労働問題1008 「就労可能」という診断書で復職したのに仕事ができない社員の対処法

解説動画


この記事の要点

精神疾患は働けるかの判断が特に難しい

通常の物理的な怪我と異なり、精神疾患は外から見ても働けるかどうかが判断しにくい。主治医の「就労可能」という診断書があっても、実際には働けないケースが多く存在する

2つの観点から、まず休ませる権利がある

安全配慮義務(体調悪化を防ぐ義務)と、不完全な労務提供を受け入れる義務はないという2点から、客観的に仕事ができない状態であれば欠勤・休職の措置を取ることができる

出社してきても休ませてよい。客観的な記録が重要

働けないのに出社してくる場合も、客観的に仕事ができない状態であれば欠勤・自宅待機を命じることができる。賃金を払うかどうかは検討事項だが、就労状況の客観的な記録を残しておくことが大事

次の復職申し出は通常以上に慎重に——産業医面談・試し出社を

一旦復職させて働けなかったという経緯がある。同じことを繰り返さないために、次の復職時は通常より慎重に判断する必要がある。産業医面談・試し出社などで実際に働けるかどうかを確認してから復職させる

01なぜ「就労可能」という診断書があっても働けないのか

 休職中の社員が主治医の「就労可能(復職可能)」という診断書を提出し、復職させてみたところ、まともに仕事ができない——この問題への相談は多く寄せられます。

 「専門家のお医者さんが就労可能だと言っているのだから大丈夫なはずなのに」と不思議に思う社長も多いと思います。しかし特に精神疾患については、働けるかどうかの判断が非常に難しく、主治医の診断書がそのまま職場での業務遂行能力の回復を保証するものではありません。

 主治医は、患者の健康面(体調が悪化しないかどうか)を中心に考えており、職場でその方が具体的にどういう仕事を、どのくらいの負荷でこなさなければならないかを把握した上で「就労可能」と書いているわけではないことが多いです。また厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」でも、主治医の診断書は日常生活レベルの回復判断であり、必ずしも職場での業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないことが注意されています。

 さらに、給食期間が満了に近づいて退職になってしまうことを避けたい本人や家族の希望が診断書に影響していることもあると指摘されています。こうした事情も踏まえると、「就労可能」という診断書だけで復職を認めることの危うさが理解できます。

022つの観点から、まず休ませる対応を取る

 復職させてみたが客観的に見て仕事ができていないことがはっきり分かっている場合、会社はどうすべきでしょうか。まずは休ませる(欠勤・休職)対応を取ることが原則です。その根拠は2つあります。

根拠① 安全配慮義務

 明らかに体調不良でまともに働けていない状態のままで仕事を続けさせると、体調がさらに悪化するリスクがあります。会社には安全配慮義務として、働かせることで体調が悪化しないよう配慮する義務があります。本人が「働きたい」と言っても、客観的に体調悪化のリスクがある場合は働かせてはいけない場面があります。

根拠② 不完全な労務提供を受け入れる義務はない

 労働契約は給料を払って仕事をしてもらうことが基本です。契約で予定されている最低限の仕事もできない状態(不完全な労務提供)を会社が受け入れる義務はありません。まともに仕事ができていない状態であれば、「来なくていいので欠勤してください」と休ませる権利が会社にあります。

03出社してくる場合——欠勤・自宅待機を命じることができる

 客観的に仕事ができない状態であっても、「頑張ります」と言って出社し続けようとする社員もいます。出勤扱いにして給料をそのまま払い続けているが全然仕事にならない——という状態になると、会社も困ります。

 この場合も、客観的に契約で予定されている程度の労務提供ができないと評価できる状況であれば、欠勤させる・自宅待機を命じるという対応が取れます。会社には不完全な労務提供を受け入れる義務がないことと、安全配慮義務の両面から、この対応は正当なものです。

 賃金を満額払いながら欠勤・自宅待機を命じる場合は、不当な自宅待機だと争われるリスクは比較的低いです。ただし賃金を払わない(ノーワーク・ノーペイ)とする場合は、争いになることがあります。

04賃金をどうするか——客観的な記録が判断の根拠になる

 客観的に仕事ができていない状態での賃金をどうするかは、個別の事情によって判断が変わります。検討する際に重要になるのは就労状況の客観的な記録です。

 「どのような状態で、具体的に何ができていなかったのか」という客観的な事実を記録に残しておくことが、後の判断の根拠になります。産業医面談を行っている場合はその意見記録、主治医への問い合わせや面談の記録、業務上の支障の具体的な記録——これらをしっかり残しておくことが重要です。

