労働問題1011 パワハラ・ハラスメントは「会社の問題」です【会社側弁護士が解説】

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この記事の要点

ハラスメントは個人間の問題ではなく会社自身の問題

「困った人たちだな、仲良くやってほしい」と第三者的に仲裁しようとするだけでは失敗する。自分の大事な会社の中で勝手なことをやらせてはいけないという姿勢が必要。ハラスメントをする社員は社長をなめていると言っていい

使用者責任——ハラスメントが不法行為になると会社が損害賠償を負う

加害者個人だけでなく会社も損害賠償義務を負う(使用者責任)。被害者は会社と加害者を一緒に訴えることが合理的。会社は一旦全額払った後に加害者から回収を試みることになるが、退職後の回収は困難なことが多い

安全配慮義務——職場環境を良好に保つ義務が雇い主にはある

雇用契約上、雇い主には職場環境を良好に保つ義務(安全配慮義務)がある。環境が著しく悪い場合はこの義務違反として損害賠償の対象になり得る。常識的に考えても、雇った方が気持ちよく才能を発揮できるように整える義務があることは分かる

ハラスメントをストップできるから社長はリーダーとして尊敬される

放置するとハラスメントをする問題社員が「反乱軍」として勢力を拡大し、会社全体が乗っ取られるリスクまで生じる。しっかり止めることができるから社長に従おうと思ってもらえる

01ハラスメントを「個人間の問題」と捉えることの落とし穴

 会社内でパワハラやセクハラが発生したとき、「困った人たちだな。仲良くしてほしいんだけど」という感覚で受け止め、第三者として仲裁しようとする社長が多くいます。

 しかしこの捉え方には、大きな落とし穴があります。個人間のゴタゴタを第三者として仲裁してあげるというニュアンスだけで考えると、ハラスメント問題への対処に失敗することが多いのです。

 なぜかというと、職場でのハラスメントは個人間の問題ではなく、会社自身の問題だからです。雇用契約に基づいて働いてもらっている職場の中で起きている出来事である以上、社長が経営する会社の問題として捉えなければなりません。

 「個人間のトラブルに会社が介入するのは過剰では」という感覚もあるかもしれません。しかしハラスメントが職場で起きている以上、会社はその問題から切り離せません。個人感の問題と一歩引いて見ているだけでは、問題は解決しません。

02自分の大事な会社で勝手なことをやらせてはいけない

 社長として持っていてほしい視点があります。ハラスメントをしている社員に対して、「自分の大事な会社の中で何を勝手なことをやっているのか」という発想です。

 社長が見ていないところで嫌がらせをする。それを認めるわけにはいきません。会社の秩序は社長が守らなければなりません。ある社員が別の社員に嫌がらせをしているとすれば、それは「自分の会社で勝手なことをやらせている」ことになります。

 さらに言えば、ハラスメントをやっている社員は、社長のことをなめています。「こんなことをやっても社長は何もしない、できないだろう」と思っているから、好き勝手にやっているのです。社長の耳に入るほど堂々とハラスメントをしているのであればなおさらです。それを放置することは、社長がなめられたままでいることを意味します。

 「お互い相手のことを思いやって、協力して仕事をやってもらいたい」というのは社長の当然の期待です。その期待を裏切って一方的に嫌がらせをしている社員がいる。それを止めるのは社長の仕事です。

03法律的根拠① 使用者責任——会社が損害賠償を負う

 ここからは法律的な観点からも説明します。

 まず使用者責任について。会社(使用者)は、雇っている社員が業務に関連して他者に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任を負うことがあります(民法715条)。ハラスメントが不法行為と評価されるほどひどいものであれば、加害者個人だけでなく、会社もその損害賠償を負担しなければならないことがあります。

 被害者側から見ると、加害者個人を訴えるよりも会社も一緒に訴える方が合理的です。加害者個人の資産がどこにあるか分からない、あるいは資産が少ない場合でも、会社を訴えれば損害賠償を回収しやすくなるからです。普通の弁護士であれば、特別な事情がない限り「加害者と会社を一緒に訴えましょう」とアドバイスします。

 使用者責任として会社が損害賠償を負う場合、会社は一旦全額を被害者に支払った後、加害者に対して会社が立て替えて払った分を請求(求償)することができます。しかし実際に回収できるかどうかは別の問題です。

04退職後の回収が難しい現実——だから最初から止めることが重要

 加害者から損害賠償分を回収しようとしても、退職後は話が聞けなくなることがほとんどです。

 在職中の管理職が比較的素直に社長の話を聞いてくれているのは、雇われているからです。社長と揉めると働きにくくなるから、ある程度言うことを聞いているのです。しかしやめると決まった途端に言うことを聞かなくなり、やめた後は全く言うことを聞きません。在職中には「話せる」と思っていた相手が、退職後に全く連絡が取れなくなるということも普通に起きます。

 そして特に誰かにハラスメントをしてしまうような方ですから、退職後に損害賠償の話をしても誠実に対応してくれることはまずありません。一旦全額払った後に回収できると思ったら大間違いです。できないことも十分にあります。

