労働問題854 注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない社員の対処法
解説動画
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「パワハラだ」と言われても必要な注意指導は続ける 周りで嫌がらせを受けている社員を守るため、仕事を円滑に進めるため、注意指導はどうしても必要。パワハラだと言われることを恐れて止めてしまうと、周りの社員が救われないまま放置されることになる。厚労省パンフレットにも「客観的に適正な業務指示・指導はパワハラではない」と明記されている |
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「事実」を具体的に伝えることが注意指導の核心 「何月何日の何時頃、どこで、誰が、誰に対して、どのように、何をやったか」という具体的な事実を伝えることが教育効果が高く、客観的にもパワハラになりにくい。逆に「協調性がない」「勤務態度が悪い」という評価的な言葉は教育効果が低く、ついイライラして踏み込んだ表現になりパワハラと評価されやすい |
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ギリギリセーフを狙わない——効果的な注意指導かどうかを考える 「パワハラかどうか」という発想でギリギリを狙うのは危険。少しの間違いで簡単に失敗する。「この注意指導は教育効果が高いか」という発想で80点・90点の指導を目指すと、自然にパワハラになりにくくなる |
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知識だけでなく「練習」が必要——弁護士と問題社員役で事前練習 本を読んだりセミナーを受けたりして知識を仕入れるだけでは実際の場面で対応できない。スポーツや楽器と同じく練習が必要。弁護士に問題社員役をやってもらって事前に練習することで実際の場面で冷静に対応できるようになる |
目次
01なぜ必要な注意指導を続けなければならないのか
問題のある行動をとっている社員に注意指導しようとしたとき、「それはパワハラだ」と言い返されて指導に従わない——そのような場面に直面する経営者・管理職は少なくありません。「パワハラ」という言葉がこれほど世の中に広まった今、言われた瞬間にドキッとして、注意指導の手が止まってしまうことも十分理解できます。
しかし、仕事を進める上で言わなければならないことはあります。どうしても注意指導をやらなければならない場面があります。ここをしっかり認識することが出発点です。
周りの社員を守るために注意指導は必要
例えば周りに嫌がらせをするような社員がいるとします。注意指導ができなければどうなるでしょうか。嫌がらせを受けている周りの社員は、誰にも助けてもらえないことになります。嫌な思いをしても社長が助けてくれないと感じれば、「こんな会社はやめて他に行こう」と思うのは自然なことです。
注意指導は、社長のプライドや権威のためにやるものではありません。周りで一生懸命働いてくれている社員・パートアルバイトの方々を守るために、そして会社が円滑に機能するために必要なものです。パワハラだと言われることへの恐れから注意指導を止めてしまうことは、その義務を放棄することになります。
02パワハラかどうかは客観的に決まる——厚労省パンフレットの記述
「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」という情報が世の中に広まっていますが、これは誤りです。パワハラかどうかは客観的に決まるものであり、相手がどう感じたかで決まるものではありません。
もしこれが本当であれば、相手の内心次第で何でもパワハラになってしまいます。相手がどう思ったかは内心の問題ですから、「私はそう感じた。だからパワハラです」と言われると何も反論できなくなってしまいます。職場は麻痺し、誰も誰かに注意できなくなります。そんなことはあり得ません。
厚労省パンフレットの明確な記述
厚生労働省のパワハラ防止に関するパンフレットには、次のように明記されています。「客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。」
「客観的に見て」という言葉が重要です。相手がどう感じたかでも、社長がどういうつもりだったかでもなく、客観的に——つまり同じような状況・立場の大多数の労働者がどう感じるのが普通か——で判断されます。
パワハラかどうかの判断が難しい微妙なケースでは弁護士に相談することをお勧めしますが、少なくとも「相手がそう思ったら」という誤解は早急に解いておいてください。この誤解が経営者・管理職の手足を縛っています。