 賃金を払わないとする場合はその根拠をより明確にする必要があり、リスクが伴います。判断に迷う場合は弁護士に具体的な状況を伝えて相談してください。

05休職スタートへの手順——命令書の交付と開始日の確定

 欠勤が一定期間続いた後、休職制度がある会社では休職をスタートさせます。この際に重要なことが2点あります。

 一つは、休職命令書を必ず書面で交付することです。何月何日から休職がスタートして、何月何日が満了日なのかを明確にして本人に渡してください。命令書なしで休職申請書だけに頼っていると、後でいつから休職が始まったかが不明確になり、期間満了での退職運用が困難になります。

 もう一つは、一旦復職させてから再び休職させる場合に、就業規則上の休職の残存期間がどれだけあるかを確認することです。規則によっては、一旦復職した後に再度休職が必要になった場合の休職期間の計算方法(通算規定など)が定められていることがあります。弁護士に就業規則を確認してもらいながら対応してください。

06次の復職申し出は通常以上に慎重に判断する

 再度の欠勤・休職を経て、また復職の申し出が来た場合、通常の復職判断以上に慎重に対応する必要があります。

 一旦「就労可能」という診断書で復職させたが実際には働けなかったという経緯があります。同じことを繰り返すことは、会社経営上も本人の健康管理上も望ましくありません。次の復職申し出があったときは、以下のような確認を通常よりも徹底して行ってください。

確認方法 ポイント
産業医面談 職場の状況を把握している産業医が復職可と判断した場合は、かなり信頼できる。産業医が復職不可の場合は確認作業を継続
主治医への面談申し入れ 本人の同意を得た上で、主治医に会社の仕事内容を伝えながら面談し、本当に働けるか確認する。本人が同意しない場合はそれ自体が一つの判断材料になる
会社指定医への受診命令 状況によっては会社が指定する医師への受診を命じることも選択肢の一つ
試し出社 正式な復職前に実際の出勤を確認。特に朝の始業時刻に出勤できるかどうかが重要な指標。メンタルの問題がある方は朝の出勤が特に辛いことが多い

 前回の復職で働けなかったという事情があることを踏まえると、主治医の診断書単体への依存度を下げて、複数の確認手段を組み合わせることが特に重要です。働けると判断できた場合は復職させ、働けないと判断した場合は欠勤を継続して休職スタートの手順に進みます。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。休職・復職対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 「就労可能」という診断書があるのに仕事ができない社員を、また休ませることはできますか。

A. できます。主治医の診断書は日常生活レベルの回復を示すものであり、職場での業務遂行能力まで回復していることを保証するものではありません。客観的に契約で予定されている程度の仕事ができない状態であれば、安全配慮義務(体調悪化を防ぐ義務)と不完全な労務提供を受け入れる義務がないことの両面から、欠勤・休職の措置を取ることができます。

Q2. 「働きたい」と言って出社してきます。給料を払いながら帰ってもらうことはできますか。

A. 客観的に仕事ができない状態であれば、賃金を払いながら欠勤・自宅待機を命じることができます。賃金を払いながらの対応であれば、不当な自宅待機だと争われるリスクは比較的低いです。一方、賃金を払わない(ノーワーク・ノーペイ)とする場合はその根拠をより明確にする必要があり、賃金請求の訴えが来ることもあります。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

Q3. また「復職させてほしい」という申し出が来ました。どう判断すればよいですか。

A. 一旦復職させて働けなかったという経緯があるため、通常以上に慎重に判断してください。産業医面談を行い、産業医の意見を聞くことが基本です。本人の同意を得た上で主治医への面談を申し入れること、試し出社で実際の出勤状況(特に朝の始業時刻に出勤できるか)を確認することなど、複数の手段を組み合わせてください。主治医の診断書単体への依存度を下げて確認することが特に重要です。

Q4. 再度休職させる場合、休職期間はまたリセットされますか。

A. 就業規則の定め方によります。一旦復職後に再度休職が必要になった場合の休職期間の計算方法(通算規定など)が就業規則に定められていることがあります。例えば「前の休職期間と合算する」という規定があれば、残りの期間しか休職できないことになります。自社の就業規則を確認した上で、弁護士にも内容を確認してもらいながら対応を決めてください。

最終更新日:2026年5月10日

労働問題FAQカテゴリ