労働問題1005 メンタルが極端に弱い社員の対処法
解説動画
|
✓
|
まず事実の確認・収集から——評価が先に固まると落とし穴 「メンタルが極端に弱い」という評価が共有されている場合も、具体的な事実(いつ・誰が・どんなことをしたときに・どのような反応があったか)を確認することが必要。評価だけが先行してしまうと思わぬ落とし穴にはまる |
|
✓
|
99%の労働者で問題ない仕事で参ってしまう場合、その仕事に適性がない わざと嫌がらせしているわけでなく、本人は本気で苦しい。適性の問題。安全配慮義務の観点から、担当業務を変更することが必要 |
|
✓
|
社内に他の仕事がなければ退職していただくことが「配慮」 体調を崩すほど向いていない仕事を続けさせる方が問題。向いていない仕事から解放して、別の会社で活躍してもらうことが本人のためになる。退職妨害は評判が悪い。向いていない方は気持ちよく送り出す心構えが必要 |
|
✓
|
人手不足への対応は「仕事のやり方自体」を変えること 採用基準を下げるのではなく、メンタルがそれほど強くなくてもこなせるような仕事のやり方を探求することが根本的な対応。難しいことだが、人手不足が進む場合には避けて通れない課題 |
目次
01まず事実の確認・収集から——評価が先に固まることの危険
「あの人はメンタルが極端に弱い」という評価が職場内での共通認識になっていることがあります。しかし対応を始める前に、まず事実の確認・収集を行うことが必要です。
確認すべきことは「いつ・誰が・どんなことをやったときに・その方はどのような反応をしたのか」という具体的な事実です。みんなでメンタルが極端に弱いという評価を共有しているから事実確認は不要、と感じるかもしれません。しかし必要なのです。
なぜかというと、なんとなく「メンタルが弱い人」という評価が先に固まってしまうと、具体的な事実がないままその評価で物事が進んでしまうことがあるからです。本当にメンタルが極端に弱い方であれば何かゴタゴタがあるはずで、具体的なエピソードを必ず言えるはずです。そういったエピソードをしっかり集めることで、どの程度のメンタルの弱さなのかを正確に把握できます。
また弁護士に相談する際も、事実がはっきりしていることで「どのように評価できるか」「どう対応すべきか」という具体的なアドバイスが可能になります。評価だけ伝えても、適切な助言は難しくなります。
02上司の言動に問題がある場合は直す
事実を確認する中で、その方が参ってしまう原因が、上司の言い方や対応の仕方に問題があったことが分かる場合があります。その場合の対応は明確です。上司の言い方・やり方を直せばよいのです。
これは本記事の主要テーマである「99%の労働者で問題ない仕事のさせ方をしているにもかかわらず参ってしまう」という話とは別です。会社側に問題がある場合は改善すれば解決できます。
以降では、会社や上司の対応に特段問題がなく、それでも参ってしまうというケースについて解説します。
0399%の労働者で問題ない仕事で参ってしまう場合——その仕事に適性がない
100人の労働者のうち99人以上は問題なくこなせる仕事のさせ方・注意指導・業務指示をしているにもかかわらず、その方だけが参ってしまう、あるいはパワハラだと騒ぎ始める——このような状況は、その仕事にその方が向いていない(適性がない)ことがほとんどです。
わざと会社に嫌がらせしようとしているわけではありません。心構いが悪いだけでもありません。その仕事に適性がないことと、本人の心構いの問題が合わさっていることはありますが、根本はその仕事への適性の欠如です。
そしてこれが重要なのですが、本人は本当に苦しいのです。他の99%の方にとっては大変なこともあるけれど特別苦しいわけではない仕事であっても、その方には本気でつらくてしょうがない状態になっていることは珍しくありません。体調を崩してしまうこともあります。
このような方に説教しても、根本的な救いにはなりません。本人の苦しさを取り除いてあげられるような対応をする必要があります。
04本人は本気で苦しい——安全配慮義務の観点から担当業務変更が必要
100人中99人は問題ないと分かっていても、その方がメンタルが極端に弱いということを会社が認識してしまっている以上、同じ仕事を続けさせたらどうなるかを考える必要があります。
その方は体調を崩すかもしれません。これは単なる推測ではなく、これまでの反応から十分に予見できることです。会社には安全配慮義務があり、体調悪化が予見できる状況でその仕事を続けさせることには問題があります。
したがってこのような場合の基本的な対応は、担当業務の変更です。同じ業務内で負担を軽減するだけでは根本的には変わりません。その方が向いている仕事についてもらうことが必要です。
社内に他の仕事があり、そちらに向いているかもしれないという場合は、配置転換を検討してください。向いている仕事で活躍してもらえれば、会社にとっても本人にとっても望ましい結果になります。
05社内に他の仕事がなければ退職していただくことが「配慮」
