労働問題1015 教育効果が高く裁判でもパワハラと評価されない教育指導の仕方
解説動画
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注意指導で最も大事なのは「評価ではなく事実(5W1H)を伝えること」 「いつ・どこで・誰が・誰に・どのように・何をやったか」という具体的な事実を伝えること。「態度が悪い」「協調性がない」という評価的な言葉では教育効果がなく、相手には「社長が自分を嫌いだからケチをつけている」としか受け取られない |
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事実を客観的に伝えるとパワハラになりにくい——パワハラを恐れる経営者への朗報 客観的な事実を伝えることでパワハラになるケースはほとんどない。パワハラになりやすいのは評価的・侮辱的な表現を使ったとき。事実をずばり言えば踏み込んだ指導ができる |
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裁判でも「事実」が大事——「認めました」という言葉より具体的な事実の確定が重要 裁判官が知りたいのは事実。「パワハラをやりました」という言葉は後から「大したことでもないことをそう呼んだだけ」と言い抜けられる。「何月何日の何時頃・どこで・誰に・どのような言動をしたか」という具体的な事実の確定こそが裁判で有利になる |
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「自分の頭で考えて行動してほしい」は間違ったステップ——事実を伝えることが先 「自分で考えて動く」は問題のある事実を指摘してから次のステップ。事実を伝えずに「自分で考えろ」は問題社員には届かない。遠回しにぼんやり言っていると「怖くて言えない弱い社長」と思われてなめられる |
目次
01問題社員への注意指導で最も大事なこと
問題社員に対する注意指導で、最も大事なことは何でしょうか。答えは「事実を伝えること」です。
「事実」とは、よく5W1H(いつ・どこで・誰が・誰に・どのように・何をやったか)などと言われるようなものです。
どんなイメージかというと、例えば「〇月〇日の午前10時30分頃、第1会議室で、あなたは〇〇部長に対して大声で〇〇という発言をしました。この発言はこういう理由で不適切です」という形の注意指導です。
これと正反対にあるのが、「あなたは常日頃から勤務態度が悪くて周りに迷惑をかけているので今後はそのようなことがないように注意してください」という形の指導です。一体何のことを言っているのか分からない、評価的な言葉の羅列で終わっているパターンです。
これほど重要なことなのに、後者のような形で注意指導を終わらせてしまうケースが実際には非常に多くあります。なぜ事実を伝えることがここまで重要なのかを、複数の観点から解説します。
02事実を伝えることが教育効果を高める理由
注意指導は何のためにするのでしょうか。裁判に備えたアリバイ作りではありません。本人に問題行動を改善してもらうためです。ここを改めてしっかり確認してください。
そうであれば、教育効果が高くなければ意味がありません。「あなたは態度が悪い」という評価的な言葉を伝えたとして、どれだけの教育効果があるでしょうか。
問題のある行動を繰り返してしまう社員の多くは、自動運転のように、深く考えずにそのようなことをやってしまっています。計画的に意地悪をしているのではなく、普通に反応するとそうなってしまうという方が多いのです。そういった方に「態度が悪い」と言っても、何をどう改めればよいかが分からず、改善にはつながりません。
具体的な事実を指摘すると「何をどう直せばよいか」が伝わる
「〇月〇日の〇時頃、〇〇という場所で、あなたが〇〇さんに対してこういう言い方をした。それがこういう理由で問題だ。今後はこうしてください」という形で事実を伝えると、本人も「あの時のことを言っているのか」と特定できます。何をどう改めればよいかが初めて伝わります。これが教育効果を持つ指導です。
さらに事実を具体的に指摘されると、相手は「その事実はこういう経緯があった」という形で事実ベースで反論せざるを得なくなります。「パワハラだ」という評価だけをぶつけることが難しくなり、議論が実質的なものになります。
03評価的な言葉が届かない理由——問題社員の内側から見ると