03「事実」を具体的に伝えることが注意指導の核心
では客観的にパワハラとならない注意指導を行うためには、具体的にどうすればよいか。最も重要なポイントは「事実を具体的に伝える」ことです。
「何月何日の何時頃、どこで、あなたが、誰に対して、どのように、何をやったか」——この5W1Hに基づいた具体的な事実を示しながら注意指導することが、教育効果の面でも、パワハラと評価されないという面でも、最も重要な取り組みです。
「〇月〇日の〇時頃、休憩室で、あなたは〇〇さんに対して、こういう言い方をしましたよね。その言い方は〇〇さんを傷つけるものでした。今後はこういう言い方をしないようにしてください。代わりにこういう言い方をしてください。」
なぜ事実の指摘はパワハラになりにくいのか
具体的な事実を伝えることがパワハラになりにくい理由は、その事実が業務と無関係なことを言う必要がないからです。業務に関係した具体的な事実を示して「これを改めてほしい」「こうすべきだった」と伝えること——これは業務上必要な指導であり、客観的に見ておかしなものでも過剰なものでもありません。
さらに事実を具体的に指摘されると、相手は「それについてはこうだった」という形で事実ベースで反論するしかなくなります。「パワハラだ」という評価だけをぶつけることが難しくなります。事実を議論の中心に置くことで、不毛な評価のぶつけ合いを避けることができます。
また相手をよく観察して問題となる具体的な言動を特定し、それをどう改めるべきかを伝えるという指導の仕方は、教育効果も高いです。ついうっかりミスをする方に対しても、「どの行動が問題だったか、どう直せばよかったか」を具体的に示すことで改善につながりやすくなります。
04評価的な言葉が失敗の原因——なぜ事実でなく評価を使ってしまうのか
事実を具体的に伝えることが大事だと頭では理解していても、実際の場面では評価的な言葉を使ってしまうことが多いです。「ちょっと協調性がないんじゃないの」「勤務態度が悪い」——一体どの言動のことを言っているのか分からないような、遠回しな評価的表現で注意指導を終わらせてしまうパターンです。
こうなる理由の一つは、具体的な事実に踏み込んで話すことへの恐れです。「間違えたら怖い」「具体的に言うと揚げ足を取られるかもしれない」という気持ちから、無難な遠回しの表現でやり過ごしてしまいます。
しかし遠回しな評価的表現で注意指導しても、教育効果はほとんどありません。相手には何を改めればよいかが伝わらないからです。むしろそのまま注意を積み重ねていくと、ある時点でイライラが爆発し、「この人に問題行動があるのになぜ治らないのか」という感情から、相手の人格を否定するような言葉が出てしまうことがあります。こうなるとパワハラと評価される危険が一気に高まります。
具体的な事実を話す方が怖いように感じるかもしれませんが、実際には事実に基づいた話し方の方が安全で効果的です。具体的な事実を指摘できるということは、相手をしっかり観察できているということです。そのような指導を行う方が、評価的な言葉でイライラをぶつけてしまうような方よりも、実務上はるかにパワハラと評価されにくいです。
05ギリギリセーフを狙わない——効果的かどうかで考える
注意指導を設計するとき、「これはパワハラになりますか、ならないですか」というアウトかセーフかの発想で考えることがよくあります。しかしこの発想は危険です。
ギリギリセーフを狙う発想は、ちょうど試験でギリギリ赤点を免れることを目標にするようなものです。42点(ギリギリパワハラでない)という評価を受けても、少しの事実関係の違いや表現の差で38点(パワハラ)になってしまいます。ギリギリを狙えば狙うほど失敗のリスクが上がるのは、テストも注意指導も同じです。
そうではなく「この注意指導は教育効果が高いか、相手に伝わる内容か」という発想で考えてください。客観的に仕事上必要な内容を、客観的に伝わる方法で伝える——それが「効果的な注意指導」です。教育効果の高い、相手が「なるほど」と感じられるような注意指導は、同時にパワハラと評価されることがまずありません。
ギリギリセーフか否かという後ろ向きな思考ではなく、「どうすればより効果的に伝えられるか」という前向きな思考で注意指導を設計してください。そうすることで自然に80点・90点の指導になり、パワハラの問題とも距離ができます。
06知識だけでは足りない——練習が必要な理由
本を読んだりセミナーを受けてパワハラの知識を仕入れた、厚生労働省のパンフレットも読み込んだ、裁判例も研究した——それでもいざ実際の場面で問題社員を前にすると、うまく話せない、頭が真っ白になる、という経験をした方は多いと思います。