しかし企業規模によっては、社内に他の仕事がないというケースもあります。あるいは他の仕事には既に適した人材がいて、わざわざその方のために別の仕事を作る必要はないという判断になる場合もあります。
そういった場合、やめていただいて別の会社で活躍してもらうことが選択肢となります。
「やめてもらう」というと悪いことをしているように感じるかもしれません。しかし体調を崩すほど向いていない仕事をどんどんやらせ続ける方が問題ではないでしょうか。向いていない仕事を無理に続けさせることで、本人のメンタルヘルスに長期的なダメージを与えてしまうリスクがあります。
本人が本当に向いていなくて体調を崩すほどひどい状態であれば、別の会社で自分に合った仕事をしてもらうことの方が、よほど本人への配慮になります。
なお、こういった方は体調を崩して休みます・やめますと言ってくることも多いです。その場合は休職制度を適用した上で、休職期間中に回復できなければやめていただくという手順も選択肢の一つです。本人が強く復職を希望して実際に働ける状態になるというのであれば、戻した上でさらに試してみることはあります。
06退職妨害は評判が悪い——向いていない方は気持ちよく送り出す
向いていない仕事をやめたいと思って退職を申し出た方を無理に引き止めることは避けてください。近年、退職妨害として非常に評判が悪く、社会的な批判を受けるリスクがあります。
退職代行を使ってきたような場合でも、気持ちよく送り出してあげるぐらいの心構えが必要です。無理に引き止めて、向いていない仕事を続けさせることで体調をさらに悪化させてしまう方が、はるかに問題です。
本人が自分から退職を申し出てきた場合は、むしろ歓迎する姿勢で臨んでください。円満な退職を実現することが、会社にとっても本人にとっても最善の結果になります。
07人手不足への対応——仕事のやり方自体を変えること
「メンタルが弱い方がどんどんやめてしまって、必要な人数が揃わない」という人手不足の問題が生じている会社もあります。
そういった場合の対応として間違えてはいけないのは、「採用のハードルを下げる」という発想です。採用のハードルを下げても、今の仕事のやり方のままでは入ってきてもすぐ参ってしまうだけです。
正しい発想は「仕事のやり方自体のハードルを下げる」ことです。メンタルがそれほど強くない方でもこなせるような仕事のやり方を探求するということです。
これは大きな話です。これまでうまくいってきたやり方を変えるのは容易ではありませんし、業種によっても何をどう変えればよいかは異なります。しかし、今のやり方では必要な人材を十分に採用・定着させることができないという現状があるなら、仕事のやり方自体に手を加えていくことを考えなければなりません。
これは非常に難しい課題ですが、人手不足が深刻な状況では避けて通れない取り組みです。メンタルが強くなくてもできる仕事のやり方を探求していく——この方向性を頭に置いた上で、具体的な対応策を考えていくことをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。メンタルヘルス対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. うちの職場では普通のことなのに、その社員だけいつも参ってしまいます。どう対応すればよいですか。
A. まず具体的な事実(いつ・どんな状況で・どのような反応があったか)を確認・整理してください。その上で、その方の対応が問題なのか業務への適性の問題なのかを見極めます。会社側の対応に問題があれば改善する。問題がなくその仕事への適性がないと判断されれば、社内の別の仕事への配置転換、それができなければ退職勧奨を検討してください。本人を無理に同じ仕事に留め置くことは安全配慮義務の観点からも問題になりえます。
Q2. 体調が悪くなったと言って休み始めました。休職制度を適用するべきですか。
A. 就業規則の定めに従って対応してください。年次有給休暇があれば消化させた後、欠勤が所定の日数に達した場合に休職命令を出します。休職命令書は書面で交付し、開始日と満了日を明確にしてください。休職期間中に回復して復職できれば戻してもらい、回復しなければ期間満了での退職という流れが基本です。
Q3. やめたいと言い出しました。引き止めるべきですか。
A. その仕事に向いていない方を無理に引き止めることは避けることをお勧めします。向いていない仕事を続けさせることで体調がさらに悪化する可能性があります。また近年、退職妨害は非常に評判が悪く、法的なトラブルにもなりえます。気持ちよく送り出す心構えが大切です。
Q4. メンタルが弱い人が続けて入ってきて、すぐやめてしまいます。採用基準を下げるべきですか。
A. 採用基準を下げるのではなく、仕事のやり方自体のハードルを下げることを考えてください。採用基準を下げても今の仕事のやり方のままでは、入ってきてもすぐに参ってしまうだけです。メンタルがそれほど強くない方でもこなせるような仕事のやり方を探求すること、つまり仕事の設計自体を見直すことが根本的な対応です。難しいことですが、人手不足が深刻な場合には避けて通れない課題です。
最終更新日:2026年5月10日