労働問題1006 復職してすぐ休む社員の対処法
解説動画
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「復職時の確認が雑な会社」がこの問題を起こす 復職してすぐ休む問題の多くは、復職を認める前の確認が不十分だったことが原因。主治医の診断書が出たから戻したという対応では、実際に職場で仕事ができるかどうかの確認ができていない |
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主治医の診断書は必要条件だが十分条件ではない 主治医は会社の業務内容を正確に把握していない。また休職期間満了で退職になることを気の毒に思い、判断が甘くなる場合もある。診断書は必ず必要だが、それだけで復職を決めてはいけない |
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判断するのは産業医でも弁護士でもなく、会社・社長 産業医は意見を述べるだけ。弁護士は情報提供と法的リスクの確認をするだけ。復職を認めるかどうかの判断を下すのは会社経営者(社長または人事担当者)であることを忘れてはいけない |
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休職制度の方針は社長が価値判断して決める 病気で働けなくなった社員をどれくらいの期間在籍させたいか、どこからやめてもらわなければならないかは社長が決めること。弁護士や社労士に任せっぱなしにすると、後から「なぜこんな制度なのか」という問題が生じる |
目次
01なぜ復職してすぐ休む問題が起きるのか
休職していた社員が復職したものの、すぐにまた休み始めてしまう——そういった相談は非常に多くあります。仕事の準備をして待っていた周りの社員にとっても迷惑な話ですし、社長からすると「戻ってこなかった方がまだよかった」とさえ感じることもあります。
この問題が起きる根本的な原因は多くの場合、復職を認める前の確認が不十分だったことにあります。主治医から「復職可能」という診断書が届いたから戻した——その対応だけでは、実際にその方が職場の仕事をこなせる状態まで回復しているかどうかを確認できていません。
社員の立場から見れば、休職期間が満了するとやめなければならないことがほとんどです。やめたくない、この会社にいたいという思いから、完全に回復していなくても無理をして復職しようとするケースは多くあります。その気持ちは分からないではありませんが、準備して待っていた周りの社員の負担も含めて、会社経営者としては毅然と対応しなければならない場面です。
「復職時の確認をしっかりやれている会社は失敗が非常に少なくなる」——これを覚えておいてください。この確認作業ができているかどうかが、問題の有無を大きく左右します。
02主治医の診断書は必要条件だが十分条件ではない
復職を認めるための最低条件として、主治医が「復職可能」と記載した診断書は必要です。診断書なしに復職させることは原則として避けてください。
ただし診断書はあくまで必要条件であり、十分条件ではありません。診断書があるから復職を認めなければならないということにはなりません。
主治医は業務内容を正確に知らない
主治医は患者から話を聞いてはいますが、職場の仕事内容を実際に把握しているわけではありません。本人の申告をベースにした情報だけで判断せざるを得ない立場です。どれだけの負荷がかかる仕事なのか、どのような対人関係の中で業務をするのかなどを正確に把握できているとは限りません。
診断書に「気の毒」という感情が影響することもある
休職期間が満了すると退職になってしまうという話を聞いて、気の毒に思った主治医が、本来よりも甘めの「復職可能」を書いてしまうケースも、残念ながら存在します。
こうした事情があるため、「復職可能」という診断書が来ても、そのまま復職を認めることが正しい判断とは限りません。診断書を受け取った後に、さらなる確認を行うことが必要です。
03判断するのは会社・社長——産業医は意見を述べるだけ
復職を認めるかどうかの判断を下すのは、誰でしょうか。
産業医が意見を述べ、弁護士が法律的な観点でリスクを確認します。しかし最終的に「復職を認める・認めない」という判断を下すのは会社です。社長です。あるいは社長から任されている人事担当者です。
この点を明確に認識してください。産業医が「復職可能」と言えば、それは一つの重要な意見ですが、産業医の判断=会社の判断ではありません。産業医や弁護士の判断に従うしかないと受け身になってしまうと、「産業医の先生が大丈夫と言ったから戻した」という他人任せな判断になってしまいます。その判断が間違えた場合、責任は誰が取るのでしょうか。
医師や弁護士は意見を述べ、情報を提供します。その上で判断するのは会社経営者です。この構造を理解した上で、責任ある判断を下してください。
産業医面談はその判断のための重要な材料を得る場として活用してください。産業医の意見を踏まえて、会社として復職を認めるかどうかを決定する。この流れが正しい対応です。
04試し出社——朝の始業時刻に出勤できるかが鍵
復職前の確認方法として、試し出社は非常に有効です。正式な復職を認める前に、実際に出勤してもらい、仕事らしきことができるかどうかを確認します。
試し出社で最も重要なのは、朝の始業時刻に出勤できるかどうかです。メンタルの問題を抱えている方のほとんどは、朝の出勤が特に辛い状態になります。帰宅時間より朝の方がずっと難しいのです。
定時に出勤できるかどうかが確認できれば、少なくとも仕事の「スタートライン」には立てているということになります。逆に始業時刻に出てこれない状態であれば、まだ復職に向けて休養が必要な状態かもしれません。