これは知識が不足しているからではなく、アウトプットの練習が足りていないからです。野球やサッカー、ピアノやバイオリン——どんなスポーツも楽器も、上達には練習が必要です。いくらルールブックを読んでもバットを振らなければ上手くはなりません。注意指導も全く同じです。
知識を仕入れることはとても大事です。しかし知識のインプットと、実際に相手を前にして話せるようになるアウトプット力は別物です。特別な適性や豊富な経験がある人でなければ対応できないという状況では、会社として安定した問題社員対応はできません。練習を積むことで、適性がそれほど高くない方でも一定以上の対応ができるようになります。
07練習の方法——弁護士を問題社員役に、社内でのリハーサルも
弁護士に問題社員役をやってもらって練習する
最も効果的な練習方法の一つは、弁護士を問題社員役として実際のやり取りを練習することです。弁護士は多くの問題社員対応の現場を知っていますから、実物の問題社員よりも意地悪な受け答えをすることができます。そういう相手に練習することで、実際の場面で余裕を持って対応できるようになります。
「先生より実際の社員の方が優しかったです」という経験を積んだ方が、本番の面談に安心して臨めるようになります。ZoomやTeamsでのオンライン相談を活用すれば、移動時間もなく30分程度の練習を頻繁に入れることができます。本番の面談の直前に短時間練習するという使い方も可能です。
社内での仲間内でのリハーサルも有効
弁護士に頼まなくても、社内での練習も十分に効果があります。問題のある社員をよく知っている方にその人役をやってもらい、面談する予定の方が実際に注意指導の練習をする。さらにもう一人が外から観察していてフィードバックをする——このような三人一組の練習を本番前に5分でも10分でも行うことで、実際の場面での対応が格段に変わります。
知識のインプットと練習のアウトプットを組み合わせることで、「パワハラだ」と言い返してくる問題社員に対しても、落ち着いて事実ベースで対応できる力が身につきます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・ハラスメント対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 注意指導のたびに「パワハラだ」と言って従わない社員がいます。何度注意しても改善しません。どうすればよいですか。
A. まず注意指導の方法を見直してください。評価的な言葉(「協調性がない」「態度が悪い」)ではなく、具体的な事実(「〇月〇日の〇時頃、〇〇でこういうことをした」)を伝えているかを確認してください。事実ベースの指導でも改善しない場合は、指導した記録を書面で残しながら段階的に注意・懲戒処分へと進めます。「パワハラだ」と言われることを恐れて何もしないことが最も危険です。弁護士に具体的な状況を伝えて相談することをお勧めします。
Q2. 「協調性がない」と注意したところパワハラだと言われました。この注意はパワハラになりますか。
A. 「協調性がない」という抽象的な評価のみで注意指導を終わらせることは、教育効果が低いだけでなく、場合によっては問題視されることがあります。何月何日に、どこで、誰に対して、どのような言動があったから問題なのかという具体的な事実を示して注意指導することをお勧めします。事実に基づいた注意指導であれば、客観的に業務上必要な指導として認められやすくなります。
Q3. 注意指導しようとすると頭が真っ白になってうまく話せません。どうすればよいですか。
A. 知識があっても実際の場面で話せないのは、アウトプットの練習が足りていないからです。スポーツや楽器と同じく、練習なしには上達しません。社内で問題社員役を誰かにやってもらい、リハーサルを5〜10分でも行ってから本番に臨んでください。弁護士に問題社員役をやってもらう練習も効果的です。ZoomやTeamsで事前に練習を行い、本番の面談に臨むことをお勧めします。
Q4. 自分の注意指導がパワハラかどうか不安で、どこまで言っていいか分かりません。
A. 「パワハラかどうか」という発想ではなく、「この注意指導は教育効果が高いか、客観的に適切か」という発想に切り替えてください。教育効果が高く客観的に適切な注意指導は、パワハラと評価されることがまずありません。判断に迷う場合は、弁護士に具体的な場面・内容を伝えて確認することをお勧めします。「ギリギリパワハラでない」という42点の指導よりも、「教育効果が高く適切」という90点の指導を目指すことが、結果的にパワハラとの距離を生みます。
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最終更新日:2026年5月10日