評価的な言葉(「態度が悪い」「協調性がない」)がなぜ届かないのか、問題社員の立場から考えてみてください。
根拠を示さずに「態度が悪い」と言われた場合、問題社員はどう受け取るでしょうか。「社長が自分のことを気に食わないからそんなことを言っている」「自分を嫌いだから嫌がらせしてきている」という受け取り方をするのが普通です。評価的な言葉だけでは、言っていることに自信がないから具体的なことが言えないのだと外から見えてしまうのです。
そういう受け止め方をされると、その後に「改善しない」と言っても「一体何を改善しろと言っているのか」という話になります。本人はどこが問題なのかを理解していないのですから、改善のしようがありません。
04事実を客観的に伝えるとパワハラになりにくい——経営者への朗報
「パワハラだと言われないか」と心配して注意指導に踏み切れない経営者・管理職の方はたくさんいます。その方々への朗報があります。
客観的な事実を正しく伝えることでパワハラになるケースは、ほとんどありません。
例えば「〇月の営業成績は10人の中で最も低い3件でした」という事実を伝えることはパワハラになりません。本人が傷つくかもしれない、怒るかもしれないと思うかもしれませんが、客観的な事実であり差別的な意図もなければ、ほとんどの場合パワハラとは評価されません。
パワハラになりやすいのは評価的・侮辱的な言葉
パワハラと評価されやすいのは、客観的事実ではなく評価的・侮辱的な表現を使ったときです。「ダメなやつだ」「向いていないんじゃないか」「転職したらどうだ」——こういった言葉はパワハラと評価されやすくなります。さらにそういった言葉が教育効果をもたらすこともありません。
遠回しであれ何であれ、評価的な侮辱的な言葉で伝えようとするからパワハラと言われやすくなります。事実をずばりと伝えることには、パワハラになりにくいという効果もあるのです。踏み込んだ指導が必要な場面でも、事実に基づいた具体的な言葉で伝えることを恐れないでください。
05裁判でも事実が大事——「認めました」より具体的な事実の確定
注意指導において事実を伝えることの重要性は、裁判になった場合にも同様に当てはまります。
裁判官が知りたいのは「一体何があったのか」という事実です。事実が確定すれば、それに対する評価(パワハラかどうか・懲戒事由に該当するかどうか)は判断できます。逆に事実が分からないまま「パワハラをやりました」という認めた言葉だけがあっても、中身がないのです。
「確かにパワハラをやりました」という言葉は、後から「大したことでもないことをパワハラと呼んで、社長に話を合わせただけです」と言い抜けられます。しかし「〇月〇日の午前10時30分頃、第1会議室で、私は〇〇部長に対して大声で〇〇と怒鳴りました」という具体的な事実の確定があれば、それは後から容易には覆せません。
事実を伝えて注意指導するというやり方は、教育効果が高いだけでなく、後の裁判においても有利に働きます。証拠作りのために行うのではなく、教育効果のために事実に基づいた指導をすることが、結果的に法的にも強い記録を作ることになります。
06「自分の頭で考えて行動してほしい」は間違ったステップ
「いちいち言わなくても、胸に手を当てて考えれば分かるでしょ」「自分の頭で考えて行動してください」という指導をしている方がいます。この発想は問題社員への対応としては間違ったステップです。
「自分の頭で考えて動く」ことを求める指導は、もともとある程度優秀で、自分で気づく力がある方をさらに成長させるために有効なアプローチです。問題行動を繰り返している社員に対して、このアプローチを最初から取ることは大体失敗します。
問題行動を繰り返してしまう方は、そもそも自分の問題を自分では気づけていないことがほとんどです。その方に「自分で考えろ」と言っても、何について考えればよいのかが分からないのです。
正しい手順はこうです。まず「何月何日にあなたがどこで誰にどんな言動をしたかという事実が問題だ」と具体的に伝えます。その上で「どう改めればよいか」を一緒に考えさせるか明確に伝える——この手順を踏んで初めて、「自分の頭で考えること」が意味を持ちます。事実の指摘なしに「自分で考えろ」は通用しません。
07遠回しな指導はなめられる——「怖くて言えない社長」と思われる
事実をはっきり言えずに、遠回しにぼんやりとしか指導できないでいると、問題社員からはどう見えるでしょうか。「この社長は自分のことが怖くて何も言えないんだ」「ちょろい」と思われてしまいます。