もちろん試し出社だけで全てが分かるわけではありませんが、一つの重要な確認材料になります。主治医の意見を確認しながら、試し出社を活用してください。
また主治医に対して、本人の同意を得た上で面談し「本当に働けるのかどうか」を確認することも選択肢の一つです。主治医との面談を本人が拒否するようであれば、それ自体が一つの考慮材料になります。
05補助的な選択肢としての通算規定
復職時の確認をしっかり行うことが王道ですが、会社の規模や体制によっては細密な確認作業が難しいこともあります。そういった場合の補助的な対応策の一つとして、通算規定があります。
通算規定とは、同一または類似の傷病について、復職後また休み始めた場合に、一定期間内はその日数を通算するというものです。例えば「休職期間満了まで休んで復職した後、一定期間内に同じ傷病で休み始めた場合は、その日数も前の休職期間に通算する」という形です。こうすることで、復職してすぐ休み始めた場合に、休職期間が短縮される形になります。
ただしこの規定の運用については注意が必要です。「1日休んだら即退職」というような非常にアグレッシブな定め方は、法的なリスクも含めて検討が必要です。事情が許すのであれば、休み始めてから少なくとも1か月程度は様子を見るという運用の方が、バランスとして適切ではないかと考えます。
この規定を設けるかどうか、どのような内容にするかは弁護士や社会保険労務士に相談しながら検討してください。
06休職制度の方針は社長が価値判断して決める
この問題の根本的な解決のためには、休職制度全体に関する方針を事前にしっかり決めておくことが大切です。
具体的に考えるべきことは次のようなことです。病気で働けなくなった社員に、どれくらいの期間いてもらいたいのか。どれくらいの期間が経過しても回復しなければやめていただくことになるのか。みんなに公平・一律のルールで運用したいのか、それとも個別の事情に応じて柔軟に対応したいのか。
これらの問いへの答えは、法律で決まるものではありません。どんな会社を作りたいのか、社員とどう関わっていきたいのかという社長の価値判断に基づくものです。
就業規則の規定の書き方や具体的な制度設計は弁護士や社会保険労務士に任せることができます。しかし「どれくらいの期間、病気で働けない社員と関わっていきたいのか」という価値判断の部分は、社長が自分で決めなければなりません。ここを他人に任せると、後から「なぜこんな扱いになっているのか」という問題が生じます。
社長の価値判断に基づいて制度を設計し、定期的に見直す。その上で弁護士や社会保険労務士がフォローするという構造が理想的です。
07休職制度は必須ではない——小規模会社は長期欠勤対応も選択肢
ここであらためて確認しておきたいのは、休職制度は法律上の義務ではないということです。設けなくても構いません。
規模の小さな会社では、休職制度を設けずに長期欠勤として対応するというやり方があります。個別の事情に応じて決め細やかな対応ができるという点では、この方が融通が利くことがあります。
一方、休職制度を設けることには採用面でのメリットがあります。求人時に「休職制度あり」と示せることは、会社の福利厚生のアピールになります。また全員に一律のルールを適用することで、恣意的な運用という誤解を防ぐ効果もあります。
休職制度を設けるかどうかも、最終的にはどんな会社を作りたいかという社長の価値判断に基づく決断です。それさえ決まれば、弁護士や社会保険労務士が具体的な制度設計をお手伝いできます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。休職・復職対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 「復職可能」という診断書が届きました。復職を認めなければなりませんか。
A. 診断書は復職を認めるための最低条件ですが、それだけで復職を認めなければならないということにはなりません。主治医は職場の業務内容を正確に把握しておらず、日常生活レベルの回復で「復職可能」と書いていることが多いです。産業医面談・試し出社などを通じて、実際に職場で仕事ができる状態かどうかを確認してから復職を判断することをお勧めします。
Q2. 産業医が「復職可能」と言いました。これで復職を認めなければなりませんか。
A. 産業医の「復職可能」という意見は重要な材料ですが、最終的に判断するのは会社・社長です。産業医は意見を述べるだけで、判断する立場にはありません。産業医の意見を踏まえながら、職場の実態と照らし合わせて会社として判断してください。
Q3. 試し出社をさせたいのですが、この間の賃金はどうなりますか。
A. 試し出社中の賃金の扱いは就業規則の規定や個別の事情によって異なります。通常、試し出社は正式な復職ではないため、就労義務のある出勤とは扱わないことが多いです。無給での試し出社とする場合は事前に本人に説明することが重要です。具体的な扱いについては就業規則を確認した上で弁護士にご相談ください。
Q4. 当社には休職制度がありません。設けた方がよいですか。
A. 休職制度は法律上の義務ではありません。特に小規模な会社では、長期欠勤として個別に対応する方が融通が利く場合があります。一方、採用時のアピールや制度の透明性という観点では、休職制度を設けることにメリットがあります。「病気で働けなくなった社員にどれくらいの期間いてもらいたいか」という社長の価値判断を明確にした上で、弁護士や社会保険労務士に相談して制度設計を検討してください。
最終更新日:2026年5月10日