについては、弁護士と医師が連携して早い段階から計画的に対応していくことが不可欠です。
大変な対応であることは間違いありません。本人の意向に反して帰らせることは気まずい場面の連続です。しかしこの対応は本人のためでもあります。体調が悪い状態で出社し続けることで体調がさらに悪化するリスクを防ぎ、周りの社員のやる気を守り、会社の秩序を維持するために必要なことです。できるだけ早く着手し、医師・弁護士とチームを組んで対応してください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。休職・復職対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 体調が悪いのに出社して仕事もせず座っています。帰らせることはできますか。
A. できますが、その前に「本当に働けない状態か」の確認・記録が必要です。主治医への問い合わせ・産業医面談・実際に仕事を指示して記録するという作業を経て、「労働契約で予定されている程度の労務提供ができない」という根拠を固めた上で、出社を認めない(出社拒否・自宅待機命令)という対応に進んでください。根拠なしに「来るな」と言うことは不当な出社禁止になるリスクがあります。
Q2. 机に座らせたまま何もさせていませんでした。記録を残す必要がありますか。
A. あります。何の指示もしていない場合、「指示してくれればやった」と言われてしまうリスクがあります。仕事を具体的に指示してみて、それができなかった事実を記録に残すことが重要です。日時・指示した仕事の内容・本人の反応・できなかった状況を具体的に記録してください。この積み重ねが出社拒否の法的根拠になります。
Q3. もう1年以上この状態が続いています。今から対応を始めることはできますか。
A. できますが、長期化しているほど本人の反発が強くなります。「今まで認めていたのに何故今更」という意識が本人にあり、裁判に発展することもあります。今からでも遅くはありませんが、早期着手の場合と比べてより慎重に、医師と弁護士と連携してチームで対応することが必要です。まず弁護士に状況を説明して対応の方針を相談してください。
Q4. 自宅待機を命じる場合、賃金は払わなければなりませんか。
A. 賃金を払いながらの自宅待機であれば、不当な出社禁止として争われるリスクは比較的低くなります。賃金を払わない場合は「本人の体調の問題で働けないため、ノーワーク・ノーペイとして賃金は発生しない」という根拠が必要になります。「働けない状態」の確認・記録がしっかりできていれば根拠も立てやすくなりますが、判断は個別の事情によります。弁護士にご相談ください。
最終更新日:2026年5月10日