 だからこそ最初からハラスメントを止めることが重要です。問題が起きてしまってから損害賠償でお金を取り戻そうとするより、そもそもハラスメントを止めて被害を出さないことが、会社にとっての最善です。

05法律的根拠② 安全配慮義務——職場環境を良好に保つ義務

 もう一つの法律的な根拠は安全配慮義務です。雇用契約の中には、雇い主(会社)が労働者に対して職場環境を良好に保つ義務があるという考え方があります。

 「良好」といっても程度問題ですが、分かりやすく言えば、雇った社員が気持ちよく才能を発揮して仕事ができるように職場環境を整える義務が、雇い主にはあるということです。

 職場環境がひどい状態に放置されていれば、この義務に違反したものとして損害賠償の対象になることがあります。ハラスメントが続いている職場は、職場環境が良好とは言えません。その状態を放置することは、安全配慮義務違反として会社が責任を問われる可能性につながります。

 法律論を持ち出さなくても、常識で考えれば分かることです。雇った人が不当な扱いを受けた状態で働かせたくない、何とかしてあげる義務が会社にあるというのは、ほとんどの社長が納得できることだと思います。法律はその常識を明文化したものです。

06放置すると「反乱軍」が勢力拡大する

 ハラスメントを放置することの危険性は、金銭的な損失にとどまりません。組織そのものが崩れていくリスクがあります。

 ハラスメントをする問題社員を止めることができない社長は、その問題社員からなめられています。そしてそのことが周りの社員・パートアルバイトにも伝わります。「この社長に従うよりも、あの問題社員と仲良くしている方がこの会社で生き残るための有効な手段だ」という認識が広まっていくのです。

 言わば、ハラスメントをする問題社員が「反乱軍」として勢力を拡大していく形になります。ひどい場合は、会社全体がその問題社員の影響下に置かれるほどになることもあります。社長がリーダーとして機能しなくなり、組織の秩序が崩れていきます。

 これは極端な例かもしれませんが、放置するほどに問題はエスカレートするという方向性は間違いありません。早い段階でしっかり止めることが、組織を守るためにも必要です。

07ハラスメントをストップできるから社長はリーダーとして尊敬される

 ここまでの話を踏まえると、一つの結論が見えてきます。ハラスメントをしっかり止めることができるから、社長はリーダーとして信頼され尊敬されるのです。

 問題社員が誰かに嫌がらせをしているのを社長が見過ごしていたら、周りの社員はどう思うでしょうか。「社長に見放された」「こんな会社はやってられない」という気持ちになり、やめていきます。被害者だけでなく、その様子を見ていた他の社員も「こんな職場は嫌だ」と感じます。

 逆に、問題社員がハラスメントをしたとき、社長がしっかりストップをかけた。そういう場面を見た社員は、「この社長はちゃんと守ってくれる」「この社長についていきたい」と感じます。法律の話や規則の話を持ち出す前の、人間としての信頼の話です。

 ハラスメントへの対応は、法的義務でもあり、経営者としての責任でもあり、リーダーとして尊敬されるための行動でもあります。会社で働いてくれているすべての人たちを守るために、ハラスメントをしっかり止める覚悟を持ってください。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・ハラスメント対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 社員同士のハラスメントは個人間の問題なので、会社はあまり関係ないと思っていました。

A. 職場で起きたハラスメントは、会社自身の問題です。雇用契約に基づいて働いてもらっている職場の中での出来事である以上、会社はその問題から切り離せません。法律的にも使用者責任として会社が損害賠償を負担することがあり、安全配慮義務違反として問われることもあります。「個人間の問題」と一歩引いて対処を怠ると、問題はエスカレートします。

Q2. ハラスメントをした社員が損害賠償責任を負うなら、会社は関係ないのではないですか。

A. 使用者責任として、会社も損害賠償義務を負うことがあります。被害者は加害者個人よりも会社を訴える方が損害賠償の回収が確実なため、会社と加害者を一緒に訴えることが合理的な選択です。会社が一旦全額を支払った後、加害者に求償(回収)することができますが、退職後は回収が難しいことも多く、会社が損失を被ることがあります。だからこそ最初からハラスメントを止めることが重要です。

Q3. ハラスメントをしている管理職の仕事のできが非常に高く、懲戒処分にしたり退職勧奨したりすることをためらっています。

A. 仕事のできが高い管理職のハラスメントを放置することは、周りで嫌な思いをしている社員・パートアルバイトを見捨てることになります。その結果、被害を受けている方が退職し、それを見ていた他の社員も「こんな会社はやってられない」と感じてやめていく可能性があります。ハラスメントをしっかり止めることで、社長がリーダーとして尊敬されます。懲戒処分の方法については弁護士にご相談ください。

Q4. 安全配慮義務とは具体的にどのような義務ですか。違反するとどうなりますか。

A. 雇用契約上、雇い主は労働者が安全・健康で働けるように職場環境を整える義務(安全配慮義務)を負っています。この義務には、ハラスメントを防止して職場環境を良好に保つことも含まれます。ハラスメントが放置された結果、労働者がメンタルヘルスを害したり、働けなくなったりした場合、この義務違反として会社が損害賠償を請求されることがあります。具体的な事案については弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

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