本人を傷つけたくないから遠回しにしている、本人のためを思って気づかないように言わないであげているんだ——という思いがあるかもしれません。しかしそういった配慮は問題社員には全く通じません。「社長は何か言いたいことがあるのに言えないんだ」という印象しか与えません。
逆に事実を具体的にはっきり伝えられる社長・管理職は、問題社員からも一目置かれます。「この人はしっかり見ている、ごまかせない」という認識が生まれ、言うことを聞かせやすくなります。
怒鳴ったり侮辱的な言葉を使うということではありません。事実を穏やかに、しかしはっきりと伝えること——それが、尊敬される社長・管理職の姿です。事実を伝えることへの躊躇を、今日から手放してください。
08最初からうまくできなくてもいい——弁護士に日本語を教わりながら練習する
事実を伝えることが大事だと分かっていても、具体的にどんな日本語で言えばよいかが分からない、という方も多いと思います。最初からうまくできなくて当然です。
弁護士に相談して、「この場面でどんな日本語を使って事実を伝えればよいか」を教わりながら練習することをお勧めします。コーチングやカウンセリングのように、叩き台となる文章を一緒に作り上げ、実際に使いながら修正していくというやり方が効果的です。
弁護士との相談の中で、こちらが考えた言い方を「それだとちょっとリスクがある、こう変えた方がいい」とフィードバックしてもらいながら、事実を伝える日本語を磨いていく。そうすると1〜2か月のうちに、叩き台を自分で作れるようになってくる方も多いです。
この力がつくことの効果は、裁判対策やパワハラ対策という後ろ向きな話にとどまりません。「最近社長が何がどう問題なのかしっかり言ってくれるから本当に助かる。立派に見えてきた」という形で、社員から信頼されるようになります。事実を伝えることは、前向きに社員と向き合う経営者の姿そのものです。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員への注意指導のやり方でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 「態度が悪い」「協調性がない」と言って注意しても全く改善しません。なぜですか。
A. 評価的な言葉は問題社員に届かないからです。「態度が悪い」と言われた側は「社長が自分を気に入らないから嫌がらせしている」と受け取ることがほとんどです。何をどう改めればよいかが伝わらないため、改善のしようがありません。「何月何日の何時頃、どこで、あなたが誰に対してどのような言動をしたことが問題で、今後こうしてほしい」という具体的な事実と改善指示に切り替えてください。
Q2. 具体的な事実を指摘することがパワハラになりませんか。
A. 客観的な事実を正しく伝えることでパワハラになるケースはほとんどありません。パワハラになりやすいのは評価的・侮辱的な言葉を使ったとき(「ダメなやつだ」「向いていない」等)です。「〇月〇日の〇時頃、〇〇という場所で、あなたが〇〇さんにこういう言い方をした」という具体的な事実の指摘は、業務上必要な指導であり、客観的に適切なものです。遠回しな評価的言葉の方がむしろパワハラになりやすいとも言えます。
Q3. 「本人が気づくまで待っている」という姿勢ではいつまでたっても変わりませんか。
A. 変わりません。問題社員が自分で気づいて改善できるのであれば、最初からそんなことはしていません。「本人が気づくまで待つ」というアプローチは、優秀な方をさらに成長させる場面では有効ですが、問題行動を繰り返す方への対応としては機能しません。何が問題なのかを具体的な事実として伝えることがスタートラインです。1年待っても変わらない場合は、今すぐ「何月何日にこういうことをした」という形で具体的に伝えてください。
Q4. 具体的にどんな言葉で伝えればよいか分かりません。どうすれば身につきますか。
A. 弁護士に相談して、「この場面でどんな日本語を使えばよいか」を一緒に考えてもらうことをお勧めします。叩き台となる文章を弁護士と一緒に作り、実際に使いながらフィードバックを受けて修正していく練習を繰り返すことで、1〜2か月のうちに自分で叩き台が作れるようになる方も多いです。ZoomやTeamsでのオンライン相談を活用すれば、気軽に短時間の相談を繰り返すことができます。
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最終更新日:2026年5月10日